妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第百二十五話:ドゥーでもいいんじゃない?
 
 
 
 
 
 マリアを連れてくる、そう言って出た筈のシンジだが、向かったのは反対方向であった。
 お手洗いへ、などと告げてトイレに行くマリアではない。
 廊下を歩いていくと、果たしてマリアはいた。どこか、気の抜けたような顔をして外を眺めている。
「トイレじゃなかったの」
 シンジの声に気遣う口調はない。最初から分かり切っている、そんな色が出ている口調であった。
「別に…」
「トイレが満員なら、上に特別なのがある。一般客は使えないけど、空いてる筈だ」
「放っといて」
 分かってるくせに、そんな視線をちらっと向けたがシンジは意に介する様子はない。
 気づいているのだ。
 分かっていながら、わざわざ後を追ってきて嫌がらせなんか。
 拉致されようと縛り首にされようと、放っておけば良かったわ。
 外から視線を動かさないマリアをどう見たのか、シンジはそのまま近づいてきた。ふらりと横に立つと、
「銃を持たない相手には銃口を向けちゃだめ、マリアにはそう言っておいた筈だけど」
「…分かってるわそんな事は」
 マリアはやや怒ったような口調で言った。
「でもシンジだって忘れてるじゃない」
「なにを?」
「ここは式場、それもミサトさんの挙式でしょう。そこからシンジが拉致されても、シンちゃんなんてどうでもいいわよ、で話は済むの」
「済ませる」
「?」
「俺は酔っぱらってないし、クスリもやってない、つまり正常だ」
「何が言いたいの」
「そう言う事」
「…」
「この状態で拉致、それも黒瓜堂の旦那が相手と知りながら特攻掛ける馬鹿は、少なくともうちのメイドにはいない。それよりマリア、突っ込むのは面倒だから言わなかったけど、俺が紅蘭にさらわれた時、アスカとすみれが喧嘩したでしょ」
「…ええ」
「原因は分かってるね――俺とか言う事じゃなくて」
「分かってるわ。アスカはなんで止めなかったと言ったけど、すみれの方はそんな事を言われても迷惑なだけ。シンジが知らない女について行ったりするからでしょう」
「まあそんなところ。人の事は分かるんだ。マリアの言うとおりだが、まず一つ」
 気にした様子もなく、シンジの指が一本上がった。
「人の事は見えても、自分の事になると同じように見えない。二つ、結局は持ってる力が違うって事を理解してない。要するに、分かってないんだ。まだ早かったかな」
 最後の台詞が自分に向いたものではないと気づいたが、
「何が早いのよ」
 聞かずにはいられなかった。
「マリアが銃持ってる事。山岸とさくらの刀は交渉したけど、マリアのは所持違反のままだ。他の連中は武器無しでも何とかなってるし、しばらく離してみる?」
「嫌よ」
 言葉は反射的に出た。
「私はシンジとは違うわ。火も水も風も土も使えないし、空を飛ぶ事だって出来ない。自分が全部持ってるからって人に押しつけないで」
「じゃ、聞くけど、指を向けられるのと銃口を向けられるのとどっちがいい?大体、マリアのはそれで終わりもあるじゃない」
「そ、それは自衛もあるからだわ。一々発砲できるわけないでしょう」
「なら、そうそう銃を抜かない事だ。指鉄砲とは訳が違うぞ」
 シンジの場合、良くも悪くも脅しを使わない。つまり、銃口を向けておいて発砲しないような事はないのだ。何より銃と違うのは、世間一般の認知度である。
 拳銃を向けられた時の反応と、指でピストルの形を取って向けられた時――反応に歴然とした差があるのは言うまでもない。
 一応使えるが、シンジが銃の類を好まないのはそこにもある。敵を始末する事に躊躇していて、碇シンジと言う人間は成り立たない。
 だが、力というのは威圧する為にあるのではない、と言うのがシンジの考えだ。そもそも、力で支配された関係ほど脆い物はない。その関係は力が失われた、あるいは力関係が逆転すると同時に破綻する事は間違いない。
 殺(や)る時はさっさと殺ればいい。威圧する必要はないのだ。
 マリアがまだその辺りを分かっていないと、シンジは指摘した。マリアもまた、その事については自分でも自覚はしている。
 ただシンジにそれを言われると、自分がすべて持っているからではないかと、どうしても心のどこかで反発してしまうのだ。
 それが住人達の思い――敗戦になっても後ろには絶対存在のシンジがいる――と、すんなり同調できない部分なのだと言う事に、マリアはまだ気づいていない。
 後ろにシンジがいるから大丈夫、それは余計な気負いを無くす代わりに、自分は前面に出る気はないシンジにとっては少し困る部分もある。
 一方自分の身は自分で守る、それは結構だが、手段を間違えると大火傷にも繋がりかねないのだ。
「マリア」
 シンジが少し口調を緩めて呼んだ。
「何」
「もし、誰かが人質に取られている状況で助けようとすれば、俺なら両手両足を丁寧に切り離してから、ゆっくりお放し願うさ。でもマリアにそれは出来ない。ただ今のマリアを見ていると、そんな時一瞬の隙で反撃されて、大怪我しそうな気がしてならないんだ。式場で銃をどうこうより、マリアの使い方が気になってるのさ」
「シンジ…」
「善悪なんて安っぽい事を言う気はないし、そんな観点でマリアの銃を取り上げもしないよ。俺が考えてるのはそれだけだ。他の皆が心配してる、そろそろ戻るよ」
「…確かにシンジの言う通りよ。でも、私はシンジほど強くないし…余裕を持って周りを見る事も出来そうにないわ。ただ、ミサトさんの結婚式場で銃を抜いたのは謝るわ。例え事情がどうあれ、シンジが手が出せないのに私で何とか出来る筈もないもの」
 平たく言えば、余計な事に口を突っ込むな、である。口にはしなかったが、マリアが少し丸くなったとシンジは見ていた。触れれば斬れそうな、そんな気を帯びていたマリアならば、シンジが拉致されかけた時点で銃を抜くような真似はするまい。
 シンジが拉致=自分の及ぶ範囲ではないと、すぐに判断したはずだ。
 マリアの性格の変化、そこに針の先ほどの危機感を持ったシンジだが、これが後日現実になるとは思っていなかった。
「ん」
 軽く頷いたシンジに、
「もう少ししたら戻るから…悪いけれど先に戻っていてくれない」
「今は鎖持ってないから引っ張れないけど、でもいいの?」
「どういう事」
「シンジの顔見てたら悪酔いした、そう言って出てきた?」
「トイレだと言った筈よ」
「うん」
 首を縦にこくんと振ってから、
「だからほら、あまり長いと…いだだだ!」
 珍しく、まともに悲鳴を上げた。音もなくさっと動いたマリアが、シンジの腰を思い切りつねったのだ。
「そ、そう言う事は早く言いなさいよっ」
「マリアがぐれてないでさっさと帰っ…ずびばぜんもう言わないから止めてー!」
 ぎうう、と更に力が入り、
「お、おかしな視線で見られたら絶対に復讐してやるわ」
(それって逆恨み)
 無論それは口には出せない。
 結局席に戻るまで、シンジはつねられっ放しだったのだが、最初からトイレではないと思われており、マリアに妙な視線が行く事はなく、結果シンジもそれ以上痛い目に遭わずに済んだ。
 
 
 
 
 
「オーナー、あの女そのままにしておく気ですか」
「しておく気です」
 ちゅーっと、ストローでビールを吸い上げてから、黒瓜堂の主人は顔を上げた。事情は簡単で、マリアに銃を向けられた事を知った店員が殺気立ってる所だ。
 殺(と)ってきますかと、立ち上がった店員を制したばかりである。ただシンジとメイドさんの関係とは違い、心服から来る物とはタイプが異なる。
 と言うより、店の性質と言った方がいいかもしれない。扱っている物が物だけに、買い主の用途により何故売ったと恨まれる事もあり、店の外壁は迫撃砲を至近距離で撃ち込まれても殆ど傷付かない防御を誇る。
 しかし、当然ながら誰それを殺るのに使いますと、危険な物を買っていく者はいないわけで、余計な怨みにはきっちりお礼するのがモットーだ。
 まして今回は、勝手な暴走ではなく依頼されてのものであり、頷きさえすればマリアの首など容易く取って来たろう。
 店のオーナーより、店員の方が数十倍優秀な店なのだ。
 とは言えマリアタチバナになど興味はなく、そんな事より管理責任を問い、たっぷりと搾取する方が上策だと主人は首を振った。
「そんな事より、コートの刺繍は出来たのかしら?さっさとやらないと、君らの背中に直接刺繍するわよ」
 それだけはご免だと、店員達は慌てて作業に取りかかっていったのだが、
「豹太、誰か来なかった?」
 僅かに首を傾げた店主に、豹太と呼ばれた青年が表を覗き、
「オーナー、危険人物のご来店です」
「キケン?」
「キケンです」
 自信たっぷりに頷き、
「花婿に逃げられた花嫁です」
「ちょっとキケンかな、ワインを出しておいて。箱ごとね」
 客の顔を見る前から、用件を読んだかのように指示を出した。 
 
 
 
 
 
「あ、やっぱり少し傷が残っちゃった。もう…困るわ」
 ある意味、これ程台詞と表情が一致しないケースも珍しい。
 にへら、そんな表現がぴったり合う程、さくらの表情は緩んでいたのだ。
「べ、別に放っておいても治るけど…や、やっぱり女の子だし、碇さんに治してもらわなくちゃっ」
 別に引っ掻き合ったわけではなく、ブーケを取り合う手の一つが深爪で、それが当たっただけだから大した事はない。
 それでも、
「何やってんだか。もう馬鹿ばっかし」
 とシンジがぶつぶつ言いながらも、治してあげると言った時、すみれは受けたがさくらは断ったのだ。
 碇さんにそこまでしてもらうのは悪いから、さくらはそう言ったのだが、後で秘かにゆっくりと企んでいたらしい。
 妙に軽い足取りで部屋を出たのだが、ふとその足が止まった。
「あら?」
 服だけは着替えているが、頭の上に手拭いを載せたシンジが洗面器を片手に歩いていくのを見つけたのだ。
 何故かくるりと身を翻し、
「す、少し素振りしておかなきゃ。碇さんの所に行くのはその後ねっ」
 早口で呟いた顔が、首筋まで赤くなっているのはどういう原理なのか。
 
 
 人間は考える葦である。
 これは多分嘘だ。
 猿から、或いは両生類から進化してきた可能性はあるにせよ、先祖が葦だった可能性は低く、葦には成りえまい。
 無論、葦みたいなモンだと言うことなのだが、葦よりはもう少しランクアップしたのではないだろうか。
 とまれ、ここに考える事に加えて学習するヒト――碇シンジがいた。
 十秒ほど考えてみたのだが、やはりアイリスとの混浴は問題がある。レニと違って身内ではないし生理も来たしと言う事で、お子様だからとの言い訳も出来まい。
 ただ、言って聞かない所は十分お子様なのだが、ここはやはり前回の轍を踏まないよう、結界を張る事にしたのだ。
 勿論、『管理人入浴中』の札は出してある――大きな板に墨痕鮮やかなそれが。横暴だと言われぬように手は打ってあるし、結界の方もアイリスの瞬間移動すら防ぐものだ。
 ぶつかった瞬間に瘤くらいは出来るかもしれないが、直接えいっと触らなければ大した事はない。
 そう、直接触らなければ。
 一人でゆっくり入れる環境を作ったシンジは、湯船の中で両手を思い切り伸ばした。
「やっぱり、一人湯がいい…あれ?」
 その視界に、ひらひらと落ちてくる桜の花びらが映った。
「もう桜も終わりなんだ…あ、きれい」
 湯の上に浮かんだそれを見て、シンジは嬉しそうに笑った。
 
 
 
 
 
「だからー!なーんで、あたしがあんな馬鹿に逃げられなきゃならないのよーう!」
「逃げたと言っても、初夜をすっぽかされた訳ではないでしょう」
「それはそうなんだけどね…やっぱりシンちゃんに抱いてもらったの失敗…って、なんでこんな事言わなきゃなんないのよ!」
 通常のグラスの三倍あるワイングラスに、なみなみと注がれたワインを一息に空けてから、ミサトは音を立ててグラスを置いた。
「あんたもしかして…なんか聞いてる?」
「弟を諦めるべく、血の繋がる姉なのに身を任せに行った女性の事ですか」
「ど、どうして知ってるのよっ」
「ヒトとして、半歩踏み外し掛けたって、電話してきましたから」
「で、何て言ったの」
「知りたいですか?」
「知りたい…あ、やっぱりいいわ。止めとく」
「じゃ、言いません」
 自分は青リンゴのジュースをグラスに注ぎ、ミサトのグラスにはワインを縁まで満たした。
 その手つきをじっと見ていたミサトが、
「あー、やっぱり聞いとく。シンちゃんになんて言ったの」
「何だと思います?」
 逆に聞き返してきた黒瓜堂に、
「ドゥーでもいいんじゃない?とか言ったんじゃないの」
「大当たり」
「は?」
「そう言ったんですよ。子供同士じゃあるまいし、おかしな薬でハイになっていたわけでもないんでしょう」
「勿論よ」
「ならば、別に問題ありませんよ。少なくとも彼の方は、処女の肉体に捕まって繋がった瞬間射精するような事はないでしょう。妊娠しなければ、たった一度の花火遊びでいいんですよ。あなたも、もう吹っ切れたんでしょう?」
「吹っ切ったからここに来てるんでしょ。何だと思ってるのよ」
「そうでした。それで、何が気に入らないんです?」
「どういう事よ」
「結婚を急かした理由は、あなたが弟離れ出来ないからでしょ」
「……」
「少々地雷はありましたが、一応弟離れは出来ました。でもまだ主婦の座に納まる程落ち着いてもいない。もうしばらく、このままでいいんじゃないですか?」
「なんか癪に触るわね…」
 そう言った割には怒った表情も見せず、ミサトはグラスを取って傾けた。
「あんたの言うとおりなんだけどね。一つ忘れてるのよ」
「このままだと、花婿を放り出した嫁じゃなくて、単に初夜が嫌で逃げられたように見えるからですか」
「分かってるなら最初から言うなー!」
 太ってるからダイエット、と自分では声高に宣言するが、他人に言われるとプチッと切れたりする傍迷惑な精神にも似たものだろうか。
 地団駄踏んでるミサトに、
「大丈夫ですよ、分かる人には分かりますから。さ、今日はたっぷり用意してありますし、好きなだけ飲んでいって下さい」
 それって一般人には分からないじゃないのよ、とミサトは言わなかった。そんな匙よりも、運ばれてきた樽に目が行っていたのだ。
「ふーん、結構気が利くじゃないの」
 大して興味がないと言う口ぶりだが、表情だけは完璧に裏切っていた。
 
 
 
 
 
「で…何じゃこれは」
 シンジの目の前にはさくらが横たわっている――ただし、全裸で。
 鈍い音と、小さな悲鳴を聞きつけたシンジが出てみると、そこにはさくらが伸びていた。
「!?」
 首を捻ったシンジだが、見ると管理人入浴中の札が、ご丁寧に唐竹割にされて遠くに転がっている。
 どう見てもさくらの仕業であり、たまたま修練の最中に立て札を知らずに斬ってしまい、“何にも知らず”に湯へ入ってきたと言う寸法に違いない。
 ただ誤算は、シンジが張ったアイリス用の結界が、直接触ると大ダメージを受ける代物だった事だ。
「呆れて物も言えんぞ」
 シンジが口にしたのもむべなるかな、一応の身だしなみで巻き付けていたバスタオルは、黒こげになって落ちていたのだ。万が一、さくらが全裸で入ろうとしたらどうなっていたかは、残骸を見れば一目瞭然である。
 ただ、何を思ったのか起こす事もせず、そのままさくらを担ぎ上げた。抱えられている少女が全裸で、抱えている男が胸までバスタオルを巻いている光景は、結構奇妙である――世にも奇妙、と言うには少し足りなかったが。
 そのままさくらを抱えてきたシンジは、岩の上にさくらを横たえた。
「ふーん」
 頭の先から、ゆっくりとシンジの視線が動いていく。閉じられた瞳からすっと伸びた鼻梁へ、小さく開いた唇から首筋をたどって鎖骨へついた。
 ゆっくりと上下している胸を見た時、シンジは小さく頷いた。
 どこか満足そうな表情であった。
 と、ふと気づいたように桜の花びらを手に取ったシンジは、乳首の上にそれを載せたのだ。
 乳首と乳輪の大きさは乳房には関係なく、さくらは両方とも小さい。花びらを載せるとちょうど乳首が隠れる位だったが、
「さくらの桜」
 自分で言って気に入ったのか、シンジは一人で笑った。
 温泉などでは時折、湯の上に熱燗と杯の載った盆を浮かべ、湯酒を楽しんだりする風習があるが、シンジは飲まないから銚子の中はジュースが入っている。それを小さなコップに入れて一口飲んだシンジだったが、
「ぶっ!?」
 次の瞬間、思わず吹き出していた。一気飲みしていなかったのは、幸いだったろう。
 シンジの視線は股間にまで達していたのだが、そこにあったのは僅かに盛り上がった恥丘のみ――完全に無毛だったのだ。
「無法地帯…じゃなくて無風地帯…でもなくて無地帯でも無くて…」
 ぶつぶつ言ってるのは、ショックのせいで脳に支障でも来したらしい。五秒程で帰ってきたが、
「剃ってない。じゃ…最初から無いのかな?」
 勝手に乙女の裸を眺めてショックを受けるとは、電気椅子も当然の行為なのだが、そもそもの原因は今観察されている娘にあり、一応執行猶予は付くかもしれない。
「でも、無いのが一番衛生的なんだよね。蒸れないし」
 結論は出たようだ。
 一通り全身を眺めてから、
「そう言えば…乳首のモザイクにこんなのなかったかな。確か星はあったと思うんだけど…」
 ろくでもない事を呟いた時、
「ん…うん…」
 僅かにさくらが身動ぎした。身体は揺れたが、花びらは湿っているから乳首に貼り付いたままだ。
 はふ、と耳元に息を吹きかけた途端、ぴくんっと身体が揺れて目が開いた。仰向けになっているから、視界に入ってくるのは青空になり、事態は即座には分からない。
「おはよう」
 横から聞こえた声に、はっと身を起こしたさくらが見たのは素っ裸に剥かれている自分と、当然ながら丸見えになっている秘所。
 及び――なぜか桜の花びらが貼り付いている乳首であった。
「きゃ――」
 思わず悲鳴をあげかけたが、
「俺が居るって、知ってて入ってきたね?」
 シンジの言葉に悲鳴は飲み込まれた。
「あ、あのっ、別にそう言う訳じゃなくてっ、た、ただ昨日の傷を治してもらおうと思ったらその、碇さんがお風呂に入ったって聞いて、す、少しでも早いほうがいいかなって思ってあうっ」
 全裸のまま、しどろもどろで言い訳するさくらだったが、
「碇さんあのこれ…」
「何?」
「何であたし素っ裸な――いたっ」
 ぽかっ。
「俺が結界張っといたの。この間アイリスに侵入さ――はっ!?」
 中墓穴。
 裸を見られた事は諦めたさくらにつられた訳でもないが、思わずシンジが口走った途端さくらの表情が変わった。
「あたし、入ってもいいですよねっ、入りますっ」
「い、いいです」
 表情が一転し、キッとシンジを睨むと有無を言わさず入ってきた。跨いだ時、脚の間から少しだけ色付いた小淫唇が見えても気にする様子は全くない。
 何故かシンジの後ろに回り込んだが、理由はすぐ明らかになった。シンジの首筋に顔を寄せ、吐息を吹きかけたのだ。
「それで碇さん。お風呂の中でアイリスとな・に・をしてたんです。気持ちいい事?それとも、お医者さんごっこですか??」
 シンジに当たる感触はバスタオル越しだが、裸体はぴったりとくっつけており、妖しい体勢と氷の針を含んだ口調が背中から襲ってきた。
 
 
 
 
 
(つづく)

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