妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
ドクトルシビウの闇カルテ:ツェザーレ
 
 
 
第六十四話:Bitch's Nude Fight――Murrue vs Natarle
 
 
 
 
 
「報告を」
「はい」
 シンジは一緒に行ってくれなかったが、カガリに銃口が向いた時は発動せず、自分に向いた途端発動した事で、キラはかなりご機嫌になっている。シンジに身を擦り寄せて言うその喉元は、触れればごろごろ鳴っているに違いない。
 街中でブルーコスモスのテロに巻き込まれた事から、バルトフェルドの本拠地に連れ込まれた事、そして自分達は疑われていなかったが、カガリがしっぽを出した事をシンジに告げた。
「状況を見通して行動するとか現況を分析するとか…茶坊主はそう言うことがつくづく苦手と見える。独裁には向かないし、側近次第ではたちまち亡国だな」
 シンジの口調がどこか同情的に聞こえるのは、無論カガリへのものではない。
「で、その後どうなった?」
「あのね、お兄ちゃん勝ちました」
 えへん、と胸を張ったのはステラである。
「勝った?」
 キラに風の罠は仕込んでおいたし、キラの状況次第では基地すら壊滅させうる風の精だが、ステラが何かを勝ったというのは分からない。
「浴場でカガリ様が堕とされそうになっていたから、私とキラで反撃してその…」
「浴場で?」
 シンジの表情が僅かに険しくなった。何があったか知らないが、浴場では裸と決まっている。しかもカガリが落とされそうになったとはどういう事なのか。
「あ、あのねお兄ちゃん違います。落ちるじゃなくて堕ちる…」
 カガリがアイシャに堕とされそうになり、それをステラが救ったが反撃され、間一髪でキラが割って入り二人で逆襲した、と聞いたがシンジの表情は戻らない。
「あの…お、お兄ちゃん…駄目だった?」
「駄目とは言わない。が、別に助ける義務などあるまい。そもそもステラ、お前の所有権は現在私に移っている筈だが」
「ご、ごめんなさい…」
「力で来るのなら対抗策はあった。が、そっちの方面が異様に上手い相手なら三人まとめて陥落していたのかもしれないんだから」
「はい…」
 しょんぼりと項垂れたステラを見かねて、
「で、でもシンジさんっ」
 キラが割って入った。
「何か」
「その、アイシャさんの時には、力押しじゃなくて良かったと思うんだけど…。だって、どろどろになったカガリにドレスを用意してくれたし…。それに私もカガリも、アイシャさんを殺さずに済んでちょっとほっとしていて…」
「ほう」
「だって…別にひどいことされた訳じゃないし、カガリのせいで敵ってばれたけどちゃんとドレスくれたし…」
「分かった分かった」
 そう言ってシンジが撫でたのは、何故かステラの頭である。
「あぅ…お兄ちゃん…」
「だが害意があれば間違いなく首は落ちている。その、恋人だか愛人だかと思しきアイシャという女性は、腕が吹っ飛んだ時に来なかったと?」
「うん。だって気持ちよすぎて失神していたから…」
「処女の娘二人に、そこまで責め立てられたら本望だろう」
 それを聞いてシンジの表情が緩み、キラとステラの顔がすうっと赤くなる。
 だがその直後、シンジの表情は冷ややかなものへと変わった。
「あの…伝言があるの」
 と、ジブラルタルからMSを搬送中だと言うことも隠そうともせず、ばらばらな仲間とどこまでやれるか見せてもらう、とバルトフェルドが言った事を告げたのだ。
「手の内を隠しもせずに物量作戦と挑発してきたか」
「『……』」
 宙を見上げたまま、シンジはしばらく黙っていた。
 数分が経ち、思わずキラが声を掛けようとしたその時、
「ヤマト、ステラ」
「『は、はいっ』」
「次の戦闘は二人とも艦内待機を命じる」
「『えぅ!?』」
 まさかとうとう役立たずの烙印を押されてしまったのかと、二人の顔色がさっと変わったが、
「物量作戦には物量作戦で。巨乳軍団ですべて滅ぼしてくれる」
「『!?』」
 寝ている側でいきなり物音を立てられ、跳ね起きた子犬みたいな顔をしている二人の前で、シンジはひっそりと微笑った。
 なお――裏を返せば邪魔だと言われているのだが、キラもステラも、その事には気づいていない。
 
 
 
「あんな所でいきなり名前呼ぶんだから…」
「それもう四回聞いた…イテ…つねるのも五回目で…何を怒っている?」
「怒ってないわよ!」
「じゃ、さっさと手を放して」
「……」
 ふんだ、とマリューがぷいっとそっぽを向く。新型艦の艦長、どころかその辺の小娘みたいな反応だが、マリューはナタルではない。
 シンジが全面的にフォローに回ってくれてはいるが、元々出世志向など持ち合わせていないし、やりたくて艦長をやっている訳でもない。おまけにナタルは八つ当たり気味に噛み付いてくるし、オーブへ着いてからの事や更にアラスカへの道行きなど、問題は山積みしている。
 そんなマリューが女として、と言うより軍人以外の顔を見せられるのは、実質シンジただ一人しかいない。無論身体を重ねた事もあるが、異世界人というある意味で最も遠い位置にいる事が大きい。
 これが他の者であれば、余計な影響の事まで考えてしまって、どうしても軍人のままでいる事になる。
 ぷうっと口を尖らせて歩くマリューが、
「痛!?」
 顔をぶつけて立ち止まる。
 シンジが急に足を止めたのだ。
「心配はないと思うが、一つだけ言っておく。姉御、決してまともに立とうとはしないように」
「え?」
「以上だ。ほら、レコアがお待ちかねだ。急ぐよ」
「う、うん…」
(?)
 ちょこんと小首を傾げてから、理解するのに十秒掛かった。
 きゅ。
 追いついたマリューの腕がにゅっと伸びて、シンジに後ろから抱き付いた。
「シンジ君、ありがと」
「別に負ける心配などしていないけどね、念のため」
「念のため?」
「リングがリングだから。あ、それからこら」
 むにっ。
 シンジがマリューの頬を引っ張った。
「な、何?」
「この間、この艦にリングなんて無いって言ったじゃないか。姉御の嘘つき」
「…あったの?」
「……」
「し、知らなかったんだもの、仕方ないじゃない。私だって…準備万端で艦長になった訳じゃないんだから…」
「ふむふむ…うげ!」
 きゅ、と首が絞められ、
「何がご不満で?」
「知りません!」
 同意したのになぜ絞首されるのかと、早足で歩き出すマリューを眺めるシンジには、無論その心中など分からない。
(大変だよねとか…言ってくれてもいいのに。もう、読んでくれないんだから)
 残念ながら、マリューはまだそこまでシンジに分析されていない。
 そして――縦しんばしていたとしても、さらっと口に出すスキルをシンジは持ち合わせていない。
 つまり、期待する方が悪い。
 大股で歩くマリューだが、その足取りほどには怒っていない、とその端正な横顔に書いてある。
「シンジ君、時間は!」
「えーと五分前です姉御」
「ん」
(ちょっと難儀な性格か?)
 シンジが内心で微笑った事など知らぬマリューが、ドアを開けて入っていく。既にナタルは待っており、二人の視線が宙で危険な火花を散らす。
「これは、シンジ君の?」
「NE」
 シンジが首を振り、
「いえ、私のです。シンジ君には設置の協力依頼を。私の発案ですが、よろしいですか?」
「構わないわよ、ありがとレコア。ナタルとはゆっくり理解(わか)り合いたいと思っていたところだから」
 シンジとの痴話喧嘩もどきの雰囲気など消え失せたマリューが、ナタルに挑発的な視線を向ける。
「上官侮辱罪とか、そんな下らない事を言う気は無いわ。上官だから手を抜いた、なんて言い訳されたくないから。シンジ君、いいわね」
「りょーかい」
 シンジとしては正直、関わり合いになりたくなかったのだが、さすがに今の二人が闘ったら、容易に一線を越える事くらいは想像がつく。
「そう言っておけば余計な恥をかかずに済むものを。レコア少尉、感謝します。自信過剰は墓穴になると、身を以て教えて差し上げる」
「が、頑張って」
 身体から立ち上る気がぶつかり合っているような二人を見て、レコアはやっぱりシンジを引っ張り込んで正解だと、ほっと安堵していた。
「さて、ルールを説明するわね。と言っても禁止事項は目への攻撃だけで、後は何でもあり。その方がすっきりするだろうから。あと、制服のまま取っ組み合いなんて事は言いません。二人ともこの中から適当に選んで着替えて。じゃ、シンジ君後はよろしく」
「…ふえ?」
「レフリーと、万一の時は取り押さえ。いいわよね」
「…分かった」
「お二人とも着替えはそちらで。適当に選んでおきましたから」
 渡された紙袋の中を見て、ナタルはさっさと更衣室に入り――マリューはシンジを捕まえて中に入っていった。無論、マリューとナタルが入ったのは別々の部屋である。
 それを見たレコアがうっすらと笑う。
「多分そうすると思ったわ、マリュー艦長」
 シンジはすぐに出てきた。
「じゃあシンジ君、お願い」
「へーい」
 後は任せた、と言わんばかりに、二言、三言告げると、レコアはさっさと出て行ってしまった。
(…むう)
 リングに柱はなく、中央には媚薬の混ざったローションがたっぷりと撒いてある。それを眺めていたシンジが小さく伸びをした時、マリューとナタルが出てきた。
 二人ともビキニ姿でナタルは白、マリューは黒を着けている。
 そして――マリューはブラを付けていなかった。
 たわわな乳房を揺らしながら、ゆっくりとマリューが歩み寄ってくる。
「どうせ脱げちゃうし、隠さなきゃならない程貧しくもないし。ね?」
 婉然とシンジに笑いかけ、ナタルの眉がピクッと上がった。
 そうね、とシンジはどこか微妙な表情で頷いた。マリューがトップレスで出てくる事は、更衣室へマリューに連れ込まれた時から分かっていた。
(止せばいいのに)
 内心で呟いたのは、マリューの乳房への感慨からではない。
「た、たかが大きいだけの乳など…その位私にだってっ!」
 ぐい、と引きちぎるようにビキニのトップを外そうとしたナタルに、
「バジルール止せ」
 シンジの声が飛び、その手がぴくっと止まる。
「シンジ君〜」
 マリューがじろっとシンジを睨む。
「それ位はしてやらないと勝負にならない」
(?)
 理由は不明だが、マリューが乳房をみせつけているのは、単に自慢だけではないらしいと気付いた。
「…まあいいわ。どのみち結果は見えてるんだし。シンジ君、ゴングを」
「ん…?」
 手を伸ばしたシンジの眉が寄る。気にもしていなかったのだが、そこにあったのは――木魚であった。
「…あいつ」
「どうかしたの?」
 なんでもない、とシンジは首を振った。言うまでもなく、木魚はこう言う時に使う物ではない。
 ポク、と何とも気の抜けた音がして、マリューもナタルも一瞬呆気に取られたような顔でシンジを見たが、シンジは明後日の方向を向いている。
 が、それも一瞬の事で、双眸に殺気を湛えた二人が睨み合う。
「ほら、来なさいよナタル。それとも軍事のお勉強しかしてこなかったお嬢様には――」
 パーン!
 派手な音がして、マリューの顔が横を向く。ナタルがひっぱいたのだ。
(…何考えてんだ)
 シンジは見てないが、ナタルがミーアを人質にしようとした時はビンタ合戦を繰り広げたと言うし、医務室では取っ組み合いの大喧嘩もしている。それを忘れた訳ではあるまい。
「ふうん、少しは出来るみたい…ねっ!」
 今度はナタルの顔が横を、いや斜め後ろを向いた。
(通常の三倍…)
 内心で呟いたシンジが思わず頬をおさえた程の音であり、威力であった。
「くっ…このっ!」
 ナタルが叩き返し、マリューの乳房までぷるっと揺れた所を見ると、どうやら本気になったらしい。マリューがナタルの頬を張り飛ばし、ナタルがマリューの頬をひっぱたく。二人とも足を踏ん張ったまま、まったく避けようともせずに頬を叩き合う。
 マリューとナタルの両頬がみるみる赤くなっていき、手にも痺れるような感覚がある筈だが、それでも止めない。交互にひっぱたき合っていたが、段々とリズムが崩れていき、とうとう一際派手な音がして二人の頬が同時に横を向いた。頬を腫らして荒い息を吐く二人が、睨み合ったのも束の間で、ほぼ同時にお互いへ掴みかかる。
 同時に見えたが、一瞬ナタルの方が早かった。
「くぅっ」
 すっと回り込んでマリューの首を捕らえ、ヘッドロックでぎゅっと締めあげる。何とか逃れようともがくが、ナタルの腕は完全にマリューを捕らえている。
 それを見たシンジが、
「バジルール」
 不意にナタルを呼んだ。
「な、なんですっ」
「勝てるんだろうな」
「当然っ」
「じゃ、負けたら艦長になってもらうぞ。無論俺は協力しない。ザフトに墜とされようが討たれようが、全てバジルールの全責任になる」
「!!」
 言うまでもないが、ナタルがマリューに噛みつけるのは、自分が副官の位置にいるからだ。これで艦長となれば全く話は変わってくる。シンジが協力しないと言えば、未だ民間人の立場であるキラは無論、ステラもどう反応するかは目に見えている。
(絶対に負けられないっ!)
 冗談を言っている顔ではないシンジを見て、ナタルの表情が変わった。雌豹のような表情になり、更にきつくマリューの首を極め、
「艦長、降伏しなければこのまま落としますっ」
「…やれば?」
「!?」
 ヘッドロックを決められ、苦しそうにもがいていたとは到底思えぬマリューの声であり、しかもマリューはにっと笑ったのだ。
 次の瞬間、マリューがナタルの足を蹴り、ぐらっと揺れた所でナタルの髪を掴んだ。
「あうっ!」
 思わずナタルがバランスを崩し、二人はそのままローションの中へ倒れ込む。ナタルは衝撃で手を離してしまい、先に立ち上がったマリューがナタルの髪を鷲掴みにした。
「艦長降伏を、ですって?ナタル、私の事なめてるの?本気で来ないと、怪我するわよ」
 今度はマリューがナタルの首を捕らえ、ヘッドロックで極めにかかったが、
「つぅっ」「あくっ」
 呻きはマリューとナタルから同時に上がった。マリューの腕が締めあげる寸前、ナタルもマリューの首に手を伸ばしたのだ。
「も、もう容赦はしない、マリュー・ラミアスっ」
「望む所よナタル!」
 キッと眉を吊り上げた二人が、ローションにまみれた身体を妖しくくねらせ、時折苦痛の呻きをもらしながらも互いの首を腕で締めあげる。汗ばんだ顔と顔がくっつき、有利な位置を取ろうと蠢き合い、顎をぐりぐりと相手の頬に押しつける。どちらも優位に立てないのは、腕力がほぼ互角なのとローションが遮るからだ。
 それでも、一瞬の隙を突いたマリューが体重を掛けてナタルを押さえ込み、一気に後ろから締め上げようとした瞬間、不意にナタルが半身を起こし、そのまま前のめりで身体を倒し、
「あぁっ!」
 マリューは前方へ投げ飛ばされていた。あ、と思わず声を上げかけたシンジが口元をおさえる。
 既に二人とも全身ローションにまみれており、押さえつけ合った時に出来たのか、太股や腕についた指の痕がひどく妖しい。膝立ちになって肩で息をしたのも一瞬で、正面から手四つでがっしりと組み合い、相手を押さえ込もうと激しく押し合う。マリューが優勢に見えたが、手を強引に下げたナタルが力を入れると反応の遅れたマリューの手が曲がる。
 そのまま押し倒そうとするも、手は掴み合ったままだから、上体を押しつけて倒すしかない。隠そうともしていないマリューの乳房に、自分の胸を押しつけることになる。
「乳比べなんて出来ないわよね」
「っ!!」
 揶揄するような言葉に、キッとナタルがマリューを睨んだ時にはもう、マリューは自分からナタルを引き寄せていた。ビキニに包まれたナタルの乳房と、ローションにまみれて淫靡に濡れ光るマリューの乳房がむにむにとつぶし合う。
「これ、胸板かしら?」
 くすっとマリューが笑い、ナタルが屈辱で顔を歪めた近くで、けほっと咳払いが聞こえた。無論、シンジのものだ。
 貧しくはないが普通サイズのナタルの胸を、マリューのたわわな爆乳がいいように弄んでいる。横から見ると、蜜柑とピンポン球位の差がある。
「は、離せっ!」
「いいわよ」
 手を外したマリューが、ナタルを突き飛ばして滑らせる。完全にローションの効果を計算した上での行動で、自分も起きあがるとナタルに体当たりを掛け、体制を崩したナタルの上に馬乗りになった。
 ナタルの髪を掴んで顔を逸らさせ、
「ほらどうしたのよ、ナタル。ナタルちゃんはもう降参かしら〜?」
「ち、ちょっと位乳が大きいだけの女に誰が降参なんかっ」
「自分のおっぱいの大きさ位、自覚した方がいいわよ――ほらっ」
 ナタルの顎に手を掛けて後ろに引き上げ、胸部を前に突き出させる。
 キャメルクラッチだ。
 思い切り胸が強調される格好になると、その背で揺れているマリューとの差は歴然だ。
「ねえシンジ君、私のとどっちがおっきいかしら?」
「よく見えない」
 シンジの答えは早かった。マリューがどう反応するか、見たかったのだ。
「じゃ、シンジ君によーく見てもらわなくちゃね」
 躊躇うことなくナタルのトップに手を掛け、力を入れて引っ張ると水着は簡単に裂けた。
 シンジからは、ナタルの白い半乳がよく見える。
 だが声に出さずに呟いた言葉は、
「Mis Choice」
 であった。
 そして、半分位まで破れた時、不意にナタルが暴れだした。
「よ、よくも私の胸をっ!」
 ナタルの顔を両手で引き上げていたのが、片手がビキニへ回った事で抑える力も半分になり、バランスも崩れて簡単に抜け出せたのだ。半分残っているビキニを憤怒の形相で引きちぎり、乳房が丸出しになるのを気にもせずマリューを蹴飛ばす。
 シンジが呟いた通りになったのだ。少なくとも、完全に押さえ込んだ体勢にしてから、ゆっくりとビキニを剥がすべきだったろう。
 振り落とされて身体を打ったところへ、所構わず蹴られ、思わず胸を庇って身体を丸めたマリューだが、ナタルもまた冷静な判断を失っていた。このリングは、乾いたマットではないのだ。
 乳の恨みを晴らすかのようにマリューを蹴るが、六度目に足を振り上げた時、重心移動を誤って足を滑らせてしまった。下がぬるぬる設定だから、体重の残し方を間違えるとすぐに滑る。
「うぐっ」「ううっ」
 予期してはいなかったがマリューの腹部へ馬乗りになってしまい、乗った方と乗られた方と両方の口から声が漏れる。
「……」
「……」
 上と下で睨み合い、
「こんなものっ!」
 むぎゅっとマリューの乳房を鷲づかみにしようとして――できなかった。
 滑るのだ。
 しかもナタルの手には到底収まりきらない。舌打ちしたナタルが、一旦掌を押しつけてから思い切り鷲づかみにした。
「痛っ!」
 思わず悲鳴をあげたマリューに、
「ほう、ホルスタインでも痛みは感じると見える。面白いものだな」
(……)
 シンジの眉が僅かに動いたが、何も言わない。マリューはそれを視界の端で感じ取っていた。
「私がホルスタインなら、ナタルはまな板ってところかしら…ね!」
 ぎゅむっ。
「ぐぅっ」
 今度は下からマリューが掴み返した。ナタルの乳房が完全にマリューの手に収まる。
「ぺったんこに限って巨乳を僻むのよ、この貧乳娘っ!」
「誰が貧乳娘だ、このホルスタイン!」
「まな板のくせに!」
「ホルスタインの分際でっ!」
 既にナタルの脳裏から、シンジに見られているという意識は吹っ飛んでいるらしく、ナタルを跳ね飛ばしたマリューと、髪を振り乱し組んずほぐれつ、上になったり下になったりしながら執拗に乳房を掴み合っている。
(別に乳牛サイズにも思えんが、そんなに自分の貧乳にコンプレックス持ってるのか)
 マリューのそれはミサトとさして変わらない、と言うよりシンジの知る範囲でも、そんなに大きな方ではない。これを乳牛サイズと言ったら、貧乳化を望んでシビウ病院を訪れる女達に射殺されても文句は言えまい。
 とまれ、荒い吐息と二人が掴み合う音だけが響く中、上になったナタルが掴みきれない事に業を煮やしたのか、マリューの乳房を掴む手を離し、平手で思い切りひっぱたいた。
「あぅっ」
 鈍い音がして、マリューの左乳が重たげに横を向いた直後、ナタルの頬が大きな音を立てて顔が勢いよく横を向いた。
「よくも…よくもっ」
 乳房をおさえて起きあがったマリューが、ナタルの髪を鷲掴みにしてその顔を床に叩きつけ、腰を下ろしてから髪を掴んで引き起こし、足に足を絡めて完全に固定する。
 二人のむっちりとした太股が絡み合い、ナタルがもがく程マリューの太股が食い込んでくる。
「は、離せっ」
 じたばたと暴れるナタルだが、振りほどくどころかその肢体はびくともせず、
「うるさい」
「はうっ!?」
 かぷっと耳朶を噛まれ、ナタルの抵抗が一瞬弱まった隙にボトムを力任せに剥ぎ取ってしまった。マリューの両足はナタルの足に絡めているが、ナタルの右腕を自分とナタルの間で挟み込んでいるから、使える手はマリューの方が多い。
「ほら、こっち向きなさいよ」
 シンジからはナタルの秘所が丸見えになっており、慌てて手で前を隠そうとするナタルだが、マリューは許さずその顔を掴んで横を向かせ、強引に唇を奪った。
「んむーっ、んー、んーっ!?」
(キスまで未体験か。筋金入りだな)
 逆襲するどころか、眼を白黒させてされるがままになっているナタルを見て、シンジはすぐに見抜いた。マリューの舌がナタルの口腔内へ侵入し、一方的に嬲っていく。やっとマリューが顔を離した時、二人の口元は混ざり合った互いの唾液でねとねとになっていた。
 初めての衝撃か或いはマリューの舌使いで責められたせいか、ナタルの瞳はぼんやりと宙を見上げている。
「ふあっ!」
 マリューの細い指がナタルの乳首を挟み、こりこりと弄る。
「女にキスされて感じちゃってるんだ?とんでもない変態ね」
「そ、そっちこそ乳首硬くして私に押し当ててるくせにっ」
 マリューの言葉で我に返ったナタルが、自由な左腕で何とかマリューの乳房を揉み、その乳首を指で押す。
 既に二人とも取っ組み合いの興奮から乳首は硬くなっており、
「ナタル程じゃないわよ。ほら、シンジ君にあそこ見られてこんなに興奮しちゃった?」
「や、止めて見ないでっ…じゃなくて、ラミアスこそ私に乳房を掴まれて乳首尖らせた変態のくせにっ」
 隠したいのは無論だが、そんな事を気にしている余裕はない。
 お互いに変態だと言い合いながら、半裸のマリューと全裸のナタルが乳首を責め合う。が、使える手が違う上にさっきまでキスすら未体験だったナタルと、艦長になってからだけでもシンジに散々嬲られてきたマリューでは、そもそも結果は見えていた。
 何とか右腕を振りほどいたナタルだが、体勢からして全力は出せず、マリューの唇から甘い喘ぎを洩らさせる事は出来たものの、乳首責めに加えて耳朶までまたも甘噛みされ、とうとう甘く甲高い声をあげて四肢を突っ張らせてしまった。
「ふーん、イっちゃったんだ。じゃあ次は本番よね」
 絡めていた足を更に大きく開かせ、秘所をくぱっとシンジの前にさらけ出しても、もうナタルに抗う余裕はない。マリューが二本指を危険に立てたのを見て、
「マリュー」
 シンジが初めて自分から声を掛けた。
「分かってるわよ。もう、シンジ君ってばエロ優しいんだから」
 取っ組み合いで二人ともかなり興奮すると思うから、何を言われても怒っちゃ駄目よ、とレコアに強く念を押されていなかったら、二人まとめて蒸し焼きにしているところだ。
「ほんとに処女とは思わなかったけど、さすがにそこまではね。でも、決着はつけないとね」
 ナタルを床に寝かせて脚を開かせ、マリューがその両足を持った。シンジが小首を傾げた直後、
「ふあぁっ!?」
 ナタルの口から喘ぎに似た悲鳴があがった。むき出しになったナタルの股間に足の裏を当て、激しく振動させたのだ。よく小学生辺りがやる電気あんまだが、マリューの妖しい責めで身体が敏感になっているナタルにはたまらない。
「ひあっ…や、止めっ…ああっ!」
「愛液飛び散らしてイったら止めてあげるわナタル」
 口調に冷徹な物が混ざり、足の裏を更に押しつけて膣口へ直接振動を送り始める。
「抵抗したってもいいのよ。ほら、私をイかせてみなさいよ」
 足の動きが更に加速し、膣口に指まで入れ始めた。もう、抵抗どころか耐える事も出来なくなったナタルは、口から涎を垂らしながらマリューの責めに身体を震わせ、切れ切れに喘ぎを漏らしている。
 それでもマリューの挑発にその目が開き、
「ま、負ける…も、ものか…っ」
 最後の力を振り絞り、片足を振りほどいてマリューの股間に当てる。二人の女が互いの股間を足でぐりぐりと刺激し合ったが、もうナタルは完全に限界で、二十秒も経たぬ内にその動きは止まってしまった。
 但し、マリューも急激に高まっていた。ここへ来て、たっぷり撒かれているローションに含まれた媚薬が作動し始めたのだ。余裕があったとは言え、ナタルに股間を攻撃された事も災いした。
(んっ…は、早く決着つけないと…意識がはっきりしてる分あたしがやばい…くっ)
 完全にとどめを刺すべく、片足をナタルの胸元へ乗せて指で乳首を挟み、もう片方の足は膣口へ押し当てて、その上で顔を出しているクリトリスをきゅっと挟む。乳首とクリトリスを足指で挟まれ、ナタルが弱々しく身体を震わせるが、無論振り払うには至らない。
「これで終わりよナタル・バジルール!思い切り…イきなさいっ!!」
 きゅむ…ぐりゅっ。
 足指が二点の性感帯をひときわ強く挟み、最後の力でマリューが振動を送り込んだ直後、
「うあっ…だっ、らめっ、ちっ、乳首っ…乳首とクリトリスでっ、お、おかしっ…なるっ…ふあああぁっ!!」
 二度、三度とナタルが身を震わせ、ぐったりと身体を弛緩させた直後、その膣口からあふれ出した愛液がマリューの足を濡らす。
「私の…勝ちよね…」
 緩慢な動作でシンジを見たマリューに、シンジは一つ頷いた。
「勝者、マリュー・ラミアス」
 ふふ、と微笑ったマリューが、ふらつきながらリングを降りてシンジの元へ来る。一歩進む度に濡れた乳房がぷるっと揺れるのを、シンジは黙って見ていた。
「あたし…」
「ん?」
「えっちに見えた?」
 ちょっと考えてからシンジが頷く。ゆっくりと倒れ込んでくる身体をそっと受け止めてからその顔を見ると――それは、至福の表情であった。
 満足したらしかった。
「結果は見えていたが…が?」
 まさか自分が後始末するのかと、女達が死力を尽くした決闘の痕を見回したそこへ、
「シンジ君、お疲れ様」
 レコアが入ってきて、シンジはほっとした。
「俺が片付けるのかと悩んでいたところだよ」
「まさか。君にそんな事をさせる気はないわよ」
 ころころと笑ったレコアに、
「で、この後?」
「二人にシャワーを浴びさせて、綺麗にするまでは私がやるわ。二人とも股間は愛液とローションで、ぐしょぐしょになっているだろうから。マリュー艦長の方が、意識の戻りは早いはずだから、バジルールを部屋に寝かせて付いていてもらうわ」
「レコア」
 頬を打ち合い乳房を掴み合い、股間まで責め合ったばかりの二人を一緒にするというのか。
「君らしくもない。マリュー艦長が先に意識を取り戻す、と言ったでしょ。バジルールが先なら決して出来ないけどね。自分の想われ人はもっと信頼するものよ」
「分かった。レコアの思うとおりに…ん?」
 ふとシンジは、レコアから漂う血の匂いに気づいた。しかもその袖口には血痕があるではないか。
 マリューもナタルも、激しく争ったが出血はしていない。そもそも、レコアはまだ二人に触れてもいないではないか。
「さすがに君はすぐに気づいたわね、怪我人が出たの」
「怪我人?」
「独房に放り込まれたフレイ・アルスターが、手首を切ったのよ」
「自裁したいなら、切るのは手首ではなく首だ。所詮、その程度の生き物と見える」
 目の前の淫闘の事など忘れたように、冷たい声で呟いた。
 
 
 
 
 
(第六十四話 了)

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