妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第百八話:奇妙な自作自演のヒト達
 
 
 
 
 
「マリアさん」
 部屋に入ろうとしたマリアは、後ろから呼び止められて足を止めた。
「なに?さくら」
「あの、今日はありがとうございましたっ」
「今日?」
 一瞬首を傾げてから、
「ああ、あれね。楽しかった?」
 シンジとの料理時間をさくらに押しつけた事を言っているらしいと気付いたのだ。
「はいっ」
 さくらは勢い良く頷いてから、
「碇さんて、風とか使えるのに全然使おうとしないで、まるで子供みたいに蟹を追いかけ回して」
 うふふ、と笑ってから、
「でもねマリアさん、碇さんひどいんです。あたしに蟹を押しつけるんですよ。おかげで挟まれちゃいました」
「シンジが甲殻類を追いかけ回すのを見て、笑ったりしなかった?」
「え?どうして分かるんですか?」
「なんとなく、よ。シンジの思考なんてそんなものだから――どうしたの?」
「マリアさん…やっぱり碇さんのこと詳しいんで…あう」
 ぽこ。
「さくら、あまりおかしな邪推はしないものよ。まったくすみれにさくらまで、どうして余計な事ばかり気にするのかしら」
「え…すみれさんも言われたんですか?」
 ほんの少しだけしまった、と言う表情だがさくらには見せず、
「なんでもないわ。それよりさくら」
「はい?」
「シンジはあんなのでも、家事系統は一式こなすみたいだから、色々聞いておくといいわ。それくらいは役に立つ筈だから。じゃあね、おやすみ」
「は、はい、おやすみなさい」
 ぺこっと頭を下げたさくらだが、
「マリアさん…なんか碇さんに似てきたような…」
 どことなく複雑な表情で呟いた。
 
 
 
 
 
 ミサトを置いてふらふらと飛んでいたシンジが、眼下に人影を見つけた。
 夏ならいざ知らず、この季節だとまだ日は出ておらず、その下を二つの人影が歩いていく。
「おはよう」
 びくっ。
 当然の事ながら、上から降ってきた声に二人は慌てて辺りを見回したが、そこにいる筈もなく、
「こっちこっち」
 音もなく降り立ったシンジに驚愕の表情を向けた。
「い、碇君…ど、どうして?」
「空を飛ぶのも、管理人の仕事の一つって知らなかった?」
「宙へ飛び上がれるだけじゃなかったの」
 以前脇侍の残骸に細工をした時、かえでを抱き込んで宙へ飛んだのは無論知っているが、まさか飛行できるとは思わなかった。
「失礼な、ちゃんと飛べますよ」
(し、失礼なって…)
 人外みたいな台詞だとは思ったが、無論口にはしない。
「ところで、二人ともなんでこんな時間にこんな所を?」
「散歩よ。霊刀なんて持ち出せるのはこんな時間くらいだし」
「さくらと山岸は帯刀してるよ。町中でも平然と」
「あなたが手を回したんでしょ」
「うん。山岸はともかく、さくらは自分の事に気付いてないから」
「気付いてない?」
「まだ出来上がってない、と言うより舞台の方でまだ自分が下だと思ってるから分かってないけど、内に秘めた能力は桁外れだ。言ってはいないけど、すみれじゃ足下にも及ばない。花組全員足して釣り合うかどうかってところ」
「さくらが…そんなに強いの?」
「強いんじゃなくて霊力数値が高いの。つまり、霊刀の使いこなし次第ではいくらでも強くなれるって事。最初から強かったら苦労しないよ。もっとも、いざとなれば俺の代わりに斬りまくってもらわなきゃならないから」
「『な、何を?』」
 思わず同時に訊いた二人に、
「真宮寺の血を生け贄に使おうとか言う連中を。もっとも、俺が手足もげてなきゃ全員死を懇願する目に遭わせておくし、別に出番はないんだけど」
「…」
 一瞬二人で顔を見合わせてから、
「あの…どうしてさくらの為にそこまで?」
 あやめが訊いた。
「かえでを犠牲にすれば助かる、そう言われれば即座にかえでを縛って差し出す?」
「そ、それとこれとは…」
「俺にとっては同じなの」
 ふらりと歩き出したシンジに、二人の足もつられるように動いた。
「もっとも、理屈は分からない事もないけどね――たった一人の命よりも万人の命、と言うその理屈は」
 ほんの少し後ろにいたため、二人からシンジの表情は見えなかった。そこに刹那だが浮かんだ表情に気付かなかったのは、二人にとって僥倖であったろう。
「子供が高い棚から物を取ろうとしていたら、大人が代わって取ってあげればいい。交通ルールを教えない間抜けな親がいて、子供が赤信号を渡ろうとしていたら、誰かが止めてやればいい。娘が一人都市繁栄の生け贄にされようとしていたら――」
 シンジは一度言葉を切ってから、
「しようなんて言う連中をあの世に送ってから、祭壇から娘を下ろせばいいんだ。後は自分が代わればそれで済む話だよ」
「で、でも…」
「なに?」
「そ、それはあなただから出来ることであって、私達には出来ないことよ。それにあの時はそれ以外に…」
「それはどうかな」
「ど、どういうこと」
「俺は救世主じゃないし。勿論、白馬の王子様でもない」
「『は?』」
「と言うこと」
 奇妙な事を口にしてから、
「ところで、二人とも体力には自信ある?」
「体力?す、少しはあると思うけど…」
「元対降魔部隊の一人だしね。ちょうど良かった、ちょっとやってもらいたい事があるんだけど」
「な、何?」
「このままだと、ウチの我が儘娘共が二人の言う事聞かないから」
「!」
 さくらはキレた勢いとは言え、アイリスまでそんな事を口走っていたのは無論忘れてはいない。
 小さな苦虫を噛んだみたいな顔になった二人に、
「ま、嫌でも言う事聞くようにすればいいだけの話だから。別に、性格が嫌いって事じゃなさそうだしね。じゃ、俺はこれで」
 M78星雲からやって来た三分限定のヒーローみたいな格好で、また地を蹴って飛んでいったシンジを見ながら、
「私達に…何かさせる気なのかしら?」
「それより姉さん、気が付いた?」
「なにが?」
「気のせいかもしれないけど…」
 一瞬言いよどんでから、
「女の匂いがしたのよ」
「女?彼は男でしょう」
「そ、そう言う事じゃなくてその…身体から匂いがしたのよ」
「気のせいでしょう。だいたい、異性への興味自体からしてあるかどうか、怪しいものだわ」
「そ、そうね…」
 確かに過ぎるほどその通りなのだが、頭から否定する姉にそれ以上言えず、かえでは胸の奥に仕舞い込んだ。
 それが――わずかに残ったミサトの匂いだとは、結局気付かぬままに。
 
 
「眠い」
 帰ってすぐ、シンジは電話を掛けた。
 まだ周囲は明るくなっておらず、そして二回で出た相手の第一声がこれであった。
「寝てました?」
「起きてたが何か」
「あ、あの、えーと…姉貴に薬くれたかなって」
「余ってた写真を高値で引き取ってもらった折、何故か避妊の話になった。で、一時間だけすごくなるの無い?と言うから精力剤を渡しておいたが」
「…ちょっとまって。じゃ、飲むと股間がサンシャインぐらいになって止まらなくなるの?」
「違う」
「え?」
「エッフェル塔だ。それも半日は絶対に収まらない――例え何回放出しても」
「…それ、女が飲んだら?」
「少し淫乱になる。普段のざっと二割増し」
 あんまり変わらないな、と内心で呟いてから、
「昨日姉さんが夜ばいに来た」
「で、抱くまでには至らなかった、と」
「な、なんでそれを」
「手を出していれば薬の効果など訊かない筈だ。挿れるまでは行かなかったけど念のため、そんな口調だな」
「やっぱりほら、一応血の繋がった姉だし。ねえ?」
「なにがねえ?だ。身体自体はあれこれなぶったくせに」
「どど、どうしてそれをっ!?」
「裸で迫る乳を見れば絶対に何かする性格だ――例えそれが実の姉さんでも」
「なにおう!」
「ま、正解だったかもしれんぞ」
「え?」
「多分性格からして、逃げるから追うと言うのが高じたのだろう。だとすると、一度裸で付き合っておけば、すっきりして結婚できるというものだ」
「いや、俺別に裸じゃなかったんだけど」
「股間が役立たずだったからだな。今度いい薬を横流ししよう。じゃ、私はもう寝るからこれで」
 こっちの反応など待たずに切られた一瞬後、
「そうそうピクリともしなくて…ってちがーう!姉相手に欲情しなかっただけだ、ちょっと待てー!!」
 電話のこっち側で地団駄踏んだがもう遅く、受話器はただ一定音だけを伝えてくる。
「俺の写真は売るし姉貴に変なモンは渡すし…絶対に今度店を焼き討ちしてやる」
「それはそれは」
「!」
 冷たい声がして、シンジがびくっと振り返るとフェンリルが立っていた。
「焼き討ちの決意も結構だが、その前に布団は洗濯に出した方が良かろう。あたしもそんな物の上で枕になるのは御免だ」
「フェンリル…怒ってないの?」
「別に」
 フェンリルの声は意外なほど穏やかであった。
「街で娘を引っかけたならともかく、あの男が言った通りこれでマスターの事も諦めよう。ならば、一夜くらいは安いものだ。ただし」
「た、ただし?」
 シンジが一瞬退いたのは、従魔の目に濡れたような色を見て取ったからであり、
「マスターの顔を見ていたら、無性に押し倒したくなった。さ、少し付き合ってもらおうか」
 予感はやはり正しかった。
 あっという間に捕まったシンジであったが、ベッドではなく床を選んだのは、やはり幾分ながらどこかで引っかかっている現れであったろうか。
 床に頭をぶつけたシンジだが、表情に出す事はなく、すっと腕が伸びるとフェンリルを引き寄せた。
「マスターからするとは、珍しいこともあるものだ」
「押し倒すの初めてでしょ」
「!」
 一瞬驚いたような表情を見せたフェンリルだが、すぐに目を閉じると肢体をシンジに預けていった。
 する方の行動も珍しいならされる方のそれも珍しい、フェンリルの頬がわずかに染まっていたのは決して気のせいではなかったろう。
 
 
 
 
 
 ミサトの頬が甲高い音を立てたが、ミサトは頬をおさえようとも叩き返す事もなく、ただ黙って立っていた。
「気が済みましたか」
「ごめん…」
 ぽつりと呟いたミサトに、
「御前様には伏せておきます。でも、二度と心揺らすような事はしないで下さい」
「分かってるわ…」
 明け方の街を散策して戻ってきた瞳に、たまたま見つかったのだが、話を聞いた途端いきなりミサトを張り飛ばしたのだ。
 ミサトが黙って受けたのは、やはり幾分の罪悪感に加え、瞳はなんだかんだ言いながら俊夫以外には目もくれていない、と言う後ろめたさに近いものもあったろう。
 二人とも結婚させる、シンジはそう言って彼らを捕縛に出したのだ。
「ミサトさん」
「何?」
「破倫とか善悪とか言うより、メイドさん達に知られたら、それこそ相手次第では命に関わります。くれぐれも気を付けてください」
「ありがと、分かってるわ。それと瞳」
「え?」
「あたしをひっぱたくとは偉くなったもんよのう」
 シンジみたいな口調で言うとむにっと頬を引っ張ったが、すぐに離した。すっと顔を寄せてきたミサトに一瞬瞳は身構えたが、やはり避けるべきであったろう。
「シンちゃんてね、指使いとかキスとかかなり上手いのよね。童貞と処女のカップルよりよっぽどイイと思うわよん」
 ぴきっ。
「ぜ、全然反省して無いじゃない、待ちなさいっ!」
「ぜったいに、いや」
 軽快に逃げ回るミサトの後ろ姿を見て、
「異物感のある走り方じゃない…どうしてかしら」
 いったいどこに知識源があるのかは不明だが、聞かれたらシンジとミサト双方から総攻撃されそうな台詞を瞳は呟いた。
 ミサトがさっさとずらかっていたのは、幸いだったろう――まして、シンジがこの場にいなかったのは。
 この姉弟の合体攻撃の威力など、あまり想像したいものではない。
 
 
 
 
 
 肋骨数本にヒビが入り、その内一本は僅かながら砕けていたカンナが、シビウ病院から完全体で戻ってきたのは昼前であった。
 なお、治療自体には一時間も掛かっていない――ただし、シビウ病院にしては時間がかかったのは、私がやるのはお断りよとシビウが突っぱねたからであり、棺桶に入って出てきてもおかしくはないから、シンジもそこまでは言えなかったのだ。
「すまねえあたいが悪かった。この通りだ」
 思い切り頭を下げたカンナを見ながら、長身の割に随分身体が柔らかいなと、シンジは妙な所で感心していたが、
「うん、まあそれはそれとして」
「…え?」
「マリア」
「何」
「俺の部屋行って鎖持ってきて。ベッドの下に写真集代わりに置いてあるから」
「…何に使ってるのよ。じゃなくて何に使うの」
「俺に巻く」
「『え?』」
 少女達が一斉に怪訝な視線を向けると、
「ハンデ無しでは相手にならないのは分かった。と言うことで俺にハンデを付ける。桐島、総重量二十五キロのハンデを付けた俺と遊んでもらおう。この間は全然すっきりしてな――いだだだ!?」
 ぐりぐり。
「何を昼間から寝ぼけた事言ってるの。これ以上カンナいじめてどうするのよ」
「これ以上〜?言っとくけど絡まれたのは俺…いえ、何でもナイです」
 すっと下がったマリアの手は、無論即座に銃を引き抜くだろう。
「まったくろくな事考えないんだから」
 冷たい視線をシンジに向けたマリアだが、
(しまった)
 全住人が揃っている事を忘れていたのだ。
 ひとーつ、ふたーつ、みっつ…と疑惑とかその他の視線がこんどはマリアに向いた中で、
「あの…よ、大将、悪かったな」
 俯いたままカンナが言った。
「え?」
「あたいさ、出ていくから。もう大将には迷惑かけないからよ。あたいの事、嫌ってるのは分かったからよ。じゃ、じゃあな」
「『!?』」
 巨体が子供みたいな見え、萎縮したまま歩き出そうとした次の瞬間、にゅうと足が伸びてカンナはステンと転んだ。
「痛っ!?な、なにを」
「別に出て行けとは言ってない。元より、マリアの一件で余計な口さえ出さなければ、病院に行く事すら無かったんだし。それにもう一つ、今回の件はマリアの自作自演、つまりマリアが裏で手を回していた事が発覚した」
 そう言うとシンジはマリアに視線を向けた。
(シンジ…)
 かますべきなのか感謝する、つまり乗るべきなのか一瞬躊躇ったが、後者にした。
「自作自演、と言うよりシンジに一泡吹かせたかっただけよ。カンナには手も足も出ないと思っていたし。あっさりカンナが返り討ちに遭ったのは残念だったわ。カンナ、そんな所で寝転がってないで行くわよ」
「え?あ、ああ、おう」
 事態がさっぱり読み込めないまま、糸で引かれるマリオネットみたいに立ち上がったカンナが、ふらふらとマリアに続く。
 が、ふとマリアの足が一瞬だけ止まった。
(マリア、ありがと)
 振り向いてはおらず、目も合わせていないが、シンジの意志が直に伝わってきたのである。無論、精神感応でもない。
(別に)
 短く、そして素っ気なく返すとマリアはまたすっと歩き出した。
「あ、あのう…」
 残った全員も狐に鼻をつままれたみたいな顔をしている中、最初に口を開いたのはさくらであった。
「何?」
「マリアさんの言われた事…本当なんですか?」
「本当、とは?」
「だ、だからその、じ、自殺自演とか言ったじゃないで――いた」
 ぽかっ。
「なーんで俺が自殺しなきゃならないんだ。誰がそんな事言った」
「あ、あれ?」
「あんたバカァ?自画自賛って言ったのよ。ねえシン――いったー!」
 スパン!
「やっぱ世の中俺以外バカばっかりだ。ったくどいつもこいつも」
 一瞬ボケかと思ったが、二人とも真顔である。シンジの言葉など、半分くらいしか聞いていなかったらしい。
「一度しか言わないからちゃんと聞いといてよ。じさ――」
 言いかけたら、
「自作自演、自分が起こしておきながらさも他人の仕業のように扱う事、そうでしょうシンジ?」
「えーと、だいたいそんな感じ」
「じゃ、僕はバカじゃない」
「え?」
「つまりシンジと一緒」
「あ、こら」
 言った時にはもう、ちゃっかりと膝の上に乗っていたが、
「シンジ…?」
(にしても大きくなった…)
 レニの肢体の変化に一瞬トリップしてしまい、我に返った途端レニの胸に顔を突っ込んだ。無論故意でもなんでもないが、にゅうと伸びた四本の手が、なぜかきゅっとシンジの首を絞めにかかった。
 アスカとさくらだ。
 他の娘の時は対象が本人になるが、何故かレニの時はシンジにとばっちりが回ってくる。
「俺が窒息死すると、君らが犯罪者になっちゃうから離して?ぐえー」
 何とか首を振って逃れると、
「もうじき機体が出来上がる」
「機体って、エヴァ?」
「無論。君らのはもうほぼ出来てるんだけど、桐島とマリアのデータが無かったから、今突貫で仕上げてるところ。出来上がったら、今までのとは比べ物にならなくなるよ」
「そんなに変わったんですの?」
 訊ねたすみれに、
「変わった。それはもう恐ろしいほど」
 ニマッと笑ったシンジに、何故か居合わせた娘達の背に冷たい物が一瞬走り、グラマーになった従妹を膝に乗せてトリップしているヤツをとっちめる手も止まった。
 その娘達に、
「今の君らじゃ、乗っても機体に振り回されるだけ――と言うより起動しないよ」
「き、起動しない?それどういう事ですの」
「つまり、相当な霊力が要求されるってこと。この中で何とか起動だけするとしたらそうねえ、織姫とさくらならどうにかなるかな。もっとも、起動した途端気絶すると思うけどね」
「あ、あのさシンジ」
「何?アスカ」
「なんでそんな物騒なモノにしたのよ」
「それを軽々扱える位じゃないと、俺の育成計画――もとい帝都の防衛構想に役立たないから。どんなに大国でも、霊能力者ばかりを集めた軍隊を持ってる国はないし、また必要もない。持ったら間違いなく身を滅ぼすからね。言い換えれば、花組のメンバーが機体を完全にマスターできれば、ある意味最強の軍隊にもなりうる」
(ん?)
 娘達はふと、奇妙な事に気が付いた。
 シンジの目がキラキラしてるのだ。
 と言うより、どこか興奮しているような気もする。
 ただしそれを口にする前に、
「と言うわけで、花組とそれから留守居組も、かなりハードな訓練をしに行ってもらうことになる」
「山ごもりでもするんですの?」
「そんなのは時代遅れだ」
「じゃ、仮想現実?」
「それはレイの脳内だけ」
「じゃどこさ」
「魔界」
「『…え?』」
 声が上がるまでに十秒ほど掛かったが、上がった声は比例するように間が抜けて聞こえたのはやむを得なかったろう。
 魔界、現実世界でそれを聞くのは全員初めてだったのだから。
 
 
 
 
 
(つづく)

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