雑記帳


冬の日帰り山行の朝
これは個人的な尺度だが、休憩時間を除いた歩行時間が六時間以上になるとかなり充実した気分になれる。そのつもりで日の短い季節に日帰りしようとすると、夕方に暗くなるのが早いので起床はたいがい早くなる。まだ真っ暗、せいぜい東の空が赤くなり始めるようなときに家を出る。頬に刺す冷気が気合いを生む。このあたりでようやく眠気が吹っ飛び、「しまった、あれを忘れた!」とか思える判断力が戻ってくる。
山行の交通手段に自家用車を使わない身としては電車とバスに頼ることになる。家から歩いて着いた駅にはまばらとはいえすでに人の姿が見える。同じく山に行くような姿もある。休日の朝なので乗客の数も少ない列車がホームに入ってくる。
冬の早朝の車内は寒い。外も寒いが歩けば暖まった。ただ座っているだけだと冷える一方だ。いま乗り込んだのは遥か以前の創業当初に私鉄だったというもので、そのせいか駅間が短く暖房で車内が暖まるまえに次の駅に着いてしまう。開いたドアから吹き込む寒風がなんの障害も受けずに至るところに入り込む。太股の前面が冷気でひりひりとしてくる。膝かけがほしいくらいだ。


ある日気づくと、どことなく山に行きたがっていない自分がいる。その最大の原因はこの朝の列車の寒さなのだった。「またあの寒いのに乗って行かなければならないのか」と思うにつれ、早く起きる意欲が減退して遅く目覚め、「いまから出かけてもたいしたところに行けないな」と投げやりな気分になり、そのまま晴れ渡った休日をむなしく町中で送ることになる。これが何度も繰り返される。ゆゆしい事態だ。
もちろん対策は考えた。まずは低山日帰りでもスラックスの下に山用保温下着を着て出かけてみた。行きの電車のなかはいくらか具合がよかったが、歩きだしたあとの山中で下半身が暑くて仕方ない。前後にひとがいないのを見計らって山の中でスラックスを脱ぎ、暑苦しい下着も脱いでスラックスをはき直す。じつにスリリングで、二度ばかり山行を繰り返して「山にストリップをしに行くのもどうか」とあきらめ、またスラックス一本に戻した。当然、朝の車内は寒いままである。我慢の日々が続いた。
最近やっと上着と同様にスラックスの上から冬山用オーバーズボンをはいていけばいいことに気づいた。単純な話で、今まで思いつかなかったのが不思議なくらいである。日帰りでザックが小さいくせに見た目はものものしくなるが別段構わない。下着に比べて保温性はあまりないがスラックス一本だけよりはましだ。いずれにせよ、夜明け前の電車内の寒さが億劫で出足が鈍るというのが克服できれば文句はない。あとは寝坊せずに起きればよいだけだ。これもまた一苦労なのだった。
2002/2/3 記

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