NGO外務省不信

NGO外務省不信

2003.8.16 産経新聞

 

「中国公安当局に内通」説まで

上海・脱北者事件支援の邦人拘束

北朝鮮からの亡命を希望する「脱北者」らを支援する

非政府組織(NGO)「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」

(大阪市八尾市)の山田文明代表が、脱北者らとともに

上海の公安当局に身柄拘束されてから1週間余り。

膠着状態が続く中、NGOサイドは外務省への不信感を強めている。

朝鮮半島情勢の不安定化で脱北者の増加が予想される中、

この問題への日本政府の真剣な対応が求められている。

(加納宏幸)

 

◇中国は察知?

「駆け込み情報は間違いなく事前に中国公安当局に漏れていたと思う。

『守る会』の中には外務省からのリーク(情報漏洩)があったと

考えている人もいる」

守る会の関係者は14日、こう語った。上海の日本関連施設の警備が

格段に厳しくなっていたからだ。

上海の日本人学校で今月7日、駆け込みを実行しようとして

拘束された山田氏は、これに先立つ6日に駆け込み先として

検討していた日本総領事館付属図書館を下見したが、

警備が厳しいため断念している。

また、同会メンバーが4月以来、数回にわたって外務省北東

アジア課を訪れ、脱北者の保護を要請したことも、同会内に

「内通説」が存在する理由になっている。

◇「あり得ない」

外務省は中国への内通については「絶対に有り得ない。

一方で韓国政府に働きかけ、一方で中国に伝えるなど

単なる裏切り行為だ」(外務省筋)と全面否定する。

実際、同会幹部も「中国公安当局の警備が強まった

背景に、7月31日の在バンコク日本大使館への

駆け込み事件や福田康夫官房長官の訪中があったのも

事実だ。我々の側に油断がなかったわけでもない」とし、

必ずしも外務省に非があるわけではないとの見方を示している。

とはいえ、これまで外務省が脱北者の問題に積極的に

取り組んできたとはいえず、同省の「潜在的な非協力性」

(NGO関係者)がNGO側の欲求不満につながっている側面も

ありそうだ。

上海で駆け込みを試みた脱北者の中には元在日朝鮮人の子供も

いるが、「日本国籍の保有者でなく、純然たる永住者でもない場合には

日本政府として保護するのは難しい」というのが外務省の立場。

脱北者が韓国行きを希望していることも「日本政府として

脱北者に手を出せない」(外務省筋)理由になっている。

これに対し、同会幹部は「脱北者の問題は人道上の問題でもある。

せめて裏口を開けて黙認してくれるだけでいい」と訴える。

◇領事条約検討

昨年5月の中国・瀋陽での脱北者連行事件を受け、日中両国は

同年8月から善後策の協議を開始した。

今年4月には、中国サイドが求めてきた@緊急連絡ルートの確立、

A脱北者情報などの定期的な情報交換会の開催、B邦人が身柄拘束

された場合に本人の要請の有無にかかわらず日本側に通報する制度の

確立−などを含む領事条約締結の検討に着手。

日本政府はもともと、「身柄拘束された自国民の要請がある場合、

その旨を遅滞なく通報する」と定めるウィーン領事関係条約があれば

十分との立場だった。

だが、昨年11月、脱北者支援NGO「北朝鮮難民救援基金」の

加藤博事務局長が拘束された際、中国当局から事実関係を伝えられず、

一定の通報期限内に通報がなされる形にするには条約などの

国際協定締結が必要との判断に傾いた。

ただ、領事条約が有効なのは拘束された人物が邦人である場合で、

脱北者問題の根本的解決にはつながらない。

この問題に取り組んできた民主党の渡辺周衆議院議員は

「NGO自体の活動には限界があり、今後も同じような事件が起こる

可能性がある。日本政府は6カ国協議を前に中国や北朝鮮を刺激

したくないのだろうが、脱北者を人道的に保護するよう、

中国政府に対して毅然とした態度を取るべきだ」と語る。

 

−−物知り辞典−−

NGO身柄拘束

北朝鮮から逃れた脱北者7人を連れ、上海の日本人学校に

駆け込もうとしたNGO「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」

(大阪市八尾市)の山田文明代表らが今月7日、中国公安当局に

よって身柄拘束された事件。11日、同会からの問い合わせによって

拘束された事実が明らかになり、翌12日には上海総領事館の

担当者が山田氏と面会したが、15日現在、拘束は続いている。

同会では、山田氏の釈放と脱北者を北に送還しないように求めているが、

中国政府は山田氏が「中国国内の不法分子と結託し、違法な

越境を組織した疑いがある」と主張している。

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