妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
 
 
D−7:最終話――要は身体の相性
 
 
 
 
 
「ちょ、ちょっと待った、なんで俺がっ」
「黙れっ、言ってはならぬ事を口にした報いを受けるがいい」
「なんじゃそりゃ」
 しかし、抗議する暇はなく、問い質そうにも受け付けず、シンジは完全に防戦一方になっていた。
 それが半分余裕を持ってるならまだしも、一撃一撃すべてに必殺の怒りが込められており、シンジの方は敵と認識していないだけ始末に負えない。
 唸りを上げて飛んできた銀の櫛をかわし、
「モリガンを抱くとかその辺の話?」
 訊いた途端後悔した。
 全身から凄まじい鬼気が吹き上げたのだが、それは明らかに話を聞いていない証拠であった。
 素直に殺意を持たれていた方がましだったらしい。
「貴様姉上にまで毒牙を――」
「までって他の誰にもそんな」
「黙れ!」
 さっと手が上がった瞬間、櫛が来るかと身構えたのだが飛んでこない。
「ん?」
 何もないぞと周囲を見回した途端、
「あつっ!?」
 踵に激痛が走り、シンジは思わず飛び上がった。
 飛び上がったのは正解だったろう。
 下を見下ろすとそこには泥で出来た人形達が蠢いており、数秒遅かったらアキレス腱を噛み千切られていたかもしれない。
「秀蘭いい加減に――」
 さすがのシンジも、毛の先のそのまた四分の一程キレかけたところへ、
「碇さま、その女には言っても無駄ですわ」
 玉鈴のような声がして、それと同時に人形達が吹っ飛んだ。
「あら?姫、なんでこんな所に」
 シビウからは、まだ戻っていないと聞いている。
 だが可憐な姿を見せたのは間違いなく人形娘本人であり、
「お姉さまがこちらに向かうようにと言われましたので、急遽戻って参りました。碇さま、ご無事ですか」
「基本的に大丈夫」
 よいしょと降りてみると、軽い裂傷で済んでおり、流れる血は自分で止めた。
「それより姫、秀蘭の事知ってるの」
「ええ。こんな娘が親戚では、夜香殿や麗香さんも大迷惑されてますわ。おまけにシスコンですし」
「そ、そうなの?」
「ええ」
 力強く頷いた瞬間、
「ふん、人形の分際でドクトルシビウの妹などとは、片腹痛いわ。表情も変えられぬ木偶人形など、土塊と遊んでいるがいい」
「……」
 シンジが何も言わなかったのは、自分の出番ではないと思ったからだ。少なくとも、その辺の通りすがりが人形娘を見て嗤っているのとは違う。
 とは言え、自分の方は何故襲われているのかまったく分かっておらず、取りあえず何を考えてるんだと、とっちめてやろうと思った途端、
「碇さま、さがっていて下さい。すぐに始末しますから」
「二対一で来るかと思ったら。もっともその方が賢明ね。取りあえず邪魔よ、下がっていて」
(あの〜モシモシィ?)
 シンジの出番など全くなく、あっという間に二人の美少女は戦闘態勢に入ってしまった。
 もうこれは二人まとめて宙に吹き上げ、蔓で全身緊縛プレイだと内心で息巻いたが、
(放っておくがいい)
(フェンリル?いつ戻った)
(ついさっき。マスターを魔界で一人きりにはしておけまい)
(余計なお世話だ。皮剥いで献上するぞ)
(言い過ぎたか?)
(フンだ)
 しかしそんな呑気な二人をよそに、美少女同士の殺気は高まっていく。
 先に動いたのは秀蘭であった。
 大きく腕を振って櫛を投擲する。これがピッチャーなら、さぞ良い球が投げられるに違いない。
「はやっ?」
 シンジが首を傾げたのは、自分の時とは動きが違っていたからだ。何故かそれは右前方の木をまっすぐに目指し、幹を抉ってから90度向きを変えて人形娘を襲った。
 しかもその直前に失速して地に落ちたのだが、次の瞬間には跳ね上がったのだ。
 うげ、とシンジが洩らしたのは、自分の時にこれをやられていたら、多分一撃は食っていたに違いないと思ったからだ。
 そして、おそらくは事実だったろう。
 ドレスの裾を可愛らしく摘み、横っ飛びで避けた人形娘が、今度は髪を数本引き抜いた。それは左右の手に渡った途端漆黒の刃と化し、一斉にその手から投擲された。
 秀蘭は避けなかった。服はノースリーブのチャイナドレスだから、腕はむき出しであり、その腕に二本をまともに受けたのである。
「え…え!?」
 シンジの表情が変わったのは、まず第一に正面から受けた事であり、二つ目は食らった筈の秀蘭がいなかった事だ。
 その場に落ちていたのは深紅の薔薇と、投擲された髪刃のみである。
「その程度の幻術で」
 人形娘が呟くのと、苦痛の呻きが上がるのとが同時であった。
 だがその位置に、シンジはまたも仰天させられる事になった。秀蘭がいたのは五メートルほど後ろの木の上だったのだ。
 こっちは本物のダメージだったと見えて、髪刃が刺さっている肩口からは鮮血が滴っている。僅かに顔を歪めた秀蘭が、突き立っているそれを引き抜いて踏みつぶすと、一瞬にして元の髪へと戻った。
 キッと人形娘を見据えた秀蘭の手が宙へ伸ばされ、そこへ唸りを上げて櫛が戻ってきた。
 今度は普通に投げた。
 その刃はまっすぐ人形娘の足下を狙っており、これは軽く飛んで避けた。
 しかし秀蘭の顔には笑みがあるとシンジは気づき、人形娘の足下を見た時その意味を知った――そこには、シンジを襲ったのと同じ泥人形が口を開けて待っていたのである。
「あうっ」
 数体は避けたものの、四体が足に噛み付いた。
 たちまち肌が裂け、膝から下が朱に染まった。何とか人形の口に髪刃を突き刺して逃れたものの、ダメージは大きかったのか、立つと同時に一瞬蹌踉めいた。
 秀蘭は肩を、そして人形娘は右足に傷を負った。
 体重を感じさせない動きで秀蘭が地に降り立ち、二人の美少女は十メートルほどの距離を隔てて対峙した。
 今度は同時に地を蹴り、一気に肉迫する。
(体重何グラムあるんだ?)
 知られたら吊されるか顔を赤くするか微妙な事をシンジが考えた程、二人の動きは軽快であり、秀蘭の銀櫛と人形娘の髪刃が激しく斬り結んだ。
 いずれも全身に相手への殺気が漲っており、それ一つ見ても昨日今日の闘いではない事が見て取れる。
 短い気合いと共に突き出された刃を秀蘭が跳ね上げ、同時に下から薙ぎ上げた銀櫛を持った腕の付け根を強烈な蹴りが襲った。
 互いに武器は数メートル前方へ吹っ飛んでいる。正確に言えば、自らの髪を武器に出来る人形娘の方が有利だが、造ろうとはせずに八双に構えた。秀蘭の方も片足を引き、手の力は抜いている。
 二人とも、あくまで闘う気らしい。
「『たっ!』」
 今度も同時に地を蹴ったのだが、蹴りも拳も相手に当たる事は無かった。
 殆ど相打ちのような感じで、人形娘の拳と秀蘭のつま先が相手を捉えたかに見えた瞬間、それはふわっと受け止められていたのだ。
 半端ではない打撃を易々と受け止め、
「さ、二人ともそこまでになさいな」
 何故か人形娘の方をそっと――シンジにはそう見えた――下ろしたのはモリガンであった。
「秀蘭、こんな所でなにを?」
 訊ねた口調は穏やかだが、目は笑っていない。
「あ、姉上これはその…」
 秀蘭が言いよどんだところへ、
「あ、ちょっぴりシスコン」
 うっすらと笑ったシンジが前に出た。
 キッとシンジを睨んだ秀蘭には目もくれず、
「あら、どうしてこんな所に?」
 いかにも驚いたような表情で訊いたモリガンに、
「お前に訊きたい事があってね」
 一瞬で表情から笑みは消え、
「麗香をダシに、夜香に何か頼んだのかい」
「そうだと言ったら?」
「今すぐこの場で滅ぼす。俺なら出来るぞ」
「そうね。でも、別に麗香を人質になどしていないわ。ちゃんと屋敷にいたでしょう」
 この分なら、と言うより夜香の性格ならシンジにすべてを告げはしないと、見抜いた上でのハッタリだったが、
「本当にしてない?」
 あっさりとひっかかった。
 ヒッカカッたわねいと思ったかどうかは不明だが、
「してないわよ。それより、わざわざ魔界へ暇つぶしに来たんじゃないんでしょう?折角だし、私の城へ招待するわ」
 シンジの返事も待たずに手を取ったが、くるりと振り向き、
「これ以上の争いは許さないわよ。秀蘭、分かってるわね」
「は、はい…」
「あなたもよ。戻ったらシビウに伝えてちょうだい。次は必ず討ち取ってあげるからってね」
「…分かりました」
 シビウとは決して相容れぬ仇敵同士のようだが、妙な事に人形娘へ向けた視線は、実の妹へ向ける以上に穏やかであった。
 言うだけ言うと、もうそっちは見ずにシンジを翼にくるんで飛び立っていった。
 残された二人は束の間睨み合い、空中に火花を散らしたが、どちらからともなく視線を外した。秀蘭に取ってモリガンの言葉は絶対であり、また人形娘も強制停戦させられた相手を攻撃するほど卑劣ではない。
 同時にぷいっとそっぽを向き、それぞれ反対の方角へと歩き出した。
 
 
「何の用です?フェンリル小姐」
 それから二十分ほど経った後、黒瓜堂では珍客を迎えていた。
「マスターがあの女に拉致され、しかもわざわざ私を封印していった。必ず礼はしてくれる」
「水晶なら、魔界もある程度は覗けます。見てみます?」
「いや、いい。それよりマスターが戻ればここに寄るだろう。それまで部屋を貸してもらいたいのだが」
「分かりました。じゃ、奥の部屋に案内して」
 去っていく美女のお尻を眺めながら、
「邪魔されたくないのは、勿論合体するからに決まってるじゃないですか」
 にやあ、と笑ってからふと思い出したように、
「そう言えば豹太、六神合体ってなんのアニメだったっけ」
「…知りませんよそんなの。オーナーしか知らないでしょ」
「それもそうだ。さて、何だったかな」
 思い出せないと却って気になるのか、はてと首を傾げた。
 
 
 
 
 
「まだ、その気にはならないのかしら?」
「……」
 シンジの反応にモリガンの表情が動いた。脈ありかと思ったのだ。
 この間までなら、さっさと帰っている筈で、自分が身をくねらせても遠ざけないなどという事はあるまい。
「一つ訊いておくけど」
「なに?」
「何故そこまで執着する?だいたい、抱かれる側はお前であって俺じゃないぞ」
「どういう意味?」
「この間は結局膜破ってないし、処女のままだ。淫魔なら、初めても痛くないとか思ってるわけじゃないだろな」
「思ってないわ。それに私は淫魔じゃなくて夢魔」
 ふふっと笑って、
「私から逆に訊くわ。種族が違うから人間を好きになる事はあり得ない、とは思ってないわよね」
「そんな事はない。そこまで恋愛範囲狭くないから」
 一応心当たりはある。
「そう、それなら良かった。ストレートに言うとね、あなたの事気に入ったのよ。もしこの間、あっさり私を抱いていれば変わったかも知れないけどね」
「何それ」
「私より圧倒的に強いし、私の魅力も通じない。ここまでくれば、全力を賭して追う価値はあると思わない?」
「ぜんっぜん。何でそうなるんだよ」
「そう思わないのは、あなたが好きな相手じゃないからよ」
「好きな相手?」
「あなたが誰かを好きになった時、その相手にどうやっても通じなかったら、あなたは追う?それとも諦める?勿論、相手に恋人はいないと仮定してよ」
「むう」
 確かにその論法で、なおかつ追いかけるタイプなら、モリガンの行動も分からない事はない。
 がしかし。
「俺は諦めるタイプだな。と言うより、どうやっても通じないのに諦めなかったら、ストーカー予備軍だし」
「ストーカー?」
「相手につきまとうヒトの事。相手の迷惑は眼中にナッシング」
「…それが私だと言うのね」
「別に?ただ、人間の場合はそうなると言っただけ」
「じゃあ、一度位試してみてもいいんじゃない?別に恋人になれと言ってるわけじゃないわ。ただ、私が最初に抱かれるのは私より強い男に決めていただけよ」
「奇っ怪なポリシーだなあ」
 まだ気乗りしないらしいシンジに、奥から二番目の手を出す事にした。
「さっき、あの二人が闘ってるのを止めたわよね。力量はほぼ互角だし、放っておけば互いの肉を食い合っても闘い続けるわ。秀蘭はどうでも良くても、あの娘の方はそうも行かないんじゃなくて?」
「お礼って事?」
「端的に言えばそうなるわね」
 切り札発動。
「もっとも…」
 モリガンの顔が幾分哀しげに下を向き、
「あなたがどうしても嫌なら無理強いはしないわ。出口は向こうよ」
 すっと手がある方向を指した。この室内で翼から解放された為、シンジは出入り口を知らないのだ。
 シンジがはふーと息を吐き出し、
「モリガン」
「何」
「浴場はどっちにある」
「え?」
「体重ねるならシャワー位浴びてきて」
「そ、それじゃ…」
「初めての相手にって、そこまでしつこく思われて放り出すのも夢見が悪そうだし。それとモリガン、婉曲は向いてないぞ」
「婉曲?」
「演技下手って事。駆け引きとか向いてないタイプだ」
「し、知ってたのっ」
「そういうのは、もう少しきれいな魂の持ち主にするもんだ」
「きれいな魂?」
「世の中には、一目見てそうと分かるやつもいるらしい。ほら行った行った」
 一途に想い続ける女とそっと身を引く女、この両方のマスクを使い分けたつもりだったが、シンジには通じなかった。
 首筋まで赤くなったのを隠すように早足で歩き去るモリガンを見送って、
「それはそうと三流メロドラマみたいな演技、どこで覚えたんだ?」
 怪訝な顔で呟いた。
 
 
 二十分程経ってからモリガンは戻ってきた。
 やや俯きがちで、まともにシンジの顔は見ようとしない。怒っているようにも見えるが、ほんのり染まった首筋が感情の位置を指している。
「こっちよ…」
 蚊が叫んだ程度の声量で、さっきとはまるで別人である。
 間もなく着いた部屋は、まるでどこかの王族かと思うほど豪勢な造りであり、そう言えば魔界の王族だったと思い出したが、一人で使うにはあまりにも勿体ない。
 立ち止まったモリガンがゆっくりと振り向き、体からガウンを落とす。手に収まらぬ程の乳房が重く揺れており、なだらかな曲線ながらきゅっと腰は引き締まっており、秘所にはしっとりと濡れた淫毛が逆三角形を描いている。
 乳房が大きく腰は細く、そして尻は大きい。
 女なら誰でも憧れる肢体だが、完成を目指すならやはり身長も必要になる。日本人が欧米人に及ばない最大の点は身長にある。
 すらりと伸びた足で歩くだけで、後ろ姿限定ではあるが十分様になるのだ。
「あ、あまり自信はないけれど…」
 今度は蚊の鳴くような声だったが、嫌味ではあるまい。常に支配し、或いは攻めに回ってきた誇り高き姫は、受け身に回る事になれていないのだ。
 無論、男の前に裸身を晒す事など初めてであったろう。
「そんな事はないよ」
 シンジの口調は変わらず、モリガンの肩に手を回して抱き寄せると、ゆっくりと顔を近づけていった。
 きゅっと目を閉じて受け入れたモリガンだが、閉じられた歯列を割るには少し時間がかかった。
 それでも歯茎の上下をシンジが舌でなぞると、つられるように隙間が出来、間髪入れず差し込んだ舌がモリガンの舌を絡め取る。
 が、何を思ったかそれ以上動かさず、重なった二人の影だけが動かずに伸びていく。
(こ、このままなの)
(自分でして)
 シンジの指がモリガンの背を軽くなぞった。
 ピクッとモリガンの肢体が揺れ、これでスイッチが入ったのか、モリガンは自ら舌を絡めて吸い上げてきた。
「んふっ…んっ…んんっ…」
 静まりかえった室内に、舌が絡み合って唾液が行き来する音が響き、徐々にモリガンの顔が紅潮してくる。
 先に離したのはシンジの方であった。
 ただし唇から頬へ、そして耳朶へと移っていき、傷一つない柔肌に軽く歯を立てた。「やあぁっ…」
 耳朶を軽く噛まれた途端、小さく喘いだモリガンの体から力が抜け、シンジにもたれかかった。
 抱き留めた肢体はとても柔らかく、そして熱い。
 惰弱な男など自分には相応しくないと、そう言い切るだけの肢体ではあったが、今はシンジの腕の中で心細げに揺れている。
 モリガンを抱き上げたシンジは、カーテンをかき分けてベッドの上に柔らかく下ろした。窓ならともかくベッドにカーテンなど、そうそう見られるものではない。
 自らも服を脱いだシンジがベッドに上がり、体を重ねるように覆い被さっていく。おずおずとシンジの背に手を回したモリガンが、
「あ、あなたの熱いわ…」
 下腹部に当たる感触に驚いたか、顔を赤くして囁いた。
「ねえ、もっとして…」
「ん」
 頷いたシンジが、今度は逆の耳に唇を付けた。ゆっくりと舌を這わせ、時折軽く歯を立てながら首筋にかけて、くまなく愛撫していく。
「はぁふう…あぁっ…」
 既にモリガンの口は半開きになっており、熱い吐息をもらしている。
 ただし、シンジの背に回した手が爪を立てている事は、おそらくきづいていまい。唇が鎖骨まで来た時、シンジの手が右の乳房に触れた。
 そのままやわやわと揉みしだいていく。
 シンジが乳房を手に収めた時、モリガンの背は一瞬ぴくっと反ったが、柔らかいキスのせいで舌の触れた箇所がじんじんと疼いており、乳房を隠すような事はしなかった。
「ここ、こんなに固くなってる」
 丹念に乳房を揉んでから、固く尖って自己主張している乳首を軽く弾いた。
「や、やだもう…そんな…」
 一瞬身悶えしたが逃げる様子はなく、むしろもちのような触感の乳房がシンジの手に吸い付いてくる。両方の手で左右の乳房を愛撫しながら、胸の谷間の部分にはくまなく口づけしていく。
 左右の乳房と唇の愛撫、快感は三点からなのにモリガンの反応は薄い。ふとシンジが見ると、ぎゅっと唇を噛んで堪えている。
(ふーん)
「声出していいよ」
 ぞくっとするような声でシンジが耳元に囁きかけ、ふうっと息を吹きかけた途端、
「ひゃふはあっ!?はふうぅっ!」
 とんでもない声が出た。
 うっすらと笑ったシンジが、また愛撫を再開した。
 左手は乳房全体を揉んでいるが、右手は指の付け根でくりくりと乳首をいじる。
「はあ…ああっ」
 されるがままになっているモリガンの体が、シンジの愛撫に合わせるようにしてぴくっぴくっと揺れる。
 男としては楽しい。
「んんっ…」
 シンジの右手が乳房から離れた時、一瞬モリガンは不満そうな声を上げたが、
「は…ひふあっ!?」
 ビクッと両足を閉じようとしたが、シンジは許さない。
 にゅるりと、シンジが指を滑らせたのはモリガンの秘所であり、無論滑った原因はモリガンの愛液である。
 髪と同じ緑色の淫毛は、もう愛液でびっしょりと濡れており、シンジは二本指で左右に開いた。
 開いた途端とろりと愛液があふれ出し、大淫唇を伝い落ちる。
「もうびっしょり」
「や、やだそんな事…ああっ」
 愛液にまみれた小淫唇の端を指で軽く押す。腰がひくつくのを見てから下腹部に移動した。
「脚開いて」
「ん…」
 恥ずかしげに、それでも言われるままにモリガンが足を開く。
 M字型に開脚した中央には、色の薄い秘所がひっそりと息づいている。
 そこからは愛液こそ溢れてきているものの、膣口もぴったりと閉じており、その上部にクリトリスが小さく顔を出している。
 シンジはそこに唇を押し当てると、殊更に音を立てて吸い上げた。
「ひあっ…ああぅっ…」
 ぢゅーっと淫らな音を立て、しかも愛液を吸いたてられ、モリガンは顔を真っ赤にして首を振るが、思い切り脚を開いている上にシンジに抑えられており、脚はびくともしない。
「も、もういやぁ…はひいぃっ」
 音を立てて座れる自らの淫らな液に、モリガンが耳をおさえようとした途端、その全身がびくびくと跳ねた。
 うっすらと染まっている陰核をシンジが弾いたのだ。
 膣口からぷしゅっと愛液が吹き出し、身体全体が弛緩していく。
 余韻を身体に残したまま、
「あ、あんな音立てるからその…」
 ごにょごにょ言いながら、シンジをちらちらと見るモリガンに、
「これで止めとく?」
 モリガンはぶるぶると激しく首を振った。
「そ。分かった。こっちも物欲しそうだものね」
「い、いやぁ…」
 恥ずかしげに顔を背けたが、膣口の方は収縮を繰り返しており、物欲しげに見えない事もない。
「痛かったら言って」
 モリガンがこくんと頷くのを見てから、肉竿の先端を膣口にあてがい、そのまま腰を進めた。
「くうっ…」
 異物の侵入してくる感触にモリガンの眉が寄り、その顔がみるみる歪んでいく。
 処女膜が限界まで拡げられたのだ。
 隙間がある分だけ痛みは続く。
「い、痛…ちょ、ちょっと待…」
 言いかけた途端、シンジはぐっと押し込んだ。
「ひぐぅ!ひひゃあああっ!」
 モリガンの苦痛の声にも構わず、根本まで突き入れた。
 二人の腰が密着し、愛液と血の混ざり合った液体がとろりと流れ出てくる。
「ひ、ひどい…痛かったら言えって言ったのに…」
 痛みから涙目でシンジを睨むモリガンだが、
「言ったよね。でも止めるなんて言ってないじゃない」
「なっ!?そ、そんなのっ…」
 確かに、止めるとは言っていない。
 ただし、こういう場合痛かったら止めると言うのが一般的だ。
「それに、モリガンの膣(なか)がきゅって締め付けてくるから」
「な、なにを…」
 ぽうっと赤くなった。
「体位変えるから、ほら起きて」
「だ、駄目よまだなかがずきずきして…」
「大丈夫」
 言うなりシンジはモリガンを抱き起こした。
「ちょっとやめ…ああうっ…」
 起きた拍子に亀頭が襞をこすり、引っ掻く。
 繋がっている部分は痛いけれど、それ以上の快感にモリガンは思わず喘いだ。
 対面座位の形で向き合い、
「痛かった?」
「ううん、もう大丈夫よ」
 モリガンが今度は自分から唇を寄せていき、貪るように舌を絡め合う。無論、まだ痛い事は痛いのだが、肌を重ねているぬくもりと、何よりシンジの愛撫が優しい事が痛みを和らげていた。
 一気に突き入れたのも、おそらく途中で止めたり、あるいは抜いたりなどすれば痛みが増すだけだからだろうと、朧気には察していた。
 ただそうなると、何故シンジがそんな事を知っているのかという事になる。
 しかしそんな事は訊けず、二人の唇の間を透明な糸が繋ぎ、
「自分で動いてみる?」
 シンジに言われたのを機に、モリガンは自分から腰を振ってみた。余計な事を考えていると、また膣口がズキズキしてくるかもしれない。
 前後左右に、そして上下に。
 悪くないわ…ううん、気持ちいいじゃない。
 愛液を新たにわき出させ、かくかくと腰を振りながらくすっと笑ったモリガンに、
「どしたの?」
「おまんこの中がかき回される感触ってすっごくイイわ。ぞくぞくするの…こういう女は嫌い?」
「そうでもない」
「良かっ…はぁぁっ…」
 調子に乗って腰を落とした途端、肉竿の先端が子宮近くをごりっと擦り、可愛い喘ぎと共に慌ててシンジにしがみついた。
 身体の相性が良かったのか、破瓜の痛みも薄れてシンジの上で腰を振っていたモリガンに、やがて絶頂が近づいてきた。
 両手で激しく乳房を揉みながら、すすり泣くような喘ぎが間断なく洩れる口からは涎が滴っている。
「やはあっ…も、もうだめイク…わ、私のおまんこが熱くなって…はあああんっ!」
 あられもなく大股開きになってのけぞった次の瞬間、
「ひゃふううっ…いくっ、いくうううっ!!」
 モリガンが全身をがくがくと痙攣させ、がっくりとシンジにもたれ掛かってきた。
 無論、シンジの方はまだ射精しておらず達してもいなかったが、そんな事は口にしない。
 ふにゃっと倒れ込んだモリガンの髪を軽く撫でてから、
「破瓜の反応でいくのは無理かと思ったけど、ちゃんといったみたいで良かった」
 すっと立ち上がった手がとられた。
「何?」
「ど、どこへいくの…」
「帰ります」
「あ、あなたまだイッてないでしょう。ちゃんと私が…」
 言いかけたのへ、
「まだ余韻が残ってるでしょ。余計な事考えないの」
 脚を開いて仰向けになっているモリガンの股間からは、まだ愛液が滴っており、クリトリスも赤く充血してふくれている。
 そのクリトリスを、愛液のついた指でぬるっとこすった途端、
「あふあぁぁっ!」
 奇妙な声をあげてモリガンの身体が跳ねた。
「あふぅ…あう…」
 声にならず喘いでいるモリガンに、
「じゃ、俺はこれで。またね」
 くるりと背を向けて歩き出した。
 その晩、欲求不満だったのをモロにぶつけられて、綾小路葉子は最後には腰が抜けて立てなくなってしまったのだが、気を失った顔はうっとりとしており、実に幸せそうだったという。
 
 
 それから数日後、シンジは戸山町の長老邸を訪れていた。
「もう気は済んだだろうし、ノーマルに戻るんじゃないかな。魔界(むこう)で誰かいい人見つけるよ」
「そうでしたか」
 うんと頷いてから、
「しかし麗香も愛されてるよねえ」
 じっと夜香を見ながら言った。
 麗香はこの場にいない。
「どうしてですか?」
「決まってるじゃない、知り合いを売ってまで、貞操を守ってくれる兄貴がいるんだから。夜香、俺の事銀貨三十枚で売っただろ」
「それが…」
「それが?」
「初めてのお相手がシンジさんというのは、少しモリガンには勿体ないような気もしたのですが…」
「やっぱりお前か!」
 胸に杭を打ち込んでやると言いかけて止めた。
 お任せしますと言い出すのは分かり切っているのだ。
 なお銀貨三十枚というのは、古の時代、十二使徒の一人であったユダ・イスカリオテが主であるキリストを売った値である。
 スープに大蒜でも混入してやろうかと考えたそこへ、にゅうと真っ黒い翼が宙から出現した。
「モリガン?」
「久しぶりね、シンジ」
 シンジの表情が一瞬動いた。
 妙に馴れ馴れしいのだ。
 口調が表情が、そして何より雰囲気が違う。
 つかつかと歩み寄ると、シンジにぴたっと寄り添った。
「よく考えたんだけど、やはり責任は取らなくてはならないわ」
「俺が?」
「どうしてシンジが?」
「?」
「私に決まってるじゃない」
「はあ」
 よく分からぬまま頷いたシンジに、
「この間は私だけイっちゃって悪かったわ。今度はちゃんとシンジにも満足してもらうから」
「…で?」
「勿論、出来なかったら出来るまでずっと離れないわ。最初はあなたとってそう言ったけど、その次は違う人とするとは言ってないもの」
「…なんでそうなるんだ」
「だって愛撫は上手だし、何より身体の相性が最高だもの。それに、夢魔を性奴に出来るなんてイイと思わない?どんなプレイでもOKよ」
「夜香ー!」
「私がお膳立てしたのは初回のみで、後は関係ありません。このじゃじゃ馬を惹きつけたのはシンジさんですから」
 夜香の口調は妙に冷たい。
「見ィてらっシャイ。絶対に仕返ししてやるから」
「困った夜香よねえ」
 そう言いながら、口調にはまったく思っている節がなく、
「と言うわけだから。よろしくね、シンジ」
 すっと後ろに回り込むと、きゅっと抱きつき、
「もう…離れないんだから」
 熱っぽい口調で囁いた。
 
 
 
 
 
 
(了)


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