妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第百七話:結婚するって本当ですか(後編)
 
 
 
 
 
「ちょ、ちょっとシンジ大丈夫っ?」
「どこが大丈夫なんだ」
 へろへろと帰ってきたシンジに、マリアは慌てて駆け寄った。
「一体どうしたの」
「撃退された」
「げっ、撃退!?」
「うん、撃退。まったくウチの姉貴は強いんだから」
 蹌踉めいたシンジに肩を貸すとそのまま中へ運んでいったが、他の住人がいなかったのは幸いだったろう。
 ソファにぼてっとマリアごと倒れ込んだシンジから、何とか身体を離し、
「ミ、ミサトさんてそんなに強かったのっ?」
 幾分早口で訊いたマリアの顔は横を向いている。
「強い」
 マリアの表情には気付いた様子もなく、シンジは一言で肯定した。
「碇シンジは肉弾戦とか向いてないんだからさ。悪いけどお茶持ってきて」
「え、ええ」
 急須をぶら下げて持ってくると、シンジがソファに伸びている。
「持ってきたわ」
「あ〜ありがと」
 湯飲みを渡すと起きあがるが、飲むとまた伸びた。
「V・Gは終わったから、もう弱くなったと思ってたんだけどなー」
 ぶつぶつぼやいてるシンジに、
「V・Gってなに?」
「ヴァリアブル・ジオ。地球研究組織じゃないぞ」
「違うの?」
「全然違う。要するにウェイトレスさん同士が闘うの」
「なんで?」
「よく分からないが、誰が最強かを決めるらしい。ついでに言うと、企業が絡んでるから莫大な金が動く。ほら、ああいうのって一度はまると癖になるらしいじゃない」
「そうなの?」
 そうなの、とシンジは頷いて、
「例えそれが、敗戦イコール犯されることであっても、ね」
「何ですって」
 マリアの眉が一瞬動く。
「つまりそう言う事。敗者は一晩勝者の物になるんだけど、勝った方だってぐったりしてるし、まして女同士で犯したり犯されたりはまずない。結果として、股間にテント張ってる男達に下げ渡されて、あんな事からこんな事までされちゃうわけ」
「なぜそんな非人道的な事に進んで参加するの?」
「好きだからでしょ。俺には分からないけど、そう言う世界って犯されたりするリスクも含めて、闘う事が好きみたいだし。強い相手見ると躰が疼くんじゃないの」
「…シンジは見に行ったことあ――いたっ」
 むにーっとマリアの頬を横に引っ張り
「なーんで俺がそんなモン見に行かなきゃならないんだ。それともナニか、マリアはそう言うのに興味あるってか?」
「べ、別にそう言うわけじゃ…」
「もういい、話す気だれた。俺は寝るから邪魔しないでね」
 ぷいと横を向いてしまったシンジに、
「ちょっとそんな事言わないで。私も言い過ぎたから」
「も?もって事は俺も犯罪者ってかい」
「そ、そのそうじゃなくて、わ、私が余計な事言ったから…悪かったわ」
「ほんとに思ってる」
「うん」
「今度余計なツッコミしたらさっさと寝るからね」
 何となく立場が逆みたいな会話だが、
「で、どこまで行ったかな」
「だからその、貞操観念の薄い格闘大会の話よ。ミサトさんがどう関係あるの?」
「潰した」
「…え?」
「だから潰したって言ってるの。それからマリア」
「何?」
「確かに俺もあまり好まないけど、貞操観念云々とか言うものじゃないよ。膣内に出されたかどうかは知らないけど、それは本人の選んだ事なんだから。俺だって別に、結婚するまで処女でなきゃなんて事は思ってない」
「シンジ…ん?」
「何?」
「と言う事は、別に処女無くてもいいからその前にシンジが食べておく、そう思ってあちこちで手を出してるのね」
「そうそう、やっぱり最初の抜ける感触とその時に、きゅって寄る眉根がまた何とも…ナヌ!?」
「ふうん」
「ちょ、ちょっと待って今のは俺の例じゃ、うにーっ」
 今度はマリアがシンジの顔を、それも思い切り引っ張った。
「普段シンジがどういう性活してるかはよーっく分かったわ。じゃ、私はこれで」
「ちょ、ちょっと待った待った」
 慌ててマリアを引っ張ると、
「マリアが変な事振るから、つい乗っちゃっただけだよ。冗談だってば」
「ほんとーに?」
「はい。でもさ」
「何よ」
「こういう話してると他の住人に、あらぬ誤解されそうだから止めよう」
「…そうね」
 短く同意したマリアの表情に気付いたかどうか、
「とにかく、その表彰式に姉さんが乗り込んだの――空港から直行してね」
「空港から?」
「迫られた弟が国外へ逃亡したから」
「弟ってシンジよね」
「うん」
(この姉弟って一体…)
 無論それは口にしない。
「乗り込んだ姉さんが、この程度でナンバーワンなんて片腹痛いとか言い出して、表彰台にいた娘を――名前忘れたけど数十秒で片づけちゃったの。で、勿論他の参加者達も黙ってなかったんだけど全部返り討ち。当然大会は滅茶苦茶だよね」
「でもシンジ、それって主催者側からクレーム来なかったの?」
「実家が実家だから。それに、武器も持ってないし薬も飲んでないただの娘が、全員をのしちゃったわけで、レベル低いって身を以て示されちゃったようなもんだから主催側もあまりどうこうは言えなかったの」
「その一回程度で潰れるんじゃ、あまり大した事はなかったのね」
「一回だけならね。でも姉さんはその翌年もまた乱入したの。しかも、今度は第一試合の前に全員片づけた。意味分かる?」
「いいえ」
「つまり、前回は弱った所を見計らってって言われたもんだから燃えちゃったの。碇ミサトってそう言う人だから。更にその翌年と、合計三回乱入してね。そのたびに全員倒しちゃったもんで、さすがに主催者側も諦めた。元々陰のイベントではあったけど、完全に潰れたのは姉さんのせいだよ。ただ、三回の内二回は俺が居たのに行ったし、こう言ってた――これであのガキ共もこれ以上緩くならずに済むわ、と。単にストレスだけで行ったみたいじゃないけどね」
「緩くならず?」
「処女喪失の後、あんまり道具とか使うとほら」
「え…!?」
 一瞬奇妙な表情を見せたマリアだが、次の瞬間その顔が火を噴いたように真っ赤になった。
「な、なっ、昼間から何言ってるのよっ!信じられないっ」
「別に俺が言ったわけじゃないし。別にマリアが顔赤くしなくてもいいじゃない」
 反射的にポケットへ手を入れ、銃を持ってないのに気付いたらしいマリアに、
「館内では発砲禁止だよ。今度撃ったら没収するからね」
「そっ、そんな横暴よっ」
「じゃ、撃たなきゃいいじゃない」
 シンジにしてはまともだがまともでない台詞を吐いてから、
「だからマリアにこの手の話するのは嫌だったんだ。絶対そう言う反応するから」
「ち、違うわよ今のはちょっと反応してみただけよ。そ、それで緩いのがどうしたの」
 顔を赤くしながらも、何とか話を戻す。
 シンジの言い方は明らかさにお子さま扱いであり、最後まで行かなかったとは言え、一度肌を重ねているマリアにはそれが分かるだけにしゃくに障るのだ。
「今年のお正月に年賀状が来てたから、仲はいいみたいだよ」
「誰から…って、その参加していた子達から?」
「そ。しかしあの鈍ってない勘からすると、今でもひっそり手合わせしてやってるな。いーや、絶対してるに違いない。まったく裏で何やってるか分かったもんじゃない」
 それはシンジと一緒じゃない、と言いたくなったがとりあえずここはおさえた。
「それで、ミサトさんが強いのは分かったけど、どうしてシンジがやられて帰ってくるの?」
「恋人の加持リョウジ。要するにさっさと結婚させようと思って取り寄せたんだけど」
 説得がまるで通じず、とりあえず吊されているのを降ろそうとしたら、強烈な一撃が襲ってきたという。
 瞳と互角に張り合えるのはそのせいだろうが、いくら何でも強すぎる。
「まったくあれだけ強いとは思わなかった」
「本気…だったの?」
「本気だったというか違うというか。片づける気なら幾らも手はあるんだけど、別にそんな気はないし。むしろ引き際を間違えたというのが本当の所だな」
 自分の事ながら分析するみたいな口調のシンジに、
「それで、どうするの?」
「ぜーったいに結婚させてやる。臥薪嘗胆だ」
「そ、そこまでしなくてもいいと思うけど…」
「あ?」
「う、ううん、何でもないわ」
「まあいい。とにかく、あの二人は絶対に結婚させる。だいたい、嫌いなわけじゃないんだよ」
「…違うの?」
 目下の状況だけ見れば、シンジが大きなお世話を焼いて結婚というイベントを起こそうとしてるようにしか見えまい。
「違う。一応相思相愛――の筈なんだ。それよりマリア」
「え?」
「蟹が着いた。今日は蟹コースにするから、殺すの手伝って」
「こ、殺すっ?」
「理由は知らないけど、生きたまま送ってきた。多分俺に殺生させる気に違いない」
「誰が?」
「俺のアブナい知り合い。で、手伝ってくれる?」
「別に構わないわよ」
 がしかし。
「楽しそうですねえ」
 着いたのはいずれもタラバの極上物だったが、なにせ生きているせいでよく暴れるしはさみも振り回す。
 二人して追いかけ回したのだが、なにせここは造りからして大きいし、各部屋も比例するようなサイズになっている。キッチンも例外ではなく逃げ出した数尾をどたばたと追いかけ回している内に、蟹を踏みかけたマリアが転んだのだ。それを避けようとしたシンジが折り重なるようにして転んだそこへ、ちょうど時悪しくさくらが帰ってきてしまった。
 別にやましい事はないが、転んだ瞬間突いた手が、するりとマリアの下へ入ってしまった。
 すなわち――マリアの胸はシンジの手に収まっているわけで。
 ほとんど人間不信になった世捨て人みたいな視線を向けるさくらに、慌てて二人は離れたが、向けてくる視線には明らかに妬心の色があると当事者のマリアは気付いた。
 ただし、シンジに告げると蟹の代わりにさくらを茹でるとか言いだしかねないので、
「さくら、帰って早々悪いけど替わってくれない?」
「…え?」
「誰もいないからってシンジに使役されていたんだけど、私もちょっとやる事があるから。無理にとは言わないけど」
 ピピッ。
 男には分からない、と言うより分かりたくない電波が二人の間で送受信され、
「し、しかたないですね。マ、マリアさんがそう言われるなら…」
 台詞は仕方なく、ただし表情はやる気満々のさくらだが、
「仕方ないなら別にいいよ。マリアだって嫌だと言うなら別に頼まな――おぶっ」
 無理に手伝わせる気はないから、と言おうとした途端何故か肘の一撃を受け、べしゃっとぶっ倒れたシンジを見下ろして、
「さくら、後は頼んだわよ」
「ええ、任せて下さい」
 よいしょっと引っ張り上げ、
「さて、やりましょうか?」
「は、はい、お願いします」
 何で俺がこんな目にとは思ったが、口にするとはさみを振り回してる蟹を集らされそうなので止めた。
 二人っきり。
 共同作業。
 状況はともかく、一応その単語は当てはまるわけで、内心では喜々としていたさくらではあったが、唯一の誤算は横転であった。
 何もない所で転ぶのは、元より不得手ではないし、ある事を企図して数回転んでみたがその度に、
「何にも無い所で転ばないでよね、まったく」
 世話が焼けると言った感じで引き起こされ、シンジは一度も道連れにならなかったのである。
 とは言え、後は時々手が触れたり、二人して逃げた蟹を追いかけたりとそれなりに満足したさくらだが、敵が多いと言う認識は出来ているから食事の時に顔を緩めたりするような失態はしでかさなかった。
 やはり群雄割拠の時代になると、戦略というものを必然的に迫られるらしい。
 その晩の事。
 珍しくベッドでゴロゴロしていたシンジは、館内が妙に静かなのに気付いた。
 病院へ赴いたマリアからは、カンナの退院が明日になると聞いている。 
 カンナが騒がしい娘なのかどうかは知らないが、敵愾心が消えているかは幾分気になっていた。
 無論、シンジ自身はいつものように気にしていないから、別に戦力外通告を出す気もない。カンナにその気があれば、他のメンバー同様戦力内構想にする気なのだが。
「レズじゃない事だけ祈ろう」
 窓の外を見ながら、ろくでもない事を呟いたシンジが振り向いた瞬間、その表情が固まった。
「ねえ…さん?」
 間延びした声は、我ながら間抜けだとは思ったがそれも仕方なかったかも知れない。
 そこにいたのは紛れもなく実姉のミサトだったが、何故か真っ黒なマントを羽織っていたのだ。
 それがはらりと落ちても真っ黒クロスケは直らなかった――レースのフリルが付いたハーフカップのブラに透けているパンティとガーターベルト――その下も全身真っ黒だったのである。
「何をしに?」
 何とか我に返った弟に、
「結婚してもいいわよって言いに来たの」
「そんな格好で?」
「イエース」
 何となく語尾が震えている、と気付いた途端ドアがノックされた。
 
  
 
 
 
「紅蘭、本当にいいの?」
「もう…同じ事何度も訊かんといてな。ウチだって…恥ずかしいやないの」
 ダブルベッドの上で手を繋いだまま目を覚ました二人は、雰囲気的に初体験へと向かいはしたのだが、お互いに愛撫し合って十分濡れて十分勃っていざ、と言う時になってぴたりと止まってしまったのだ――ケンスケの方が。
 紅蘭も無論処女だしケンスケも童貞だから、初めて同士なのだが、まさか初めて見る女性器に萎えたわけでもあるまい。
 自慰も殆どしない紅蘭のおんなのこは、それこそまったく未開発でうっすらと色づいているのみだったし、うねうねとグロテスクに誘うようなこともなく、心許なげにほんの少し震えているだけだったのだ。
 しかし、果てていない内に萎えてしまうと、もう後はどうやっても回復せず、紅蘭が顔を真っ赤にして白魚みたいな指できゅっと包んでもピクリとも動かなくなってしまった。そうなると紅蘭にも焦りが出てきて、堰を切ったみたいに愛液が流れてくるという生まれて初めての体験も終わってしまい、完全に乾いてしまった。
 それでも悪あがきを続けた二人だが、やがて無理だと悟ったのか裸のまま大の字になった。
 俺が悪い、いやウチが悪いからと機銃掃射したくなるような会話の後、原点に戻ってケンスケが紅蘭の写真を撮ると決まったのだ――ただし、ヌードである。
「じゃあ…撮るよ」
 小さく頷いた紅蘭がシーツを恥ずかしげに身体から落とす。
 がしかし。
「こ、これでええの?」
 ぽかんとケンスケの口が開き、
「ちっ、違うそんな格好じゃなくていいんだからっ。も、もっと普通でいいんだよっ」
 どこで覚えたのか、立てた膝を思い切り開き、それに伴ってぱっくりと開いた淫唇を二本指で左右に開くという、ポルノ雑誌みたいなポーズを取って頬を染めている想い人に、ケンスケは慌てて駆け寄った。
 
 
 
 
 
「ぷはっ」
「ぷはっ、じゃないってのまったくもう」
 おにいちゃんおやすみ、だけで帰ってくれたのは幸いであった。アイリスにこんな所を見られたらどうなるか、シンジにも想像は付かない。
「で、そんな格好して来るのと結婚を決意する事とどう関係があるって?」
「あたしなりにね、考えてみたのよ」
 よいしょ、と顔を出すとシンジの胸の上に顔を載せた。必然的に乳の柔らかい感触が脇腹に当たっており、挑発しているのは一目瞭然である。
「あたしってさ、そんなにシンちゃんの事好きじゃなかったのよね。つまりノーマルって事よ」
「ふんふん」
「だって一応加持って言う彼氏はいるんだし、ノーマルじゃない。でもね、最初にちょっとちょっかい出した時から、シンちゃん一度も反応しなかったじゃない。逃げるから追う、最初はこれだったんだけど…段々高じてきちゃったのよねきっと」
「姉貴が自分を冷静に判断出来てるのは分かった。それでそのクロスケな格好は何?」
「あたしってまだ処女なのよね」
「それは知ってる」
「シンちゃんまだ童貞でしょ。だからさ…一度だけしよ、そしたら諦めるから」
「もう一度」
「だから、セックスしようって言ってるの。つまりあたしの…その…」
 多分家では何度も練習して来たのだろう――淫語を何度も口に出して。
 リョウジを縛りあげたのも、そしてシンジを攻撃したのも無論計画の一環に違いないとシンジは踏んだ。
 だいたい、普通に考えればリョウジは追い出せばいいのであって、縛る理由は別にないのだ。
(どうしたものかな)
 表情は変えずに内心で考え込んだ時、身体に当たっている胸に変化が起きているのに気が付いた。
(乳首硬くなってる…)
 身体は既にその気らしい。
 とは言え姉弟間の相姦など大問題だし、かと言ってこのまま追い返せば何をするか分からない。剛気だが結構思い詰めると一途な所があり、それは自分との関係でもよく表れている。
 しかしシンジの様子を逡巡してると見て取ったのか、
「だ、だからあたしのおまんこにシンジのおチン――むぐっ」
 ここの住人なら一発かますところだが、ミサト相手にそうも行かず、まして自分が焦らしてるとか勘違いして淫語を口走ったから、シンジの選んだ手段はキスであった。唇を合わせるだけのそれが十数秒続き、それだけでもうミサトの身体は弛緩し始めた。
(ほんとに処女だ)
 実姉とキスしながら、奇妙な事に感心してるシンジだが、実のところを言うと完全な処女性についてはやや疑問もあったのだ。
 リョウジで初体験済み、ではないにしても、自慰の際にバイブを突っ込みすぎて膜を破ってしまう位は十分あり得る性格なのだから。
「んむうっ、んんっ、んんっ」
 唇を合わせた時は一瞬身体に力が入ったが、弛緩してしまえばそれまでで、緩く開いた歯の隙間は簡単にシンジを受け入れた。
 絡め合った舌――と言うより一方的に責められるままになっており、咥内の上部を舌で軽くなぞるとびくっと身体を震わせ、わざと抜くような素振りを見せると、行かないでと言わんばかりに舌を絡みつけてくる。
 聞いているだけで赤面しそうな音を立てて淫らにキスを交わした後、やっとシンジはミサトの唇を解放した。
 キラキラと光る一筋の糸が二人の唇の間をつなぎ、シンジの指が官能的な動きを見せてそれを断つ。
 とろん、と溶けきった瞳でそれを見ながら、
「ねえ、シンちゃん…」
「何?」
「童貞って…嘘でしょ…こんなキス、女知らない子に出来ないもん…」
 口調まで溶けているミサトだが、男同士って言う手もあるよ、とは言わなかった。
 言っても面白くないような気がしたのである。
 代わりに口から出たのは、
「姉さん、本当にいいの?」
 と言うこれもあまり面白くはない台詞であったが、
「黒瓜堂」
「え?」
「あそこからシンちゃんの写真買ったのよ。ほら、シンちゃんがメイドさんになってるやつよ」
「…」
「その時にね、一日だけ絶対効果のある避妊剤を貰ってきたのよ。今日はそれ飲んで来たから、なかに出しても大丈夫よ」
「そ、それはそれは」
 ミサトの台詞を聞いたシンジは、どうして黒瓜堂からわざわざ蟹など送ってきたのかやっと了解した。
 儲かったから少し還元しよう、とそんなところだろう。
「普段シンちゃん思って自分でする時ね、膣口まで指入れたり、クリちゃん触ったりするんだけど、あの写真だけは指要らずだったわ。脳内オナニーってやつよ」
「はあ」
「あの写真持って膝に手を置いてるだけで、きゅうーって子宮から快感が溢れてくるのよ。脳内補完だけでイけるんだって、初めて知ったわあ」
 うっとりした表情のミサトに、写真を売った下手人をとっちめてやりたくなったが、そんな事をしても意味はない。
「じゃ、姉さん条件がある」
「条件?」
「一つ目は、結婚したらもう俺にはちょっかい出さない事」
「そんなのは分かってるわ。結婚したら人妻なんだから」
「もう一つある、その写真を処分する事だ」
「え〜」
「俺のそんな写真を使って自慰に耽る人妻なんて、AVの題材にしかならないでしょ」
「その条件飲むなら…してくれる」
「うん」
 思っても見なかった展開だが、ミサトが喜々として頷く。
「いいわ。シンちゃんが独身最後に思い出くれたら、もう思い残す事はないもの」
 言ってる事は訳ありの恋人同士みたいだが、実体は実の姉弟である。
「じゃ早速だけどブラ取って」
「う、うん…」
 既に二人とも布団の中だから、羞恥心は薄くて済む。
 まもなく、ぽいぽいとブラとパンティがそれぞれ放り出され、ガーターベルトにストッキングだけという格好で、ミサトは恥ずかしげにシンジを見上げた。
「むこう向いて」
 くるりとミサトの身体を反転させ、背中から抱きしめるような格好でシンジが腕を伸ばす。
「折角の巨乳も、弟誘惑オンリーに使っていれば世話無いよね」
 吐息に息を吹きかけながら乳に軽く触れた。
「あぁっ」
 乳首が隆起しているのは分かっているから、わざと周囲だけ触れる。
「ひああっ、あっ、ふぁっ」
 全体を余す所無く揉みしだきながら、乳首と乳輪には決して触れない。
「ね、ねえシンちゃんお願いよぅ…」
「なに?」
 はふ、と耳に息を吹きかけながら訊いた。
「意地悪しちゃやだぁ…ちゃんと、乳首もいじってぇ」
「ストレートなんだから。欲望に正直だよねえ」
「だあって疼くんだもん、ひゃふっ!?」
 かり、と後ろからシンジが耳朶を軽く噛んだ。
 無論力など全然入れてないが、ミサトの腰が軽く震え、また愛液がわき出したのをシンジは知った。もう触れればびしょびしょに違いない。
 ミサトは乳房の割に乳輪と乳首は小さく、その乳首だって陥没もしていない。ほぼ完全な乳房と言えるが、よく今まで男知らずでこれたものである。
「はふっ、あっ、ひうんっ」
 乳首に柔らかい愛撫を加えられて喘いでいるミサトに、
「V・Gの子達いたよね」
「う、うん」
「あの子達相手に身体重ねたりとかした?」
「そ、そんなことしないわよ、あっ、あっふうっ」
「これだけのおっぱいあるのに、よく男なしで保ったね」
「そっ、それは…ひうんっ、シ、シンちゃんの事思って、ああっ」
「はいはい」
「そ、それにあの子達は、ち、違うわよぉっ」
 指の谷間に乳首を挟み、軽くひねったシンジだが、その愛撫はあくまでソフトであり客観的に見ても到底初めてのそれではない。
「負けたら犯されるけど、そ、それは自分も同じだから…んうっ…か、身体は重ねてたわ、あひっ」
「羞恥の共有ってこと?」
「そ、そうよあの子達なりの…シンちゃん乳首ばっかりやあっ、あ、あたしもうなんか…く、来る、ああっ、も、もう…ふはあっ!」
 手をもう一本増やし、両方の乳首を責めだしてから数秒後、ミサトは全身を震わせて軽く達した。
「もう…おっぱいだけでイクなんてぇ…」
 恨みがましい口調だが、目許は赤くそまり、シンジの手の中にある乳首は硬く尖ったまま、物足りないかのように吸い付いてくる。
「でも良い胸してるよ」
「え?」
「乳首も大きすぎないし、両方とも陥没したりしてないしね。これなら男が歓びそう」
「も、もうやだシンちゃん、そんなお世辞ばっかり…」
 顔を赤くしてそっぽを向いたが、不意に振り返った。
「ところでシンジ」
「なに?」
「今までに何人と体験したのよ。あんた、あたしが三人目なんてモンじゃないでしょ」
「姉さんの身体触れるたびに、あの子と比べてキスはどうだったとか、おっぱいの感度はどうだったとか聞かされたい?」
「う…そんなのやだ」
「それとか、おっぱいわし掴みにされたり、歯を立てて吸われたりしたい?」
「も、もうシンジのいじわる…あたしがシンジに弱いの知ってるくせに…あんっ」
「うん知ってる。だから次はあそこね」
 ちょん、と柔らかく乳首を突いてから、シンジの手は下へと這っていった。一気には目指さず、片手はゆっくりと脇腹を小移動しながら下腹部へと降りていく。
 片手が脇腹で止まっているから、小刻みに身体を震わせ、なんとか声を抑えていたミサトだが、
「あ、びしょびしょ」
 くちゅ、と音をさせて淫唇がこすられた途端、
「あっ、ああッ!」
 とんでもない声を上げたから、慌ててシンジが口を塞いでから、ほぼ完璧な防音だったと思い出した。
「ここラブホテルじゃないんだけど」
「ご、ごめんシンちゃん…つい気持ち良くってぇ…もう叫ばないから、おまんこもっといじってぇ」
「だからそう言う単語の俗称は――」
「母親が子供をお風呂に入れた時、じゃ、おちんちんも洗うのよって言うのと同じじゃない。それとも、女の子の性器には特別な呼称があるの?」
「えーとそれは」
 当然だがそんなモン聞いた事など無い。だいたい、シンジに幼女の性器が関係あったら問題である。
「ね、ほらないでしょ無いでしょ?」
「う、うん」
 何故か赤鬼の首でも取ったみたいな口調のミサトに頷くと、
「じゃあ問題ないじゃない。あたしのびしょびしょでぐっちょぐちょのおまんこ――もっといじって?」
 何かが根本的に間違ってるような気がしたが、一度きりだからいいやと割り切ったシンジは、左手を乳房に回し、右手は淫唇からアヌスへの愛撫を開始した。
 少し指で挟むようにしてみると、びっしょりと濡れている淫毛が形はちゃんと揃えられているのに気付く。
 無論手入れしての結果であろうが、ふとシンジの眉が寄った。
(この布団俺のじゃないの)
 と言う、当然の事に思い至ったのだ。朝になってミサトが帰った後、残るのは愛液の染みがあちこちに残った布団という事になる。
 仕方ないかと諦めて、コリコリしてる乳首をいじりながら、指で淫唇を開くとそれだけでとろっと愛液が出てきた。
 自分の手を濡らすほどの量のそれを尿道口から膣口、そしてアヌスへとたっぷり塗りつけていく。
 乳房の快感にうっとりしていたミサトだが、シンジの指が後ろに回った途端、びくっと身体を強張らせ、
「お、お尻はだめえっ、な、なかなら出してもいいからあっ」
「いいから気にしないの」
 はふっ、と耳朶に息を吹きかけ、一瞬ミサトの躰が弛緩した瞬間に、くにゅりとアヌスから指を侵入させた。
 ただし、マリアの時とは違いそのまま中をかき回すような事はせず、親指の先をアヌスへ入れたまま、にゅっと中指を伸ばして膣口を探る。
 既に潤みきった柔肉は準備が出来ており、にゅるっとシンジの指を受け入れた途端、
「あつっ」
「きゃふっ!」
 同時に声が上がった。ミサトのは無論快感からだが、シンジの方はほんの少し指を挿入しただけにもかかわらず、凄まじい圧力で指が締め付けられたからだ。
 アヌスより締め付けてくるヴァギナに一瞬顔が引きつったが、すぐにゆっくりと指を動かし始めた。
「あふっ、んうっ、くうんっ」
 少女みたいな声で啼きながら躰をもじもじさせるミサトだが、顔のどこかに苦痛をこらえている色は隠せない。
 これだけ締め付けると言う事は、裏を返せばされている方はそれだけ違和感が強い筈なのだ。
「くあっ」
 柔らかい壁に当たった途端、ミサトは苦しげな声を漏らした。
 処女膜に触れたらしい。
 それ以上無理はせず、ゆっくりと指を引き抜く――無論、その間もきゅっと襞は収縮しながら締め付けてくる。
「こっちにしようね」
 こっち、がどっちだか分からぬまま頷いたミサトだが次の瞬間、
「ああん、だめえっ」
 少女みたいな声で喘いだ。親指はアヌスに入れたまま、既に顔を出して充血している淫核をシンジが指で軽く押したのだ。
「はあぁ…んん、あくうっ…」
 乾いた指で決して触れるものではないが、幸い愛液の量は留まるところを知らず、円滑油には事欠かない。
 ダイレクトな刺激はすぐに止み、今度は周辺で指を動かし始めた。
 乳首も気になるし、親指が侵入したまま動かないアヌスも気になる。おまけにクリトリスまで焦らすようになぶられて、
「あひぃっ、ま、またイク、またイッちゃうぅっ!」
 シンジの手にどくっと愛液を吐き出し、ミサトが全身を突っ張らせるまでに数分と要さなかった。
「はあ、はあ…はあっ…すごく、良かった…」
 目から一筋の涙が落ちたミサトに、シンジは軽く口づけした。
「もう…こんなに女知ってるなんて思わなかったわ…」
 別に、ミサトが言うほど異性体験なんてしてはいない。
 ただ…その相手が濃厚なだけである。
 それも極めて。
 そんな事は口にせず、黙ってミサトの髪を撫でていたシンジに、
「ねえシンジ」
「ん?」
「やっぱり最後まで…して」
「いいよ」
 シンジはあっさり頷き、
「今指抜くから」
 アヌスへ入ったままの指が動いた次の瞬間。
「ひっぎいっ、あひっ、ふひいいっ!!」
 抜くかと思ったそれが一気に侵入し、こともあろうに中で曲がって思い切りかき回したのだ。
 ご丁寧に乳首まで同時にきゅっと摘まれ、今度こそミサトは絶叫と共に崩れ落ちた。
「もし失神しなかったら、クリトリスまで爆撃範囲だったんだけど」
 優しい口調で物騒な事を呟くと、シンジは気絶しているミサトの髪をそっと撫でた。
「やっぱり、私と一つにならない?って言われても、実姉相手にはこれで限度――あなたなら笑う?」
 シンジの脳裏に浮かんだのは、なぜかシビウでも夜香でもフェンリルでもなく、自分の写真で大儲けしたに違いない知り合いの顔であった。
 ふと感じた違和感に、背中へ手をやるとひりひりする。
 二度目の強制アクメの時、背中へ回っていた手が爪を立てたらしい。
 数秒経ってから、シンジの顔がほんの少しだけ歪んだ。
 翌朝、まだ暗い内にシンジは家までミサトを送っていった。結局最後までは行かなかったが、シンジ自身はほとんど反応していなかった事に気付いていたのか、ミサトの顔からはもう、弟に執着するキケンな姉のそれは消えていた。
「式にはちゃんと、小娘達全員連れて来るのよ」
 飛行するシンジに抱き付きながら言ったミサトに、シンジは軽く頷いた。
「分かってる」
「やっぱり…あたしの処女膜破るのはリョウジにやらせてやるわ。あいつも果報者よね…」
「そうだね…って、いだだだ!」
「シンジ、一つ言っておくけど、童貞ですみたい顔してあたしを騙してた事、ぜぇーったいに忘れないからねっ」
「別に俺はそんな事言ってない。姉貴が勝手に思いこんだだけでしょ」
「なんですってえっ」
 ぎにゅーっ。
「あたしの純情踏みにじっておいてっ」
「弟に欲情する上にアナル抉られてイクような淫乱に言われたくないね」
 むにゅっ。
「ふあっ!?」
 昨夜の快感が甦り、軽く胸を揉まれただけでたちまち顔が染まってくる。
 だがシンジはすっと手を放し、
「姉さん」
「な、なによう」
「お幸せにね」
「シンジの…馬鹿ぁ…」
 ぎゅっとしがみついたミサトの声は、語尾は涙混じりになったが、シンジにだけは届いていた。
「自由にしてあげる、か」
 帰り道、まだ暗い上空でぽつりと呟いたシンジだが、
「あー、やっと解放された」
 急に表情が変わると、にやあと笑った。
 
 
 
 
 
(つづく)

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