雑記帳


山道での昼寝
たまに山道の途中で、登っていようが下っていようが昼寝をすることがある。雨のときはさすがにしないが、疲れて眠気が襲ってきたときは無理に歩かずに腰を下ろすか横になるかしてちょっとだけ寝てしまう。
天気のいい春先に登りで疲れているときなど、登山道脇にトカゲを決め込むのに最適な大岩をみつけると誘惑に勝てない場合がある。そんなときはザックを放り出して岩の上で大の字になって寝てしまう。目を閉じても明るい光が瞼を通して目に入り、世界は瞼の裏でピンク色に染まっている。「あら、気持ちよさそう」などと、通りがかりの女性登山者が自分のことを言っているのが目をあけなくてもわかる。
秋のころでは、山の上で長い距離を歩いて疲れたころに人気のないところで横になるのにちょうどよいベンチを見つけると、これ幸いと横になってしまう。頭上で木々の葉がさわさわと音を立てているのを聞きながら、湿気の少ない爽快な風が横になった身体を吹き超していくのを感じつつ、強すぎない日差しを木の葉越しに浴びてまどろむのはなかなか心地よいものだ。
岩やベンチがなくても、広い山道の片隅に腰を下ろして人目もかまわず腕で頭を支えて数分ほど眠るときもある。相当疲れたときだ。マイクロ睡眠でも衰えていた判断力が回復するし、目覚めは気持ちがよい。直後は元気よく歩き出せる。たった今ちょっとの間だけ寝ていたな、というのは、頭を支えていたはずの腕がはずれて首ががくっと落ちるのでわかるというわけだ。
冬山で昼寝という経験はないのだが、小説「孤高の人」の中で新田次郎は主人公の加藤文太郎に、どんな寒さの中で寝ても人間は死ぬ前に一回目が覚める、そこで再び眠らなければ死ぬことはない、といった意味のことを言わせていて、これが本当なら冬山でも条件が良ければ昼寝ができるのかもしれないと思う。でも本当に目が覚めるのか心配でもある。

 


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