雑記帳


経験だけでは不十分
2000年3月、北アルプス大日岳で大規模な雪庇崩落事故が起きたことはまだ記憶に新しい。家一件分くらいのブロックが崩れ落ち、国主催の登山研修に参加していた学生2名が亡くなった。
最初は「山なんだから何が起こるかわからないし仕方ないのでは」などと思っていたが、研修の主任講師が山頂の目印を「リスクを冒してまで探す必要はない」、「自分の経験則でやっていますので」受講生の安全を守るための事前調査も必要ない、と言っていると聞いて、俄然、考えが変わった。
たとえ積雪おびただしい厳冬期であろうと、大日小屋や雪上に顕れている露岩を目印にすればそれほど稜線を外さずに済むらしい。この講師の経験では雪庇というものの張り出しは10メートルというのが最大だそうだが、地元の登山家は大日岳には30メートルのものができることを知っているそうだ。10メートルというのはどこでの話なのだろう。
この事故について、遺族が国家賠償法などに基づく損害賠償を求めて争っていた裁判で、富山地裁は国の責任を認め、賠償命令を出した。国は「通常登山での危険回避の手段は尽くしており避けがたい事故だった」とか主張していたそうだが、地元に詳しくない個人の経験則だけで「手は尽くした」と言えるのか、かなり疑問に思える。
これは国の登山研修にとどまらず、ガイド登山と呼ばれるものすべてに当てはまるにちがいない。自分はガイドではないが、それでも他人を連れて山に行くときはそれなりの覚悟が(場合によっては)必要になると思う。襟を正さねば。
2006/04/26 記

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