妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第百四十四話:ホテルにて引き籠もる男女(ふたり)
 
 
 
 
 
 天井から二人の女が吊されている。
 いずれも全裸だ。
 天井自体尋常な場所ではないが、それを示すように二人の身体には縄の痕がくっきりとついており、何の液体なのか足下には小さな水たまりが出来ている。
「この地には居ないなどと出鱈目な情報を流し、そんなに私を窮地に陥れたいのか」
「ち、違います葵叉丹様…あ、あやつは確かに…あうっ」
「黙れ。刹那と私自らがあやつを見ておる。私が盲目だとでも言うのか。ミロク、お前もそう言うつもりか」
「い、いえ決して私はそんな…あひぃっ」
 葵叉丹は、手にした乗馬用鞭の尻尾を二人の肛門にぐいと突き入れた。直腸まで届きそうな痛みと快感が綯い交ぜになった感覚に、二人が身体をエビのように曲げた。
 吊されているのはミロクと水狐だが、原因は碇シンジにある。
 シンジが鞄を持って空港内へ消えるのを、二人は確かに目撃した。後をつけて確認したのだから間違いない。
 碇シンジなくば花組恐るるに足りず――すぐさま馳せ戻って主に報告したのだが、葵叉丹はすぐには信じなかった。
 確かにシンジの性格は浮雲タイプだが、この時期ではまだ早い。帝都を守る娘達がまったく役に立たない状態では、いくらシンジでも出歩くとは思えない。
 それでも二人が間違いないと言い張るから、自らの目で確かめてくれると出かけた。
 その結果見たのは、シビウと仲睦まじく腕を組んで歩くシンジの姿であり、葵叉丹は一言羅刹に二人を担いでくるように命じた。羅刹とは、鋼鉄の身体を持つ刹那の強大であり、頭はからきしだがパワーは群を抜いている奴だ。
 地下で吊された二人は五時間近く責められているのだが、碇シンジが腕を取られる事はあっても、仲良く腕を組んで歩くタイなのかと、もう少し調査が進んでいればすぐ疑問に思ったはずだ。
 更に、ドクトルシビウがダミーの開発に成功したばかりであり、本体よりも愛想の良いそっちを連れ歩いている事も、可能性の一つとした浮かんだかもしれない。
 とまれ、調査不足のご主人様を持ったせいで、二人の女達は謂われのない責めを受ける事になり、葵叉丹の方も絶好の機会を逃す事になったのだ。
「まあいい、お前達を責めるのにももう飽きた」
 これでやっと終わるのかと、二人は内心でほっと胸をなで下ろした。秘所には太いバイブが二本突っ込まれており、間断なく刺激を与える乳首のローターと相俟って、快感をとっくに通り越した苦痛になっていたのだ。
 快感も度を超せば責め苦になるのだが、
「後はお前に任せたぞ土蜘蛛。たっぷり仕置きしておけ」
「かしこまりました」
 解放の希望は一気に絶望へと取って代わった。にっと笑って一礼した土蜘蛛の手には新たな責め具が握られているではないか。
 六本の手で責められた日には、もうどうなってしまうのか見当もつかない。絶望と恐怖で青ざめた二人だったが、土蜘蛛の取った行動は意外なものであった。
 葵叉丹が肩を回しながら出ていった後、手で鎖を引きちぎったのだ。
「つ、土蜘蛛どうして…」
 土蜘蛛はアナルに突き刺さった鞭と、秘所で蠢くバイブをそっと抜いてから、
「こういう仕置きってのは、私は好きじゃなくてな。それに、あいつが出たかってのは中まで入らないと分からん。誰かを見送って帰ってきたのかもしれんし、電車でない以上は分からんだろう。失敗ならまだしも、今回みたいな事で仕置きってのは気が進まないんだ。たとえ、葵叉丹様のご命令でもな。二人とも、身体はよく消毒しておけよ」
 土蜘蛛が身を翻して出ていった後、二人は支え合って立ち上がろうとしたのだが、ぱたっと倒れ込んだ。
 葵叉丹の不興を買った事と身体に受けた初めてのダメージ、その両方がミックスされて限界に達していたらしい。
 
 
 
 
 
「もう…みんなでからかうんだから」
 シンジにそっくりと満場一致で決定されてしまったマリアは、火照った顔を冷ますように、乳液を付けた手で顔をぴたぴた叩いていたが、ふと立ち上がった。
 風呂にしようと思ったのだ。何も考えずのんびりする時は風呂に限る。
 草木が眠るには早いが、住人達はもう寝ているはずだ。静まりかえった館内を抜けて浴場に着くと灯りがついている。
 白い裸身にバスタオルを巻き付けて入ると、レイが一人で入っていた。
「レイあなた飲んでるの?」
「いーじゃん別に。飲んだら乳大きくなるってシンちゃんも言ってたし。どうせマリアちゃんには分からない悩みだよね」
(絡み酒…)
「そうね。邪魔して悪かったわ」
 身を翻そうとしたら、
「逃げるの」
「え?」
「たまには一緒に入ろうよ。それとも巨乳のマリアちゃんは、こんな貧乳じゃお嫌かしら?」
 カンナが聞いていれば状況は分かったろうが、カンナもマユミもおらず、マリアはレイが絡む原因を知らない。
 それでも表情は変えぬまま、
「そこまで言うなら入るわ。でもレイ、もう胸の事を言うのは止めて。別に私がこのサイズを――」
「ボクだって好きこのんで胸が小さい訳じゃない。マリアちゃんみたいに、ブラ無い方が大きく見える胸の方が良かったよ」
(レイ…)
 何があったかは知らないが何やら深刻らしいと、
「そうね、悪かったわ」
「……」
 レイは何も言わず満天の星空を見上げている。元々完全な露天風呂だったのを、全天候型にする為シンジがドーム型の屋根をつけた。今は屋根が開いており煌めく星達が大空で輝いている。
 しばらく無言で入っていた二人だが、先に口を開いたのはレイであった。
「マリアちゃんさ」
「何?」
「シンちゃんの事少し好きなままでしょ」
 微妙な台詞だが、さっきまでの酔った口調は微塵もない。
「そんな事はないわ。どうしてそう思うの」
 ずっとレイに神経を向けていたら、おそらく顔色はわずかでも反応したに違いない。
 全然関係ない事を考えていて助かったわ。
 ひっそりと安堵したマリアに、
「マリアちゃん、レニを連れてシンちゃん助けに行こうとしたじゃない」
「あれは私よりシンジが――」
 言いかけたマリアを遮るように、
「それは分かってるよ。シンちゃんがいないと花組は成長しないし、それはそのまま帝都の壊滅を指しているって言うんでしょ。その事じゃないよ。でもさ、冷静さは欠いていたよね」
「どういう事」
「本邸にメイドさん達がいるじゃない。あの人達って、シンちゃんのメイド趣味とかじゃ全然ないって、マリアちゃんも知ってるでしょ。シンちゃんは全然興味ないけど、中年のおばさんばかり集めても不気味だからって、若い人が多いんだ。と言うよりは人海戦術でシンちゃんを抑える為の人達だよね」
「そうでしょうね」
 シンジに発砲した事を知られた時、本邸で感じた殺気は人生で一度も体験した事がない程強烈で、普通の小娘なら精神に破綻を来していたかもしれない。
「冷静に考えればさ、本邸のメイドさん達の方が適任だってすぐ分かるじゃない。それに、御前様が手を回さなきゃ、間抜けなマスコミを遠ざけて機体に近づくなんて無理だよ。シンちゃんだからって部分はあったでしょ」
「無いわ」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなよ。そうは言わないと思うよ」
 胸に手を当てたマリアが、
「トクトク言ってるわ…あ」
「やっぱりシンちゃんそっくり!」
「こ、これはその…で、でもあなた達だって、多かれ少なかれ影響は受けてるわ。そうでしょう?」
「素直じゃないんだから」
 ころころと笑って、
「ま、取りあえず飲んで飲んで」
 渡された盃を受け取った時、レイが二つ持っていたのに気付いた。
「碇君さ、マリアちゃんの過去は知ってるんでしょ」
「知ってるわ。無理矢理しゃべらされたの」
「はいはい、もう嘘ばっかし。碇君はそう言う人じゃないよ。でもねえ、今のままだとアスカ達も口惜しいと思うよ」
「アスカ達が?どうし…ちょ、ちょっとどこ見てるの」
 真っ白な乳房が湯でほんのりと色づき、そこをじっと見られているのに気付いて思わずマリアは前をおさえた。
「マリアちゃんて色白いし綺麗だし、外見じゃ敵わない。おっぱいだって大きいし」
「だ、だからそう言う事は…」
「だから私はシンジが好きって言えば諦めはつく」
「?」
「でもマリアちゃんは全然そんな気が無いって言ってる。つまりすみれちゃん達は、全然その気がない人に勝てないって事だよね」
「別に私に勝つとか、そんな事は気にしないでもいいでしょう。邪魔するなんて一言も言ってないわ」
「天然って却ってタチが悪かったりするよ。じゃあ、どうして碇君はいつも中の事をマリアちゃんに任せるの?」
「それは…」
「人も殺せないお嬢様に用がないからでしょ」
「レイ…」
「勘違いしないでね。別に責めてる訳じゃないよ。碇君の言う通り、いざとなれば碇君でも撃てる位じゃないと対降魔戦なんて戦えない。さくらちゃん達は甘いんだよ。アスカ達がどんなに頑張っていい女になったって、碇君の中でマリアちゃんを超える事は無い――この魔都の住人にならない限り」
 熱い湯面に冷え冷えとレイの声が響く。
「あなたは…気にしないの」
「何を?」
「私が…人を殺してきた事よ。確かにシンジは妙な意味で私を気に入ってるかもしれない。でも私だって好きこのんで人を殺してきた訳じゃないわ。私だって、本当はごく普通の生活が…」
「そんなに自分が嫌なら、自分を銃で撃つのね。そうすれば楽になれるわ」
(!?)
 マリアがそれでも激高しなかったのは、レイの口調が戻っていたからだ――出会ったばかりの頃の、周囲がすべて自分に危害を加える存在だと思いこんでいた頃のレイに。
「甘えるのもいい加減にして。自分だけが悩んでると思ってるの。私は直接殺しはしなかったけれど、私が売られた研究所の職員・関係者は文字通り跡形も残らぬ状態で滅ぼされたわ。職員だけじゃなくて、少しでも実験を知っていた者まですべてよ。私はその上に生きているわ。でも決して後悔はしない。私は生きていく道を選んだのよ。自分は直接手を下したからって、自分だけが生に懊悩する罪人みたいな顔しないで。売春婦じゃなくて暗殺者を選んだのは貴女でしょう」
 シンジと会っていなかったら多分張り飛ばしていたわね、そんな事を考えられる程マリアは冷静であった。
 無論、シンジと会っていなければ、こんな展開にはならなかっただろうが。
「そうね…」
 ふっと息を一つ吐き出してから、マリアはレイの盃に酒を注いだ。
「でもね、超えられなかったらその程度なのよ。レイがシンジをどう分析しているのかは知らないけど、確かに人も殺せないのはお嬢様だと思ってるかも知れないわ。だからと言って、そんな事程度で何時までもシンジから対等に見られないのは、本人に何かが足りないんじゃなくて?」
 話中の娘達が聞いたら激怒し、シンジが聞いたらまったくだと頷きそうな言葉だったが、
「そ、それってすみれちゃん達に魅力が足りないって言いたいの」
「そう言ったのはレイでしょう?人を殺すなんて、物騒なライン一つでシンジから女として見られない、とそう言ったじゃない。シンジがそんなに了見狭いなんて、本人に聞かれたらウェルダンにされるかも知れないわよ」
「そ、それは嫌…」
 あの記憶が甦ったのか、すっかり受け手に回っているレイ。大反撃に出てもいいのだが、レイをからかっても別に面白くないし、仕返ししようとも思わない。
「あなたの言う事は分かったわ、考えとく。確かに今のままじゃ、シンジがさくら達の想いを憧憬以上に取る可能性はかなり低いものね。それよりはいつでもシンジを物に出来る私の方がいい――そう言う事でしょう。じゃあねレイ、おやすみ」
 星に替わって出てきた月がマリアの裸身を照らし出し、官能的な肢体から湯を滴らせてマリアは立ち上がった。
 思わずレイが見とれる間にさっさとマリアは歩き出してしまい、
「ちょ、ちょっとマリアちゃん、ボクそう言う意味で言ったわけじゃ…」
 声は届くことなく、春の夜空に吸い込まれていった。
 脱衣場でバスタオルを手にしたマリアは体を拭きながら、
「ちょ、ちょっと余計だったかしら…。で、でもあくまで仮定だから構わないわね。仮定なんだから」
 自分に言い聞かせるような口調だったが、その横顔がうっすらと赤くなっている事に本人は気付いていない。
 浴場を出てからふと立ち止まり、
「と言う事は…さくら達に数名殺らせちゃえばいいのかしら」
 とんでもない事を呟いた。
 
 
 
 
 
 肉と肉が擦れ合い、枯れる事無くわき出す愛液が肉竿に絡みつく。この部屋を痴情という名の小悪魔が支配してから、既に六日が経とうとしていた。
 外の空気を求めなければ、このホテルの部屋には何でも揃っている。着替えは持ってきているし、洗濯だって横の部屋でちゃんと出来るようになっている。食事はルームサービスを取って部屋の外にワゴンを置かせれば済む話だ。
 四つん這いになって尻を掲げたまま、がくがくと腰を震わせてサリュは達していた。もう何十回目かも分からない。
 体中が、どころか頭の中までセックスの事しか無くなっているような気がする。
 それでも腫れるまでは行っていない膣口にふうっと息がかかると、またとろりと透明な液が流れ出してきた。
「サリュのマンコってほんと感じやすいんだよね。イッたばかりでもちゃんと反応してくれるし。バックとか騎乗位もだいぶ慣れたみたいだし」
「い、言わないでぇ…もういやぁ…はああっ!?」
 くりっと指先でクリトリスを転がし、
「言葉でも感じてくれる子って好き」
「ば、ばかぁ…」
 首筋まで真っ赤になったサリュを、シンジはぽむっと膝に乗せた。とっくにエリカの姿は解けている。
 四回目、足を直角に曲げられた姿勢でずぶずぶと突かれ、元の姿に戻ってしまったのだが、サリュは気付かなかった。シンジが止めなかったのだ。
 サリュが気付いたのは、
「化粧落ちてるよ」
 と中出しされた後、胸を揉みながらシンジに囁かれた時だ。
 顔色の変わったサリュに、
「さっきの誰?」
「…知らないの?」
「知ってたら聞かないよ。フランスのAV女優かなんか?」
「ち、違うわよそんなんじゃないわ」
「じゃ、誰さ」
 手のひらに収まった乳房に加わる力が少し強くなった。それでも言いよどんだサリュだが、第一関節だけとは言え、アヌスへ二本指を突き入れられてとうとう白状せざるをえなくなった。
 が、シンジの反応は実に意外なものであった。
「そうかい、お前に任せる」
「ど、どういう事?」
「仔細は省くが、スポンサーの事もろくに知らんボンクラ共だ。少し位ハードな訓練を施した方が良かろう。怪人でも何でもイイから鍛えてやってくれ」
「い、いいの?」
「イイの。さ、それより続き続き。さっきアナルの反応が可愛かったし」
「ちょ、ちょっと何を…ああっ」
 結局アナルも開発されてしまい、文字通り体中の隅々まで全部シンジに知られてしまった。
(こ、こんな筈じゃなかったのに…)
 確かにシンジの責めは上手だが、それだけならここまではまる事はなかったろう。
 それだけではないのだ。
 今だって、膝の上に乗せた自分の背後からそっと腕を回して抱いている。
 直腸まで届きそうな刺激にもう止めてと懇願しても、
「上の口がそう言ってもマンコはそう言ってない。嘘つきな舌より下の口。止めたげないよ」
 と、何度も体位を変えてアナルを突き上げる男と同一人物とは、到底思えない。回されている腕の力は、文字通り優しい恋人同士の後戯である。
「ね、ねえシンジ…」
「ん〜?」
「あの…こ、恋人とかいるんでしょ…?」
「そんな物はいない。製作予定もないし」
 いるのにその場しのぎでいないという男ではない。まだ数日ながら一番分かり合える仕方で過ごしてきたサリュには、それが分かってきた。
 作る予定も無いという。
「なんでそんな事を訊くの?身体の相性が良いから気に入った?」
「べ、別にそんな訳じゃ」
「俺は気に入った。ここまで相性が合ったのは今までに初めてだ」
 サリュを振り向かせて、んちゅーっと唇を重ねる。何の前触れも無いキスにももう慣れ、サリュも柔らかい舌を絡ませて応じる。
 唇同士を繋ぐ糸を妖しい手つきで拭ったサリュに、
「サリュって実体ないだろ。実体を保つ為には精気がいる。だから俺みたいに精を使うタイプとは相性が最高なんだ」
「…ンジ…の…で」
「え?」
「シ、シンジのでその…い、一杯になっちゃって…きゃっ!?」
 真っ赤になりながら想いを打ち明けたサリュを、シンジがいきなり転がしたのだ。
 ちょうどおむつを替えるような体位で足を持ったまま、
「マンコとアナルとどっちがいい?どっちでもいいよ」
 数秒考えてから、
「こ、今度はマンコで…た、沢山出して…」
「ん」
 頷くと、ゆっくりサリュの上に覆い被さった。既にたっぷりと濡れているのは分かっているがそれでもいきなり挿れたりはせず、小振りながら感度の良い胸の愛撫に掛かった。やわやわと揉みながら小さな乳首に口づけされると、もう堪えきれずサリュの唇から喘ぎが洩れる。
「あ、あはぁっ…シンジ…あふぅっ…」
 思考の中で生活に必要な部分は――九割方セックス関係――直接思考から読ませてある。性器の俗称を口に出来るのもその為だ。
「マ、マンコも弄って…お、お願い…ああっ」
 言い終わらぬ内に、中指が一本だけ深々と根元近くまで侵入した。どうやら、シンジが既に下へも侵攻する途中だったらしい。
 ぐちゅぐちゅと指でかき回しながら、唇を軽く触れ合わせると付いてきた。自分から舌を絡めると懸命に吸ってくる。
 最初の頃は完全に受け専門だったサリュも――今も似たようなものだが――最初よりは積極的になってきた。後背位や騎乗位の時、シンジの手を乳房に導いて揉ませながら自分も腰を振る事を覚えたし、アヌスに突き入れられた時、嫌だとは言いながら腰をくねらせて奥まで受け入れる事も覚えた。
(挿れるから離して?)
(ん…)
 まだ吸い足りない感じでサリュが舌を離すと、シンジは少し身体をずらし、入り口を少し指で拡げながらゆっくりと挿入した。
 熱い吐息と共に、背中に回された腕にぎゅっと力が入る。最初はきつかった膣口も、今では愛液を円滑油にするりと受け入れるようになってきた。それでも緩い感じはまったくなく、待っていた襞の一つ一つが生き物のように蠢いて熱く絡みついてくる。
 どの体位に持っていこうかと考えた時、
「このまま…このまま最後までして…」
「?」
「か、顔…見ながら一緒にイキたいから…ひゃうっ!?な、なんか急に中で大きく…あっふぅっ!」
「サリュが可愛い事言うから大きくなっちゃった」
「な、なにを…もう…んうっ…はあぁっ!」
 女は時として、まったく感じていないのに濡れたり肉体が反応したりするが、男はそんなに器用ではない。その代わり、女の言葉一つでとんでもない硬さや大きさになったりする事があり、今のシンジはまさにそれであった。
 サリュの言葉に反応してしまったのだ。
 挿入時よりも更に硬度と大きさを増した肉竿は、文字通り鉄の剛直であった。熱い肉竿が膣内で暴れるたびに、脳内で火花が散るような気がして意識がぼんやりしてくる。
 それでもシンジの背に回した手には、ぎゅっと力が入っていたし、最後まで顔を見ながらとおねだりしたサリュに応えて、膣内への熱い精液の放出は、濃厚なキスと一緒であった。
 アクメの余韻にぼーっとしていたサリュが、こっちへ帰ってくるまでには数分を要したが、ぺちぺちと頬を叩かれて我に返ると、その頬からつうっと涙が落ちた。
「どしたの?」
「とても…嬉しかったの。最後にキスしてくれたの、とても気持ちよかった。私は…人間とこんな風に過ごせるなんて思っていなかったから…」
「それは、つまり俺が人間じゃないってこと?」
「ち、違うわっ」
 サリュが慌てて首を振ると、シンジはサリュを抱き上げてひょいと自分の横に座らせた。
「じゃあ、問題ないじゃない。自分が人外だからとか、そう言うの気にする子って好きじゃないよ」
「ご、ご免なさい…」
 涙の通り道で小さな音がした。シンジが口づけしたのだ。
「お腹空いたでしょ、食事にしよう。食べられる?」
「ちょ、ちょっと腰から下に力が入らなくて…」
 これは偽らざる本心であった。元より、シンジの相手はシビウやモリガンであり、人外を相手にしているだけにその辺の娘をまともに抱くとこうなってしまう。これがさくら辺りなら、数回交わって失神した時点で止めるだろうが、サリュの場合は精気を肉体維持に使っているだけあって、身体の相性も半端ではない。シンジとサリュと、お互いがお互いの快感を高め合えるのだ。こればかりは、美貌の院長にも魔界の女王にも出来ない芸当である。
 事実、シンジが二人を相手にしてこれだけ萌えた事はない。
 頬を染めて小さな声で言ったサリュに、
「いいよ、じゃ食べさせてあげる。何なら口移しでも可」
「そ、そんなつもりで言ったんじゃっ…」
 またしても真っ赤になったが、不意に真顔になった。
「待ってシンジ」
「ん?」
「あの…話があるの」
 受話器を取り上げてフロントへ連絡しようとしていたが、サリュの真剣な表情に受話器を置いてやって来た。
 サリュの横に腰を下ろし、
「先に言っとくけど、自分はあの連中の敵なのにいいの?とか言うのは無しね」
「ど、どうしてそれを…」
「サリュの思考なら大抵分かる――ようになってきた」
「もう…す、すぐそう言う事を…」
 それでも何とか自分を制し、
「私が普通の人間じゃないのは知っているでしょう。私はこの街の残存思念――この街が開発される時、虐げられ、追いやられてきた先住民の怨念が固まった出来たようなものなのよ」
「ちょっと待てい、怨念の塊がマンコに突き入れられたりキスされて、あんな可愛い反応するか?」
「だっ、だからそれは…あ、あなたのキスとか…あ、愛撫が上手だったから…あう」
 サリュの髪をくしゃくしゃと撫でて、
「大したこと無い五精使いだが、これでも感情の区別くらいは付く。憎悪でしか動かぬ女を抱くほど落ちぶれてはいないよ。先住民族の怨念が籠もった物なら、俺も幾度か見た事がある」
「見た?」
「ティオティワカンでも見たし、カホキアでも見た。先住民の駆逐ってのは、大抵相場が決まっている。腰を低くして友好関係を結んでから頭領を暗殺し、一気に攻め寄せてくるか、或いは近代兵器を持ち込んで虐殺の限りを尽くすか、大抵はこのどちらかだ。パリシィってのは確か、ローマ人のガリア征服でえらい迷惑した先住民の事だったな。でもその割にはお前から負の感情が感じられないんだが」
「今はまだ、時が熟してないからよ。シンジが見ていた大樹はオーク巨樹と言って、この街に満ちた怨念や憎悪がすべてあの樹に流れ込んだら、花組の連中なんかひとたまりもないわ」
「何だとコラ」
「え?」
「あ、違った。巴里の話だな。帝都でなきゃいいんだ」
「帝都にも花組が?」
「そ。目下育成中。ところで、怪人連中の中に女はいるの?できれば若いの」
「…どうしてそんな事を訊くの」
 サリュの言葉に刺が混ざった。はっきりそれと分かる程のものが。
「だよねえ」
「シンジ?」
「そういう所も普通の女の子だし、どうみても怨念の塊には見えないんだけど」
「ほ、本当だもの。嘘じゃないわ」
「分かった分かった。ま、怪人でも塵芥でも俺には関係ないからいいんだ」
「止めろって…言わないの?」
「何を?」
「何をって、巴里壊滅のスイッチは私なのよ。この街が滅びるのを黙ってみているつもりなの」
「見ないよ」
「え?」
「お前達の仲間だか手下だかにレオンってのがいるな」
「ええいるけど…」
「そいつの首を落として、塩漬けにしてここの連中の所に送る。そしたらもうここに用はないし、日本へとんぼ返りして放浪メイドにお仕置きだ」
「……」
 さすがのサリュも絶句した。正義の味方気取りよりはいいが、だからと言ってここまで無頓着だとは思わなかったのだ。
「それで…どうしてレオンを?」
「挨拶代わり。姉さんが今こっちに来てるんでね。送ればすぐ俺からって分かる筈だ」
「そ、それだけなの?レオンが何かした訳じゃないの?」
「会った事もないぞ」
 ふう、とため息をついてから、
「やーめた」
 サリュはどさっとベッドに倒れ込んだ。
「シンジと話してたら馬鹿馬鹿しくなっちゃった。これじゃ、延々と積み重なってきた怨みを晴らすなんて馬鹿みたいじゃない」
「馬鹿馬鹿しいけどね」
「…なんですって」
「さっきから言ってるが、お前はごく普通の女の子だよ。それが、そんなモンに縛られて死んでいくなんて馬鹿馬鹿しい以外の何物でもない」
「死んでいく?」
「そう言うスイッチになった奴は、起動した途端死ぬか、或いは取り込まれて同化するのがお約束でね。どう考えたって取り込んだ方が得策だ。サリュが付き合わなきゃならん義務は無いでしょ」
「シンジ…」
 乳房も秘所も隠さぬまま、
「あのね、シンジに一つだけお願いがあるの」
「何?」
「さっき言った放浪メイドって…女でしょ」
「うん」
「そこへ行く前に…後二日だけ私と一緒に過ごしてほしいの。お願い」
「消滅しないなら構わないが」
「え?」
「自惚れは好きじゃないが、巴里の花組など俺の足下にも及ばない。お前が自ら封印となる事でオーク巨樹の発動を抑えようとするなら、俺が全貌を引き出して撃つ。この街の負の感情如きなら造作も無い事だ」
 短い間ながら幾度も身体を重ねた男の言葉に嘘も誇張もないと、本能が告げていた。
 シンジが言った通り、サリュは鍵である自らの身体を持ってオーク巨樹を封じようとしていたのだが、真宮寺さくらの生贄を提唱者全員の殲滅と引き替えにしても許さぬ男が、恋愛で無いとは言え、身体を重ねた娘のそれを許すはずが無かった。
 碇シンジ――神話の神すら認めた男であり、一人の贄は周囲の惰弱として指弾する五精使いである。
「シンジ…」
 完全な迄に言い当てられて、サリュの両目からぽろぽろと涙が落ちる。最初は単なる興味本位だったが、数日間でサリュの心は一人の女になっていたのだ。
 サリュの涙を指でそっと拭ってから、
「ついでに心――本心を読みとるスキルも持ってる。お前の心に一片でもそれがあるなら、今からちょっと行って殲滅してくる。さ、どうする?」
 サリュは首を振った。
「シンジがそう言うなら…しないわ」
「それは良かった」
「私は思念の塊だもの、生きていこうと思えばどこでも生きていけるわ。だから…ご褒美ちょうだい」
「ご褒美〜?」
「二日じゃなくて二週間にして」
「二週間?」
「嫌…なの?」
 うるうると下から見上げてくる。
「別にいいけど…はうっ」
 いきなり押し倒された。
「他の女の所に行く前に…わ、私が全部搾り取っちゃうんだから…きゃふっ!?」
 二本の指がヴァギナとアヌスの両方を襲ったのだ。
「散々喘ぎまくってたくせに、そんな事出来るかどうか見せてもらおうじゃないさ」
「ちょ、ちょっと言ってみただけ…ふにゃあっ…はふぅ、んんっ、んんっ…」
 忽ち形勢は逆転し、あっという間に脚を全開にされてしまったサリュは、来るであろう舌と指の来襲にあられもなく身悶えした。
 部屋が痴情で満ちるのに数分と掛からなかったが、サリュは気付かなかった。
 シンジの口許にある種の笑みが浮かんでいた事を。
 そしてそれはいつも通り邪悪を少々含んでいたが、どちらかと言えば満足に近いものだと言う事を。
 何よりも、サリュの身体にある痕を残そうとしている事には、まったく気付いていなかった。
 
 
 
 
 
(つづく)

TOP><NEXT