GOD SAVE THE SHINJI!
 
 
 
 
 
第二話:ラブの匂い――ヤッちまいなァ!
 
 
 
 
(アチチ…)
 暑い。とにかく暑い。
 もう夜鴉みたいな格好から、白を基調とした服に着替えていたが、この第三新東京市は暑すぎる。
 同じ暑さでも、仙台はもっとカラッとしていたのだが、ここはムシムシする。要するに仙台と比べて湿度が高いのだ。
 それでも口に出さないのは、フロストに聞かれるとまずいからだ。
 ジャックフロスト――可愛い雪だるまの姿をしているが、れっきとした悪魔であり、本気になれば、仲魔を大量に呼び出して街を一つ氷の下に沈める位はしてのける。シンジが仙台で怪しい格好をしていたのも、機能調節の為の冷気放出が強烈で、寒すぎたせいだ。
 暑い事は暑いのだが、さっきの冷気がまだ身体にひんやりと残っているような感じがするし、ここで余計な事を口走って冷やして貰った日には、文字通りの冷血人間に変貌しかねない。機械化人間にでもなれば問題は解決するのだろうが、目下はとりあえずこの人間の身体で満足している。
「フロスト」
「オヤビンどうした?」
「何か…変な気配がしない?静謐な街だけど、妙に重苦しい沈黙が漂っているような」
「そりゃそうだよ」
「え?」
「オヤビンの従兄弟からの手紙にも書いてあったろ?何にもない街へ、ずっと放っておいたオヤビンを呼ぶほど、あの変態ヒゲ野郎はイイ奴じゃねーよ」
「そ、そうかな」
 フロストと対の位置にいるジャックランタンは、南瓜の悪魔で火を放つ。これもひとたび本気になれば、街など跡形もなく消却してのける。
 元がハロウィンのキャラクターだけに、フロストもランタンも悪戯好きではあるが、いずれも子供には優しい。そんな彼らにとって子供を放置し、あまつさえ十年以上も会いに来ない等というのは、最悪の人間以外の何者でもないのだろう。
「当たり前じゃねーか!それよりオヤビン、ゴッドブレスは用意してあるんだろうな」
「うん」
「会ったらきっちりかますんだぞ」
「はーい」
 意気軒昂の理由は不明だが、前後の会話からするにかなり物騒な話である事は間違いなさそうだ。
「お、オヤビンお迎えだぜ」
「え?」
 シンジが辺りを見回したが何もない。そこへ黒い車が滑り込んできた。
「シンジ君!」
「キラ?アスランも!?」
 車の窓から手を振るキラの顔は、送ってきている写真があるから分かっている。
 問題は――車を運転しているのがアスランという事だ。二人とも自分と年齢は変わらない、つまり14歳だ。
 無免許で運転はしないだろうから、取っている事になる――自分は自転車の免許しか持っていないというのに。
 
 
 
「ナタル・バジルール参りました」
「うむ」
 国連軍が無駄に暴れてくれたおかげで、この街の迎撃システムは使わずに済んだ。巻き添えを食っての損傷もほとんど無く、これなら初号機再発進の際に、多少なりとも援護は出来ると、ナタルが満足げに頷いた時、急遽冬月から呼び出されたのだ。
「アスラン君とキラ君は、もう彼を迎えに出たのかね」
「はっ、十分前に出発致しました」
「そうか。悪いが君も向かってくれないか?」
「何かあったのでしょうか?」
 聞き返すのは、ナタルにしては珍しい事だが、当然と言えば当然だ。ここへ来る事になっている少年――碇シンジがキラの従兄弟だという事は知っているし、迎えに行くだけなら何も問題はあるまい。
 それに、時間がないながらも初号機との相性くらいはチェックする必要があるし、ナタルとて暇ではないのだ。
 技術部の役目のような気がしないでもないが、技術部のトップは胸の問題で、マリュー連合軍と現在戦闘中だ。助けて貰った事だし、それ位はしても余計なお世話とは言われまい。
「一つ気になる事があってね。君は、シンジ君の経歴は聞いていなかったな?」
「はい」
「半分以上が不明なのだ。彼がいるのは、ゲンドウが預けた先なのだが、そこへ戻ってきたのは半年ほど前でね、預けた時から実に十年近く何処で何をしていたのか、全く白紙の状態なのだ」
(白紙…)
 冬月の言葉に、ナタルの表情が険しくなる。ゲンドウが放置したとか、そんな事ではない。詳細を知らない彼女は、なにか理由があっての事だと思っているし、理由があってなお上官の私生活の部分に疑問を挟むというのは、ナタルの行動事由に全く含まれていない。
 そんな事ではなく、危険人物ではないかと思ったのだ。どれだけの技量の持ち主かは分からないが、ここへ呼ぶ以上絶対条件がある。即ち、ここでの指示に従う事だ。普通の中学生なら、さしたる事はないが、冬月は経歴不明だという。そんな少年など、却って障害になりはすまいか。
 まして、ゲンドウがいきなり呼びつけて使えると判断するほどの少年なら、尚更だ。
「いやいや、深刻な話ではないのだよ」
 ナタルの内心を読んだかのように、冬月は笑った――どこか微妙な表情であった。
(?)
「その何だ…おそらく彼はノーマルでね」
「ノーマル、ですか?」
 今ネルフにいるチルドレンは、別にニュータイプではない。まして、全身を機械か何かで覆って、その上で色鮮やかにコーディネートされてるわけでもない。
 が、次の瞬間ナタルの表情も微妙に変わる事になった。
「二人が恋人同士だという事は、知らんと思うのだ」
「あ…」
 日常の光景だから、ナタル自身も忘れていた事だが、確かにそうだ。アスランとキラが恋人同士、というのは言葉にすれば簡単だが――彼らは少年同士なのだ。
 何とも言えない表情になったナタルが、ふと気付いた。
「副司令、それでその…危険という事でしょうか?」
「そうではない。何かしらの確信がある訳ではないが、念のためだ。葛城君かラミアス君でもいいが、そのままどこかへ消えてしまう可能性がある」
 微苦笑に見えたが、実は冬月が何となく楽しんでいるように見える事に、ナタルは気付かなかった。
 その手の事など、興味がない以前に必要ないものとして片づけてきたから、ある意味では仕方ないのかも知れない。
「了解しました。ナタル・バジルール、これより直ちに向かいます」
「うむ」
 敬礼して身を翻したナタルだが、彼女はまだ知らない。
 今から会いに行く少年が、彼女の常識枠を完全にオーバーする相手である事を。
 自分の信じてきた物が根底から覆される時、有能で沈着冷静を以て知られる彼女はどう反応するのか。
 
 
 
「シンジ君、久しぶりだね」
「うん。キラも元気そうで何よりだ。アスラン、すぐに僕と分かったか?」
「ああ、分かるよ。この時間、政府専用の特別車両を除いて全列車は運行していない。駅にいる少年なんて、シンジ君しかいないだろ?」
「そっか…ん?」
 後部座席に乗り込んだシンジが、鼻をひくつかせた。
「シンジ君、どうかした?」
「んー…、いや気のせいかな…何か匂いがするんだけど」
(キラ、何か積んでたか?)
(荷物は全部下ろしてあるし、車内は掃除してあるからそんな筈は…)
 ヒソヒソと囁き合う二人に、
「いや、物の匂いじゃない。なんていうか…ふいんき?」
(オヤビン、ふいんきじゃなくて雰囲気だ。それとこの匂いはあれだな…ラブの匂いだな)
「ラブの匂い?」
 シンジのふいんきに突っ込もうとした刹那、シンジの口から出た言葉に、アスランとキラの身体がびくっと硬直した。
 一瞬の事だったが、シンジが理解するには十分であった。
(そっかそういう事か)
 匂いというのは、何も物体が発するものだけではない。雰囲気が醸し出す匂い、というのもまた、確実に存在するのだ。
「アスランとキラ、おまいら付き合ってるって事ないよねえ?」
「そ、そんな事ある訳ないじゃないか。なあキラ」
「そ、そうだよシンジ君。アスランは親友だけど、普通の関係なんだから」
「普通ってのは一般的に無関係だぞ。親友の時点で普通、じゃないと思うけど」
「そ、そうかな?とにかくその…つ、付き合うとかは全然無いってば」
「そっか。気のせいだな」
(ホッ)
 ゲンドウが自分を呼んだ理由は分かっている――キラからの手紙で。
 シートに腰を沈めたシンジが、資料に目を通し始めたのを見て、二人はそっと安堵の視線を絡ませ合ったのだが、それだけでも十分に妖しい。
 問題は、シンジがそう単純ではなく、しかも邪悪な仲魔達が付いている事であった。
 三キロほど走った所で、シンジが思い出したように顔を上げた。
「あ、そう言えばキラ」
「何?」
「アスランと最初にキスしたのっていつだっけ?」
 ごく普通の、流れるような動作と問いであり、改まった所は微塵もなかった。ふと思い出した事を訊く、まさにそんな感じであり、さすがのキラも身構える事はまったく出来なかった。
「最初にしたのは確か三…!?」「キラっ!」
 一瞬遅れてアスランが反応した時、もう想い人は見事に釣られていた。
「ふーん」
「…ち、違うんだシンジ君これはそのっ…」
 二人揃って顔を赤くした状態で否定しても、説得力は皆無である。
「別にいいよ」
「『え?』」
 二人が思わず顔を見合わせた程、シンジの声は穏やかであった。
「久しぶりにあった従兄弟が変態になってたから謝罪と賠償を、なんて事は言わない。でもやっぱり――」
「『や、やっぱりっ?』」
「祝福してあげないとね――凍てつく吹雪のシャワーで!」
 次の瞬間、アスランとキラは目を疑った。ぽん、とシンジが天井に触れた途端、そこは丸い形で吹っ飛んだのだ。円形の時点で力業でない事は明らかなのだが、一瞬の事でさすがの二人も、そこまで分析する余裕はなかった。
 頑丈な事世界一で知られるドイツ車も、内部から破壊されてはたまらない。穴の開いた天井からシンジが車外に飛び出し、ふわりと宙に停止した。
 その手が胸元に伸び、ぶら下がっているキーホルダーに触れた。
「フロスト、ヤッちまいなァ!」
「合点だオヤビン」
 炎天下で、辺りは一瞬にして視界がゼロになる。誰もが目を疑うような光景――凄まじい吹雪が第三新東京市のとある部分だけを覆い尽くしたのである。
 
 
 
「久しぶりに会った従兄弟が同性愛者になっていた、か」
 ナタルは呟いてから、軽く首を振った。無論、異性愛すら縁のないナタルに取って、同性愛など異端以外のなにものでもない。
 だがその効用というのは、さすがのナタルも認めざるを得なかったのだ。マリューとミサトは、二人の関係については黙認、と言うより公認している。以前、お熱いのねとキラを冷やかしているミサトを発見し、どういうつもりかと問いつめた事がある。そんな関係は放置すべきではないというナタルに対し、ミサトは一言、却下よと言ったのみであった。
「葛城少佐!同性愛など異常な関係です。放置は風紀の乱れにも関わり…!」
 ナタルは最後まで続ける事が出来なかった。ミサトの視線がナタルを射抜いたのである。
 普通は人生の中に息抜きがあるが、マリューやミサトの場合には、息抜きの中に人生があるような気がする。だがこの時ばかりは、まるで蛇に睨まれた蛙の如く、ナタルは身動き一つ出来なくなったのだ。
「人間はね、機械じゃないのよ。あの二人を引き離して、その上でなお現状の成績を維持、乃至はそれ以上を出させる自信があるなら言いなさい。そうでないなら黙ってなさい」
「……」
 言い返したい事はあったが、言葉が出てこない。それ程までに、ミサトの視線は凄烈であった。
 きつく言い過ぎたと思ったか、ミサトは表情を緩めて、
「ナタルの言う事も分かるのよ。でもね、あの二人が組んだ時の数値を考えれば、それこそナタルの言う最善の結果って事で、納得してもらえないかしら?」
 ナタルは決して葛城さんとは呼ばないが、ミサトの方はナタルと呼んで階級を付ける事はない。マリューも同様だ。軍としての雰囲気が余り合わないという事に加え、二人なりにナタルを認めている証らしいのだがよく分からない。
 ミサトの言うようにこの二人は、個人個人でも高い資質を持っているが、ペアで組ませた場合、倍近い数字をたたき出すのだ。単に相性とか、そう言ったもので片づけられない事は、このネルフを司る人工知能MAGIも認めている。
「葛城少佐…」
 少々強弁だが、ミサトにしては良い事を言う。
 と思ったら、立ち上がったミサトが、
「ナタルもね、好きな人が出来たら分かるわよ。つーかさ、恋人もいないバジルール少尉に何が分かるんですか!って言われたら困る。マジ困るっしょ?」
「なっ!?か、葛城少佐自分はっ…!」
 ぽむ、と軽くナタルの肩を叩いて出て行った表情は、もういつもの物に戻っていた。
 自分とは二歳しか違わないが、その辺はやはり人生経験の差から来る物かと、少しミサトを見直した翌日。
「ごめん、マリューと飲み比べしてて酔い潰れちゃった。あ、勿論相打ちよ相打ち」
「……」
 額に青筋を浮かべたナタルに、延々とお説教される羽目になったミサトである。
 今でも、アスランとキラの関係を完全に認めた訳ではないから、久しぶりに会った従兄弟の反応も分かる気はするが、自分まで行かせるとはどういう事なのか。
 やはり、多少なりとも不穏分子の要素を含んではいまいか?
 そんな事を考えながら、ナタルは携帯電話に手を伸ばした。アスラン達は十分以上前に出ているから、もう会っているはずだ。MAGIと違って全車両の把握は出来ないから、現在地を聞く必要がある。
「ん?」
 ナタルの表情が動いた。携帯が繋がらないのだ。MAGIが実質管理しているこの都市内で、そんな事はあり得ないし、関係者、特にチルドレンは全員常時の携帯所持と通話可能状態を義務づけられている。
「まさか…な」
 嫌な予感がして、ナタルは一気にアクセルを踏み込んだ。駅の周りを一周したが、どこにも人影はない。
 すれ違わなかったと言う事は、別ルートを取ったのだ。何本かある内、ナタルが選んだのは偶然にもアスラン達が通ったその道であった。慎重に車を走らせていくナタルの足が、突如急ブレーキを掛けた――自分の意志というよりも、足が勝手にブレーキを踏んだのだ。
 ナタルの視界に飛び込んできた光景は、
「一つ彫っては母の為〜、二つ彫っては父の為〜」
 奇妙な歌を歌いながら、車に彫刻刀で何やらしている少年の姿であった。車がアスランの物である事と、冬月に言われた事が瞬時に繋がった。シンジの顔は写真で見て分かっている。
「そこで何をしている!」
 車を止めて走り寄ったナタルに、シンジは怪訝な表情を向けた。ナタルが銃を抜かなかったのは、総司令碇ゲンドウの息子であるという事もあったが、何よりもパイロットとして召還されたのだという事が大きかった。万一発砲して傷でも負わせれば、大変な事になる。
「見ての通りアート活動。ところであなた誰?」
 一瞬視線を向けたが、またカチカチと工作に勤しみ始めたシンジを見て、ナタルの眉がぴくっと上がったが、内心で深呼吸して何とか抑えた。
「私はナタル、ナタル・バジルール少尉…です。碇シンジ…さんですね、あなたをお迎えに上がりました」
「迎えならさっきアスランが来たよ」
「…じ、事情を説明して頂けませんか」
 辛うじて自分を抑えてナタルが訊ねると、くるっとシンジがこっちを向いた。
「ちょっと聞いてよバジリスクさん。もうキラってばひどいんです。久しぶりに会ったらホモになってたんです。801はイクナイ!と思います。もうね、アボカド、バナナかと」
 言いたい事、突っ込み所はたっぷりある。
 だが何よりも――。
 バジリスクとは、石化能力を持ち、ついでに毒も吐ける強力すぎる生き物なのだが、伝説ともされるその存在について、ナタルが知っていたが事がお互いに取って不幸であったろう。
「私はバジリスクではない。バジルール、ナタル・バジルールだ!私がトカゲとはどういう了見だ!」
 パッチーン。
「『あ…』」
 二人の口から同時に声が洩れた。思わず叩いてしまった方は無論、叩かれた方もぽかんと頬をおさえている。
 自慢ではないがこの碇シンジ、今までに顔を叩かれた事など一度もなかったのだ。
 そう、文字通り『親にさえ叩かれた事などなかったのに』と言う境遇だ。
 ただし――『親に捨てられた事のある』子供というのも、逆にさほど多くはないだろうが。
「す、すまない大丈夫か。ついカッとなってしまって…」
 作戦は常に冷静に、そして効率を最優先にと教え込まれてきたナタルに取って、それは日常生活でも守るべき旨であり、たとえろくでもない破壊工作に励んでいた少年であったとしても、叩いていい理由にはならない。マリューやミサトとは違うのだ。
 まして、自分が押し倒されたとかそんな事でもない。
 シンジの頬にハンカチを当てた手がきゅっと捕まれた。
「え…!?」
 そこには、瞳をうるうるさせて自分を見つめる少年がいた。
「ちょ、ちょっと何をするっ」
「うほっ、いい女」
「何を馬鹿なっ…む!?んむっ…んーっ、むーっ!!」
 シンジの視線に、敵意とか仕返しのそれがなかった事で、ナタルも一瞬反応が遅れたのかもしれない。或いはミサト達と違って、対人戦闘を経験してこなかった事が仇になったか。
 とまれ口を塞がれたナタルは抗う事も出来ず、あっさりと失神・陥落していた。
「あーあ、オヤビン発動しちゃった」
「でも運転も出来ないのにどうするのよ」
「再起動するしかないだろ。モードを切り替えるぞ」
「はいはい」
 すうっと、宙に浮かんだ南瓜――ランタンの手には小型のハンマーがある。
 ぽかっ。
 かくん、とシンジの首が前に折れる。立ったまま、失神したのだ。
「禍・鉈・炎・誤・珊・栗・葵・霧。モード切替完了…逃走モードへ。碇シンジ、再起動!」
 フロストが奇妙な文言を唱えた後、ランタンがもう一度ぽかっと叩いた。
 シャキーン。
 怪しい音と共に、シンジの目が見開かれ、その顔が妖々と上がる。
「フロスト、ここから一番近いホテルをサーチ。ランタン、アスラン達を解凍して」
「『了解、オヤビン!』」
 ぐったりと身体を弛緩させたナタルを軽々と抱き上げ、車に乗せるとそのまま発進させた。MT車で、ナタル以外には扱いづらい車なのだが、シンジはまるで、長年乗り慣れた愛車のように、あっさりと乗りこなしていた。
 
 
 
「まったくナタルってば余計な事するんだから」「きっと二割位イメージダウンしてるわよ」
 無修正で送られたそれを見た場合、吉凶どっちに出るかというのは置いといて、ナタルにぶつくさ文句を言いながら、マリューとミサトが歩いていく。なおリツコとの局地戦闘は、
「分かりました赤木博士。じゃ、こうしましょう」
 あっさり白旗を揚げた従姉妹を、さては裏切ったのねと睨んだミサトだが、
「博士の自慢話が聞ける日を楽しみにしてるから」
「自慢話?」
「赤木博士のおっぱいに恋人が埋もれちゃったら、聞かせて下さいね――そう言う日が来たら、ですけど。ミサト、行きましょ」
 無論、あり得ないと思いますが、というのをたっぷり乗せるのは忘れない。
「う、うん」
 という顛末で、リツコの憤怒の形相を引き出す事に成功し、二人の完勝に終わった。結局のところ、養殖物や人工物は天然には勝てないのだ。
「とりあえず彼が来たらポイント回復しておかないとね。でも…大丈夫でしょうね」
「何が?」
「男の子好きだったりしないわよね?或いは微乳好きだとか」
 アスランやキラには元から興味がなかったが、何せシンジはキラの従兄弟なのだ。可能性は十分にある。
「そんな訳ないじゃない。ミサトったら心配し過ぎよ」
 笑い飛ばしたマリューが、
「あ、でも後半はあるかもね」
「え?」
「美乳好き。やっぱり綺麗で大きいおっぱいは罪よね」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ。私より少し乳が大きいからって何威張ってるのよ。カップは一緒じゃない」
「だって私のはまだ初物だもの」
「触ってくれる男もいなかっただけでしょ」
「それってどーゆー意味かしら!?」
「あーら、気に障ったぁ?」
 今度は仲間割れを始めた二人だが、その最中にミサトの携帯が鳴った。
「はい葛城。キラ君?どうし…え!?ええ…ええ、分かったわ。あなた達は一旦戻ってきて」
 顔色を変えたミサトに、
「何があったの?」
 訊いたマリューの顔は一瞬で引き締まっている。
「シンジ君をロスト、と言うより自分から姿を消したらしいのよ…バジルール少尉を連れてね」
「な、何ですって?」
 
 
 
 
 
(つづく)

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