妖華−女神館の住人達
 
 
 
 
 
第三十四話:教材制作(後)−あやめの実力
 
 
 
 
 
 決闘だ、と剣を向けられたミサトだが、あっさりと首を振った。
「あたし?やよ、そんなの。シンちゃんに敵うわけ無いじゃない」
 その言葉に、あやめとかえでの表情が動いた。
 ミサトの剣技は、さくら程ではないが素人のそれではない。
 だとしたらシンジはそれより上、つまり五精に加えて剣までもか!?
「あ、あなた剣も使えるの?」
 訊ねた声に、どこか羨望にも似た色は隠せなかった。
 が、シンジはひょいと剣を下ろすと、
「いいや、全然」
 あっさりと首を振った。
「え?」
「ブラコンの女を、腰溜めにして突っ込んでいって刺すくらいかな」
「…ブラコンって誰の事かしら」
 すっとシンジの指が上がり、ある方向を指す。
「え?どこどこ?」
 真顔でしらを切る、これも才能と言うのだろうか。
「自覚無いって、最悪だよねえ」
 同意を求められたが、到底頷ける状況ではない。
「『そ、それはその…』」
「曖昧な女って嫌われるよ」
「くっ」
「まあいいや。それよりそこの人、その剣どうしたの」
 もはや姉さん、とも呼ばない。
 ミサトの眉が危険に上がったが、何とか堪えて、
「かえでの部屋から失敬してきたのよ」
「え!?」
 愕然とした表情になったのは、おそらく部屋の防備には、絶対の自信があったからに違いない。
「なかなかいい剣よねえ、これ。何処で手に入れたの?」
「あ、あのそれは米田さんので…」
「米田?」
「ああ、劇場の支配人よ。ちょっと今、外国行ってるけど」
「椿達の誰かに、手でも出したの?」
「違うわ、ちょっとしたお使いよ。それよりシンちゃん」
「ん?」
「今椿って言わなかった?随分と、親しくなったのねーえ」
「俺が誰と何しようと、姉さんには関係ないでしょ」
「…どうしてよ」
「ブラコンじゃないんだから、一々弟のする事に口出ししない筈だし」
 ミサトの表情に、物騒な物が浮かぶのを無視して、
「取りあえず俺がちょっとやってみる。あやめ、倒して」
「私?」
「俺がやったら、あっさり終わっちゃうから」
 実力の差を、と言わんばかりの台詞だが、シンジが言うともう嫌みにもならない。
 何よりも、つい先日改良したばかりの脇侍をシンジが、軽い一撃で吹っ飛ばしたのを二人とも目の当たりにしているのだ。
「…分かったわ」
「もっとも、実際の戦場では操屍を使わないとならないけどね」
「操屍?」
「一々円陣描いて、脇侍を子分になんかしていられないだろ」
 当たり前の事を言いだしたシンジに、
「当然でしょう、そこまでのんびりしていられる筈がないわ」
「じゃ、どうする?お手上げか?」
「『?』」
 シンジの言葉の意味が、二人にはよく分かっていない。
 無論、脇侍を戦場ですぐさま傀儡に変えるなど二人の知識にある筈もなく、ある意味当然と言えば当然と言える。
「姉さんは、どう見る?」
 さっきから機嫌の悪いミサトに、シンジは水を向けた。
「あたし?知らない」
 ぷいっとそっぽを向いた所を見ると、相当機嫌が悪いらしい。
 弟の反乱に、すっかり機嫌のバロメーターは曲がってしまったようだ。
「やれやれ、まったく子供なんだから」
 わざわざの事を言うと、
「見せた方が手っ取り早いな。あやめ、ここの床少し壊してもいい?」
「ここを?え?」
 破壊、と言う単語に嫌な予感がしたが、少しと言ったから頷くことにした。
 何よりも、駄目よと言って止めそうにも思えなかったのだ。
「いいわ。でも、あまり壊さないでね」
「承知した」
 軽く頷くと、
「さて、じゃ脇侍の改屍前のやつ持ってきて。一体あればいいよ。それからその剣、かえでに返しといて」
「これ?」
「そう、勝手に横領しないように。軽犯罪で捕まるぞ」
 そんなに軽いのかは不明だが、ミサトは黙ってかえでに剣を渡した。
 が、
「かえで、も少し部屋の中綺麗にしないと駄目よ」
「なっ!?」
 それを聞いた時、反応は各人異なっていた。
 顔を赤くしたのは無論かえでだが、シンジは首を傾げたのだ。
「異議あり」
 すっとシンジの手が挙がった。
「何?」
「違う、かえでだ」
「私?」
 シンジはかえでに近づくと、耳元に何やら囁いた。
「そ、そんな訳無いでしょっ!」
 もっと顔を赤くして、これはもう怒っている範疇でかえでが叫んだのは、次の瞬間であった。
「やっぱり」
「は?」
「じゃあ大丈夫だ。姉さんの部屋の方がもっと…とっ」
 ぶん、と飛んできた何かをシンジは軽く跳躍して避けた。
「あ、あのミサトさん…」
 水矢で、壁にいきなり空いた穴を見れば、あやめのどことなく迷惑そうな声も無理はあるまい。
「ほら見ろ、あやめだって迷惑してる」
 そっちをじろりと睨みかけて−あやめは止めた。
「壊した物はちゃんと直しておくように。さて、始めるか。脇侍の残骸、持ってきて」
 二人が出て行った後、
「こら弟」
「何?」
「前から言おうと思っていたんだけどね。シンジ、最近特に冷たくなってない?姉さんは悲しいわ」
「正常な距離を取っているだけだ。姉弟愛が良しとされたのは、既に紀元前より遙か昔の話だよ」
「そう、その通り」
 ミサトは頷いた。
 とても危険な表情で。
「だから今、それを元に戻すのよ。先祖帰りって言葉、忘れたみたいね」
 宙に浮いたままの脚を、ミサトの手がきゅっと掴んだ。
 
 
 
 
 
「ううん、アイリスは何もしてないよ」
 降魔の話で持ちきりなのは、高等部だけではなかった。
 アイリス所属の初等部でも、それは話題に出ていたのだ。
 それに、アイリス達がエヴァに搭乗する事はさして秘されてもいない。
 それだけに、休み時間になった途端一斉にそこへと殺到して来たのだが。
「でも、花組の人たちがやっつけたんでしょ?」
「違うよ」
「え?」
 アイリスの反応に、クラスメートは首を傾げた。
 否定しながら、妙に嬉しそうなその顔に。
「どういうことなの?アイリス」
「おにいちゃんが殆どやっつけたのよ」
「お、お兄ちゃん?」
 両親がフランスにいる事と、実家が富豪であること、それ位は皆知っているが、逆に言うとそれしか知らないのだ。
 無論、それ以外の家族構成などは。
「アイリス、お兄ちゃんなんかいたの?」
 うふふふ、と笑って、
「出来たんだよ」
 と嬉しそうに言った。
「出来た?」
 両親の事を言いたがらないから、仲が良いわけでは無いのだろうと皆思っている。
 だから、両親が離婚及び再婚で義理の兄が出来たのかとも思ったが、
「おにいちゃんね、すっごくかっこ良いんだよ」
 転入当時は、文字通り生き人形の単語が合っていたイリス・シャトーブリアン。
 最近ではだいぶ明るくなっては来たものの、それはとある老婆の創ったペンダントのおかげだなどと、勿論級友達が知る由はない。
 しかし、明るくなったとは言えこんな表情は見た事が無く、クラスメート達は狐につままれたような顔をお互いに見合わせた。
 
 
 
 
 
「持ってき…!?」
 持ってきたわ、と二人掛かりで形骸化した脇侍の骨格を運んできたが、ぎょっとしたように立ち止まった。
 二人の視界には、俯せになって倒れているミサトの姿があったのだ。
「壁を壊して反省したらしいが、思いつめて脳の血管が切れたらしい」
 と、シンジは真顔で告げた。
「じゃ、じゃあすぐ手当をっ」
 さすがに二人が血相を変えたが、
「いや、気絶してるだけだから、放っとけばそのうち起きてくるさ」
「『気絶してるだけ?』」
 失神ならともかく、気絶と言う単語は当てはまらない筈だ、顔中でそう言っている二人に、
「女性には誰でも、一人になってゆっくり気絶したい時があるんだよ、きっと」
「……」
 何か言いたげだったが、結局止めた。
「救護班呼ばなくていいの?大丈夫?」
「問題ない」
「あ…」
 シンジが飛ばした風に乗って、ミサトの身体がふわりと浮いたのだ。
 それを両手の上に乗せて、
「姉貴もこうやってれば、少しはいい女に見えるのに」
 小さく呟いた言葉を聞いて、二人は大体何があったか読めた。
 ミサトの弟に向ける妙な感情には、どことなく気が付いていたのである。
 浮かせたまま、部屋の隅にミサトを横たえたシンジは、
「じゃ、それ部屋の中に持ってきて。あ、一体だけでいい」
 部屋の中央に置かれた脇侍の残骸だが、実際骸と化したそれは、単なる金属板の集まりである。
「これだけ見ると、殆ど金属の残骸だな」
「ええ、これをあれだけの代物に仕上げるのは、途方もない霊力が要るわ」
 だが、
「かえでもそう思う?」
「…は?」
「だから、かえでも同意見かって聞いてるの。どう?」
「だって、それ以外には考えられないわ。それとも、これが勝手に進化でもしたって言うの?」
「かもしれんぞ」
 さすがに唖然とした表情の二人に、
「論より証拠、よく見ているがいい」
 シンジの指が動いた次の瞬間、結界を張った筈の床が大きくぶち抜かれた。
 
 
 
 
 
「で、どうなのマヤ?生徒達の状況は」
「何人かで倒した者達には、武勇伝と勘違いしている生徒達が多いですね。状況がよく分かっていないようです」
「倒した、と言っても下のそのまた下の脇侍であって、銀角には手も足も出ないわ。この分だと、次の襲来で死人でも出ないと分からないかしらね」
 レポートに目を通しながらのリツコの声は、冷ややかそのものであった。
「やはり今回は、脇侍が出現した事が大きいと思われます。それと…」
「なに?」
「あまり…強くなかったような気がします」
 慎重に言葉を選びながら言ったつもりだが、リツコはあっさりと頷いた。
「藤枝姉妹が、脇侍の残骸から傀儡を創ろうとしたでしょう。あれの方が今回出現した奴より、データ上は強いはずよ。考えられる事はただ一つ、それ以上の物が用意されてるって事ね」
「それ以上、ですか?」
「あの時の降魔大戦は、強大な降魔一匹に大苦戦したわ。脇侍や銀角もいた事はいたけれど、はっきり言ってあの降魔の子分のようなものだった。それに両方とも今回のような、はっきりとした形は取っていなかったでしょう」
「はい」
「考えられる事はただ一つ、人型に似せたこの降魔を大量に生産して、軍団を創ろうとしている者がいるという事よ」
「何のためにそんな事を…」
「分からないわね。先の降魔大戦も、本来なら小さな降魔一匹だけの筈が、強大なそれへと変化した。それも、変化の理由はともあれ、召喚したのは人間なのにね」
「進歩しない、と言う事なんでしょうか」
「かも知れないわ。でも一つ、そして天地ほどの差が前回とはあるわ」
 マヤの口許に笑みが浮かび、
「シンジ君の事ですね」
 と言った。
 だがそれは、一瞬にして驚愕へと変わる事となった。
 頷いたリツコが、
「その通りよ。そしてこれは、私もはっきりとは知らないんだけど…」
 幾分声を潜めて、
「シンジ君は以前、雲霞のような銀角の群を相手にした事があるそうよ」
 と告げたのだ。
「ぎ、銀角をですか!?」
 今回のデータを取っているだけに、さしものマヤも表情は変わっていた。
「ええ、それも見渡す大地を埋め尽くす位の量だったらしいわ」
 どこか、畏敬にも近い物を込めてリツコは頷いた。
 
 
 
 
 
「こ、これは…」
 あやめの愕然とした声も当然であったろう。
 床を突き破って現れた植物の蔓が、瞬時に金属板に巻き付いたのだ。
 そしてそれが、脇侍の姿を取るには十秒と掛からなかったのである。
 さすがに二人が呆然となった所へ、脇侍が咆哮した。
「フオオオオオオッ」
 咆哮と共に、右腕が唸りを立てて落ちてくる。
 速い!
「きゃあっ」
 同じ脇侍の姿形ながら、そのスピードも威力も比べ物にならない。
 二人とも刀は手にしていたが、脇侍の手が襲ったのはかえでであった。
 一撃がその肢体を襲う、と見られた次の瞬間に、
「あら…あっ」
 身体が地に浮いたのは分かったが、一瞬状況が掴めず左右を見回す。
 自分が腰からシンジに抱きかかえられていると知るには、二秒ほど掛かった。
「ちょ、ちょっと離してっ」
「助けたのにそれ?」
 自分がかえでを抱いて飛翔していなければ、脊椎がへし折られていると、シンジには分かっている。
 それだけに、幾分呆れたような声になったのもやむを得まい。
「あ、あのごめんなさい。でも…」
「いいから捕まってて」
「え?」
「先の降魔大戦では、対降魔部隊がその名を馳せた。その精鋭の実力、見せてもらうとしよう」
「あ、あなたそこまで知ってたの?」
「帝都の住人なら三歳児でも知ってるさ」
 シンジが言った時、脇侍は残る獲物に狙いを付けていた。
 すなわちあやめに。
 変わらぬスピードで腕が襲った時、秒と掛からずにあやめは剣を抜き放っていた。
 キン、と金属の打ち合う音がして、あやめが後方に飛ぶ。
 自分から避けたかに見えたそれだが、実際には吹っ飛ばされたのだと、シンジには分かっている。
 だが、ダメージを受けた様子は無く、抜き身のそれを引っ提げて一気に地を蹴っていった。
 脇侍に斬りかかっているそれを見ながら、
「さっき姉貴が言ってた米田支配人とか」
 唐突に言い出した。
「え?米田支配人がどうかしたの?」
「剣でやっと思い出した。確か対降魔部隊のメンバーだったな」
「ねえ」
「何?」
「先日、さくらのお父さんの事言っていたでしょう。あの時から気になっていたんだけど、どうしてそれを知っているの?御前様から聞いて?」
「聞いた話だよ。ただし、碇フユノからじゃない」
「はあ」
 はぐらかされたような気がしたが、おそらく話すまいとシンジの口調で、かえでは知った。
 それにそんな事より。
「あ、あのもう大丈夫だから…下ろして?」
 だが、
「怪我したくなかったら大人しくしてるの」
「あうっ」
 耳元で囁くように言われて、かえでの肩がびくっと震えた。
(か、身体から力が抜ける…)
 ぐったりとなったかえでだが、ある事に気付いていなかった。
 すなわち、殆ど防戦一方にこれ努めさせるほど、あやめを追い込んでいる脇侍だが、シンジの指が分からぬようなかすかな動きを見せている事に。
 そしてその動きが、脇侍に人間と変わらぬような動きをさせている事には、勿論気が付かないのだった。
 そして数分後。
「いやあああっ!!」
 気合い一閃、霊刀が脇侍の首を切り落とした時、あやめはあちこちに傷をこしらえていた。
「ふむ」
 かえでを抱いたまま、ゆっくりとシンジが降りていく。
 そっと床に下ろしてから、
「なかなかの腕前だな。即席で創った代物だが、出来はどうだ?」
「……」
 無視してるのでなく、単に息が上がっているのだ。
 十秒ほど経ってからやっと、
「さすが…お見事ね。私達の創った物では足元にも及ばないわ」
 嫌味ではなく、本心からの言葉であった。
 これがもし実際の人間であれば、ほぼ勝てなかっただろうとあやめは知ったのだ。
「光栄だな。実は先日、ちょっと手抜きをした」
「え?」
「これと同じ物を創って、仲間割れさせたのさ。もっともあの時は、ここまでの物は出来なかったし、これの半分位だったが。さてそれはそうと、初撃は失敗だったな」
「初撃が?」
「俺がかえでを抱いて飛んだ時、脇侍はどうした?」
「あなたの方を見たわ」
「それで?」
「それでって…今度は私に狙いを…な、何を」
 むにぃ。
「こら」
 シンジが指を伸ばして、あやめの頬を引っ張ったのだ。
「それじゃ意味無いでしょ」
「?」
 分かっていないあやめに、
「俺の速度は光速にした訳じゃない。つまり、この脇侍は襲おうとすれば俺を襲う事は出来た。それをしなかったのは、自分の造物主を分かっているからだ」
「そ、それで?」
「つまり、これは俺を襲うことはしない。それを瞬時に読んで、これが上を見た時にもう一撃は加えてないと駄目って事。かえでが完全に不意を突かれたのは見たね?」
「で、でもそんな不意打ちみたいな…い、いたい」
 ぎうう、と今度は強く引っ張った。
「そう言う台詞は、一撃で倒せるようになってから。第一、俺が創った脇侍は反応速度も遅くないぞ」
 やれやれと手を離してから、
「まあ、全体的には速かった方だ。さくら達にこれをぶつけたら、このタイムでは二人ぐらいしか倒せない。参考になったよ」
「じゃあ何?あなた、私を実験台にするためにこれをぶつけたの?」
「かつての、対降魔部隊の精鋭だからレベルは最高度にさせてもらったの。これで教材創るんだから、迂闊な相手にやらせるわけには行かない」
 認められたらしい、と知ってあやめの表情が幾分緩んだ。
「でも、これをそのままさくら達にぶつけるの?」
 まさか、とシンジは首を振った。
「強さはこれの半分位に落とす。素の実力ならそれがいい所だ。倒す、だけじゃなくて迅速さも要求されるからね。ああ、それと」
「え?」
「そこでぐったりしてる妹、介抱してやって。ちょっとお年玉使ったもので」
「お年玉?」
「姉上が心配だから降りるって騒ぐもんだからつい、ね。いい妹だよ」
 シンジはうっすらと笑うと、
「取りあえず教材の目処は立った。後は、あの子達のレベルアップの度合いだけだが、材料がちょっと足りないな。これ、予備は幾つある?」
「かえで、幾つあるの?」
「あ、あと十二体位は」
 やっと回復したらしいかえでが言うと、
「再生できれば何とかなるか」
 ふむ、と勝手に頷いて、
「悪いけど、それ女神館の方に運んでくれる?金属板のままで構わないから」
「分かったわ」
「頼んだ。それと、傷はそろそろ治ってくる筈だ」
「は?」
 二人の視線が動き、次の瞬間あっと叫んだ。
「蔓で操るなら、それくらいの事は可能さ。じゃ、後は頼んだよ」
 よいしょ、とミサトを肩に担いでシンジが出て行く。
 唖然とした表情から、二人が戻るには数分の時間を要した。
「さすがに…理解は私達の範疇外ね…」
 呟くように言ったあやめに、
「誰が…分かるのかしら」
 かえでの台詞は、そのまま同意を示していた。
 すなわち、誰がシンジの事を理解しうるのか、とのそれを。
 その本質を知る、と言う意味に限れば、確かにかえでの台詞は間違ってはいなかったかも知れない。
 少なくともそう、彼女たちが良く知る人物の中に於いては。
 
 
 
 
 
(つづく)

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