妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
ドクトルシビウの闇カルテ:ツェザーレ
 
 
 
第二十九話:歌姫達の淫闘
 
 
 
 
 
(どうしてこんなことを?)
 ミーアを見ながら、キラは首を捻っていた。シンジの部屋の十メートルほど手前でミーアが足を止め、キラの手を引いたのだ。
 唇に人差し指を当てた、までは分かる。もう深夜だし、静かにするようにというのだろう。
 が、そこからの行動はかなり奇妙なものであった。文字通り、抜き差し差し足で忍び寄り、指先だけで小さくドアを叩いたのだ。どう見ても呼び出すやり方ではない。明らかにドアをノックした、と言う既成事実を作る為だけの動作であり、
「お返事がないようですわね」
「え…」
 どう返していいのか分からぬキラの反応を待たず、ミーアはドアに手を掛けて一気に開いた。
「あ――」
 さすがそれはまずくないかと言いかけたキラだが、その表情が凝固する。キラの目に映ったのは――シンジに抱きかかえられ、しかもこちらに向かって秘所を左右に開いているニコルの姿であった。
「お取り込み中みたいですわね?」
 笑みを含んだミーアの言葉も耳に入らず、キラはかーっと全身の血が逆流するような気がした。顔から血の気が引くのは感じ取っていたが、シンジが服を脱いでおらず、何よりもその目には依然として欲情の光が微塵もない事に気付く余裕はなかった。
「シンジさん…ひどい…」
 目に涙を浮かべたキラが走り出そうとした途端、その身体がくるりと回転した。無論ミーアが引っ張ったのである。当然かなりの力がかかる筈だが、ミーアはびくともしなかった。
(やっぱしコーディネーター)
 それを見ながら、シンジはやはり物が違うのだと、暢気な事を考えていた。精を使うなら別だが、生身なら多分シンジでも振り回されているだろう。
「逃げるの?負け犬みたいに尻尾を巻いて退散?それなら別に止めないけど」
 その動作は何なのか、とここで突っ込むほど、シンジも間抜けではない。
「……」
 ぐいと涙を拭ったキラが、つかつかと歩み寄ってくる。予想外の展開に、股間を隠す事も忘れていたニコルの前で仁王立ちになると、大きく右手を振りかぶった。
「……」
 わずかにシンジの眉が動いた次の瞬間、
「あうっ!?」
 蛙の踏まれた悲鳴を可愛くしたような声がした。ミーアが、キラの襟元をきゅっと掴んだのである。
「違うでしょうが。この子を叩いてどうしようっていうのよ」
「だ、だってこの人がシンジさんを…」
 キラの言葉に、シンジの眉がかちっと上がった。
「…俺を?」
(馬鹿発見)
 シンジの危険なスイッチが入りかけたと知ったミーアが、
「あ、ううん何でもないのよ。気にしないで」
 慌ててキラの口をおさえた。二人の格好といいニコルの表情といい、シンジが弱みを握られたとかニコルに騙されたとか、キラが考えているような関係でない事はすぐに分かる。だいたい、シンジの目には欲情の色が無く、服を脱いですらいないではないか。
(まったくすぐ前後の見境を無くすんだから)
「お前がヤマトをともな――」
 シンジが言いかけた時、やっとニコルが我に返った。顔を赤くしてシンジの上からおり、かさかさとガウンを羽織る。
「あ、あの…」
「何、ニコル?」
「もしかして…もう約束が?」
「まったく無い。だいたいどうしてミーアが一緒に来てるんだ」
「…ミーア?」
(あ)
 言うまでもないが、ニコルはミーアを知らない。ラクスは無論知っているが、会話した事も殆どないから、性格のずれに首を傾げる事もなかったのだが、呼称が違うとなればさすがに妙だと気付く。
「ニコル」
「はい?」
「さっきも言ったが、明日には帰す。その折決して余計な事を口外せぬと、私と約束するか?」
「…分かりました、約束します」
 絶対だな、と念を押す事はせず、
「ここにいるのはミーア・キャンベル。ラクス・クラインの影武者だ。正確に言えばヴィジュアル担当。歌っているラクスが、写真で見るそれと少し違うと思った事はなかったか?」
「そういえば…」
 ミーアの胸元を見て、
「ちょっと胸が大きいような…す、すみません」
 いいのよ、とミーアは婉然と笑って、
「おっぱいが大きくてスタイルもいい。声も殆ど変わらないのにいつも影――のミーアですわ。よろしくね」
「は、はい…」
「で、そのミーアが何をしに来た?」
 ミーアは直接答えず、
「碇さんがお知りになりたいそうですわ」
 そのままキラへと受け流した。
「な、何をって…今日は…今日はシンジさんの所にお泊まりしようと思ってミーアに連れてきてもらったのにそんな子とっ!」
「そんな事?何でヤマトにそこまで言われにゃならんのだ。何時から俺の保護者か妹になった」
「ちょ、ちょっと待って」
 なんか変、と感じ取ったミーアが慌てて口を挟んだ。シンジとニコルの事はある程度想定済だったが、そこへキラを連れてきたのはシンジと仲違いさせる為などではない。少々意地の悪いやり方ではあるが、決してキラを嫌ってはいないのだ。
「別に二人が揉める為にキラを連れてきたんじゃないんだから。それに、何か今発音が違ってなかった?」
「『発音?』」
「何となく。何にしても、キラががっがりしてるのは…お分かりでしょう?というわけで――」
 ミーアはニコルを見てにこっと笑った。
「え?」
「燃え上がったところで申し訳ありませんが、今日はキラに譲って頂けませんか?」
「そ、そんな…」
「なんて言われても困りますわよね?」
「…ミ、ミーアさん?」
 ニコルが困ったような表情でミーアを見た。何が言いたいのか分からなかったのだ。
「でもキラも、折角来たのにすごすごと帰るのはお嫌でしょう?」
 キラがうんうんと勢いよく頷く。
 なおこの間シンジが口を出さなかったのは、出さなかったと言うよりも出せなかったという方が正しい。
「でも、残念ですが碇さんのお体は一つですし…」
 顔に手を当てて考え込むミーアを見た時、
(最初からこの展開を読んで何か企んできたな)
 シンジが気付くまで、5秒かかった。
「敵だから、とか後から来たから、とかそんな理由で決めてはお二人とも納得できないでしょう?」
 鈴を振るような声に、ニコルとキラが揃って頷く。完全にミーアの掌に載せられているのだが、それに気付く余裕はないらしい。
「では、賭けをしませんか?」
「『賭け?』」
「賭けをして、勝った方は今夜碇さんと一晩を。負けてしまった方は残念ながら、お部屋に帰って一人寂しく枕を抱いて寝ていただくことになりますけれど。でも一方的に決められるよりは――いいでしょう?」
 車を新車で買う場合、言うまでもなくオプションを付ければ付ける程値段は上がっていく。元は大した事がなくても、オプション次第では結構豪華に見えたりするのだが、今の状況はまさにそれであった。ミーアがじりじりとつり上げていき、絶対に勝たなくてはならないような心理状況へ二人を煽っていく。
(煽動…っていうか詐欺師に向いてるんじゃないか?)
 ろくでもない呟きが読まれたのかどうか、
「お二人が興味なければ、私が碇さんとご一緒させて頂きますわ」
(ハン?)
「『やるっ』」
 これが決定打になったのか、二人が同時に飛びついた。
「では決まりですわね」
「ちょっと待て」
「はい?」
「賭けって何をする気だ」
「そうですわね…」
 見た目は可愛らしく小首を傾げて、
「お二人で碇さんにごほーしして、どちらがより気持ち良くできるか――というのは冗談で!」
(まったく冗談が通じないんだから)
 成り行きには口を出さなかったシンジだが、ミーアがごほーしと言った瞬間、その首筋をひんやりとした何かが撫でたのだ。
「で?」
 キラとニコルは気付いていないが、その口調に笑みが含まれているとミーアは気付いた。
 益々もって危ない。
「え、えーとその…」
 ちょっとした遊びのつもりだったが、一転して自分がピンチになってしまった。シンジの反応が予想外だった為に勢いを削がれてしまい、ミーアがアワアワしているそこへ、
「キラ様とニコル様がミーアにごほーし、ではいかがですの?」
「『ふえ?』」
 ひょこっと顔を出したのは、無論本物の歌姫――ラクス・クラインであった。
「ラクス・クラインのお越しとは思わなかった。なぜここへ?」
「お手洗いの帰りに、道を間違ってしまいましたの。その…艦内にはまだ慣れていなくて…」
 恥ずかしそうに笑ったその足元で、
「オマエモナー!」
 甲高い声がした。
「艦内にそうそう慣れられても困る訳だが、案としては悪くないな。キラとニコルでミーアを弄る。歌姫をより啼かせた方の勝ちと言う事で。二人とも、さっさとミーアを剥いて」
「ちょ、ちょっと待ってっ」
 一転して賭けの対象にされかけ、ミーアがぶんぶんと手を振った。
「う、歌姫なら私じゃなくてラクスでしょ?ラクスの方がいいんじゃない?」
「あら…わたくしよりミーアの方が可愛い声で啼くでしょう?それに、賭けを持ちかけたのは、わたくしではありませんもの」
 高地へさっさと逃げたラクスに、ミーアの表情がぴくっと動いた。
「それなら最初から出てこなければいいでしょ。呼ばれもしないのに勝手に出てきて、都合が悪くなったら無関係で逃げる訳?」
「わたくしは…逃げるつもりなどありませんわ。ただ、弄られて喘ぐような事は貴女の方がお似合い、と言っているだけですわ」
「そうね、あなたみたいに歌っていればいいだけのお嬢様には、出来ない芸当だものね。用が済んだのならさっさとお部屋へ帰って寝ていたら?」
(あの〜もしもし?)
 最初にミーアとラクスが会った時、二人の間に流れた微妙な空気を、シンジとマリューは感じ取っていたのだが、気のせいではなかったらしい。さっさと背を向けたミーアの肩をラクスが掴んだ。
「そこまで言うのなら、わたくしと貴女とどちらが可愛い声で啼くか試してみましょう。わたくしが全てに恵まれただけの存在かどうか、その身体に教えて差し上げますわ」
「ふうん…お嬢様にそんな事が出来るのかしらね。いいわ、どこまで出来るか付き合ってあげるから」
 険悪な雰囲気になってきた二人を見て、キラがシンジの袖を引いた。
「と、止めないでいいんですかっ?」
「ミーアかラクスを二人がかりで弄るのとどっちがいい?」
「え…えぅ…それは…」
「いいから見物してろって」
 下手に割って入るとこっちまでとばっちりが来ると判断したシンジは、
「キラはラクス、ニコルはミーアで」
「『え?』」
「ラクスが先にイったらニコルの勝ち。ミーアが先ならキラの勝ち。それとも無関係な所で勝負を?」
「も、勿論そのつもりだったわ。き、決まってるでしょう」
「ふむ。では邪魔はしない。無粋な事はせずに、どちらがいい女か見物しているから」
 二人ともほらこっち、とキラとニコルを連れて、シンジがカサカサとソファへ移動する。はーい、とキラは言われるままに従ったが、ニコルの方は二人の表情が変わったのに気付いていた。
 どちらがいい女か、とシンジが言った時、確かに目の色が変わったのだ。二人は無論シンジの恋人ではないし、シンジの取り合いではない。にも関わらず一言で二人を煽れるというのは、それだけの感情が二人にあったのか或いは――
(この人に煽動能力があるという事。異世界人とは言えそんな人にこの艦をまとめられたら…)
 こんな状況下でも、ニコルの背を冷たい物が流れた。ニコルの感じたそれこそが、ヘリオポリス組をまとめ上げ、キラをして戦場へ向かわせているものなのだが、そこまでは分からなかった。
(……)
 その横顔を見たシンジが、ニコルの肩を一つ叩いた。
「え…」
「いい子にして見物。色々考えるのは明日、艦に戻ってからで良かろう?」
(読まれた!?)
 ニコルの表情が一瞬強張ったが、シンジは気付いた様子もなくさっさとソファへ腰を下ろしてしまった。気にはなるが、かといってこの場でこれ以上拘泥するのは無粋だろう。ニコルも、シンジの横にちょこんと腰を下ろした。
 三対の視線が見つめる中で、ミーアとラクスがゆっくりと服を脱いでいく。下着姿になり、ブラに手を掛けてもその視線はずっと絡み合ったままだ。
 トップレスになって分かったが、二人とも胸囲にさほど大きな差はない。ラクスの方は真っ平ら、と言う事もないのだ。が、裸になった二人を見たシンジは改めて、エザリア・ジュールと言う人物がミーアをヴィジュアル担当にした理由が分かったような気がした。
 パンティを脱ぎ捨てて全裸になった二人に、
「先に達した方の負け。あとは別に規制かけないから」
 シンジの言葉に揃って頷き、ベッドの上で膝立ちになって向かい合った。
 お互いの腰に手を回したところで、シンジの指が一つ鳴り、それを合図にしたかのように同時に唇を重ね、啄み合ったのもつかの間で激しく貪り合った。唇がわずかに離れ、二人の赤い舌がまるで生き物のように存在を主張して鬩ぎ合う。
「『はむっ、んんっ、んむぅ、んんっ!』」
 求め合う、と言うよりも完全な責め合いで、お互いの口内へ舌を侵入しようとする舌同士が妖しく絡み、舌と舌がねっとりと舐め合った。混ざり合った唾液が二人の間に滴り落ち、唇が重なるとその胸元へ流れ落ちて肌を妖しく光らせる。最初は腰にあってお互いを固定していた手が、段々と前へ回ってきた。
「『ふぁんっ!』」
 同時に可愛らしい喘ぎを上げて唇が離れる。こっそりと回ってきた指が、お互いの乳首を同時にこりっとつねったのだ。
「『…っ』」
 濡れた目で一瞬睨み合い、すぐに乳房を責め合いはじめた。舌同士を絡ませながら、乳房を揉み、こね回し、指の先で弄る。
「お、お嬢様かと思ったけど…や、やるじゃな、あぁっ」
「わたくしをただの温室育ちと思ったら…ひぅっ…ま、間違いですわっ」
「こんなに乳首おっきくしてるのにね?」
「ミ、ミーアのここだってとても熱くて硬いですわよ」
(ん?)
 ラクスも侮ったものではなかったかと、少し感心していたシンジだが、ふと手が握られているのに気付いた。無論左右から握られているのだが、二人の反応は少し違っていた。顔を赤くして見入っているのは同じだが、ニコルの方は少しショックがあったのか、ラクスの悶える様を食い入るように見つめている。
 責め合いはほぼ互角のまま続き、よく似た姿の二人が互いを指と舌で弄り、耳元で淫らな言葉を囁く。髪と同じ色の淫毛に覆われた秘所が、既に濡れきっている事にシンジは気付いていた。膝で立っているのは限界に来たらしく、乳房同士を押し合わせながら嬲り合っていたが、やがてどちらからともなく相手を突き放すようにして座り込んだ。
 何も言わず、肩で荒い息をしながら上気した顔で見つめ合うそれは、まるで恋人同士のものだが、シンジには絡んだ視線の真ん中で散る火花がはっきりと見えた。二度ずつか、と小さく呟いたシンジを、え?とニコルが見た。
 シンジが緩く首を振るとまた視線を戻したが、二人の妖しい闘いに中てられたのか、その顔はすっかり上気している。
「少し見くびっていたみたい。でも――!」
 ミーアがラクスの肩を掴んで押し倒し、
「貴女では絶対に及ばない領域があること、その身体で教えてあげるっ!」
 二本指を秘所に突き入れると、さっきまでの責め合いですっかり出来上がっていたそこはすんなりと受け入れた。静まりかえった室内に、くちゅくちゅと水音が響き、膣の入り口で指を蠢かされたラクスが甘い悲鳴をあげる。
 だが、ラクス・クラインもまたそこで防戦一方になる娘ではなかったのだ。
「あ、あなただって…こ、ここはもうびしょびしょでしょうっ」
 組み敷かれた体勢から手を伸ばし、淫唇の上からぐりぐりと掌で撫で回す。ミーアに一瞬出来た隙を見逃さず、ミーアを突き飛ばして起きあがった。
「これなら条件は一緒――ミーアが可愛く啼く声をいっぱい聞かせていただきますわ」
 ぺたんと座り込んだ体勢でミーアの股間に手を伸ばす。互いに座ったまま、手だけで責め合おうと言うのだ。しかもすぐには手を出さず、ミーアが起きるまで待っている。
 ラクスに笑顔を向けられ、ミーアの眉がキッと吊り上がる。それを見たシンジは、唇の端でにっと笑った。シンジの見たところ、ミーアは持てる技倆を全て出し切れていない――原因は分からないが。ここでラクスの挑発に乗るようでは、全力を出せぬまま負けると見たのだ。
 だがシンジの思惑は外れた。大きく息を吸い込んだミーアが、ゆっくりと吐き出して深呼吸したのだ。
「私の方が上なのに圧倒出来ない――同じ気持ちじゃ勝てないわよね、ラクス?」
「……」
 ミーアが妖しく笑った瞬間、一瞬ながらラクスの表情が変わった。そこに流れたのは、明らかに動揺であった。
「素材はあるみたいだけど、素材は訓練されたそれに勝てないのよ。さ、相手してあげる。いっぱい弄り合って、どちらが可愛く啼くかキラとニコルに聞いてもらいましょう」
 余裕たっぷりでラクスの秘所へ指を這わせたミーアに対し、ラクスは明らかに余裕が無くなっている。内に秘めたものを完全な演技でおさえ、ここまでミーアと互角な淫闘を演じてきたが、最後の最後で詰めを誤ったのだ。おそらく技倆自体はミーアの方がやや上だろう。眠れる闘姫を起こしてしまったのである。
 ラクスが自分の膣内へ指を出し入れするのを待って、ミーアがゆっくりと手を動かしだす。歌姫二人が啼きかわすように喘ぎ、悶えながら互いの秘所を指で責める。顔を互いの肩に載せるようにして身体を密着させ、白い肢体を震わせながら喘ぐ姿は互角に見えるが、既にラクスの動きの方が忙しなくなっている。それに反して、ミーアの顔には僅かに笑みすら浮かんでいるのだ。
 そのミーアが、シンジをちらっと見た。それに気付いたシンジが軽く頷く。ミーアが妖しく笑った直後、その喘ぎが大きくなった。すうっと脱力したようにも見え、ラクスがここぞとばかりに責め立てる。
「『す、すごい…』」
 ミーアとラクスの喘ぎと吐息、そして責め合う股間の水音だけが室内を支配している。時折シンジの左右から、ごくっと生唾を飲む音が聞こえる。
 シンジの表情は依然として変わらない。
 ミーアが笑ってから五分後、
「も、十分楽しんでくれた?」
「『え!?』」
 ミーアの言葉に、シンジを除いた三人の表情が変わった。ミーアの口調には、押されて今にも達しそうな劣勢など微塵も感じられなかったのだ。
「私の声は可愛かったかしら?」
「そ、そんな…」
 特に自分の優勢を信じていたラクスにとって衝撃は大きく、その身体から力が抜けていく。いや、或いはどれだけ責めても完全に達しないミーアに、どこかで違和感は感じていたのかも知れない。
「次はラクスの番ですわ。イく時のいい顔と声を聞かせてさしあげましょう」
「い、いやぁっ」
 抵抗空しくあっさりと掴まれ、しかもあまつさせこちらに向けて脚を開かれてしまったのだ。キラが見たニコルのそれと同じ、いや責め合いの刺激で充血したクリトリスが顔を出しており、しかも少し濁った愛液が滴っている分淫靡さはニコルの比ではない。
 キラもニコルも顔を赤らめて視線を逸らしたが、すぐに視線はもぞもぞと戻ってきた。
「いやっ、お、おねがい、ご覧にならないでぇっ」
 ラクスの哀願を嘲笑うかのように、ミーアは太股をしっかりと絡めて更に脚を開かせる。三人の眼前には、膣口までもがぱっくりと見えている。涙を流して首を振るラクスだが、キラもニコルも視線を逸らさない。
 いや、外せないのだ。こんな屈辱的な状況になって、漸くラクスの肢体から艶が漂いだし、それが二人を魅了して離さないせいだ。
「『きれい…』」
 期せずして二人が同時に呟き、ラクスの顔がかーっと赤くなる。
「満足でしょう。ほら、思い切りイってしまいなさい!」
 自ら見せつけはしたが、キラ達の反応が少し想定外だったのかミーアの眉がわずかに上がり、指が一気に動き出した。片手で乳房を責めながら秘所へは二本指を出し入れし、時折指の腹で丸くふくれたクリトリスをこする。脚だけで固定されているのに、ラクスはもう抗えず、未体験の快楽の並に髪を振り乱して喘ぎ、悶える事しかできずにいる。完全に玩具状態だ。
 達しそうな寸前で止める生殺し状態のまま、さっきのお返しと言わんばかりにたっぷりと喘がせてから、
「終わりね、ラクス」
 冷ややかな声と同時に乳房から手が離れる。見ていた二人が気付いた次の瞬間、その中指はラクスのアヌスへ深々と突き立てられていた。
「ふぁっ!?だ、だめそんな所さわれっ、ひむっ!わっ、わたくしがこんなっ、ふあ、ふにゃああぁっ!」
 ラクスの肢体がびくんっと痙攣した直後、その秘所から一気に液を噴き出させてラクスはがくっと首を折った。
「ふふ、さすがに可愛い歌姫はイく時も可愛いのね。ふにゃあ、ですって」
 婉然と笑ったミーアが、勝利者の表情でラクスの弛緩した身体を横たえ、ゆっくりとベッドからおりた。さすがに息は荒いが、淫闘を制した事でその身体から漂う色香は一層強くなっている。
 肢体に大差はなくともミーアにあってラクスにないもの――性を感じさせるフェロモンの差だと、シンジは見ていたのだ。
 キラとニコルの前に立ったミーアが、
「濡れちゃった?」
「『!』」
 顔を赤くして横を向いたのが答えだろう。
「さてと、勝ったのは私だけど――」
 それを聞いて二人がぴくっと反応した。ミーアとラクスは、キラとニコルの代理で闘ったのだ。ミーアの勝利は、そのままニコルの勝利を意味している。
 が、ミーアの行動は意外なものであった。
 二人の頭を抱き寄せ、
「二人とも遊んであげて?キラもニコルも…ぐっしょり濡らしちゃってるみたいだし、ね?」
「『ミーアさん…』」
「分かっている、ミーア・キャンベル。もう君も休むといい。しかし、少々ラクス・クラインに乗せられたかな。四度、とはな」
「『え?』」
「……」
 キラとニコルは怪訝な表情でシンジを見つめ、ミーアは口許に微苦笑を浮かべた。
「あまり全部を見通すと、女の子に警戒されますわよ碇様。で、ラクスは何回?」
「決まっている、六度だ」
「ふふ、ぜんぶお見通し…ですのね…」
 ミーアの身体が前のめりに倒れ込み、それをシンジがそっと抱き留めた。
「あ、あのシンジさん…」
「ん?」
「六度とか四度とかって…?」
「二人の達した回数。完全な絶頂ではなかったが、最初のキスバトルで二人とも二度軽く達した。二人も分かっていたろう。まさかあれが一回目とは思っているまい?」
「え、えーと…」「そ、それは…」
「まあいい。ミーアが最初から冷静なら、或いはミーアが一回でラクスが十回になったかも知れないが。さて、ミーアとラクスを寝かせてからヤマトとニコルを解剖するとしよう」
「『……』」
 シンジの言葉に、キラとニコルが揃って顔を赤らめ、室内にふわっと艶香が漂ったが、嵐のような激しさを伴っていたミーアとラクスのそれに比べれば、春の夜のようにどこか微笑ましいものであった。
 
 
 
 
 
(第二十九話 了)

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