妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
ドクトルシビウの闇カルテ:ツェザーレ
 
 
 
第七十四話:ミーア先生のお時間:前から後ろから(前)
 
 
 
 
 時折小さく砂塵の舞う道を、キラとステラがとことこと歩いていた。シンジと買い物に来た帰りで、シンジに色々買ってもらってご機嫌だが、そのシンジは少し前方を歩いている。普通の声量なら、届かない位の距離だ。
 さっきまで三人で歩いていたのが、何故かステラがキラの手を引いた。
 シンジはと言うと、考え事でもしているのか二人と離れた事に気付いた様子はない。
「どうかしたの?」
「っていうかキラ、どうしてお兄ちゃんにあんな事頼んだの?」
「あんな…ああ、フレイの事?」
「アラスカに着くまで閉じこめておくのが一番無難なのに、さっさと出してと頼むなんて、何を考えてるの」
 シンジさんにお願いが…、とキラがおずおずと切り出したのは、現在独房に放り込まれているサイとフレイの釈放であった。先日、キラ達がバルトフェルド邸に連れ込まれた時、何をどう考えたのかストライクに乗り込み、見事に顔面から転倒して破損させた。ここまで無傷無敗で来たストライクに傷を付け、しかも無様に倒してみせた第一人者となり、結果十日間の独房入りを言い渡された。
 そもそもが、偶々張り切ってしまった為の突進ではなく、キラを目の敵にしており、自分の婚約者を取られたと思いこんだ末の暴走であり、ステラにいたってはもう少しでフレイを射殺するところであった。どう考えても爆弾娘なのだが、何故かキラは出してとシンジに頼み込んだ。
「ステラって、頭いいけど時々だめだよね」
「…どーゆー意味」
「フレイって、あれでも一応志願兵なんだよ。それも、お父さんを討たれて立ち上がった悲劇のヒロイン」
「?」
「第八艦隊から地球軍本部に通達が行っていれば、地球軍は多少なりともフレイを持ち上げて利用しようとするでしょう。ステラと私、そしてシンジさんはオーブで艦を降りる。でも、アークエンジェルはアラスカまで行かなきゃならない。これはシンジさんも分かってない事だけど、ガンダムに傷を付けた事なんて些細な事と許されて、フレイが偉くなる事は十分あり得る。ただでさえあの性格なのに、独房の中で恨みを増幅していたら八つ当たりで何を企むか分からないでしょ」
「キラ…」
 またお人好しが顔を出したかと思ったら、かなりかけ離れた事を言い出した。
 ステラもびっくりの分析である。優しいどころか、恨みを増幅するだろうからさっさと出した方がいいと言うのだ。
 キラって本当は怖い子なのかと、ちょっと驚いてキラを見たステラだが、
「それに、私はフレイに殺される程間抜けじゃないから」
「…キラ?」
「身の危険は感じてないし、もし何かあればシンジさんにたっぷり慰めてもら…うにー!?」
 後方から、何やら騒がしい気配がしてシンジが振り向くと、ステラがキラの頬を縦横無尽に引っ張っているところであった。
「…柔らかい頬と見える」
 一言感想を呟き、シンジはまた前を向いて歩き出した。
「なんか変だと思ったらやっぱりそんな事考えて!この性悪女っ!」
 ステラに頬を抓られながら、何故かキラは抵抗しなかった。しばらくステラのなすがままになっていたが、やがてその手をすっとおさえて、
「ステラも一緒に、って思ったんだけど」
「…え?」
「ステラなんか嫌い」
 数分後、終わったかと振り返ったシンジの目に、妙な光景が映った。さっきまで一方的に責めていた筈のステラが、今度はキラに頬を引っ張られ、あまつさえ胸まで揉まれているのだ。
 なおここは往来の真ん中であり、人の行き来も少なくないところだ。
「逆襲のキラになってる」
 ふむ、と頷いてから、シンジはさっさとこの場を離れる事にした。
 お仲間だなどと思われたら大迷惑である。
 
 
 
(ここからが腕の見せ所よね)
 と、ミーアは内心で呟いた。マリューを呼び出したのは無論ミーアであり、その上でこの姿を見せつけたところまでは計算ずくである。
 だが、マリューを惨めに貶める事が目標ではない。ミーアの視線は違う所にある。
 そこまで上手く持って行かなくてはならないし、その前に――。
(碇さんから殺気を感じるんだけど)
 シンジとまだくっつているミーアだが、早くも背中が汗ばんで来ているのを感じ取っていた。突き放そうとかしない分、余計に怖い。
 もしマリューがこのまま去ってしまったら、最悪の終焉になるのはほぼ確定だったから、ぎゅっと拳を握りしめたマリューが戻ってきた時、ミーアはほっと安堵した。
 がしかし。
 ぺちっ。
「…ふえ?」
 キッとミーアを睨んだマリューが、その頬を叩いたのだ。叩いた、と言うにはあまりにも軽かったが、この反応はミーアも想定外であった。
「勘違いしないで。あなたの事なんかどうでもいいわ。ただシンジ君が…シンジ君がこんな終わり方を選んだのが悲しかっただけよ。シンジ君…そんなに私の事が嫌なら言ってくれれば…良かったのに…」
「……」
 涙を拭ったマリューを見て、シンジがゆっくりと身を起こした。
「夜更けに眠れずにやって来た、と言う風情ではなかった。それに、今妙な事を言った。こんな終わり方、とは?」
「…呼びつけてこんな所を見せて…そう言う事言うんだ…」
「呼んでいない」
「え…ま、まさか…」
「ごめんなさい、私が呼び出したんです。マリューさんの机の上に手紙を置いて、この時間にここへ来るようにって…あぅ」
 言い終わらぬ内に、その首がひょいと持ち上げられた。
「つまり、マリューの前で私にウェルダンにされる事を望んだのだな。その願い、きっちり叶えてくれる」
 すう、と突き出された手からあっという間に炎が吹き上がるのを見て、マリューの方が慌てた。
「ちょ、ちょっと待ってシンジ君。ちょっと下ろして」
 シンジを押しとどめてから、
「なぜこんな事をしたの」
 ややきつい視線でミーアを見た。
 ぽいと放り出されたミーアは、あまり悪びれた様子もなく、
「知りたかったのですわ」
「…何を」
「マリューさんの本当の気持ちを」
「どういう事」
「付き合いはそんなに長くないし、それに字を書いている所は殆ど見た事がないから、碇シンジと署名をしておけば、マリューさんが必ず来るのは分かってましたわ。でも、碇さんに抱き付いている私を見た時、マリューさんは責めなかった。それどころか、碇さんが見せつけたのだと思って逃げようとした。どうして?」
「そ、それは…」
「碇さんが好き、とマリューさんは私に言ったでしょう」
 ミーアの言葉に、マリューの顔がかーっと赤くなる。
 直ぐに落ち着いた。
 静かな視線でミーアを眺めているシンジに気付いたのだ。この視線の裏に何があるか、マリューはよく知っている。
「だけど、他の女と抱き合っているような姿を見ても、責める事も問いただす事も出来なかった。その好きは…本当の好き?」
「ど、どうして…どうしてミーアさんにそこまで言われなくちゃならないの。あなたには関係ないでしょうっ」
「本当に?」
「!」
 マリューがすぐに言い返せなかったのは、ミーアが何を言わんとしているのか分かったからだ。
 碇さんを好きなのは貴女だけではないのに、と。
 そこにミーアが含まれていない事をマリューは知っていた。シンジを間に、マリューと直接対決する為にこんな事をしたのではない、と。それが分かるから、余計に腹立たしいのだ――シンジを信じられなかった自分を見せてしまったから。
「私は…私はシンジ君がす、す…好きっ」
 言い切るまでに二十秒くらい掛かった。
「だけど…だけどシンジ君を完全に理解なんて出来ない!私の事をどう思っているのかさえ…え?」
「マリュー」
 ふとシンジが、穏やかな声でマリューを呼んだ。
「シンジ…君?」
「ありがと、姉御」
 シンジはうっすらと微笑った。
(シンジ君…あれ、今姉御って…)
「でも、あまり深入りしない方が良い。私の心は、ここにはないのだから」
「!」
「無論、ヤマト達をオーブへ送る事は最優先事項。でも、その後は帝都へかさかさと戻る事が最優先になる。マリューはまっすぐな人だから…その想いが深ければ深い程、マリューの傷が大きくな…つ!?」
 スパン!
 突如として、ミーアの一撃がシンジを襲った。
「ミー……ア?」
「何をきれい事言ってるのよ、どいつもこいつも。あんたの心がここにない事位、艦内の誰でも知ってるわよ。いずれ帰るから?だったら、ここにいる間は想いに向き合うからって言えばいいじゃない。あなたもそう、本当に好きなら好きって言えばいいでしょ。他の女といたら、どういう事なのってぶつければいいじゃない。人を好きになるってそんなに綺麗な事だと思っているの?」
「『……』」
 シンジもマリューもすぐには口を開かなかったが、その心中はだいぶ異なる。
 ここにいる間限定、と割り切れる程人の心は単純か?と、どちらかと言えば冷ややかなのがシンジだったし、
(そんな事を艦長の私が…思うように出来たら苦労するわけないじゃない)
 表情は変えていないが、内心は恨めしげにミーアを見ているのがマリューだ。
「でも」
 最初に口を開いたのはミーアであった。
「自分が正しいと思う事、したいと思う事であっても、そんな簡単にできれば苦労はしませんわ。そうですわよね、マリューさん」
「え、ええ…」
「これ以上は私が言う事じゃないし、マリューさんと碇さんが決める事。だからこの話はもうおしまい」
「え?」
 勝手に始めて勝手に打ち切るミーアを、呆気に取られて見たマリューだったが、
「この後は、お仕置きの時間ですわ」
「分かっている、お前のウェル…痛」
 スパン!
「うるさい!」
 シンジを一撃で退け、
「も・ち・ろ・ん、マリューさんに決まってますわ」
「わ、私っ?何でっ!?」
「決まっているでしょう、自分の心を――そして碇さんを信じられなかったからですわ。筆跡はともかくとして、碇さんが女を振る時、新しい女を見せつけるような最低の屑人間だと思ったのでしょう」
「く、屑だなんてそんな…」
「じゃあ、自分の都合で男を振る時、その帰り道で新しい男を見せるような女をどう思うの?」
「そ、それは最低だと思うけど…」
「ほら見なさい」
「う…」
「こーゆー女にはお仕置きが必要、と碇さんも思いません?」
 ここに来て、シンジにも漸くミーアの意図が読めてきていた。ミーアの事だから、仕置きと言っても、
「勿論マリューさんを裸にして、碇さんと二人で鑑賞ですわ」
 というほど――純粋な事はしない筈だ。
 元より、シンジと絡んでいる所を見せつけ、マリューがどうするか試す気だったのだ。もしもマリューが逃げ出さなかったら、邪魔したお詫びにとか言ってそれを置いていくつもりだったのだろう。
 ミーアの思考は時折シンジすら凌駕するところにあり、そして何よりも――シンジ本人がミーアの所行に興味が出てきたところだ。
「姫の仰せの通りに」
「シ、シンジ君そんな〜」
 二人の女の視線がシンジに向いた。
 一人は小さな呪詛を込めて。
 そしてもう一人は――瞳の底にある種の色を湛えて。
 短い台詞に、ミーアは何を読み取ったのか。
 だがそれも一瞬の事で、
「じゃ、決まりですわね」
 言うが早いかその手が動き、あっという間にマリューを裸に剥いてしまった。
(早っ!)
 シンジでさえも驚愕した程の早さであり、当のマリューすら事態の把握に数秒かかり、きゃっと悲鳴をあげて思わず股間をおさえた瞬間、今度は何かを口に含んだミーアがマリューの顔をとらえて口づけした。二人の柔らかい唇が重なり、ミーアの舌がマリューの口内にするりと入り込む。
「んむ!?んんっ…んっ…!?」
 否応なしに嚥下させられ、目的を達してもミーアの舌は離れない。ミーアの舌がマリューの舌を絡め取り、二人の舌が絡み合って淫らに蠢く。つ、と抜き出したミーアの舌をマリューが追い、赤い舌先がこすれ合った。
 ふふ、とミーアが妖しく笑った。
「やっぱりマリューさんはキスがお上手。そして…とてもえっちですわ。私の舌を追いかけてくるなんて」
 そう言うミーアも、目許をうっすらと染めている。ミーア以上に顔を赤くしたマリューが、
「そ、そう言うミーアさんこそあんなにやらしーキスしてきて…えっちなのはそっちで…!?」
 言い返そうとして、不意にその身体が硬直した。
「ふあぁ…な、なにっ、これ…か、身体が…あつく…」
 頭の先からつま先まで、未体験の熱量が一気に駆け抜け、また戻ってきたその先が股間と知った時、反射的にマリューはしゃがみ込んでいた。
「い、いやあぁっ!!」
 悲痛な叫び声に、さすがのシンジも僅かに表情が動いたが、一人動じていないは無論ミーアであり、
「世の中はそんなに甘くありませんわ」
 マリューの後ろに回り込んだミーアが、がしっと羽交い締めにして立ち上がらせ、しかも強引に手をどけさせた。
「淫核肥大?」
 シンジが呟くのと、
「いやあっ、み、見ないでぇっ!」
 マリューが悲痛な声をあげるのとが同時であった。
 それもその筈、マリューの股間からは――ペニスが生えていたのだ。
 いや、よく見ると違う。まず陰嚢はないし、生殖器と言うよりはむしろ、別個の生き物に見える。
 無論、シンジが一度も見た事はないものだ――マリューの女性器を隅々まで把握しているシンジであっても。
 但し、傍観者と仕掛け人以外、即ち本人にとっては相当なショックであり、股間を隠す事も忘れたかのように、
「ひ、ひどいわこんなのって…」
 股間を隠す事も忘れたかのように、膝をついたマリューが顔を覆って泣き出した横で、
「さすが、ですわね碇さん。ちっとも驚かれないのね?」
「淫核肥大で、十数センチの大きさにまでなったものなら、シビ…いや、とある病院の資料室で見た。何やらの、プレイをし過ぎた患者(クランケ)のものだった。だがこれは…」
「ええ、クリトリスを大きくしたものではありませんわ。これは完全に別物」
 頷いたミーアが、
「マリューさんの想い人は、笑ったり馬鹿にしたりはしないわ。ほら、碇さんに見せてあげて」
 顔を覆ったまま、マリューが思い切り首を横に振る。
「これだから、お子様はやーね」
 マリューを冷ややかに見下ろしたマリューが、
「仕方ないから、ミーアのを見せてあげますわ。あの…笑わないでね?」
「…今と言ってる事違うぞ」
「だって…碇さんはミーアの恋人じゃないから」
「笑ったりはしない。そもそも笑うような代物でもない」
「ほんとに?」
「本当に」
 ちょっと甘えるような視線を向けたミーアが、指先をすっと動かすとそのショーツが裂けてはらりと床に落ちた。
 
 ぴくっ。
 
「じゃ、じゃあ…」
 ミーアもまた、取り出したものを口に入れ、こくっと喉を鳴らして嚥下した。
「そう言えば」
「はい?」
「あの時はそんなの生やしていなかったと思ったが。記憶違いか?」
「ああ、ラクスとイかせ合った時ね。理由は二つあるわ。一つはも少ししたら教えてあげる。もう一つは…やっぱり誰にでも見られたいものじゃ…ないでしょ?」
 
 びくっ。
 
 天然か計算ずくなのかは不明だが、あなたは特別な人、と言わんばかりのミーアの口調は、さっきからマリューをチクチクと刺激している。泣いてはいても、そこは一応大人であり、身も世もなく泣き崩れるような事はなく、状況は把握している。
「ん…んっ」
 はふう、と熱い吐息を漏らしたミーアが、ゆっくりと股間から手をどけた瞬間、
「シ、シンジ君っ」
 ぶるんっと乳房を揺らして、マリューが勢いよく立ち上がった。
「ん?」
「は、恥ずかしいけど…シンジ君なら…」
 まだ背は向けたままのマリューが、おずおずとこちらに身体の向きを変える。
「いいの?」
「え、ええ…」
 それでも恥ずかしそうに頬を赤く染めて、マリューがそっと横をむいた。
「んー…」
 それでは、とあっさり宗旨替えしたシンジが、マリューの股間をじっと見た。確かに、淫核肥大ではない。そもそも、生えている場所からして膣口の下方辺りだ。色はマリューの肌と同じで、一見すると皮膚と肉をぎゅっと寄せ集めたかのように見える。
「ホルモンバランスを一時的に狂わせた代物か?」
 じっと見つめられて、その肢体をわずかに震わせていたマリューが、この言葉を聞いてちらっとシンジを見た。
(本当に…驚かない人なのね)
 自分なら、それが他人のものだった場合、卒倒はしないまでも到底こんな平然とはできないだろう。マリューには、その自信があった。
 とそこへ、
「けほっ、こほこほっ」
 何やらわざとらしい咳払いがした。
「あ、ミーアのを見せてもら…ウ?」
 シンジだけでなく、横から割り込まれてちょっと睨むように見たマリューも、ミーアの股間を見た途端硬直した。
 明らかにサイズが違うのだ。ゆうに一回り以上はあり、しかも完全に勃起状態で天を仰いでいる。
「これが本来の使い方、ですわ。元々、お楽しみ用ではないのだから…あ、あんっ、そ、そんなにまじまじと見ちゃだめぇ」
 ミーアもマリュー同様全裸になっており、マリューには及ばないものの、通常よりは十分大きな胸を揺らすように身体をくねらせた。
「ちょっと呆気に取られてた。それでミーア、本来の使い方とは?」
「地球軍の女将校を犯す為」
「……」「!」
「別に驚くような事ではないでしょう。連合みたいに、痛めつけて拷問死させるよりましよ。これは、肉体の一部を変形と言うよりは生き物を植え付けると言った方が正しいわ。ちゃんと射精も出来るのよ。もっとも、本人の愛液だけど。男が女を犯して妊娠でもさせると厄介だし、犯すだけでも面倒だけど、女同士なら問題ないわ。たっぷり子宮に愛液を叩き付けられてイきまくって、寝返った女も少なくない。マリューさんは、諜報活動だけで情報を得られる程、プラントの男達が有能だとお思い?」
「じゃ、じゃあ…」
「ええ」
 ミーアは冷たく、そしてどこか淫らに頷いた。
「犯されてすっかり虜になっちゃったのよ…この、牝ちんぽのね」
「め、牝ちんぽって…」
 ミーアの言葉に、マリューの顔が赤くなる。
「言葉をかえても実態は同じだわ。私もあなたも生やしている同士、恥じらってみせることもないでしょう。それより、一つゲームをしません?」
 ミーアが、マリューに挑発的な視線を向けた。それを見てシンジの表情が動いたのは、意外だったからだ。ラクスと淫闘を繰り広げた時は、押されている風でも常に余裕であった。が、今のミーアの表情(かお)は本物に見える。
「ゲーム?」
「さっきも言ったでしょう、疑似だけど射精が出来るって。出るのは愛液だけど、普通の射精と同じで絶頂に達したら出るのよ。お互いの牝ちんぽを責め合って、先に吹いた方が負け」
「私が勝ったら?」
「これは人によって付く場所に小差があって――詳細は省くけど――女に挿れながら自分もまんこに挿れてもらう事も可能なの。だから、薬の成分自体にも避妊の効用とおっぱいからミルク噴いちゃう効用は入ってるわ。勝った方が碇さんに膣出ししてもらう、っていうのはどう?」
「ふーん…」
 初めてマリューが正面からミーアを見据えた。ミーアが真っ向から受け止め、股間から異物を生やした女同士が視線を絡み合わせて対峙する。
 シンジはと言うと、
(ミルク噴くのって効用か?)
 小首を傾げて考え込んでいたが、
「いいわ、その勝負受けてた…痛!シンジ君!?」
 受けたマリューに、何を思ったのかいきなり一撃を送った。
「シンジ君!?じゃないっつーの。なんでそんな勝率の低い勝負に乗る」
「甘いわね」
「…ハン?」
「さっき彼女が言ったのよ、誰にでも見られたいものじゃないって。シンジ君が前に見た時なかったんでしょ…ミーアさんの裸」
 シンジが小さく咳払いした。
「なぜそこを強調する?」
「別にいーけど!とにかく、生やすのをデフォと思う程、慣れてはいないって言う事。条件はそんなに変わらないでしょ」
(デフォってなに?)
 訊きたかったが我慢して、
「勝率が極めて低い事には変わりがないと思うけど」
「シンジ君は…その…」
「ん?」
「あ、あたしの事…嫌い?信じてない?」
「そんな事はないけどなぜそっちに行く?」
「じゃ、じゃあ…任せて。シンジ君が見ていてくれるなら、その…絶対大丈夫だから。大丈夫、マリュー・ラミアスの牝ちんぽはそんなにヤワじゃないんだから」
 強きだか弱気だか分からんな、と内心で呟いてから、
「分かった。ただし負けたら――」
「ま、負けたら?」
「言わなくともお分かりの筈だ」
「あ、あぅ…」
 不気味で物騒な念押しに、マリューの強気がしゅうしゅうと萎えていく。
「だ、大丈夫よ…が、頑張るから」
「じゃ、任せる」
 頷くと、ミーアに視線を向けた。
「で、どうやるの?手で弄るとか?」
「フェラバトル」
「『フェラバトル?』」
 鸚鵡返しに、しかも揃って聞き返したマリューとシンジを、ミーアは側溝にはまってもがく土星人を見るような視線で見た。
「朝は濃厚なフェラとパイズリで起こすのが、お泊まりの時の基本でしょ?なにを純情ぶって…な、なによう」
 ミーアの台詞にマリューは赤くなったが、シンジは冷たく眺めている。
「一つ、そんな事はしてない。二つ、男を知らないくせに耳年増はいかがなものかと」
「え!?シ、シンジ君それって…」
「男は知らないが、経験は豊富。無論、処女でもない。それがミーアクオリティ」
「う、うるさいうるさいっ!さっさとやるわよっ」
 顔を赤くしてぷりぷりしているミーアを見ながら、マリューは考えていた。
(つまり女同士でだけ経験してるって事だし、でも普通の女の子にはこんなの生えてるわけないし…やってみなきゃ分からないわね)
「いいわ、始めましょ」
「へいへい」
(え?)
 何故かシンジがにょきっと起きあがり。
「ベッドを戦場にされるのはもう慣れた」
 かさかさとソファに移動する。
 腰を下ろして足を組んだシンジが、
「ときにミーア」
「…まだ何かあるの」
「ちょっとおっぱい大きくなってない?」
「!」
 一瞬さっと胸をおさえたが、うっすらと赤くなって手を離した。
「ちょ、ちょっと胸が大きくなる作用もあって…ミ、ミルクも出るから…」
「ふーん、そうなんだ」
 得心しているシンジをどう見たのかは不明だが、
「私のおっぱいはサイズ変わらないんだけど。元からこれだからそんなものかしら?」
 乳房をふにふにとつつきながら、マリューが横から口を出した。
「…も、もう絶対許さない。碇さんにバックから突かれてるところを、椅子に縛り付けたまま見物してもらうわ」
「あら、図星?シンジ君にまんこ突かれて喘いでるミーアさんの顔も、ちょっと見てみたいかもね」
「……」
 全裸のままベッドに乗ったマリューとミーアは、互いの股間に生えたそれが目の前に来るように、身体の向きを入れ替えた。
 実を言えば、ミーアは生やされた事はあるが、これを使って競い合うのは初めてだ。散々エザリアのおもちゃにされはしたが、やはり股間から生える異物には抵抗があり、命じられた以外で生やした事はない。責める事に関してはマリューと互角だが、責められる事はだいぶ慣れている。
 あとはマリューがどこまで追いつけるかで決まる。
(濡れてる…)
 互いの秘所を見たマリューとミーアが、同時に内心で呟いた。媚薬としての効果もあるから、既にマリューもミーアも淫唇からとろりと愛液を溢れさせていた。
「どっちが勝っても恨みっこ無し、良いわね」
「マリューさんこそ」
 ごく、と生唾を飲む音が二つ聞こえた直後、指の鳴る乾いた音がした。それを合図に、二人が同時に股間の肉竿にしゃぶり付いてくわえ込んだ。相手のをくわえると同時に自分のもくわえられ、マリューとミーアが身体をぴくっと震わせる。
 マリューのそれはミーアのより小さく、ミーアは根本までくわえると指先で付け根をおさえて顔を上下させ始めた。一方ミーアのそれは、マリューの口内には入りきらず、根本までは無理と悟ったマリューが、先端部分だけを口に入れて先端からぬめぬめと舌を這わせる。
 割れ目を中心に責めるマリューと、頬をすぼめて勢いよく顔を上下させるミーア。唾液を嚥下する音と時折洩れる喘ぎだけが、静まりかえった室内に響く。
 形勢はほとんど互角。その二人を見ながら、ふとシンジは気づいた。
(ミーアの乳がマリューサイズになってる)
 理屈は不明だが、ミーアの乳房がマリューのとほぼ変わらない大きさになり、絡み合う二人の乳房は相手の下腹部でむにむにと押し潰され、相手を先に達させるべく股間を責め合う。
 淫らな喘ぎを洩らしながら互いに譲らぬ二人を見て、いつしかシンジは身を乗り出していた。
 だが、シンジは知らない。
 自分の双眸にある光が、病院の地下室で人造生物の雌同士を戦わせ、その能力値にのみ興味を示すとある院長に似ている事を。
 何よりも――それが健全な青少年の反応とは程遠い事に、シンジは気づいていないのだった。
 
 
 
 
 
(第七十四話 了)

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