「こちらゼロ、A-209地区だ。」 モニタ−越しにゼロの声が響く。指令室に大きく映し出されたそこは瓦礫の山と化しており、凄惨な有り様だった。つい昨日までの、賑わっていた街の面影は微塵も無い。 「…酷い…。」 ダグラスの横でサポートにあたっていたエックスが、思わず声を洩らす。イレギュラーが暴れる事はよくあるが、ここまでの大惨事になる事は滅多にない。 「全く、シグナスの留守中に、面倒な事件が起こったもんだわ…。」 その時、かろうじて原形を留めて建っていたビルが、無惨に崩れ落ちた。そこから、奇妙な轟音と同時に、立ち上る煙りのように大きな影が現れる。 「ゼロ、及び第0部隊へ。敵は一機。巨大なレプリロイドよ。パワー、装甲はかなりのものだけど、運動性は無きに等しいわ。皆のスピードで翻弄して、動きを封じてから破壊して!」 ベースから、エイリアが指示をとばす。それに呼応して、現地のハンタ−達は攻撃を開始した。 イレギュラーの体長は、ざっと5〜6メートルはあり、身体のあちこちがへこんだり、傷付いたりしていて、その形相は禍々しくさえ見える。時折発せられる奇声が、彼の思考が既に正常でない事を物語っていた。 「たしかに、動きは遅いが…。こちらも迂闊な動きはできんな。」 彼の目を引くように動いていたゼロが呟く。このイレギュラーは、特別な武装も持っていない様子で、攻撃も力任せの格闘しかないようだった。しかも、そのスピードは極端に遅い。それでも、彼は僅かな時間の間に、街を廃虚に変えてしまっているのだ。 「いいか、短期決戦だ!特に素早い者が奴の気をひけ!そこを俺とダイナモが一気に叩く!残りの者は援護してくれ!」 「ええ!?俺もですかい!」 ゼロの指示にホーネックがさっそうと飛び上がり、軽やかに宙を舞いだした。目論見通り、イレギュラーはホーネックに気を取られる。他のハンタ−達の援護攻撃が、彼の堅い装甲を徐々に破壊していった。 「今だ、行くぞダイナモ!」 「へいへいっ。」 ゼロとダイナモはセイバーを抜き、イレギュラーに斬り掛かろうと一気に間を詰める。 「! エイリア!待って!!コイツ、一体なんかじゃない!!」 「…何ですって!?」 まさにその時、パネルでエネルギ−反応を見ていたエックスが声を上げた。しかし、エイリアが目線をモニターに戻した時には、すでにイレギュラーの右腕は落とされた後だった。 切断された部分から、内部が見える。何かが、蠢いていた。何かを齧るようなバリバリという音が響く。そして、そこから、無数のアンテナのようなものが現れた。 「…パラロイド…!!」 モニター越しに、鳥肌の立つような光景を見つめる。切断された右腕と、胴体の中には、パラロイドがびっしりと詰っていた。その様子を見る限り、このイレギュラーの体内の回路は、すでにおおかた食い尽されてしまったのだろう。 「装甲が薄くなるにつれて、違ったエネルギー反応が検出され始めたんだ…。でも、まさか、こんなことって…!」 「コイツらは…例の、突然変異の奴か。」 「うぉあ〜…エグいねえ…。」 眼前の凄まじい光景に目を奪われながらも、冷静な口調で呟くゼロ。さすがのダイナモも、今は顔から笑みが消えている。 この最近、ハンター達を多忙にしていた新しい事件というのが、パラロイドの大量発生だった。その原因は不明であったが、とにかく、連中の始末に追われた。 その中で、突然変異を起こしたものがいる。それが、レプリロイドに寄生し、体内で成長、繁殖していき、終いには回路を食い荒らしてイレギュラー化させてしまうという、この恐ろしいタイプであった。 詰っていたパラロイドが少しずつ外へと飛び出して来る。近寄って来たものを確実に仕留めてはいたが、このままでは分が悪い。 「…仕方あるまい。」 次から次へと襲って来るパラロイドを斬り捨てながら、ゼロは決心したように周囲に指示を出した。 「いいか!皆、すぐにこの地区から退避しろ!コイツらは俺が引き付けて、滅閃光でまとめて始末する!!」 「隊長!?」「ゼロ!!」 予想外の指示に、ホーネックとエックスが同時に叫んだ。 「ホーネック、指揮はお前がとれ。こんな戦い方を続けていたら、誰かが寄生されちまうかもしれないからな。」 「それはそうだけど、もう少し安全な方法はないものなの!?」 エイリアが少し怒ったような口調で呟き、データ解析の手を進める。その間にも、パラロイドの群れはゼロの方へと迫っていた。 「ゼロ…!!」 その時だった。 突如、地面から無数のプラズマの柱が立ち上り、迫って来ていたパラロイドはものの見事に消し飛んでしまったのだ。驚いたゼロが振り返ると、得意そうに笑うダイナモが、地面を拳で突くようにして跪いていた。 「隊長サンよ、こういう危険な仕事は俺に任せてくれよ。」 まだ山のように残っているパラロイドの方に、挑発程度に攻撃を浴びせながら、ダイナモはゼロに言った。 「こんな損な役柄、アンタじゃ役不足ってもんでしょ。俺の方に引き付けて、まとめて今のプラズマで片付けるとしまさあ。破壊力は申し分なかったっしょ?」 「…!しかし、そんな事をしたらお前が…!」 ゼロの科白に、ダイナモは苦笑いを浮かべる。 「なぁに、心配御無用。俺、さっきコイツらの一斉射撃くらったけど、この通り、ピンピンしてますから。見てくれより、ずっと頑丈なんですよ?」 そう言って、自分の周りを浮遊している物体を指差した。 「でも、危ないよ、ダイナモ!!」 エックスの悲痛な叫びが、通信として入ってくる。 「はは、やっぱり優しいねえ。あの子を泣かしたくもないんでね、さ、ゼロさんは行った行った。」 ゼロに退避を促すように身体を押しやり、ダイナモはセイバーを投げ付けて、イレギュラーのボディを完全に破壊した。塒を失ったパラロイド達が一斉に飛び出し、ダイナモの方へと迫ってくる。 「…馬鹿」 指令室が一瞬静まり返る。 「あんた、それはあくまで監視用なのよ!?あんたの本格的な攻撃とは、破壊力が全然違うのよ!!」 珍しく、取り乱した様子でエイリアが激を飛ばした。 「ちょっと、やめなさい!!危険過ぎるのが、何でわからないのよ!!」 「…オヤ、エイリアさんが俺の心配をしてくれるなんて、思ってもなかったなぁ。」 パラロイドの波が目の前に迫っている状況にも関わらず、ダイナモは不敵に微笑んでいた。 「さて、エックスさんよ。今、どんな感じ?」 「…え、全パラロイド、射程圏内には入ってる…。入ってる…けど…!」 報告するエックスの声には、あからさまな躊躇いの色が見て取れた。ダイナモはどこか切な気な微笑みを浮かべると、拳を握り直す。 「じゃ、いっちょいきますか!」 「ダイナモーーーーッ!!!」 エイリアが叫んだ時には、既にモニターの中は眩しい閃光で覆い尽されていた。 |