榛名山 掃部ヶ岳から望む榛名富士と榛名湖

初冬を迎えて、榛名山に行ってみたくなった。火口原は車で二度ばかり行っているし榛名富士にもケーブルカーで登っている。だが数ある外輪山には一つも登ったことがない。では、とばかりにハンドルを握り、連れと一緒に上州向けて出発する。一泊二日で行った榛名山は快晴にめぐまれて眺望もよく、下山後の楽しみも多かった。


初日、ひと山登りたい私だったが、火口原に着いたのが三時半過ぎと遅かったので、登山口より往復一時間の烏帽子岳という外輪山の一ピークを対象に選ぶ。これなら日没までに下りてこられるだろう。最初は緩やかな道だが、山頂直下は短時間とは言え急斜面で一汗はかく。途中のお稲荷様を祀ってあるところから少しばかりがかなり急だ。頂上到着時刻はこの季節ではかなり遅い時間で、冬枯れの梢を透かしてみる榛名湖畔の土産物屋付近の照明がいやに明るい。闇の忍び寄る無人の山頂はいかにも寂しかった。長居をせず下りにかかる。麓に着く直前の山道では、かなり暗くなってしまって足下が覚つかなかった。
翌日はこれまた外輪山の一峰で、榛名山塊最高峰の掃部ヶ岳に登る。登り口にあった国民宿舎榛名吾妻荘の新館に水をもらいに行ったが、ここのロビーはどこの有名ホテルかと思うほどの素晴らしさだ。次に来るときはここに泊まろうと思う。山道だが、この時期は北面に雪がついて一部が氷結していた。まだ雪はないだろうとたかを括っていたが、甘かったようだ。軽アイゼンくらい持ってくるべきだ、と同行者から言われる。慎重に登ったので滑ることもなく山頂に着く。目の前に北方の眺めが開けて真っ白な上越の山並みが望める。振り返れば火口原が一望のもとである。が、地面は雪が解けたせいか泥だらけである。狭い岩場に陣取ってお湯を沸かし、コーヒーをいれる。寒い中での熱いコーヒーはやはりおいしい。
榛名湖のほとりに下山した後、洒落たレストランで食事をした。もっとも、山のなりで、しかも泥だらけの靴だったので店内では目立たないようにしていた。まだ昼だ、山を下ったらどこかに寄る時間はある。だがそのときは伊香保温泉で風呂に入りたいと思うほど汗は出ていなかった。板東十六番札所水沢観音に詣でるという選択もありえたのだが、そのときは考えもつかなかった。代わりに伊香保をさらに下ったところにあるハラミュージアムアークという木造黒塗りの瀟洒な美術館に立ち寄った。そこでは海景シリーズの写真を撮影し続けている杉本博史氏の作品展示を行っており、ちょうど最終日である。照明をやや落とした細長い展示室内に入ると、壁の片側だけ使うなど凝った展示がされていて、牧場の中にあるという立地をすっかり忘れて別世界に来た感覚を味わった。
1996/12/03 

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