「反日」超えた日本人妻の父
韓国の保護施設「ナザレ園」創設 金龍成さん死去
韓国人と結婚し、戦前や戦後の混乱期に韓国に渡り、
その後身寄りのなくなった日本人妻たちのために、
保護施設「慶州ナザレ園」(韓国慶州市)を設立し、
運営に尽力してきた金龍成代表理事が3月15日、
韓国ソウル市内の病院で亡くなった。
84歳だった。18、19の両日、慶州ナザレ園
などで葬儀が営まれる。
「みとってもらえると思ったのに。先に逝くなんて」−。
異郷で寂しく老いる日本人女性を支えてきた
金さんの死に、関係者らは悲しみを募らせている。
― ― ― ― ―
反日感情の強かった昭和47年、福祉事業家だった
金さんは「同胞の青年を愛してくれた日本人を見過ごす
わけにはいかない」と朝鮮戦争で夫を失うなどして、
孤独や困窮にあえいでいた日本人女性のために、
資材をなげうって同園を設立した。
実は、金さんの父親は抗日運動の闘士で、
旧日本軍に捕らえられた後、獄死している。
自身も日本から随分差別されたが、「日本人妻
たちは差別する側にいられたのに
差別される側の嫁になってくれた。
そういいう人たちをいい加減に扱ったら
自分たちの対面がすたる」と、
金さんは話していたという。
これまで200人以上が慶州ナザレ園で
過ごし、今も76歳から96歳の日本人妻
24人が肩を寄せ合って暮らす。
このほか、同園では約100人の
日本人妻を在宅支援している。
宋美虎園長(52)は「日本人妻の
皆さんは、金さんを自分たちの父親のように
思っていたので、とても悲しんでいる。
金さんが生きているだけでも、みんなの
力になっていたので、その喪失感は大きい」と
涙で声を震わせていた。
著書「慶州ナザレ園−忘れられた日本人妻たち」で
その実態を日本に紹介した作家、上坂冬子さん(72)は
1980年代初めに同園を訪れている。
そのとき、金さんは「なんとか15年間はがんばりたい」と
話していたという。
「そういう意味ではナザレ園も一段落し、金さんは
安心してて逝かれたのではないか」と話した。
金さんは、日本人妻立ちが見守る
ナザレ園内の墓地に埋葬される。
(水沼啓子)
('03/3/18)