(2)96年合作社法と合作社の現状


2-1. 96年合作社法
2-2. 合作社の現状


2-1. 96年合作社法

 1988年の政治局10号決議によって合作社の位置づけは根本的に変わり、多くの合作社が解体するか機能停止に陥った(その時代のベトナム農業についてはコチラを参照)。さらに1996年に合作社法が制定された。96年合作社法 では、第1条で合作社は共同の需要および利益を有する労働者によって自主的に結成される経済組織であると定義されている。また第6条5項には、「合作社が社員(組合員)に対して行うサーヴィス」(Dich vu cua hop tac xa doi voi xa vien)とは、社員に対して有償で行う物質的あるいは非物質的な商品及びサーヴィスである、と定義されている。さらに第7条1項には社員の加入・脱退の自由が、同条2項には社員の民主的参加(注1)が、同条4項には各社員のサーヴィス利用高に応じた剰余金処分が、同条5項には国内外の合作社間の協力(注2)が、合作社の原則として規定されている。これらの原則は、1995年にイギリスのマンチェスターで開かれた国際協同組合同盟(ICA)100周年記念大会で決議された共同組合原則にほぼ沿っている。つまり名前は同じ合作社(hop tac xa)でも、かつての社会主義集団生産の主体であった合作社から96年合作社法では市場経済下の協同組合へと転換したのであった。


(注1)第28条3項には一人一票制が明記されている。
(注2)第48条には省(tinh,日本における県にあたる)レベルの合作社連合(Lien hiep hop tac xa)の、第49条には全国レベルの合作社連盟(Lien minh hop tac xa)の規定がある。


2-2. 合作社の現状

 現存合作社のおよそ75%が旧来の合作社から新合作社(96年合作社法の下での合作社)である 。これらは名目的に転換しただけのものが多く、以下のような問題を含んでいる。

―事業方向が定まらず、サーヴィス活動の範囲が限られている。農民に対する購買事業を行える資金と人材が不足していて他の経済主体(商人など)に比べて割高である。
―地方政府との関係が曖昧でしばしば事業経営に介入される。名目上は変わっても合作社幹部の面子が変わらないので旧来型の「指導」をしたがる役人も多い。
―所有関係が依然と同様共同所有であり、株式化は実際には行われていない。

 これらの問題は合作社が転換しても意識改革が進まず人材も育成されていないことによる。
 
 このような「転換型」に対して新しく合作社を新設したところもある。この新設型には、旧来の合作社を一度解散したうえで新設した「更正型」ものと、旧来からある合作社とは無関係に独立して新設した「独立型」のものがある。「更正型」は旧合作社を解散するときに資産や債務を点検整理しており、前述の「転換型」に比べて機構や職員の合理化が進んでおり、社員(組合員)も一部の富裕者や意欲のある農家に限定されるので効率がいい。また「独立型」の多くは一つまたは二つのサーヴィスに限定されており、権利関係も明確で活発に活動しているところが多い。「転換型」に比べて効率のいい「更正型」「独立型」であるが、少数者のための限定されたサーヴィスを行い、かつての合作社がもっていた社会的な機能を持っていないという問題がある。
 
 なお、日本の場合と違って信用活動をしている合作社が非常に少ない(約8%)。信用サーヴィスを行っている合作社は都市近郊の兼業農家が多い地域である。特に紅河デルタでは信用サーヴィスを行っている農業合作社は3〜4%と極めて少なく、幹部が優秀で農民たちに信頼されている場合に限る。また現在合作社が銀行から資金を調達するには担保財産がない(合作社の土地が少ない)ために困難である。



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