妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
ドクトルシビウの闇カルテ:ツェザーレ
 
 
 
第八十三話:「エザリアさんのお時間〜壱:謀は淫なるを貴ぶ」
 
 
 
 
 
 如雨露越しみたいな雨が降る中を、ロミナがてくてくと歩いていた。
 宇宙に浮かぶプラントでは、当然ながら雨も雪もない。太陽系の中心に位置し、独自の熱核融合で、エネルギー変換を行っている恒星から陽光を取り入れる技術は存在しても、虚無の空間から降雨の恵みを得る技術は存在しない。
 だから巨大なスプリンクラーで降らせる。
 従って、プラントで生まれ育った者は人工降雨以外の雨を知らない。
 エザリアからの招きに応じるか、ロミナは出かける寸前まで迷っていた。ニコルはイザーク同様ザフト軍に身を置いているし、今は地球に降下してアスランの下に配属されている。ロミナとエザリアも、仲違いしたりはしていない。
 だが、ロミナの夫ユーリは前議長のシーゲル・クライン同様穏健派である一方、エザリアはパトリック・ザラの右腕とも言われ、超がつく程の強硬派である。しかも、ユーリに何やら依頼してあっさり断られた事も、夫からちらりと聞いている。
 ユーリに断られたので搦め手から、と考えたりはしなかったが、隔離されたコロニーに住んでいる訳ではないし、電話もメールもある。
 エザリアが、メールを送る度に、悪魔に寿命を一年吸い取られると頑なに信じている話は聞いた事がないし、何より招待状を寄越すような内容ではなかったのだ。
 いつからエザリアには、お茶会を開くので招待状を送るような趣味が出来たのか。
 人の良いロミナでも、怪しいと思ったのは当然だったろう。
 何よりも、夫のユーリは今回の戦争についてはやや慎重派で、先鋭を行くパトリックについているエザリアとは思うところが違う。ロミナも、電話か、或いは郵便だったら断っていたところだ。
 とことことやって来たルーが、招待状を提げていたからつい断れなかったのだ。
 少し疑念は残っていたが、それでもロミナが義理堅く、記してあった日時にエザリア邸へ赴くと、門の前にメイド姿のルーが立っており、ロミナの姿を見てその表情に笑みが浮かんだ。
(立たされていたのかしら?)
 訊くと、招待状を出していた客は七名いたが、ロミナを除いて皆土壇場でキャンセルしてきたのだという。
「ロミナさんまで来られなかったら、どうしようかとずっとドキドキしてました」
 そう言って微笑ったルーが、安心したように胸元をブラウスの胸元をおさえる。そのとき、ぷっくりと尖った乳首がブラウスを押し上げ、しかも指の間からはみ出していた事にロミナは気づかなかった。
 ルーの安心した顔を見ては、ロミナも帰るとは言えず、ルーに案内されて邸内へと入っていったのだが、部屋に通されたロミナは一瞬思わず足を止めた。そこにあった大きな黒檀のテーブルには白いクロスが掛けられ、その上には八人分のティーセットと大量のスイーツが用意されていたのだ。
 しかも、ティーカップには既に注がれている。
 いくらエザリアでも、来るか来ないか分からない内から勝手に用意はするまい。ルーの言った通り、ロミナ以外の招待客が文字通り土壇場になってキャンセルしたのだろう。
「どうぞお掛け下さい」
「ありがとう」
 椅子を引いたルーに礼を言ったところへ、
「これでルーもお腹が破裂しないで済むわね」
 物騒な事を言って姿を見せたのは、スーツ姿のエザリアであった。どう見てもこの場に不似合いな服装のエザリアだが、それがデフォルト仕様なのか或いはロミナも来ないと見て、出かける気だったのかは訊けなかった。
「来てくれてうれしいわ、ロミナ」
「あの、エザリア…」
「なに?」
「その、この娘(こ)のお腹が破裂って…どういうことなの?」
「使いにいって手ぶらで帰ってくるなら、責任を取るのは当然でしょう」
 土壇場でキャンセルされるのは使いが悪い、と言う理屈らしいのだが、招待主(ホステス)に問題があるんじゃないのかしら、とロミナには言えなかった。
「ロミナが来なかったら、一人で片付けさせるところだったわ」
「そう、これを全部一人で…え!?」
 確かに片付けるのは大変だが、後片付けをして腹がふくれる事はあり得ない。しかし、ここにある飲食物を、すべて胃に収めるなら話は別だ。コーディネーターとは云っても、体をサイボーグ化するわけではない。
 これを全て食べさせられた日には、いくらルーとて到底身体は持つまい。
 ちょっと気乗りはしなかったが、自分だけでも来て良かったと、ルーをちらっと見やると視線が合った。微笑って頷くとルーが頭を下げたが、その頬が妙に赤らんでいた事にまでは気づかなかった。
「ルー、折角ロミナが来てくれたから、全部食べるのは免除してあげるわ。でも、紅茶はあなたが処理しなさい」
「はい…」
(えーと?)
「エザリア、ちょっと待って」
 台所へ行って捨てて来なさい、の意ではあるまい。
 用意してある人数分からエザリアとロミナの分を引いて、単純に二倍すると…と2秒で計算したロミナが、慌ててエザリアを止めた。
 エザリアの事だ、時間が掛かってもいいわよなどと言う筈がなく、十数杯の紅茶を次々と飲ませていくなど想像するに難くない。
「どうしたの?」
 振り向いた顔には微笑すら浮かんでおり、怒りの色は微塵も見えない。それは失態を犯した召し使いに罰を与える女主人の図で、ごく当たり前の事としか思っていないのだ。
「紅茶なら私がいただくわ。だからこの子に全部食べさせるとか飲ませるとか、そんな事を言うのは止めて。ね?」
「折角来てくれた唯一のお客様がそう言うんじゃ、仕方ないわね」
 エザリアがほんの少し――肩をすくめたようにも見え、ロミナはカップを取り上げた。元来が温厚な性格で、ニコルにも殆ど怒った事のないロミナは、土壇場でキャンセルされたとは言え、客が自分の都合で来なかったものを、ルーの過失にしようとするエザリアの態度が嫌だったのだ。
 既に温められていたと見え、ティーポットは無論、カップにも熱が残っている。蒸らされた紅茶は、ストレートだがやや甘い味がした。
(紅茶って、蒸すと甘くなるのかしら?)
 立て続けに二杯飲み干したロミナを見て、エザリアはうっすらと微笑った。
「いいわ、ロミナがそこまで言うならこの子の事は許してあげる。ルー、ロミナに感謝するのよ」
「はい」
 ルーが洗練された――と言うよりよく調教された動きで一礼し、
「それにしてもロミナは、ほんとうに優しいのね。ニコルのあの性格がよく分かるわ」
「べ、別に私はそんな…」
 IQ――主に悪巧みIQ――が高く、パトリックからの信任も厚いエザリアは、対ナチュラルに於いては、評議員内でもきっての強硬派であり、質で押している現在(いま)、のほほんと和睦する事など思いも寄らない。中途半端な和睦など、かつてのユニウスセブン同様、地球人の悪巧みを許すだけだと思っているからだ。ただ、パトリックやエザリアが強攻策を唱えたところで、それだけでザフト軍がプラントの総意で一斉攻撃に出られる訳もなく、元議長のシーゲル一派のような穏健派の勢力は侮れず、特にエザリアと同じ評議員議員でシーゲルの右腕とも言われるアイリーンとは、お互いに有能な女同士だけに激しいライバル関係にある。
 パトリックにせよシーゲルにせよ、エザリアやアイリーンを失えば大きな損失になる。それだけに、アイリーンもエザリアも相手の女をどうやって抑え付けようかといつも火花を散らしている。
 女同士の神経戦を展開しているエザリアにとって、天然でほんわかした性格のロミナは、どこか羨ましくもあり、また苛立つ存在でもあった。
 女性にとって羨望の対象は、裏返せば妬みと僻みと嫉みの対象でもあるのだ。
 そんなエザリアの心中など知らず、一人ふわふわした雰囲気を醸し出すロミナのおかげで、場の空気は半ば強制的に和んでいった。エザリアもそれ以上ルーを責める事はせず、招待主らしく話題を変えて近況など語り合っていく。
 ただ、二人とも我が子を軍に送り込んでいく母親同士の為、どうしても話題はそちらへ向く。特にロミナはエザリアと違い、軍の状況を殆どと言っていい程把握していない為、畢竟我が子が置かれている状態も知らずにいる。夫のユーリが軍にいる為、夫は分かっているだろうと、夫を気遣って詳細に訊こうとはしない為だが、実はユーリもロミナも、我が子ニコルが一度捕らえられ、しかもハマーン・カーンの引取りを条件に返された事は知らない。
 無論――自分の娘が敵の少女と、二人揃って尻を掲げて後ろの処女を喪い――母親の自分でさえも知らぬ快楽を覚えたとは夢にも思っていない。ロミナは夫にも肛姦は許していないのだ。
 ニコルがそれを告げたのは、ハマーン一人なのでエザリアも詳細は知らないが、アスラン以下赤服を身にまとう精鋭達が掌で弄ばれ、我が子イザークも捕らえられて解放された事は知っている。
 アークエンジェルにMSが二機搭載されており、そのうちの一機は以前ザフトで開発途中だった機体だった事も分かっているが、流出経路が流出経路なだけに、アンタッチャブル(不可触案件)として関わらない気で居た。
 エザリアは、強硬派と現実主義者を兼ねているので、我が子を含めた精鋭達が手も足も出なかった相手を、そう簡単に奪還できるとは思っていない。と言うよりも、現時点では撃墜してくれた方が物証も残らずに済むというものだ。
 ニコルが捕らえられた事を知らないロミナに、宇宙を我が物顔で飛び回るストライクの映像を見せれば、ほぼ間違いなく夫を説得してくれるとエザリアは見ている。
 ただ、手も足も出ない現実は確かにあるが、同時期に建造された筈のストライクが、パイロットの性能とは別次元で、明らかに他の機体を性能で上回るというのは理解しがたい話だし、何よりも絶対極秘で、内容については箝口令も敷かれている映像が出回ると色々面倒な事にもなりかねない。
 だからエザリアはロミナをわざわざ招いたのだ。
 そう、エザリアの得手とする方法で説得する為に。
「スピット・ブレイクが可決されたでしょう。準備もあって色々慌ただしい筈なのに、どうしてあの子達だけが敵の戦艦を追う事になったのか、あなたは知っているのでしょう、エザリア?」
 ヘリオポリスで墜ちず、宇宙で墜ちず、とうとう地上まで逃げられてしまった敵艦がいるのはロミナも知っている。が、S・Bが可決されその準備もあろうこの時に、それも厄介そうな相手の追撃にニコル達が回されたのがロミナには理解できないのだ。
 地上ならばすぐに片付けて戻ってこれるから、とユーリは言ったが、それなら地上部隊に任せればいいのにと思う。だいたい、入隊時から訓練、実戦まで配備は常に宇宙であり、地上に降下しての戦闘経験など持ち合わせていないのだ。パトリックの実子アスランがいるからよもやとは思うが、或いは宇宙で墜とせなかった責めを問われて不慣れな地上へ行かされたのでは、と我が子を思う母親が考えてもおかしくはない。
「ユーリの言ったとおり、よ。正確には人手が足りないの。地上へ悠々と降下された挙げ句、アラスカへ行かれたのではザフトの面目が立たないけれど、S・Bの発動で足つき退治に割く地上部隊がない。そこで、宇宙での汚名返上をと名乗りを上げたあの子達が回されたのよ。尤も、四機だけで追う訳じゃないわ。カーペンタリアには新型艦を配して、彼らの後詰めに回すそうよ」
「それならいいのだけど…」
 ほっと安堵の表情を浮かべて胸をおさえたロミナに、
「ただ、今のところ使いこなしてはいるけれど、あの子達が乗っている機体はナ――」
 ナチュラル共が、と言いかけて、
「連合の開発した機体よ。それに、目下質で勝ってはいるけれど、数で押してこられたらどうしても苦戦は免れないわ。だからロミナ、あなたに――んっ?」
 言い直したら、言葉が終わる前に白い指にそっと唇をおさえられた。
 ロミナは緩く首を振り、
「私は――夫には評議会の話を、そして娘には戦場での話を、聞かない事にしているの。私に話したい時は別だけど。あの人が決めた事なら、相談されない限り私は口を挟まないわ。だから、私を唆すのはだめ。ね?」
 表情と口調は優しいロミナだが、言ってる事はなかなか辛辣である。
 夫の居ない隙に妻を唆すなんてまるで間男ね、と思ったエザリアだが無論口にはせず、
「はいはい。相変わらずらぶらぶでいいわね」
 と微笑った。
「ら、らぶらぶっ?私が!?」
「完全に信頼しているから訊かない、とそういう事でしょう?何も聞かないで黙って受け止めてくれる奥さんと可愛い娘がいて――なるほど、ユーリが頑固に頑張れるわけね」
 やんわり窘めた時とは打ってかわって、真っ赤になったロミナをエザリアが楽しげに眺めている図に変わっている。
「でも、奥様がそうまで言うんじゃ無理強いするのも悪いわね。もうこの話は終わりにしましょう」
(えっ…?)
 ロミナが思わず拍子抜けした程、エザリアはあっさりと話を切り上げた。実を言えば、ロミナも予想はしていたし、断れば母親として云々とか、色々言ってくるのではないかと思っていたのだ。
 それを分かっていながらも、やってくる辺りがロミナらしいのだが、
「ロミナ、あなたの家ではペットを飼っているの?」
「ペット?」
 急に何を言い出すのかと戸惑ったが、
「いいえ、今は飼ってないわ。世話をするのが私一人だし、ユーリもニコルも特に欲しいとは言っていないから。ここでは飼っているの」
「最近飼い始めたのよ。見てみる?」
「そうね、見せてもらおうかしら」
 家族に動物アレルギーを持っている者はいない。ロミナが頷くと、エザリアはパキッと指を鳴らした。
(犬かしら?)
 鳴らした音に反応するなら小動物ではなく、訓練された犬辺りかと思ったのだが、扉が開いた瞬間ロミナの表情が凝固した。
 そこへ入ってきたのは、半裸のルーであった。
 裸にブラウスだけ羽織り、おまけに四つん這いで入ってきた。
 半裸の四つん這い姿、とそこまで認識した時点で一瞬思考回路が硬直してしまったのだが、よく見るとただの半裸ではない。その首には鈴の付いた首輪が付けられており、よく見ると尻尾まで生えている。
 メイドが付けるようなカチューシャに似たそれは猫耳で、ご丁寧にピンと尖っている。首筋にはやや大きめの鈴がついた首輪がはめられ、ぷりぷりと振りながら進んでくるお尻には尻尾まで生えている。
「さ、こちらへいらっしゃい」
 エザリアが手招くと、ルーが一声、にゃあと鳴いた。
 ロミナをこの部屋へ案内した後、いつの間にか姿が見えなくなっていたものの、すっかり忘れていた。
 ひとつだけボタンの開いたブラウスは、身体に張り付いてはいなかったが、おそらくノーブラなのだろう、前へ進む度にルーの乳がぷるっと重たげに揺れる。ルーがエザリアの足下へやってきて身をすり寄せるまで、ロミナは何も言えずただ視線を奪われていた。
 無論ロミナが見たことも聞いたこともない格好だが、四つん這いでの進み方と云い、ゆったりと組んだエザリアの脚に身をすり寄せる仕草と云い、昨日今日の付け焼き刃どころか、エザリアの調教が完全に身体に馴染むまでになっていると気づいたのは、エザリアがルーをひょいと抱き上げてからであった。
「紹介するわ、私の愛猫のルーよ。可愛いでしょう」
 並んで歩いた時に分かったが、ルーの身長はロミナより高い。乳と尻も張り出し、決してスレンダーではないのに、エザリアは楽々と抱き上げていた。
 文字通り猫を扱うみたいに軽々と向きを変え、ルーにロミナの方を向かせた瞬間、ロミナは顔を真っ赤にして目を背けていた。
「エ、エザリア貴女っ」
 ロミナの方を向いた瞬間、一瞬だがブラウスしか羽織っていないルーの股間が見えたのだ。そこは僅かな繊毛と――白い紐状のような物がはみ出していた。エザリアのルーに対する扱いに口を出す気はないが、いくらなんでも月経中の娘にこんな扱いとは酷すぎると、
「エザリア、私はこれで――!?」
 憤然として席を立ちかけた瞬間、不意にその足が蹌踉めいた。つま先から脳髄まで電流のようにある種の感覚が突き抜け、転ぶ寸前で何とか椅子に掴まり堪える。
 ちら、とそれを見やったエザリアは何も言わず、
「さて、ルーにはご褒美をあげないとね」
 はい、と頷いたルーが小さく口を開くと、エザリアは何の躊躇いもなく唇を重ねていく。朱を掃いた柔らかな唇も舌も歯茎も、エザリアの為すがままに弄ばれ、静寂に包まれた広い室内にルーの甘えるような喘ぎと、唾液の混ざり合う音だけがいやに大きく聞こえてくる。
 希に――年に一度位、生理前後に身体を覆う感覚と同じもの――静まるのを待つしかない性欲――を感じながら、ロミナの目はエザリアとルーのキスに吸い付いて離れなかった。淫らな音をさせながら、突き出した舌同士を触れ合わせるやり方も、さしのべた舌をつるりと飲み込み、フェラチオでもするみたいに顔を前後に動かしての両唇を使った舌の愛撫も、ロミナにとってはまさに新鮮でひどく刺激の強いものであった。夫婦共々性には淡泊な方で、一緒に寝ても身体を重ねる事は少ない事もあり、生理時に性欲を感じても自慰で鎮めることもなく、ただそれが過ぎるのを待つようなロミナに、目の前の光景はあまりにも刺激的すぎた。
 やがてエザリアが顔を離した時、エザリアの口元もルーの口元も、互いの混ざり合った唾液でべたべたに濡れ光っており、幸せそうに目許を染めたルーがエザリアの口元をぺろっと舐めとった。
「この子はえっちな音させてキスされるのが大好きなのよ。可愛いでしょう?」
「……」
 あれだけ淫らにルーの口腔内を嬲っておきながら、表情も口調もまったく変わらないエザリアの視線は、ロミナの容態に、じっと注がれている。
 ロミナの反応は待たず、
「さてルー、お客様のお帰りよ。玄関までお送りしてさしあげて」
「はぁい」
「ま、待ってっ」
 鼻にかかったような声で頷いたルーが、胸をぷるっと揺らしてエザリアの膝から降りたのを見て、ロミナは慌てて止めた。
「なに?」
「も、もう少しその…あ、あなたのその、ペットをどう扱うのか…み、見せてくれないかしら」
 既に乳首は痛いほど勃起して内側からブラに擦れ、望んでもいない愛液がパンティを濡らしているロミナにとって、心にもない言葉を口にして時間稼ぎをするのが精一杯であった。目の前でどんな光景が展開しようと、ここは欲情の波が収まるのを待つしかない。
 歩いた刺激で妙な声など出してしまったら、一生夫やニコルに顔向け出来なくなってしまうではないか。
「そう?ルー、いらっしゃい。ロミナがあなたの調教成果を見てみたいそうよ」
(べ、別に調教成果なんて…)
 戻ったルーがエザリアの膝にちょこんと座る。さっきのような抱き抱えではなく普通の座り方だ。
 ルーのブラウスにエザリアの白い指が伸びた。第一ボタンだけ開いているブラウスの裾を引っ張り身体に密着させると、ロミナと同じかそれ以上に勃起している乳首が布地越しにぷっくりと浮き上がる。
「今は発情期なのよ。ロミナが来る前から、私に触ってほしくてこんなに乳首かたくしちゃってたのよね。本当にやらしいんだから」
「だ、だってぇ…」
 ブラウスで隠れてはいるが、ロミナには、ルーの乳首が内側から食い込むほど勃っているのが生で見ているかのようによく分かる。
(わ、私の乳首もきっとあんなふうに…)
 自分の乳首もルー同様に、硬くなって尖っていると思うと、ロミナの顔はまた赤らんできた。
 それを視界の端に捉えながら、エザリアの細い指がピッとボタンを飛ばしていく。
 外すのではない、飛ばすのだ。力任せには見えず、刃物も持っていないがロミナにそれに気づく余裕はなかった。
 一つ、二つとボタンが飛ぶ度にルーの白い胸元があらわになっていく。四番目のボタンを飛ばすと同時に、エザリアはブラウスを一気に左右へとかき開いた。
「んっ…」
 ルーの小さな声と共にぶるんっと乳房が弾み、白磁にも似た白く重量感のある乳房が表れる。張りのある乳房はうっすらと上気し、ほんのりと赤みのさした巨乳の先には小指の第一関節ほどにも屹立した乳首が妖しく色づいている。
 初めて生で見る、それも淫らな乳揺れにロミナは知らずして生唾を飲み込んでいた。
(おおきくて重そう…それに…ち、乳首があんなにいやらしくなって…)
「ルー、授乳の時間よ」
「はい」
 鼻にかかったような声は、ルーの生乳に視線を奪われていたロミナの意識を一瞬で引き戻した。
(授乳って、まさかエザリアあなたまだ母乳が出るのっ!?)
 ニコルの時はとっとと、でもないが平均的な時期にロミナの母乳は止まっている。だいたい、エザリアにはイザーク一子しかいない筈で、いくらなんでもまだ母乳が出るのは異常だ。病ではないのかと、ロミナの欲情の波がすうっと退いていった直後、エザリアの手がルーの乳房へにゅうっと伸びた。
「ふあぁ…あっ…」
 手に余るサイズの巨乳にエザリアの指が触れた瞬間、ルーの唇から甘い喘ぎが漏れる。事態が掴めぬロミナの眼前で、エザリアは執拗にルーの乳房を愛撫し続けた。その白い指が妖しくうごめく度にルーの乳房は形を変え、優しく、また時には強く乳肉をこね回し、硬く尖った左右の乳首同士を摺り合わされる。痛い程に尖った乳首を指の先で弾かれると、ルーはロミナの視線も気にせず嬌声を上げて身悶えした。授乳の意味はまだ分からないが、ルーの上気した乳房が揉みしだかれ、指先で乳首が転がされているのを見ると、またロミナの股間は徐々に潤んできた。
 エザリアが病的に母乳を出せるのか、と思った時確かに好まぬ欲情は半ば退いており、その時ならば席を立てたのだ。
 だがロミナは立たなかった。いや、立てなかったという方が正しい。ルーの乳房はロミナの目を吸い付けて、離さなかったのだ。
「ふふ、もういいかしらね。ロミナ、見てごらんなさい」
「えっ?」
 エザリアの声に視線を向けると、その指先はルーの乳首を挟んでいた。勃起の収まらぬ乳首を指で挟まれたルーは、切なげな吐息を洩らしながらエザリアに身を預けている。
「なにを…あっ!」
 ロミナの口から思わず素っ頓狂な声が上がった。そこは――ルーの乳首の先端からはじんわりと白い液体が滲んでいたのだ。
「セルフ授乳よ。ルー、あなたが自分におっぱいあげるところをロミナに見てもらいなさい」
 小さく頷くと、ルーは自分の双乳を持ち上げた。たわわな乳房を手に取り、その先端へゆっくりと口元を近づけていく。
(ま、まさか…)
 ルーの赤い舌が薄褐色の乳首を二度、三度と舐め回すと、躊躇いなくぱくっと口に含んだ。
 片方ずつ、或いは両方の乳首を一度に口に含み、わずかに頬をすぼめて吸い立てる。ロミナはまだ信じられなかったが、絶え間なく何かを嚥下している喉元がそれを証明している。
 自分で自分にミルクを飲ませる、有る意味この上なく効率の良い授乳だ――授乳を必要とする年齢ではまず不可能、と言う事を別にすれば。
 ルーの巨乳がエザリアに揉みしだかれていた姿は、ロミナの脳裏にくっきりと焼き付いている。ほんのり上気した白い乳房と小指大に勃起した茶褐色の乳首、そしてその乳首からはミルクが出る上にそれを自ら飲んでいる姿は、ロミナにとってあまりに危険な官能の色を帯びていた。しかも膝の上でセルフ授乳している乳房を、エザリアがなおも揉みしだき、ルーが身をくねらせる姿は指一本触れられていないのに、ロミナを徐々に軽い絶頂へと近づけていた。
 エザリアにとってはどうと言う事もない愛撫も、普段は性に淡泊で貞淑な人妻にとっては刺激が強すぎたのだ。
 無論、ロミナの女性器が濡れている事も、その乳首が内側からブラに食い込んでいる事もエザリアはとっくに見抜いている。性への興味もさほど持っていないロミナが、ルーへの調教成果を見たいなどと言うものか。
(もう、おまんこもぐしょぐしょよねえ、ロミナ?)
 既にエザリアの脳内では、清楚な人妻がスレンダーな肢体を晒してあられもなくよがる姿が、フィルムから写真を通り越して映像化されている。勝手に痴映像を再生し、ルーとは無関係な所でエザリアの身体もわずかに上気しだしているが、それでも、表情を微動だに変えないのが、エザリアとロミナの経験の差である。
「んふぅ…ンンッ…ん…」
 自らの乳首を口に含みながら、エザリアに乳房を揉まれて快感の波に弄ばれているルーは気付いていないが、精神力だけで抑える限界を超えたロミナも、椅子の肘をぎゅっと掴み、スカートの下で白い足をもじもじと摺り合わせている。
 にぃ、とエザリアが笑うと、指の動きがひときわ激しくなり、身悶えするルーがたまらず自分の乳首から口を離して切なげに喘ぐ。
「ルー、口元がお留守になってるわよ。続けなさい」
「ひあぅっ…は、はいぃ…」
 促されたルーが再度自分の乳首を口に含み、交互に吸い始めるのを見ながら、ロミナはもう股間の疼きを抑えられなくなってきていた。手は椅子の肘を掴む事でどうか止めているが、もう自分にエザリアの冷徹な視線が向けられている可能性も、ここが決して自宅の寝室などではない事も忘れ、ルーの痴態から目を離す事も出来ず、切なげに太ももと太ももを摺り合わせる。
 身をくねらせて喘ぐルーの嬌声がロミナの欲情を刺激し、エザリアの指に合わせてたぷたぷと揺れる巨乳が更に増幅させる。
 と、エザリアの指がすっとルーの乳から離れた。愛撫を止められたルーが物欲しげに身をくねらせ、嬌声につられてもじもじしていたロミナの足も少し動きが鈍ったかに見えた直後、不意にエザリアがルーの足を持ち上げた。白い紐が下がっている秘所も尻尾が生えているアヌスまで、ロミナに見えるような格好をさせ――エザリアは、にこっと微笑った。
(気付かれてた!?)
 当然と言えば当然なのだが、股間から上の血液が逆流するような気がした瞬間、エザリアはその尻尾に手を伸ばし、アヌスへ挿入されていた尻尾を一気に引き抜いた。
「うぁっ!?ふひゃあうぅんっ!!」
 ルーの尻から生えていた尻尾は、半分はふさふさした尻尾だが、もう片方はアナルバイブでシリコン製の玉がひもで繋がっている。しかもロミナが生理用品かと眉根を寄せたそれは紐の付いたローターで、ルーの前後の穴で微弱に蠕動し膣内と直腸内を刺激していたのだ。ロミナ用なので玉が最小数の物を選んではいたが、ただでさえエザリアの愛撫と機械の振動で達しかけていたところへ、尻穴の玉を一気に引き抜かれてはたまらない。ルーが全身をぴんっと突っ張らせ、甲高く啼いたルーが乳房からミルクをまき散らして絶頂を迎えた瞬間、ロミナの中で何かが弾けた。
「だ、だめぇっ、イク……っ!?」
 爪が食い込むほどきつく、椅子の肘を掴んだロミナのスカートが急激に隆起してくるのを見たエザリアが、
「ルー、本気(マジ)イキはしてないわよね」
 変わらぬ観察者の声で訊いた。
「大丈夫、おまんこじゃないから半分位で抑えてます」
「結構」
 ひょいとルーを膝から降ろすと、手で覆う事も忘れ呆然と自分の股間を見つめるロミナの元へ歩み寄った。
「エ、エザリア…あなた私に何を…あっ」
 涙目で抗議するロミナには構わず、エザリアはロミナのスカートに手を掛けてぐいとまくり上げた。十数センチスカートが破れ、白いパンティが丸見えになる。
 女性器を覆っているべき筈の箇所は、内側から嫌と云うほど押し上げられている。
「ふうん、ルーのセルフ授乳見て牝ちんぽ生えちゃったの?ちょっと溜まってたかしら?」
「あ、貴女が私に何かしたんでしょうっ、ど、どういうつもりなの!?」
「同じティーポットから飲んで同じお皿から食べて。私が裸になって、異常のないまんこをご披露すれば納得してもらえるかしら?」
「あ…ご、ごめんなさいエザリア。私、つい…」
 エザリアの云うとおり、ロミナだけ違う物を飲食はしていない。
 悄然と俯いたロミナに、
「スカートはお貸しするわ。コートを着て帰ればばれないから、家へ帰ってユーリに抜いてもらうのね。一回すっきりすれば治るわ。時間経つだけじゃ収まらないからね。ルー、着替えの用意を」
「はい」
「ま、まってエザリア」
 仰天も皮肉もなく、当然のように告げるエザリアに、ロミナはたまらずそのブラウスを掴んだ。
「なに?」
「ユ、ユーリにそんな事して貰えるわけ無いでしょう。お願いだから…あなたがどうにかして」
 男性器に似てはいるが形状が違う。大淫唇下部の痴肉が盛り上がって形成されているが、その成分構成などより、刺激を求めてずきずきと疼くそれを隠して家に帰り、自分の手で刺激してすっきりさせるなど、想像しただけでも哀しすぎる。
「どうにかって、私が原因でもないのに?」
「ごめんなさい、その事は謝るわ。思わず頭に血が上ってどうかしていたの。だから…お願いよエザリア。私にこんな恥ずかしい格好で家に帰れと云うの?」
 どう考えても原因はここでの飲食にしかあり得ないのだが、強引に問い詰めると言う思考は浮かばないらしく、目に涙を浮かべてロミナが哀願してくる。
 顔にまだ欲情の色が残したまま、目に涙を浮かべる清楚な人妻に、エザリアは少し考えてから頷いた。
「…いいわ、少しなら手伝ってあげる。そんなに牝ちんぽがぼっきしてるんじゃ、おまんこも疼いてたまらないわよね」
「そ、そんなえっちな言葉言わないでぇ」
 顔を赤くして横を向くロミナを見て、どれだけ性に淡泊なのかと、少々呆れると共に物足りなさも感じていた。
 この分なら薬の調合を変えて、最初から自分が味見しても良かったかもしれない、と。
 スレンダーボディの人妻は、十分エザリアの口に合う範疇であった。
「ルー」
 エザリアが指を鳴らすと、心得たルーがロミナの前へと進み出る。
「あ、あのエザリア。これってその…何なの?」
「お薬の副作用、病気じゃないわ。一時的に肉体を変化させただけよ。でも、イッたらちゃんと潮噴くのよ。まんこと牝ちんぽの両方からロミナはどんな表情(かお)して――」
「わっ、私そんな事しないものっ」
「そうね。ルーには扱いを仕込んであるから、任せておけば大丈夫よ」
 上半身は服を着たまま下半身だけ露出させられ、膣口からは半透明の愛液を太ももへ滴らせたロミナの肉竿をちらりと見やり、エザリアはソファに戻りゆったりと脚を組んだ。ルーをどれだけ昂ぶらせ、ロミナがどんな痴態を晒してもその口調と視線に微塵の変化もない。
「失礼しますロミナさん」
「え、ええ…」
 ルーの手が愛液で濡れたロミナの太ももに左右に開き、診察台の妊婦よろしく左右にぱくっと開かせる。股間の濃密に生え揃った淫毛へ当たる程に勃起した肉竿と、これも勃起した淫核の下で愛液を垂れ流し入り口をひくつかせている膣口からは濃密な牝の匂いが漂ってきた。
「ロミナさんのおまんこ、いやらしく開いていい匂いがします」
 股間に顔を近づけたルーが、熱い吐息を掛けながら肉竿のすぐ近くで淫らに囁く。
 決して声は大きくないが、股間の間近での囁きは耳元へのそれよりひどく扇情的に聞こえ、ロミナがぎゅっと目を閉じて顔を背けた直後、
「ひあっ!?」
 その背が反り返った。ルーが肉竿の先端をふうっと息を吹きかけたのだ。そのまま間髪入れずにぱくっと咥え、先端付近を両唇で軽く扱いてから一気に根本まで口に含み、巨乳を揺らしながら激しく顔を上下させる。
(あうぅ…くっ…な、なにこれ…気持ちいい…気持ちよすぎて変になっちゃうぅっ!)
 肉竿が生えたのも初めてなら、口腔性交されるのも初体験で、ロミナはきつく唇を噛み、ルーの肩をぎゅっと掴んでどうにか堪えていた。
 そうでもしないと、あっというまにイってしまいそうだったのだ。
 だが身体は既に半ば出来上がっている所へ、エザリアが直々に調教したルーの口腔奉仕を受け、ロミナの下半身は三十秒と経たずに絶頂へと近づきだしていた。全身の神経が肉竿に集中したかのように身体のたった一点から凄まじい快感が流れ込みあっという間に全身を駆けめぐる。
(こ、これが…男の人の感じ方なのかしら…も、もうイっちゃいそう…)
 目を閉じていることもあって、文字通り全神経が一点集中しているロミナには、自分が達しそうになっているのを感じ取っていた。これがエザリアの言っていた疑似射精なのかと、ぶるっと身を軽く震わせた直後――不意に快感が止んだ。
(!?)
 男性器の移植とは違い、まだ女性器の一部なので感じ方も男性のそれとは違う。達する寸前での快楽停止は、元に戻るどころか苦痛さえ感じる程で、半ば呆然としながらロミナが目を開けると、ルーがエザリアの膝へ戻っていくところであった。エザリアも当然のようにルーを抱き上げ、呆然とするロミナの前でその喉をころころと撫でている。
「エ、エザリア…」
「少しなら手伝う、と私は言ったわね。約束は破っていないわ。もう自分でするやり方も分かったでしょう」
「そ、そんな…ここまで私を高ぶらせておいてひどい…」
 口腔奉仕を止められた事で、肉竿は痛みすら伴ってずきずきと疼いているが、収まるどころか先端はルーの唾液とロミナの愛液に塗れ、これも勃起した淫核に触れる程屹立して反り返ったままだ。
 だがロミナが涙目で抗議し、母親同士の視線がぶつかり合っても、エザリアは冷徹な視線で見返し微動だにしない。スーツ姿でルーを膝に乗せて撫でているエザリアと、下半身をむき出しにして淫核と肉竿を勃起させているロミナでは、同じ母親同士でも全く勝負になっていない。
 女同士の視線が宙で絡み合う中、先にエザリアが口を開いた。
「勝手に疑われ、それでもルーを貸して約束を守ったのは私よ。私が譲歩できるのはここまで。あとは、どうすればいいのか貴女が考えなさい。まんこも牝ちんぽも疼かせたまま、誰もいない家へ惨めに帰るのか或いは――分かるわね」
「……」
 或いは、の先に何があるのかは言われずとも分かる。穏健派で機械工学の権威でもある夫の力を自分達に貸すよう、ロミナから説得しろと言うのだ。
 ここに来て、ロミナもようやくこれをエザリアが仕組んだのだと、朧気に感じ取っていた。確かにエザリアは、自分に注いだティーポットからロミナにも注いだが、急遽キャンセルになったからルーに飲ませると言った分は、ロミナが一人で飲み干した。
 そう、予め注がれていた紅茶にエザリアは一切手をつけていないのだ。それに、出されたティーカップも、ロミナは交換を要求していない。ロミナの性格を考えればそんな事はまずあり得ないし、カップの飲み口に塗っておいてもいい。
 下工作はうまく行き、そしてルーも口腔性交でロミナを限界まで昂ぶらせる事に成功した。
 後は――ロミナが夫への忠誠と自分の欲望を天秤に掛け、どちらを選ぶかだ。
 エザリアは策士だが、プライドの高い女でもある。ここでロミナが限界近くまで疼いた肉体を引き摺り家へ帰る方を選べば、それを邪魔立てはするまい。おそらく、今後ロミナにちょっかいを出すこともないだろう。
 一時的に惨めな思いをするロミナが、それこそ野良犬にでも噛まれたと思って忘れれば済む。
 ただ、ロミナが協力と引き替えに快楽を選べば、必ず成果は求めてくる筈だ。万一裏切れば、プライドに賭けて復讐してくるのは目に見えている。
 普段のロミナならば一顧だに値しない言い分だが、エザリアの策略とはいえ肉体を変化させられ、しかも少女の舌と唇で肉竿を愛撫され、達する寸前までいって不意に快楽を停止させられた人妻にとって、それはあまりに華美な誘惑であった。
 一度出さなければ収まらない、と言ったエザリアの言葉に嘘がなければ、疼く身体のまま家に帰り、あまつさえ一人で肉竿を刺激して自慰行為に耽る事になるのだ。それは得られるであろう快楽と比して、想像するだけでも惨め過ぎた。
 ルーは我関せずとエザリアの指に身を委ね、エザリアもまたまるでロミナがそこにいないかのように、ルーの首筋から胸元を指でこしょこしょとくすぐっている。
 奇妙な静寂の中で旧式の時計だけがチクタクと時を刻み――五分近く経ってやっとロミナの目が開いた。
「いいわ、エザリア…貴女に協力する。でも、ひとつだけ約束して」
「……」
「ユーリに何をさせたいのか分からないけれど、戦争を拡大する為じゃない、戦争を早く終わらせる為に使うって。エザリアお願いよ」
 その双眸に浮かぶ涙は、肉竿を生やされたり快楽を止められた時とは明らかに異なっていた。
 ルーを降ろしてロミナに歩み寄ったエザリアが、ちうとその額に口づけした。
(エ、エザリア…)
「約束するわロミナ。同じ母親同士、我が子を戦場になんて置いておきたくないのは私も一緒よ。ね?」
「ええ…」
 さっきとは打って変わった優しい声で告げ、エザリアが白い小指を差し出した。ロミナもおずおずと応じ、母親同士の小指がきゅっと絡み合う。
「ただロミナ、一つ言っておくけれど――」
「な、なに?」
 言質を取った途端、いきなり豹変したかと警戒するような表情を見せたロミナに、エザリアはふふっと笑って、
「牝ちんぽじゃないと、イけなくなっても責任は取らないわよ?」
「も、もぉーっ」
 もしそうなったら永遠にエザリアの手の内か、と思わないのがロミナのロミナたる所以である。ぷうっと頬をふくらませた表情は、到底一児の――それも十代の娘を持つ母親とは見えない。
「決まりね」
 すい、とエザリアの顔がロミナに近づき、あっという間に唇が重なった。
 唇はすぐに離れ、目を白黒させているロミナに、
「このエザリア・ジュールが、忘れられない快感をあなたに教えてあげるわ。見なさい」
 ソファへ半分寝そべったように座ったルーが、ゆっくりと足を開いていく。45度位まで開くと、その中心部から垂れ下がっている紐に指が伸びていく。
 生理用品だと思っているロミナの眉が寄った次の瞬間、ルーの唇が切なげに開き、膣口から小さな物体がぬるりと引き抜かれた。
 ローターだ。
「あ…っ」
「女の子が、あそこにおもちゃを入れるのは反対かしら?」
 ルーの愛液に塗れたそれを見ながら、呆気に取られているロミナの背後で、エザリアの笑みを含んだ声がした。ルーは更に足を開いていき、やがてロミナの眼前で淫唇を左右にぱっくりと開けた。
「ロミナさん、挿れて…?」
 相手は我が子と同じ年頃の娘――そう分かっていても、大きく開かれた脚とぷっくりふくらんだ恥丘、そしてその中でわずかに入り口が開いたまま外襞をひくつかせているルーの性器からロミナは目を離せなかった。
「男に入れられた事はあっても、女に入れた事はないでしょぉ?ルーは舌の奉仕も上手だけど――」
 エザリアがロミナの耳元に口を寄せ、
「おまんこも入り口からぬるぬるに絡みついて、とーっても気持ちいいの。すぐにイっちゃうかもよ?」
 はふ、と吐息と共に囁いた。
 ロミナの出した条件にエザリアが約束した時点で、ロミナの警戒の糸は途切れている。ごくっとのどを鳴らしたロミナが、ふらふらとルーに歩み寄る。
 だが肉竿を手で掴んだロミナが、ルーの肩に手を掛けようとした時、
「駄目よロミナ」
 エザリアの冷たい声が飛んだ。
「挿れてもいい、とは言ったけれど受け入れるのは私じゃない。何をしたいのか、ちゃんと自分の口で言いなさい。そうでしょう、ルー」
 こく、とルーが頷く。
 秘所を濡らしているのはルーだけではない。むしろロミナの方が、膣と肉竿と両方から愛液を滴らせ、おまけに肉竿は刺激を求めて疼いており、理性は結界寸前になっている。
「ルーちゃんおねがい、あ、あなたのあそこに…わ、わたしのを…い、入れさせて…っ」
「ロミナ、あなたいつからそんな抽象派になっちゃったの?子供じゃないんだから、あそことか私の、じゃだめよ。ルーのおまんこに私の牝ちんぽを挿れさせて、ってね」
 淫らな単語をわざと、そこだけゆっくりと区切って告げるエザリア。
 その響きが、股間に異形の物を生やし、快楽に疼き汗ばんで上気した身体を持てあます人妻に、最後の一線を越えさせた。
「わ、私の牝ちんぽを…ルーのおまんこで受け止めてっ」
 僅かに残った恥じらいと共に吐き出された言葉を、ルーは微笑って受け止めた。
「はい、どうぞ」
 と。
 ルーの脚の間に入ったロミナが肉竿を手に、ルーの股間へと身体を近づける。
 膣口に肉竿の先端が触れる寸前、
「ルーちゃん、ほんとうに?」
 訊いたのは、最後の理性だったろうか。
「はい。ルーのおまんこに、いっぱい出してください」
 ルーが淫唇を左右に開き、ロミナの白い尻に手を当てて軽く押した瞬間肉竿と膣が結合した。
「ふあっ」「あう!」
 二人が同時に呻き、ロミナがぶるぶるっと身を震わせた。
(で、出ちゃった…)
 ルーの透明の愛液とロミナの白濁した愛液が混ざり合い、ルーの膣口からどろりと流れ出してくる。
「ごめんなさい、膣(なか)が入り口から絡み付いてきて気持ちよかったから…」
「うれしいです。でも、私のは奥の方がもぅっと気持ちいいんですよ?」
 そう言ってルーが、柔く首に手を回してくる。まだ肉竿は膣内から抜けてはおらず、勃起も収まっていない。ルーの仕草と表情に肉竿は一段と硬さを増し、ロミナはルーと抱き合いながら腰を前後に動かし始めた。
(イザークと最初に犯った時も、私のまんこであっという間に出しちゃったわね。でも、イザークの方がまだ持ったわよ、ロミナママ?)
 近親相姦と同性愛の歪んだ両刀を使う美貌の人妻が、二人の乳房が重なり乳首同士がこすれるのを見ながら内心で呟く。
 やがてルーの膣内に放つ事五度、ルーの乳房から出るミルクとエザリアが開発したルーの膣内は、ロミナから貞淑な人妻の仮面を完全にはぎ取り去っていた。
「おふぅっ、イイ、イイわ、ルーのおまんこ、私の牝ちんぽにに絡み付いてくるぅっ!もっと、もっとおっぱい吸わせてっ、やらしいミルクを私に飲ませてぇっ」
 後背位で背後から突かれると、その度にルーの乳房がたぷたぷと揺れてミルクを飛ばすのを思い切り揉みしだき、ルーの尻に自分の腰を打ち付け自ら欲情を高めていく。
 心得ているルーも淫らに応じ、脚を開いてロミナを受け入れ、淫らに腰を振って肉竿をより深く受け入れながら自分の乳首を吸い、或いは乳を搾ってミルクを飛ばしロミナを煽る。
 ルーもロミナも、快感で愛液は白濁状態になっている。白濁した愛液を膣内に放つのはまるで膣内射精のようで、歪んだ快感がロミナに獣じみた喘ぎをあげさせ、快感だけを求めて妖しく激しく腰を動かさせる。
 文字通り獣のような女同士のセックスを見て、エザリアの笑みは更に深くなった。
 
 
 
 数時間もルーとの性交に溺れ、夕方になって漸く欲望を全て吐き出したロミナがエザリア邸を辞した時、その後ろ姿は、来訪時の貞淑な人妻のものとは違い、全身に淫らな気をまとった妖女のそれに見えた。
 エザリア様口直ししてっ、とルーにせがまれてもエザリアの微笑は消えなかった。
 そして、新型機の開発に及ばずながら全面協力させていただきたく、と――げっそりと窶れたユーリ・アマルフィがパトリックの元を訪れたのは、それから三日後の事であった。
 
 パトリックから連絡を受けた夜、エザリア・ジュールの日記にはこう記されていた。
「二重に手懐けられてウマー」
 と。
 馬、ですか?と小首を傾げて訊ねたルーに、エザリアはうっすらと笑ってひとつウインクした。
 
 
 
 
 
(第八十三話 了)

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