中国は真珠湾から学ぶべきだ
ハロランのアジア目撃
産経新聞 2001年7月7日(土)より
続・台湾の将来
《ハロラン氏は、台湾の防衛は米国の国益にかな
うとする。第一は他のアジア諸国への誓約、第二
は台湾の民主主義の擁護、第三には自決を支持
する米国の立場からだ》理由はまだある。第四は戦
略的理由だ。南シナ海から北方への出口は二つある。一つ
は台湾と中国の間の台湾海峡、もう一つは台湾とフィリ
ピンの間のバシー海峡だ。もし敵対勢力、つまり共産
中国が台湾を支配すれば、彼らは北の出口を支配し、また
南シナ海の大部分に領有権をすでに主張しているから、中
国はこの戦略的水路を支配することが可能となる。
第五は経済的理由だ。アメリカは中国よりも台湾に多く
の製品を輸出している。アメリカにとって台湾マーケット
の方が、中国より大きい。中国が世界貿易機間(WTO)
に入った後は事態は変わっていくかもしれないが、当面は
台湾市場がより重要だ。第六は技術的理由だ。台湾
地震でコンピューターの生産が落ち、世界経済に影響を与
えたことは記憶に新しい。地震は一時的だったし、日本や
マレーシア、アメリカなどで代替でぎたが、世界経済に衝
撃であったことは確かだ。最後にアメリカの法律であ
る台湾関係法がある。台湾防衛は絶対的な誓約ではない
が、暗示をしている。そしてもしそれに失敗したら、アメ
リカではおぴただしい政治的騒動が起きるだろう。
アメリカ人の間には台湾への好意がかなりある。この政
治的圧力を無視できる大統領はいない。またそのために台
湾ロビーは大変に良く組織され、効果的に動いている。
過去四、五年のアメリカ議会の決議を見れば、台湾が議
会で圧倒的な支持を得ていることが分かる。アメリカの世
論や政界には台湾への非常に強いシンパシー(親近感)が
ある。以上の理由から台湾が攻撃されれば、アメリカは台湾防
衛を強いられるである。ただしアメリカの立場にも
弱点がある。中国がこのことを理解していないことだ。だ
からそこには誤算の可能性がある。そして歴史を眺めれ
ば単一ではそれが戦争の最大の原因となってきた。
あまり心地よい話題でないことは承知している。しかし
いまいるここ(ホノルルの八ロラン氏宅)からから十八マイル(約
二十九キロ)のところには、私が考える二十世紀最大の誤算
がある。日本が攻撃した真珠湾だ。
真珠湾は非常に心打たれる場所だ。アリゾナ・メモリア
ルで人々は静かに死者への敬意を払う。沈没した戦艦アリ
ゾナはアメリカの海軍史上、いやアメリカ史上、最大の軍
事的敗北を物語っている。そしてそこから二百メートルほど
下ると、日本が降伏文書に署名をした戦艦ミズーリがあ
る。すなわちここには戦争の終わりがある。
中国は日本の真珠湾攻撃から学ぶべきだ。しかし彼らは
学ぼうとはしない。私がそのことを話すと、申国人は「あ
れは一九四○年代のこと。今日のことではない」と取り合
わなかった。江沢民主席も一九九七年の
訪米の際にここを訪れたが、彼は戦艦ミズーリが物語ると
ころを理解するどころか、その逆、つまりは日本批判を行
った。だからこそ私は戦略的明確性の擁護者であり、抑止論者
でもあるのだ。アメリカの台湾に関する立場を明らかにす
る。中国には嫌なことかもしれないが、これが平和を守る
方法だ。なぜなら歴史は敵対者たちが取るであろう行動の
誤算例で満ち満ちている。数年前に中国に行ったとき
のこと。大学を卒業した若い人たちと話す機会があった。
私はジャーナリストだと名乗り、向こう五年で中国にとっ
て大事なことは何かを質間した。
ロシアやアメリカとのより良い関係、技術や外資導入、
より良い政府・・・などさまざまな答えが返ってきたが、一人
が自分たちも質問してよいかと尋ねたので、私は「どう
ぞ」と答えた。彼は言った。「アメリカはなぜ中国を封
じ込めるのか」私は答えた。「政党であれ政府であれ、
アメリカが中国を封じ込めるべきだと信じている人を私は
知らない。第一、封じ込めるには中国は強く、大きすぎて
でぎるはずがない」だが彼らは、(中国の)新
聞にそう書いてあると、考えを絶対変えようとはしなかっ
た。彼らは教化され、理屈でなくそう信じ込んでいた。
(聞き手 千野境子)
リチャード・ハロラン氏は、
一九六○年代から七○年代にかけ、
ビジネスウィーク誌東京特派員、ワシントン・ポス
トヽニユーヨーク・タイムズ両紙の東京支局長を
務めた。七十一歳。