妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
ドクトルシビウの闇カルテ:ツェザーレ
 
 
 
第四十六話:砂漠の温泉旅情
 
 
 
 
 
「コーディネーターのくせに結構やるわね。で、また破ってないの?」
 ミーアに連絡を受けたレコアは、キャリーを運んでくると詳細を聞くことなく乗せて、そのまま運んでいった。
 そして、医務室で一部始終を聞いた後、第一声がそれであった。
「ええ、だって破らせちゃったらマリューさんが可哀想でしょ。どうして止めたのか理解に苦しむけど」
「そういう女(ひと)なのよ。正直私も甘いとは思うけど…」
 ナタルを見下ろす目は、これもミーアほどではないが冷たい。
「艦長とシンジ君の仲に亀裂でも入れば別だけど、当分はあり得ないわね。シンジ君に怒られても面白くないし、とりあえずは放っておくしかないわね。でもこの女(ひと)が、どうしてマリュー艦長にあんなに突っかかるのか、何となく分かったわ」
「分かった?」
「艦長は女なのよ」
「?」
 そんなのは見れば分かる。人によってはあれが性転換者にでも見えるというのか。
「性別が、じゃなくて存在が女って事よ。私から見てもいい女に見えるもの。でもバジルールは違う。性別は女でも魅力はないわ。フェロモン値が非常に低いのよ。マリュー艦長は、シンジ君と同じタイプね。二人ともフェロモン値がかなり高いでしょ。尤も、色々効果を発揮しているのはシンジ君のほうみたいだけど」
 ふっとレコアが笑った。
 妙に成熟した笑みであった。
「艦長がシンジ君を誘った訳じゃないし、そもそも最初にシンジ君が助けたと聞いてるわ。でも、自分に魅力がないと分かってる娘(こ)に取っては、妬みと苛立ちの対象にしかならないわね。ひけらかしてる訳ではない魅力も、見せつけられているとしか思えなくなる。しかも唯一の拠り所だった戦術論も、シンジ君に木っ端微塵に打ち砕かれた。修羅場もさして体験していないような子が、張り合える相手じゃなかったのよ。いい女の匂いを漂わせている艦長と、戦場の常識を尽く覆し、しかもこの艦をほとんど無傷で守っているシンジ君のコンビに、彼女が勝てると思う?今残っているのは、ボロボロになったプライドだけよ」
 ナタルが起きていたら何というかは不明だが、それにしてもえらい言われようである。言うまでもなく、レコアもミーアも、マリューとナタルが取っ組み合いをしてあちこちに傷を作り、それをシンジが治した事は知っている。
 レコアから見たナタルは、既に娘の呼称まで株が下がっているらしい。
「それでミーア」
「はい?」
「次はレコアにゆっくり入ってもらおうかって言ってた?温泉見つけたんでしょ?」
「さ、さあそこまでは私も…」
 見つかったかどうか、などミーアは聞かされていない。
「まあいいわ。手だては知らないけど、温泉位あっさり見つけそうな人だし、見つかればすぐには発たないでしょう。ミーア、一緒に入る?」
「えっ?」
 この女医は、既に入る気満々らしい。
 
 
 
 砂漠の砂さえもコイルをたっぷり埋め込まれたマットレスと化し、燃え上がる体を優しく包んでくれる。
 その上で、マリューが思い切り脚を拡げさせられていた。
「シ、シンジ君っ、し、子宮から溶けちゃうっ、子宮もおまんこも溶けてまたイクぅっ!」
 産婦人科の診察台でさえ、ここまで開脚はさせまい。蛙の解剖状態を通り越し、マリューの太股は上体にくっつきそうになっている。
 首筋から腋へ、そして乳房を素通りして脇腹へとシンジが舌を這わせ、唇を付けたところにはキスマークがみっしりと付いている。それも、吸ったのではなく軽く唇を付けただけなのに、マリューの柔肌はみるみる鬱血の痕を残し、しかも電流のような快感が絶え間なしに湧いてくるのだ。
 無論魔女医シビウ直伝の技であり、百度の交わりすら何とか耐えたシンジの舌技に、マリューが耐えられるはずもなかった。六度までは覚えているが、その後はもう自分でも何回いったか分かっていない。シンジはというと、マリューが乱れれば乱れるほど、その双眸の色は冷静さを取り戻していく。
 マリューは、フェロモン値は高いが体毛は薄い。大淫唇の上でひっそりと息づいている淫毛を、シンジは唇で軽く引っ張った直後、
「あうぐぅっ!?」
 一声、獣みたいな声を上げてマリューが体を震わせた。吹き出した液がシンジの胸にかかり、とろりと伝い落ちていく。十四度目、と呟いたシンジは、どこか満足げであった。
 キラとニコルを弄り倒した時は、こっちまで熱くなってしまっていた。シビウに知られたら、一度見ただけで一週間位落ち込みそうなあの視線を向けられかねない。魔女医に開発された身としては、同じ轍を繰り返す訳にはいかなかったのだ。
 シンジが上下に体勢を入れ替えるものだから、マリューの股間はアヌスから臍辺りまで、愛液でびっしょりと濡れており、前後の穴はもう愛液でふやけている。ちらっと顔を見ると完全に失神しているが、丸くふくれて充血したクリトリスを甘噛みされると、肢体がびくびくっと震えた。
 普通の身では、これが限界だろう。シンジも責め方は知っているが、開発の仕方は知らない。まだ、魔女医には及ばないのだ。
 印を結んで呪を唱えると、マリューの肢体に付いた文字通り無数に近いキスマークがみるみる消えていく。
 そのマリューを抱きかかえ、シンジは湯に入った。失神している人間はそれなりに重いが、このまま放っておいて風邪を引かれても困る。
 シンジにぐったりと身を預けたマリューの白い乳房が、湯にぷかぷかと浮く。それから数分後、マリューがゆっくりと目を開けた。
「シンジ…君?」
「おはよう」
 月を見上げていたシンジが、薄く笑った。なお、依然として砂嵐は結界となって周囲の探索を阻んでいるが、その中は静寂そのものだ。
「あ、あたしそのっ…」
「何回目まで覚えてる?」
「ろ、六回まで…あぁんっ」
 赤くなったマリューの耳朶を軽く啄み、
「さっきので十四回目。おまんこも子宮も溶けちゃうって、可愛く喘いでたよ」
「も、もう…シ、シンジ君の意地悪っ…」
 おまけに潮まで吹いて、と言おうかと思ったが止めた。小娘みたいな反応に満足したのだ。
「あ、あのシンジ君…」
「何?」
 シンジの上から降りたマリューが立ち上がった。が、ふらふらと蹌踉めき、あわててシンジに掴まる。
 自分の体を怪訝な顔で眺めてから、
「さ、さっきまで…い、いっぱいキスマークがあったような気がしたんだけど…」
「気のせい」
「そう?シンジ君がそう言うのなら…」
 納得している顔ではなかったが、痕など一つも残っていないのだ。それ以上は言わず、マリューはそっとシンジに寄りかかった。
「折角…」
「ん?」
「シンジ君に飲ませてもらったのに私だけイっちゃって…ごめんね」
 こつん、と肩に乗せてきたマリューの髪に、シンジの指が軽く触れた。
「マリューの反応で満足した。胸は外したのに、あんなに燃えてくれるとは思わなかった」
「ば、馬鹿…」
 シンジの肩先を指でぐりぐりしながらマリューは、自分だけが勝手に感じて勝手に達し、年下の青年相手に淫らな痴態を晒したと知っても満足であった。心と体はじわっと暖まっている。
 がしかし。
 シンジに耳朶や唇を啄まれながら、三十分近く湯に浸かっていると、鎮まっていた胎内の炎がまた勢いを取り戻してきた。
「シンジ君…」
 控えめにそっと呼んだマリューが、
「まだ満足してないでしょ」
「ハン?」
「だ、だってっ、わ、私だけ…」
「またしたくなった?」
「……っ!!」
「だって…シンジ君のちゅーって甘いし上手だし…」
 顔を赤くして、指先で湯船の底へ字を書くマリュー。その様子を見ながら、シンジは内心で頷いた。キスマークが消えても快感が残るようでは困るのだ。
「いいよ。ところでミーアにもらったと聞いたが、実験済み?」
「こ、これはしてないわ。だって確かめようがないもの。でも…」
「でも?」
 ナタルが生贄にされた話を聞いたシンジは、僅かに眉根を寄せたような気が、マリューにはした。
「や、やり過ぎ…だった?」
(まさかナタルの事…)
「バジルール個人ではなく指揮の問題。敵襲があった場合に替わりがいない」
「で、でもすぐに戻れば…」
「戻ってどうすると?そのまま指揮を執れるほど、楽な責め方はしてないよ」
「あぅ…」
 シンジの言葉に、マリューがふにゅっと赤くなる。
「まあいい、援護ならここからでも出来るし、向こうはフラガに任せよう」
 そうね、と頷いてからふと思い出した。
「そういえばここへ来る前、レーダーに敵らしき反応があったんだけど、すぐに消えちゃったのよ。ここには来なかった?」
「来たよ。掘削中の無粋な訪問者なのでお帰り頂いた。破片が残っていた?」
「い、いいえっ」
「ならばいい。そんな物が落ちていると興醒めする。四本脚の物体だったが、アヌビスには遠く及ばなかった。所詮、人は自然を超える事など不可能だよ」
 艦内ではああ言ったが、正直半信半疑な所もあった。が、シンジの口調は至極当然と言わんばかりであった。
「俺には影響ないけど、マリューが破片を踏んづけて怪我でもしたら困るでしょ」
「シンジ君…」
 マリューが顔を近づけていき、二人の唇が重なった。ここまで完全に受け身だったマリューが、初めて自分から舌を絡めていく。シンジの口腔内に舌を這わせ、そっと舌を絡めて吸ってみる。
(あ…)
 薄目を開けて見るとシンジはうっとりしているように見えた。初めてお姉さんらしく主導権を握れたと、シンジの背に腕を回した瞬間シンジの手が動いた。
「んうっ!?」
 敏感な腋の下をこしょこしょとくすぐられ、思わず力が抜けた所をあっさりと逆転されてしまい、シンジの為すがままに口内を嬲られる。マリューの全身から力が抜けてから、シンジはマリューを解放した。
「もう…意地悪なんだから…」
 怨みがましくシンジを睨んだが、その口調は妙に甘い。
「マリューのレベルがもう少し上がったらね?ところで、腋の下ってずいぶん弱い?」
「!」
 訊かれた途端マリューの顔が赤くなった。腋の下に唇を付けられたところ迄は覚えていたのだ。
「そっ、そんな事無いんだけど…き、昨日その…て、手入れしたばかりだったから…変じゃなかった?」
 ふむ、と首を傾げたシンジが、
「可愛かったよ?」
(もっ、もうっまたっ、そ、そんな直球をっ…)
 アワアワと狼狽えるマリューだが、嬉しくない訳ではない。ただ、シンジのような直球タイプに慣れていないだけだ。
「あ、ありがと…」
 小声でもにょもにょと呟いて、
「じゃ、じゃああの…」
 おずおずとシンジの肩に手をかけたが、その動きがふと止まった。
「シンジ君、お願いがあるの…」
「なに?」
「あ、あの…」
 俯いて言い淀むその目許が、赤く染まっていることにシンジは気づいた。
(何事?)
「あのね…」
 マリューが口を開いたのは、それから三十秒近くも経ってからであった。
「その…お、お尻でしてほしいの…」
「やはり、ミーアの信頼は低い?」
「ち、違うわっ」
 勢いよくマリューが首を振ると、乳房も一緒にぶるんっと揺れた。
「私はもう、処女じゃないから…。でもあの…お、お尻はまだだから…っ」
 処女の方が余計な性病を持っている可能性は少ない、と言う事はあるが、シンジは別に処女至上主義ではない。マリュー位のレベルなら、付き合っていた事もあるだろうし、だから価値が下がる等とは思っていなかったが、マリューに取っては少し違うらしい。
「バジルールならまだしも、姉御が今までに誰とも付き合った事が無いというのは、それこそちょっと問題だと思うが。処女でなくとも気になどしないよ?」
「それもあるけど…シンジ君だから…」
 そう言ってシンジを見つめるマリューの双眸は、僅かに潤んでいるようにも見えた。
「はい」
 シンジは微笑って頷いた。それがマリューの想いと知ってなお、無下に振り払う男ではない。
「でも、癖になっても知らないよ?」
「そ、そしたらシンジ君に…」
「俺に?」
「な、何でもないわ」
 毎日してもらうから、と思わず言いかけて止めたのだ。シンジが異世界の者であり、何れ帰る身であると知るマリューに、それは口に出来る事ではなかった――飛ばされた原因が不明で帰るあてなど皆無である、としても。
「そう?じゃ、跨いで座ってくれる」
「え、ええ…」
 シンジに言った通り、尻穴でのセックスは未体験どころか、他人の舌も指も許した事はない。唯一触れたのは、女の軍医による精密検査の時だけだ。さすがにシンジの顔をまともに見られず、背を向けてシンジの足を跨いだマリューの腰に、シンジがそっと手を添えた。
「や、優しくお願いね」
「ん」
 怖々腰を下ろしていくと、尻肉にシンジのペニスが当たる。
(お、大きくて硬い…こ、壊れちゃうかも…)
 未だ膣(まえ)でも受け入れていないから実感が分からない。萎えそうな心を押さえつけ、きゅっと唇を噛んだマリューが両手で尻たぶを開き、穴に亀頭を宛がうと一気に腰を下ろした。
「あうっ、くっ、んっ…き、きつぅっ…」
 あふぅっと息を吐き出したマリューの髪を、シンジが優しく撫でた。
「よく我慢した」
「ん、うん…だ、だってシンジ君の…お、おっきすぎ…」
 自分で言ってから、マリューの顔がかーっと赤くなる。
 それを誤魔化すように、
「…と思ったけど、そ、そんなでもないみたい…だ、大丈夫だからシンジ君動いてっ?」
「小さいからね」
 くすっと笑ったシンジに慌てて、
「ちっ、違うのっ、本当は大き…ふあ!?」
 止せばいいのに身体まで振り返ろうとしたものだから、腸内をごりっと擦られマリューが思わず喘ぐ。
「ほら無理するから。大丈夫、任せて」
「ご、ごめんね世話の焼ける女で」
 とはいえ、指も舌も入れられた事がないのに、いきなり繋がって即感じたらそれこそ少し困る。
 マリューを抱き寄せたシンジが、首筋から肩へかけて唇を付け、或いは甘噛みしなからゆっくりと腰を上下させていく。
(シンジ君っ…)
 その心はマリューにも伝わっており、うっとりと目を閉じて身を任せていたが、三十秒も経った頃、その表情に変化が出てきた。
(あれ?何か感覚が…)
 違和感が八割に痛みが二割だったのが、徐々に変わってきた。むず痒さの中に快楽が混ざっているとはっきり分かる。
 
「よく効くわよ。マリューさんの――けつまんこにもね?」
 どこかで、微笑うミーアの声が聞こえたような気がした。
 
「シンジ君、もう大丈夫だから…好きに動いてっ。もっ、ミーアの薬が効いてきたみたい…あぁっ!」
「いいの?」
「んっ、大丈夫よっ…シンジ君ので…わ、私のけつまんこを思い切りかき回してえっ」
「了解」
 一つ頷いたシンジの動きが変わった。片手でマリューの腰を上下させ、片方の手を乳房に伸ばして激しく揉みしだく。ずっと放っておかれた乳首は硬く尖っており、それを指で挟んだシンジが指の腹で押すとこりこりと動き――
「あ!?」
 湯の中で、何かが指先に触れた。無論、シンジはそれが母乳だ等と知らず、怪訝な顔でもう一度触れようとした所を、マリューの手に掴まれた。
「マリュー?」
「そ、そこはだめ…に、二カ所責められたらすぐにイっちゃうからっ」
「…ふむ」
「あのっ、シンジ君?」
「では、一カ所でどれだけ保つか楽しみだ」
「ちょっ、や、やだ、そ、そんな意味じゃっ…うぁっ!?な、なんなのっ!?」
 直腸内で、明らかにシンジのペニスは大きさと硬度を増した。危険な位の激しさで、がくがくと突き上げてくる。
「す、すごっ…シンジ君のおちんぽが私のけつまんこ、ずぼずぼって、あうっ…つ、突き上げてるぅっ!」
 髪を振り乱し、乳房を大きく揺らしながら激しく乱れるマリューからは、艦橋で指揮を執る姿など微塵も想像できない。突かれている事もあり、人目も憚らず自慰を始めたナタル以上の効果が出ているらしい。
「シンジ君っ、あっ、あたしもうイくっ、けつまんこシンジ君に掘られてイっちゃうーっ!」
「おっぱいは触らないであげたのに?」
 その耳元で、ひどく淫らにシンジが囁き、はむっと耳朶を甘噛みした。
「はうぅっ、シ、シンジ君いじわるぅっ、だ、だって気持ち良すぎてイイっ…ふあ!?」
「でも早すぎ」
 不意にシンジが速度を落としてしまった。もう少しで達しそうだったのに、急激に、しかも無理矢理冷まされてしまう。
「お、お願いシンジ君、イ、イかせてっ、もう生意気な事言わないから意地悪しないでぇっ」
「本当に?」
「いっ、言わないわっ、だからお願いよっ」
 哀願するマリューの双眸には涙が浮かんでいる。この危険な快感を止められて堪えるのは、マリューには酷だったかもしれない。
「世話の焼ける姉御だ」
「も、もう、また姉御って…うあっ!」
 また直腸内を突き上げられ、マリューの膣内が強烈に収縮する。一気に絶頂へと上り詰めていき、触らないでと言ったことも忘れて自ら乳房を揉みしだし、妖しく尖った乳首同士を触れ合わせる。
「シンジ君、もうっ、もうイきそっ…シ、シンジ君も一緒にぃっ」
「そりゃ無理」
 冷たく返したシンジが性器に手を伸ばし、顔を出しているクリトリスをきゅっと摘んだ。
「十五回目」
 シンジが呟いた瞬間、クリトリスとアヌスからの刺激が乳房に達し、三点からの快楽が強烈に全身を駆け抜けた。
「マ、マリューイくっ、イくぅ…あーっ!!」
 尻穴がひときわ強くシンジのペニスを締め付けた直後、マリューの動きがすうっと止まり、一瞬おいてから激しく身体を震わせた。今までとは少し達し方が違ったらしい。
「ふあ…あぁっ…す、すごいイっちゃった…」
 完全に脱力してシンジに身を預けたマリューの目には、また涙が浮かんでいたが、その顔はとても幸せそうな女の顔であった。
「満足した?」
 シンジの言葉にこくっと頷いたが、
「んっ…あふっ」
 何とかアヌスからペニスを抜き出し、シンジに向き直った。
「でも…あ、あたしだけイっちゃって…ごめんね…。シンジ君、まだ射精(だ)してないし、満足してないでしょ?」
「あれで出すほど柔な教育はされてな…あれ?」
 シンジの視線が、マリューの乳房へ釘付けになる。シンジが見たのは、乳首からとろとろと滴り落ちる液体で、それは明らかに母乳であった。
「あ、姉御…?」
「みっ、見ないでっ、見ちゃだめぇっ!」
 シンジと母乳に何の関係もないが、はいと素直に横を向いたシンジの顔に、止まらぬ母乳の滴が勢いよく飛んだ。
 マリューが、強く乳房をおさえ過ぎたのだ。
「……」
 
  
 
「あの中尉さんが寝込んでる?んだよ…じゃあ指揮を執れそうなのって俺しかいないじゃねーか」
 起きてきたムウが聞いたのは、ナタルのダウンと未だ戻らぬ二人組の話であった。
「しっかしまあ…砂漠でお泊まりか〜。ま、砂漠の夜が寒いとは言え二人なら…グホッ!?」
 コジローの肘が、脇腹へモロにのめり込んだのだ。
「おい!急に何しや…ウ…」
 怒鳴りつけようとしたムウだが、その目に映ったのは資産家が死んだ途端に審査期だと名乗って現れ、しかも通夜ぶるまいの席で酩酊して大騒ぎするろくでなしを見るような視線を向けるサイとトールであり――。
「わ、分かったからお嬢ちゃん、その物騒な物はしまおう。な?」
 水鉄砲だか本物だか分からないが、自分にぴたりと銃口をポイントしているミリアリアであり――その横で自分をじっと見つめているのは、明らかに一睡もしていないと分かるキラとステラであった。
 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
 三十秒後、真っ黒い水を浴びせられながら、這々の体で逃げ出していくムウがいた。
「まったく、デリカシーの欠片もないんだから!」
 ぷりぷりしているのは、無論ミリアリアだ。帰投するであろうスカイグラスパーの帰りを待ち、二人が艦橋で微動だにしなかったと知ったのは、つい先ほどの事だ。ノイマン達が気を利かせて――見かねたとも言う――二人だけにしてくれたのだが、見張りも必要だからとさすがにそれ以上は置いておけず、連れ出してきたのだ。
 がしかし。
 ミリアリアから見れば、確かにシンジは魅力的だが、シンジから見たキラとステラは、いずれも妹分の領域を出ていないのだ。端から見ていると、それはよく分かる。二人が告白オーラを出してもあっさり不発に終わり、シンジの精神的成熟度が妙に高いとは言え、どうひいき目に見ても対等とは言えない。
 そのシンジが、マリューとどこで何をしているのかは知らないが、ムウが言うような関係になったとしても――残念ながらキラとステラは抗議できる位置にいない。せいぜい、シンジがいないと戦力がダウンするのにと言う位だろう。
(こればかりは釣り合いの問題だものね…)
 ミリアリアが内心でため息をついた時、
「あらみんなお揃いで、こんなところで何を?」
 ひょこっと顔を出したのはミーアであった。
「別に何でもないわよ。ほら、二人が元気ないんだからそっとしておいてあげて」
「マリューさんと碇さんが帰ってこないから?二人が甘い夜を過ごしてるんじゃないかって?」
「『ミーアっ!』」
 咎めるような声を上げたのはミリアリア一人ではなかったが、ミーアは平然と、
「わざわざ砂漠でそんな事しないと思うけどね」
 避妊薬と、母乳の副作用がある媚薬を渡し、しかもナタルの後始末まで引き受けて、マリューを送り出したのはミーアではなかったか。
「そんな可能性を心配するより、着替えとタオルを用意した方がいいんじゃない?」
「着替え?」「タオル?」
 のろのろと上がった二人の顔は憔悴しきっている。さすがに少し可哀想、と思ったかどうかは不明だが、
「温泉を見つけた。俺だけが入るからおまえ達は来るな…って、言う人じゃないでしょう。それに、そんなに窶れた顔を碇さんに見せちゃってもいいの?せっかくの可愛い顔が台無しよ?」
「『!』」
 ハッと二人が弾かれたように立ち上がり、ぱたぱたと走っていく。その足音には、確かに力強さが戻っていた。
「ミーア…」
「はい?」
「ご、ごめんね大きな声を出したりして」
 いいえ、と緩く首を振り、にこっと笑った顔は明らかに天使のものであった。
 その下に――ナタルにキスを仕掛けて媚薬を嚥下させ、堪えきれず自慰に耽る姿を見て冷たく笑い、自分の指で処女を喪う所を見てくれると冷ややかに宣言した貌(かお)があると、誰が信じるだろうか。
 だが、ただの言葉だけで人は動かない。
 心のこもった慰めとやらで、人の心が癒えれば苦労などしない。言葉は、それを操る者がレベルの高い術者であればあるほど、軽佻浮薄に聞こえる言葉でも躍動するのだ。
 その意味では、ミーアもまた、確かに一流の術者であった。
 そう――その言葉だけで人を操り、動かしうる術者として。
 
 
 
「ちょっとやり過ぎたかな?」
 どう聞いてもそうは思っていないような口調で、シンジが呟いた。その傍らには、胸元を白く染めたマリューが完全に失神している。もう、当分は目を覚ますまい。
 ミーアがくれた薬の副作用だと告げたまでは良かったが、もう感じすぎて全身が変な感じになっちゃってるから、とシンジを制したのが間違いであった。あっさりと押し倒された上に乳房を責められ、乳首は摘まれて引っ張られ、こね回され、挙げ句には母乳の止まらぬ乳首を淫らに吸われ、自分の乳首から出た母乳を口移しで飲まされてしまったのだ。
 限界を超えたマリューは、乳首から母乳を吹き出させながら、声にならぬ絶叫をあげてそのまま失神してしまった。
「ん、満足した」
 頷いたその顔は、欲情を満たした男と言うよりも、やっと念願叶って思う存分動物実験の出来た狂科学者に近い。
「起こすのは可哀想だし、もう暫く休んでいくとするか」
 シンジの手がすっと上がると、わらわらと集まってきた砂が、マリューの首から下をすっぽりと包み込んだ。
 なお砂漠の太陽は、依然として砂嵐に遮られており、昨日から一度も直射日光を浴びせえていない。マリューが砂風呂状態になったのを確認してから、シンジは情交の痕が完全に消えた湯船に身を沈めた。
 即席の温泉に浸かるその顔は、実に幸せそうに見える。
 
 
 
 
 
「……」
 レセップスの艦長室で、バルトフェルドは煮立つコーヒーをじっと見つめていたが、不意にその手がガスバーナーへ伸びた。
 火を消し、
「…ダコスタ」
「はっ」
 さっきから異様な匂いを必死に耐えていたダコスタが、直立不動の姿勢で敬礼する。
「折角ハマーンがああ書き送ってきたのだ。援軍を要請しようかとも思ったが、我々だけでいく。宇宙(そら)と地上(ここ)が同じ結果、とは行かない可能性もあるだろう?今夕攻撃をかける。出撃準備をしておけ」
 アークエンジェルへ一発も撃たぬまま、自軍は結構な被害を出している。直接の原因は砂嵐だが、バルトフェルドはそこへ何らかの人為的なものを感じ取っていた。アークエンジェルから正体不明機が砂漠の真ん中へ着陸したら砂嵐が発生し、偵察に生かせた部隊が微妙に移動する砂嵐に巻き込まれて全滅したなどと、あまりに都合の良すぎる話がそうそう発生してなるものか。
 あえなく散っていった部下達の為にも、真相は究明せねばなるまい。
「了解しました!」
 飛び出していくダコスタの背を押すのは、敵を前にただ眺めていなければならなかった歯痒さか、それとも――。
 立ち止まったダコスタが、大きく息を吐き出した。
「あのまま、後三十秒もいたら間違いなく卒倒していたな。まったく、隊長の趣味にも困ったもんだ」
 違う理由らしい。
 
「ハマーン様、地上の連中は援軍を要請してから攻撃するとお思いですか?」
「せぬよ。奴らは所詮愚かな俗物、あの碇シンジを搭載した艦の怖さなど、壊滅するまで気づくまい。碇シンジを捕らえて我がものに出来るのは私以外に誰がいる」
「わ、我がもの?」
「う、討ってから捕らえて晒し者にするのだ。そ、そう言っただろうが!」
「ははっ!」
 宇宙のどこかで冷たく危険な――少しだけ慌てたような声がした。
  
 
 
 討ってから晒し者に――乃至は捕らえて我がものに――してくれる、と宇宙の片隅で宣言されたシンジは、無論そんな事など知らず、夕方前に戻ってきた。
「な、何だあれは…格納庫にいる者は全員退避ーっ!!」
 どう見ても、被弾したか操縦者が酔っぱらっているかのようにふらふらと、危なっかしい事この上ない飛び方に、艦橋にいたナタルは慌てて格納庫へ退避を命じた。
 一時間ほど前に、ようやく目が覚めたところで、自分を眺めていたミーアを見て痴態を思い出し、鬼でも失神しそうな視線を向けたが、
「これ、既に現像してあるから」
 ナタルの表情が固いのは、トランプゲームでもするみたいに見せられた写真のせいであり、艦長が不在だから自分の双肩に艦の命運がかかっていると、気負っているためでは決してない。
 ふらふらしながら、スカイグラスパーが着艦し、
「お兄ちゃん!」「シンジさんっ」
 待ちこがれていた二人が、やっと帰ってきた主人を見た子犬みたいに駆け寄ったのだが、その足が不意に硬直した。
「茹でるのは成功した」
 操縦席から、マリューを背負って飄々と降りてきたのは無論シンジであり――
「『お、お帰りなさい…』」
 甦ったばかりのミイラみたいな声で言った二人に、
「ん、ただいま」
 軽く手を挙げたシンジがすれ違った瞬間、
「あんっ、シンジ君だめぇ…」
 寝言だが、鼻にかかるような甘い声でマリューが呟いたのだ。
 
 ぷちっ。
 
 その時――二人の中で何かが切れた。
「ん?レーザー照射されてる!?」
 それから三十分も経たぬ内に、艦内へ二級の戦闘配備が発令された。
 漸く、敵が重い腰を上げたらしい。 
 
 
 
 
 
(第四十六話 了)

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