妖華−女神館の住人達
第百七十七話:妖華混浴物語――後ろでGO
「話してなかったの?」
困ったちゃん達を眺めて、シンジがさくらに訊いた。
「ちゃんと話してありますよ。あたしが初めての体験で結構痛かった事もちゃん…ひたた」
「言ってないでしょ!」
さくらの頬が横に思い切り伸びる。無論、引っ張っているのは織姫だ。
「ひゃんとひひましたっ」
バスタオル一枚を巻き付けただけの格好で、頬を引っ張り合う娘達を見物していたシンジが、二十秒経ってから声を掛けた。
「別にショートコントやらなくてもいいから」
「『やってません!』」
言った途端手が離れ、見事にハモってキッと睨まれた。
「そう?ならいいんだけど、サクラも下手な釣りするんじゃないの。織姫は純粋なんだから、すぐに釣られるでしょ。ね、織姫」
「わ、私は別に」
別に褒めてはいないのだが、純粋の部分がクローズアップされているのは、織姫の表情を見ればすぐ分かる。
「どうしても希望する、と言うなら話は別。織姫、さくらと同じ事体験してみる?さくら的には正しい痛みなんだけど」
「え…」
冷静に考えてみれば、さくらがまだ処女喪失――シンジに抱かれたりしていないのは間違いない。自分と同じ生娘のままだし、何よりもシンジが手を出すまい。
妖しい事ではあるが、痛かったとも言っている。
ちょっと考えてからさくらの耳に口をよせ、
「それって…濡れること?」
と訊いたはいいが、
「濡れるかどうか気になるそうです」
ダイレクトで転送された。
「なっ!?」
怒りと羞恥で織姫の顔が真っ赤になったが、それを聞いたシンジは少し首を傾げたのみだ。
「さくらちゃんみたいな趣味してれば」
一気に形勢は逆転した。
今度はさくらが赤くなったり蒼くなったりしたが、もうこの辺で良かろうと、
「織姫の趣味じゃないと思うよ。第一花が分からない」
「花?」
「ううん、こっちの話」
ソフトなプレイではなくて、勝手に侵入して結界に弾かれ、失神していたさくらの乳首に桜の花弁を貼り付けてみたのだ。
同じ事をしてもいいが、少々格好悪い。
「で、織姫は出る?」
「入るに決まってるでしょ!」
「一緒?」
織姫はキッとシンジを睨んだが、横にいたさくらが、内心で小さく舌打ちしたのには気付かなかった。結界が張ってあったのなら別だが、悪いのはシンジである。
色々と聞いて欲しい事もあったのだ。それお浴場と来ればこれ以上の場所はない。
「分かった。じゃ、ちょっと来て」
二人を呼んだシンジは、その顔を交互にぷにぷにと突いてから、
「ちょっと疲れてる?」
「ど、どうして分かるんですか」
「管理人だから」
「『…え?』」
「管理人の基本です」
そんな事を基本で出来るのは碇さんだけです、とは二人とも思ったのだが、口にはしなかった。勿論褒め言葉だが、言われたシンジが喜ばないのは分かっている。
シンジにとっては、あくまでも当然の範疇なのだ。
「出るのが面倒なので――」
「はい?」
「織姫はグラス、さくらは飲む方。持ってきてね」
一瞬首を傾げたが、すぐに立ち上がって出て行った。バスタオルだけの格好で行きそうな気がしたが、別に男はいないし、ウロウロしているのを見つかっても怒られるのはマリアくらいだ。
「それに怒られるの俺じゃないし」
と、邪悪にイヒッと笑った五分後、二人は戻ってきた。
誰かに遭遇せずに済んだらしい。
天網恢々疎にして漏らさず、と言う言葉がある。因果応報の拡大版みたいなもので、言わずと知れた天は些事も見逃さずの類だが、無論シンジも例外ではなかった。
三十分後――シンジは絡まれていた。
何の反動か飲めるようになったシンジだが、普通の酒は飲んでも殆ど反応がない。だからほぼ素面だが、織姫とさくらは違う。
二人ともすっかり出来上がっており、左右からシンジに絡んでくる。
「すみれがいじめるの。ちょっと自分の方が演技上手いからって」
「はいはい」
聞き流していたシンジだが、ふと手が止まった。
「演技、と?」
「今度の舞台ですよう。あたしは一回しか経験ないし、織姫は今度が初めてだから」
「主役(メイン)はさくら?」
「ええ、あたしですけど…」
「どしたの?」
「碇さんが興味ないからすみれが燃えちゃって」
「…つまり?」
「だ、だから頑張っても碇さんが見てくれないからって、変な方向に情熱が向いちゃったんです。もう、碇さんのせいですからね」
そう言うと、首にきゅっと腕が巻き付いてきた。既に、バスタオルは半分はだけており、生の胸が押しつけられているが、織姫は何も言わない。
と言うより言えないのだ。
父は発つ前に自分をシンジに任せていったし、時々来る手紙はいつもシンジと上手く行っているか気にしている。自分もシンジの事は好きだけれど、まだ一線を微妙に越える出来事がないのだ。
だからさくら程近づけない。
キス位ならまだしも、さくらを引き離して自分が生胸を寄せてみる自信はない。
(いいな…)
内心で呟いた時、不意にシンジが振り向いた。
「は、はいっ」
呼ばれてもいないのに思わず反応した織姫に、
「織姫も迷惑被ってる?」
「迷惑じゃないけど…少し…」
確かに、それ自体は間違いではない。さくらと織姫が素人なのは事実だし、すみれは元から舞台に燃えているから、足など引っ張られたくはあるまい。
ただ、燃料が足りない。どう頑張ろうが、シンジが褒めてくれるどころか興味すらないのだ。すみれと違って舞台に燃えていない以上、どうしたってやる気と根気には差が出てくる。
「んー」
二人の顔に手を掛けて、くいと持ち上げたシンジ。
まじまじと眺めてから、
「ちょっと荒れてる」
ろくでもない事を言い出した。
「ちょ、ちょっと碇さんやだっ」
乳房は――ほんのり色づいた乳首まで――全く隠そうとしないのに、シンジの台詞を聞いた途端、二人ともさっと顔を背けた。
乙女にとっては結構な一撃だったらしい。
まして、相手が想い人であれば当然である。
「いやストレスだと思ったんだけど」
「え?」
「さくらちゃん胸見せて」
「え゛!?」
さっきから押しつけても反応しなかったが、急に見せてと来た。押しつける位だから隠す気はないのだが、改まって言われると何となく恥ずかしい。
「あ、あまり見ないで下さい…」
この辺の心理は理解しづらいが、シンジにとってはどちらでもいい事だ。
おずおずと手をどけると、真っ白な胸が露わになった。
ちらっと見て、
「織姫、綺麗な胸でしょ」
シンジの言葉に、二人揃って赤くなった。さくらの方は本来の効用だが、織姫の方は女同士だけならまだしも、そこに男が入った状態では普通の娘に戻ってしまう所為だ。
それに、綺麗と言われたのは自分の胸ではない。でしょ、と言われたからと言ってまじまじと眺めるのはちょっと恥ずかしい。
「大きくなったし形も良くなった」
「…はい?」
「聞こえなかった?」
「い、いえ聞こえましたけど…」
聞こえはした。ただ、理解出来なかっただけだ。
「さくらは特に間食とかしないから」
言葉を切って、シンジはふふっと笑った。
邪気を常に信条とする某主人とは対極にある笑みであった。
思わず二人が見とれたが、
「どの栄養を詰め込もうかと考えてるから、間食しないで全部食べる子ほど効果は出るの。例えば便秘が治ったり、或いはスタイルが良くなったり。さくらは後者」
「は、はあ」
よく分かっていないさくらだが、シンジは眉を寄せることもなく、
「食事作る人が、見た目だけで作ってたら困るでしょ?特に、ウチには小娘ばっかりいるんだから」
やっと分かったらしい。あっと小さな声をあげて、
「じゃ、じゃあ碇さんいつも栄養とか考えてるんですか?」
「……」
「す、すみません」
ふー、と息を吐き出したシンジが、
「まあいい、釣られても困る。ったく、何でこんなのに効果出るんだか。とにかく、身体的な要因がない限り、規則正しい生活と栄養があればスタイルは良くなるの。生活リズムを考えれば、さくらと山岸が一番いいんだ」
「そうなんですか…って、どうして碇さんが知ってるんですか」
「訊きたいですか?」
反射的に聞き返された。
十秒ほど考えてから、そっと首を横に振った。見当は付かないが、ろくでもない事に間違いあるまい。
例えばそう――学校から自分達のデータを直接取り寄せているとか。
「織姫は?」
「んーと…」
小首を傾げた織姫が、シンジの耳元に何やら囁いた。
「大正か…ひたた」
「どーして碇さんが私達のデータを取り寄せられるですか!」
頬を引っ張られてるシンジを見て、さくらは自分の勘が当たった事を知った。
「本当に取り寄せ…ハッキングとかじゃないんで…痛っ!」
スパン!
「そういう趣味はない。だいたい、どうして自分のとこの学校に侵入しなきゃならないんだ」
「だって普通は生徒の身体データなんて流さないじゃないですか」
「じゃ、あの学校は普通じゃないと?でもって、そこに通ってるさくらちゃんは?」
「そ、そう言う問題じゃ…」
「そ。保健室のボスに言ったら断っただろうね。大ボスに一言言っておいたから」
「なんて言ったんですか」
「うちの娘達のデータが知りたいって」
「それだけ?」
「それだけ。それで通じないようなら総理事長は務まらない。とは言っても、別に興味はないよ。ただ成果が知りたかっただけ。レニなら直接見――な、何でもないです」
最後まで続ける事は出来なかった。
全部を予想するのは難しいはずだが、殺気すら帯びた二対の視線がシンジを射抜いていたのだ。
「…今ならちゃんと見えますよね!」
「はい」
さっきと違って勢いよく突き出された胸だが、初めて見た時は小振りでその上皿形であった。
大きさが倍増したりはしていないが、全体の形が変わってきている。丸みを帯びた椀型になってきたのだ。
「……」
威張るように突きだして、それでもうっすらと赤くなっているさくらの胸を眺めてから、シンジは違和感の理由を知った。
「もう胸の話は終――」
言いかけたところに、もう二つ乳房が迫ってきた。
「わ、私のも…ちゃ、ちゃんと見て欲しいです」
「織姫はハーフであっちの血が入ってるから、さくらより大きいけど間食するでしょ」
「す、少しだけ」
「だから形はさくらの方がいいの」
えへん、と胸を張ったさくらだが、
「何を威張ってる?」
「え?」
「いいとは言ったけど大して差はない。大体山岸には…きゅっ」
今度は絞められた。
気道を微妙に圧迫しながら、
「何ですって?」
にこりと笑ったその眼には殺気がある。
「な、何でもないです」
確かに少しは成長した。
しかし、剣の腕はともかく、並んで湯に浸かっていると、そこはもう勝負にもならない現状に変わりはない。
ただ、素材じゃなくてマユミはサラシを巻いているから大きいに違いなく、自分は胸に優しいブラジャーだから、その違いなのだと言い聞かせる事にしている。
素材の違い、などという事になったら、未来永劫追いつけない事が明白になってしまうではないか。
「ちょ、ちょっと離して」
そっとさくらの手を離してから、
「話戻して、要するにすみれは溜まってるんでしょ」
「『え?』」
一瞬分からなかったようだが、
「『た、溜まってるって何がっ!?』」
揃って赤くなった。
「何がって、ナニが。すっきりすれば君らの扱きに燃えたりしなくなって、君らも助かるってスンポー」
「そ、それはそうですけど…ど、どうするんですか」
「決まってるでしょ?」
「だ、駄目ですそんなことっ。え、えっちなのはいけないとおもい…いたっ!?」
スパン!
「そーゆー事言うのはこのお口?」
左右にむにょんと引っ張ったまま、
「まだ何にも言っとらんわ。それよりさくら」
「ひゃい?」
「さっきから柔らかいおっぱい押しつけてるのだあれ?」
かーっと赤くなったさくらを解放し、
「別に俺が出る事もないけど、君らがやったって喧嘩になるだけ。それともすみれに言ってみる?――変な情熱にあたし達まで巻き込まないで下さいって」
「……」
意地悪、と口にはしないが、内心では二人とも頬をふくらませたシマリス状態になっている。自分達がそんな事を言ったら、最後は絶対取っ組み合いになるのは分かっている。シンジが言うから、すみれも聞くのだ。
「すみれ舞台に燃えすぎ。日常生活に支障が出るから練習量半分以下にして」
と、余人が言ったら間違いなく逆鱗に触れそうな事でも、シンジならば波風も立たない。
(あたし達には絶対言えないの分かってるくせに…)
「で、でも碇さんっ」
「ん?」
「し、しちゃわなくてもいいじゃないですかっ」
「何を?」
「な、何をってその…あぅ?」
さくらの額をピッと弾いたシンジが、
「ちょっと待って、君らの何ってナニ?もしかして処女喪失とかいうあれ?」
「『……』」
違うんですか、と二人の表情は言っており、それに気付いたシンジの眉がピクッと上がった。
が、その事には触れず、
「君らも一緒にやるんですよ?」
案の定、それを聞いた途端二人の顔がかーっと赤くなった。
「何を赤くなってる?」
「『べ、別にっ?』」
ついっと、揃って横を向く。
「ふーん。じゃ、別にえっちな事は考えてなかったのね?」
「も、勿論ですっ。そんな訳ないじゃないですか」
「じゃあ止めとこ」
「…え?」
「君らが同じ事妄想してるならいざ知らず、全く考えてもいないのに強いるなんて失礼だもの。すみれには催眠術でも掛け…くえ」
さほど強くは絞められていない。が、シンジの首に掛かった手は四本になっていた。
「もう碇さんの意地悪。わざと意地悪してるでしょ」
ぷうっとふくれている二人を見て、シンジが小首を傾げる。
数秒経ってから頷いた。
反撃を予想して咄嗟に手を離した二人だが、シンジの反応は予想外の物であった。
「ごめん」
「はい?」
「ちょっと振り回しすぎた。でも、君らにも付き合わせるのはほんと。俺一人じゃ意味無いでしょ」
今度はさくら達が首を傾げる番であった。
「どうしてですか?」
「ちょっと未だ早いかな。いいや、その時になったら分かる。道具とか要るから二人で買ってきてね。普通の店で売ってる物ばかりだから」
「た、例えば?」
「とりあえず毛筆を数種類、それと注射器」
「毛筆っ?」「注射器っ?」
「大丈夫。医療用のじゃないから。で、何に使うか分かってる?」
「な、何に使うかは分からないけど…」
怪談話じゃあるまいし、それを使って全身にお経を書く筈はあるまい。
「い、碇さんその…」
「なに?」
ちょっと目元が濡れて見えるさくらが、織姫と顔を見合わせてからつぅっと身を寄せてきた。
「そ、そう言うのってその…よ、予行演習とかしないんですかっ?」
やや早口で訊いたさくらだが、結構勇気は要したろう。自分限定だが、とりあえず自分の裸にシンジが全く反応しない事は分かっているのだ。
「しません――劫火」
となる可能性も決して低くはないのだ。
「しません」
五精使いの一撃は無かったが、やはり予想したとおりの答えが返ってきた。
「だいたいさくら、それどころじゃないでしょ。疲れてないの?」
「少しは疲れてますけど、でも、きゃっ?」
不意にその身体がころんと転がされた。俯せだから胸も秘所も見えてはいないが、
「い、碇さん何するんですか」
「マッサージ」
「え?」
「どっちかと言えばまっさあじ。要る?」
微妙に語尾が変化したシンジに、さくらは即頷いた。
「じゃ、取るよ」
上半身は裸だが、下半身にはまだバスタオルが巻き付いている。
「は、はい」
自分から見えない、と言うのは感情を増幅させる。
例えば恐怖。
例えば――快感。
するりとバスタオルを剥ぎ取った途端、俯せになっているさくらの顔は首筋まで染まった。シンジの手が、肩胛骨の辺りからゆっくりと揉みほぐしていく。
少し固い。
すみれに扱かれて、その疲れが抜けきらずに微量ながら蓄積しているのだ。
(治療が要るな)
シンジは内心で呟いたが、無論さくらの事ではない。うっとりと目を閉じて身を任せているさくらを、羨ましそうに見ている織姫に気が付いた――忘れていたのである。
(見てるんだよ)
(?)
台詞だけでは、お預けの意にも取れる。ただ、短い付き合いながらも、脊髄反射で物を言うとキケンだと織姫も分かってきており、黙って見ている事にした。
肩から背骨に沿ってゆっくりと揉んでくる辺りは、ごく普通のマッサージで、何ら妙な所はない。その指が止まったのは尾てい骨の辺りまで来た時であった。それまでは真っ直ぐ降りてきた指がつうっと逸れた――脇腹へ降りたのである。
うたた寝しかけていたさくらだが、いきなり脇腹をくすぐられてがばと跳ね起きた。
「い、碇さん何をっ」
「まだ終わってない」
きゅっと押さえつけてから胸に手を伸ばす。少し不自由な体勢だが、揉む分に支障はない。
数回むにむにと揉んでから、
「背中だけがイイ?」
訊くと、
「碇さんの意地悪…」
蚊が啜り泣くような声が返ってきた。
乳房を愉しむなら、膝の上にでも乗せるのが一番だが、相手はシビウではない。四本の指で、パン生地をこねるようにして揉む。親指にかたく尖った感触が伝わるまでに殆ど時間は掛からなかった。
俯せだから、当然固くなった乳首は地面に当たる。こすれて痛いけれど、ぷくっと大きくなったそれを織姫に見られるよりはいいと、さくらはじっと我慢していた。
が、シンジは面白くない。自信がある訳ではないが、直に触っているシンジには、さくらが反応を懸命に抑えている事はとっくに気付いていた。そしてその原因が、食い入るように見つめている織姫にある事にも。
(つまんない)
周囲を見回すと、ある物が目に入ったが使うには未だ早い。自分を使う事にした。
さくらの耳元に顔を寄せると、耳朶を甘く噛んだのだ。
「ひゃはぁっ!?」
奇妙な声を上げて身体をびくっと震わせたさくらだが、身体が反転するのだけは何とか免れた。
「やっぱり我慢してたね」
「が、我慢なんてしてませんっ、ちょっとびっくりしただけですっ」
首筋まで赤くして、それでも頑としてさくらは否定する。
「あっそ」
あくまで違うと言い張るさくらに、シンジは方法を変えた。
よいしょと抱き起こして膝の上に乗せる。勿論背面式だ。
抱き上げられながらも、足はぎゅっと閉じている。今度は首筋に息をかけられ、一瞬力が緩んだ隙に、シンジの手がすっと脚の間へ侵入した。
「さて、検査しないとね。織姫カモン」
「はーい」
楽しげに織姫がやって来る。
「お、お願い止めて織姫見ないでぇっ」
「碇さんこんな事言ってマース」
「却下」
楽しげに拒否すると、もう片方の手も太股に当てた。言うまでもなく、このまま左右に押し広げようと言うのだ。
「や、止めて碇さんおねがい…」
「全然反応してないんでしょ?」
一緒に風呂へはいる、と言う事と開脚状態で――たっぷり濡れた秘所を見られると言う事は全く違う。
既に選択の余地の残されていないさくらが、力弱く首を振った。
「ご、ごめんなさい…ほ、本当はもう…」
「じゃ、つづき」
言うなり手が抜き出されたから、一瞬さくらの肩がびくっと震えたが、手が行き着いた先は顔であった。顔に手を掛けて振り向かせ、唇を重ねる。
既に殆ど仕上がった状態だから、キスだけでいくだろうと、躊躇うことなく舌を侵入させる。おずおずとさくらが舌を絡めてきた。
もう身体からは力が抜けているさくらの上体を傾けようとしたその刹那、不意にシンジの目が見開かれた――生まれて初めての激痛であった。
舌を噛まれたのだ。それでも手が妙な形を作ったりしなかったのは、自分だけ噛まれたのではないと知ったからだ。
原因は不明だが、思わず力が入って噛んでしまったらしい。
ゆっくりと顔を離してから、
「で?」
と訊いてから怪訝な顔になった。キスしている最中に舌を噛んだ小娘の顔には、憤怒の色があるではないか。
ビシッと織姫を指差し、
「お、お…」
「おおさま?」
「ち、違います、あたしのおっぱい吸ったんですっ」
「俺が?」
訊いた瞬間に間抜けだと思ったが、案の定一撃が飛んで来た。無論、ネタとしての故意ではない。
「アーウチ!」
「織姫に決まってるでしょう。こんな変態だとは思わなかったわ」
顔を動かして、変態だったのと聞こうかと思ったのだが、今度は足が飛んで来そうなので止めた。
賢明だろう。
織姫はフンと笑って、
「さくらが岩にこすりつけて固くなったおっぱいを吸ってあげただけデース。だいたい吸われた時は、一瞬気持ちよさそうな顔したくせに」
「し、してませんっ」
「してました」
「してないですっ」
「してましたっ」
(ひたたた…やっぱり切れてる)
とりあえず口内出血を治してから、全裸で睨み合う美少女の間に割って入った。
「正直どうでもいいんだけど…良くないんでしょ?」
「『当たり前ですっ』」
「じゃ、織姫リトライ」
「え?」
「今はキスしてないし。もいっかい弄っといて」
「りょーかい。最後は私がしてあげるです」
シンジでは達させない――さくらがそれに気付いたのは押し倒されてからであった。
「ちょ、ちょっと碇さんっ」
「ごめんね、舌の治療で忙しいんです」
理由はともあれ、噛んだのは自分だから強くも言えない。
「で、でも碇さん、あたしされっぱなしじゃなくてもいいんですよねっ」
「さくらちゃんの身体です」
微妙な台詞だが、さくらはすぐ攻勢に転じた。既に織姫は上半身をぴったりと併せており、手が太股を這っている所だ。
さくらも負けじと股間に手を伸ばす。
「織姫こそ、こんなに濡れちゃって。あたしと碇さん見ていて興奮したんでしょ。いやらしい」
織姫の顔が赤くなったが、
「碇さんだけ、デース。そんな事よりこれは何ですかー?」
指を拡げると、指の間で愛液が糸を引いている。
「我慢してないとか言ったくせにこんなにしちゃって。いやらしいのはどっち?」
キッと睨み合った後、同時に相手の股間へ手を伸ばし、淫らな水音が聞こえる程激しく弄り始めた。
シンジの位置からは、二人の重なった秘所が見えており、まったく無毛の秘所と年相応に淫毛を揃えた秘所が、それぞれ相手に責められているのがよく見える。
(二人とも良く濡れてる)
二人が聞いたら赤面しそうな台詞を呟いてから、
(どうしてこうなったんだろ)
僅かに首を傾げた。
「舌を噛んだのはさくらで、噛む事になった原因は織姫…そっか」
今度は一転してニマッと笑った。
そのまま観客に身をやつし、絡み合う二人を眺めている。
五分ほどで、趨勢は見えてきた。二人とも処女だし、責める技術などさほど持っていないのだが、やはりさくらの方にハンデがある。
今はさくらが上になっている。上半身を時折くねらせているのは、重なった乳首同士で責め合っているからだとさっき気付いた。
(そろそろかな)
こそこそとシンジが動き出した。武器を取りに隅へ行ったが、二人とも全く気付いていない。
都合のいい事に、自分の足で相手の足を拡げているから、二人ともほぼ足は全開状態でアヌスも秘所も丸見えになっている。
勿論、秘所などに用はない。
シンジが手にしたのはボディソープであった。液体をたっぷりと手に取ってから、気付かれぬようさくらに尻に滴らせた。冷えていない上に、二人ともお互いを責めるのに夢中で違和感を察知する神経が全停止しているところだ。
泡立つまではいかないが、十分潤ったと見たところで、今度は自分の指にたっぷりと付けた。
(3…2…1)
二人のアヌスが同時に貫かれたのは、次の瞬間であった。
「ふひゃっ!?」「はあうっ!?」
二人の肢体が同時に跳ねたが、足が絡み合ってるからすぐには動けない。第二関節まで突っ込んだ中指を、一気に根本まで押し込んだ。一旦押し込んでしまえば、後は自由に動かせる。
もう声も出せずに身体を震わせるだけの二人を、指一本で器用に操っていく。出す事にしか使わないそこは、不埒な指を思い切り締め付けてくる。抜き差しはせずに指先で内部を弄るのは、顔を出して大きくなった淫核同士が重なる位置に調整する為だ。
いくら二人でも、アナルだけでは感じない筈だから、前と後ろでバランスを取ろうと企んだのだが、二人の様子が徐々に変化してきた。
弄られる一方で、責め合っていたのはどこへやら、ぎゅっと手を握り合って何とか堪えていたのが、少しずつ自分から腰を動かすようになってきた。少し締め付けが弱まったところで抜き差しに変える。
指に当たる感触が十分ほぐれたころ、さくらが顔だけこちらに向けた。
「い、碇さんあたしもう…」「わ、私も…」
最初は衝撃でも、慣れてくれば物足りなくなる。
「はい」
シンジは邪悪に笑って、二本の指を二人のアナルにそれぞれ一気に押し込んだ。次の瞬間、シンジの指が凄まじい圧力で締め付けられ、二人の肢体が同時にのけぞった。
二人の秘所からこぷっと流れ出した愛液が混ざり合い、太股を伝い落ちていく。
それから数分後、シンジの膝には二人の頭があった。
「もう、お尻でいっちゃうなんて…」「碇さんのいじわる…」
睨むように見上げた双眸は濡れている。まだ快感慣れしていない娘達には強すぎる刺激だったらしく、もう立ち上がる体力も残っていないのだ。
結界は完全に張ってあるから、誰かに侵入される怖れはない。こんな所を見られた日には、手足を縛られた上屋根から逆さづりにされかねない。
「別に呪文は唱えてないよ。お尻掘られて、乳首もクリトリスも尖らせていっちゃった子はだあれ?」
「『し、しらないっ…』」
かあっと顔を赤く染めてそっぽを向いたが、頭をどけようとはしない。
顔を戻したさくらが、
「ね、碇さん」
「何?」
「キス、して下さい」
そっと突きだして待つ唇に、シンジは黙って重ねた。触れるだけのキスだったが、うっすらと満足げに笑ったさくらが頭を乗せて目を閉じた。
キスして、と言ったのは単に甘い気分からではなかったのだが、シンジには分からない。
さくらが小さな寝息を立て始めた直後、バスタオルがくいくいと引っ張られた。
んー、と唇を突き出して待つ織姫の頬で、ちうと音がした。
「寝ちゃった」
精力と体力を全部使い果たしたらしく、自分の膝の上で寝息を立てている二人の髪をシンジの手が柔らかく撫でた。
三十分後、浴場内から淫らな痕跡を消し去ったシンジが、二人を担いでいた。バスタオルにくるんだ二人を、文字通りバズーカ砲の如く肩に担いでいるのだが、中身は全裸である。
レニなら別だが、下着を穿かせる気にはならなかったのだ。
先に織姫の部屋へ向かった。いつも通り勝手に侵入し、ベッドに寝かせてから部屋を出る。素っ裸だが、冬でもないし風邪は引かないだろう。
さくらの部屋へ入り、バスタオルを取っ払ってから寝かせようとしたその時、
「さくらちょっ――」
マユミの声がした。
部屋が開いていたから入ってきたらしい――無論、さくらは何も身につけていない。