1995年11月11日 代々木体育館 1階スタンド
 
            

 久しぶりにRainbowの曲がライブで聴ける嬉しさから、この年結婚したばかりの女房を無理矢理連れて行った。(代々木体育館は前年の独身時代に、女房に連れられ徳永英明のコンサートで入館して以来2回目となる。)会場に入ると空席が目立つうちに女房はほっといて、早速ステージ近くの席まで移動してENGLのアンプを観察する(Album Strange In Us All を初めて聴いたとき、当初なんだこのギターサウンドは!と違和感を感じたものだ)。
 
 前座が終わりいよいよ11年ぶりのRainbowだ。数曲のBGMのあと定番の威風堂々(Land of Hope and Glory )が流れたところで、腹に忍ばせているウォークマンのスイッチをオンにする。この曲の途中で場内が暗転することになっており、昔は手拍子が始まったものだが、初めてレインボーを体験する若者は気付いていないらしく、まもなく場内が暗転するぞと女房にだけ知らせ、一人ワクワクしながらエルガーを聴いていた。前座のときの聴衆の反応くらいがロックコンサートのノリだと思ってた女房は、場内が暗転した途端スタンディングで盛り上がる聴衆の異常な興奮状態に大いに驚いていた。
 往年のころより長目のドロシー少女のイントロが流れ、Over The Rainbow からSpotlight Kidでステージは幕を開けた。ところが、凄まじくめっちゃくちゃ音がでかい!特にギター!ミキサーは何を考えているのだろう。思わず持っていたティッシュで軽く耳栓をして耳の保護を図った。音響外傷といい、年をとったときの難聴を早めるので、若いときから大きな音にさらされることを避けるべき。ただでさえ老化で少しずつ難聴になっていくのに、大音量で促進させることもなかろう。
 ステージの上は、ホール程度の広さを確保していれば意外と静かである。更に「ブラックモアはアンプユニットの上段をダミーにして耳の保護を図っていた」(1982年うじきつよし談)らしいし、こういったことを考慮して17歳のころから、スタジオの中では必ず耳栓をするようにしていたし、ヘッドホンの長時間大音量にも注意してきたのだが、今まで比較的適音なほうだったブラックモアのライブでかまされるとは思いもしなかった。
 
       

さて、ライブの方はとんとんと進み、派手なステージパフォーマンスはなく、じっくりブラックモ節を聴かせてくれている。この日は立ち位置?、Englの設定?詳細は不明なるもやたらFeed Back気味のsoloが展開されている。ギタリストのバンドであることを否が応でも見せ付けられるAriel独演前奏パートは4分強にも及ぶ長編だ。途中何度かキーボードにブレイクサインを送るが伝わらず、しつこくバックで鳴り続ける。ようやくキーボードが無くなり、長編独演も佳境に入るとバロック風の超感動フレーズが飛び出す。なんて美しいギターなんだろう。マジで即興なのか?これはいわゆる定番的なフレーズではとかんぐったのだが、後日のライブや当時のブートを20公演以上聴くも二度と出てこない。(この長編の別テイクが聴きたいだけのために随分ブートを買い漁ったが、来日前のヨーロッパ公演にしろ、96、97年の北米・南米公演にしろ、どれもこれもショートヴァージョンばかりで、長編は本日及び23日の舞浜でしか聴けない。)当然に完コピフレーズの仲間入りをし、家でギターを爪弾くとき当時は結構弾きまくってたため、「またその曲?ワンパターンねぇ!」女房も閉口するくらいのお気に入りとなった。

  

   

 アンコール待ちのときに女房に感想を求めると、「全然ロックと違うじゃん(ヘビメタのようなステージを想像してたらしい)。普通バンドってボーカルが主役なのに、完全にギターが主役じゃない。なんで?」だと。それと「左手の休憩の仕方がオレにそっくり」とのこと。何のことかと思ったら、ブラックモアがフィンガリングの途中でブレイクしたり、開放弦を鳴らして、次のフィンガリングまでの極わずかな時間に思わず出るクセ(左手をフィンカーボードから離してピロピロピロってする。)のことだった。そんなのまでコピーしてたのかオレは・・・指摘されるまで気がつかなかった・・・いつからマネをし始めたのかも記憶なし。
       
 
 アンコールはBurn だ。後ろにいたデブくんが大興奮で絶叫しながらバーーーーンって歌っている。前半のLong Live Rock'n' Roll がかなりのロングヴァージョンだったのが響いたか、この日はこれでお終い。女房に耳の状態を確かめるとキーンと耳鳴りがしてるとのことであった。


 1995年11月12日 代々木体育館 1階スタンド
 
         

 今日は一人で観戦だ。前日録音したテープをバッチリ聴き直し、ある程度印象づけてから臨んだ。うんうん、全然違うことやってる、やってる。気持ちいいくらいインプロヴィゼーションしてる。しかし許容量を超えるボリュームに耳は限界を訴えており、昨日同様ティッシュで軽く栓をする。
 昨日感動したArielの前奏が始まるも1分ほどのショートバージョンで終わってしまい、あっという間にドラムがインしてしまう。ちょっとがっかり・・・(前述したとおり、ロングヴァージョンは特殊な形態なのである。)
 昨日同様パフォーマンスは極力押さえ、聴かせるステージだ。Long Live Rock'n' Roll のエンディングは、'77年'78年ころのアレンジを採用しており少し感激。今日は全体的にアレンジをショート気味に演奏して時間が浮いた分、昨日より余分にStreet Of Dreams、Stone Cold がセットリストに加えられていた。しかし、1日目のほうが個人的には心動かされるフレーズが多かったかな。

   
 
 コンサート終了後、会場出口で23日のディズニーランドの最寄駅である舞浜でのチケットが完売していないらしく販売している。自宅からはあまりにも遠く、また交通の弁も悪いことから敬遠していたのだが、これで終わりなのが急にさびしくなり、また、最終日のジンクスを思い出しほとんど衝動で購入する。11日間も間が開いてるのも検証時間があってちょうどよい。

 1995年11月23日 東京ベイN・Kホール 2階スタンド
 
         

 さすがに場所が悪いということで、客の入りは悪く空席が目立つ。9割くらいの入りってとこか。来日プログラムを購入している奴も極端に少なく、ほとんどがリピーターであると思われる。アレンジされっきっていないステージのため、何かを期待して再度会場に足を運んだ奴が多いということだろう。
 
 Over The Rainbowでブラックモア登場!あららTシャツで出て来た。下は黒のタイツだ。こんなラフな格好みたことない。しかも1曲目はToo Late For Tears からだ。前2日間とは何か違う予感。こ、これは・・ノリノリステージだ!50歳のブラックモア先生、80's年代前半の膝付、足上げ、右手振り上げ、ターン、回転等ステージアクション連発だ。笑顔もニコニコ聴衆を煽るようなポーズも出てる。
 この日はローランドのGK−1をいつものオクターバー代りに使用するだけでなく、例のAriel 導入独演ソロをストリングスオーケストラサウンド混じりで、たっぷり聞かせてくれた。11日同様完コピフレーズだ。
  

さらにやってくれたのがThe Temple Of The Kingのロングソロだ。前2日間同様スローテンポの中突っ走った音符凝縮ソロがうなりを揚げるぞ、っと思ってたらブラックモアは2コーラス弾いたところで、ボリュームをノンディストーションまで下げ、サイレントヴァージョンでの演奏だ。バーギーもスネアの淵を叩いている。これがまたまた格好いい!微妙な音遣い。5度音を1音チョーキングしてマイナーキーに対して6度をそのままサスティーン(ドリアンスケール音になるのかな)することなんて、事前に考えていないとなかなか出てこない。一瞬ウラが頭になる絶妙なタイム感。ノンピッキングフレーズによる繊細な音使い。二段階チョークキング(半音チョーキングして、同じ音符をそのまま1音チョークする。速弾きばかりしてるとなかなか出ない。)や、変則ヴィブラートチョーク(一定の波ではなく、チョークして伸ばし気味にしておき、瞬間だけチョークダウンしてまた素早くアップする)、3/4音チョーク、スラーアップからそのままピッキングせずチョークとか、なんちゅうか、今までにあまり聴けなかった小技がポンポン出てくる。言葉では伝えられん。とにかく速弾きに慣れきっている指には失速感を伴う非常に酷なフィンガリングが続く。
 
   

 ゆっくりとシンプルにプレイするのは物凄く難しい。これはエリック・クラプトンが教えてくれた。彼のプレイを聴いた時、何で皆が彼のことをあれほど賞賛するのか判らなかった。彼はとてもゆっくりとプレイするんだよね。速く演奏するには練習さえすればいい。反射神経で演奏すればいいんだ。だが、間を入れて演奏するのは難しいよ。私にとってシンプルであることと、間を入れて音を出すことは、とても重要なんだ。年を取るに従って、弾かない音のことを考えるようになる。間がなくてはいけない。これは重要なことなんだ。人々は考えて、聴いているからね。成熟していないミュージシャンは速く演奏したがる。こんなに速く演奏すれば上手いと思われるだろう、とね。でも、スピードを落として感情を表現しないと意味がない。私も18〜19歳の頃は結構速くプレイしていたが、MOTT THE HOOPLEのメンバーに「キミはとても速いけれども、それは正当かね?」って訊かれたんだ。その頃は「何言ってんだ?」って感じだったが、後でその意味が判った。単なる練習の成果じゃ人は感動しないということさ。それ以来、もっとゆっくり弾かなければいけないと、自分に言い聞かせ続けた。ヴィブラートをきちんとやらなくてはいけないが、緊張しているとそれが上手くいかない。すぐ他の音を弾きたくなるけど「それじゃ駄目だ、弾いていたその音を、ちゃんと弾かなくちゃいけない」と言い聞かせる。(2001年当時のインタビューより抜粋)
 イアンペイスも同様にドラムのオカズが80年代以降少なくシンプルになったのは、顕示欲を戒めた成熟の結果かも・・・ペイス本人は若い頃の顕示欲丸出しド派手プレイに羞恥心さえ抱いているやもしれない。
 
 極めつけは6度の変則下降フレーズだ。(古くはAlbum Deep PurpleのApril のラストで聴ける)1・3弦で6度進行をスラーダウンさせながら下降してくるのだか、コピーは簡単でも、即興で出てくるところがすごい。
 フィンガーピッキングによるダブルノートもびしばし出て、1・2弦の開放E・B音は大忙しだ。ソロも含めてこの曲は、ピックとフィンガーのピッキングが数え切れないほど交互にポンポン飛び出す。ブラックモアの新たなる一面を垣間見てしまったこのフレーズは、オレにとってはアドリブではなく完全コピーへと姿を変えて、暫く弾きまくることとなる。
 映像で観る限りダブルノート混じりのフレーズは大半がフィンガーで、シングルはピックの原則が当てはまっており、数秒ピックで弾き、数秒フィンガー、また数秒ピックってな感じに極めて短時間内にピッキング方法を変えている。おそらくダブルで弾こうと大脳がメロディーについての命令かけたら、右手はもう小脳による反射的な無意識下の命令によりピックを持ち返るレベルに達していると思われる。前述したAriel の前奏も同様に持ち変えまくっている。また、すべての曲で必ずといってよいほど、フィンガーピッキングを行っているようだ。
 
 とにかく、今までのライブ中ベスト3に入る内容である。最終日は見逃すなが、今回のツアーでも証明された。名古屋、横浜、京都(は結構いい・・)、小倉、大阪のブートも聴いてみたが、この日にはかなわない。