■OPERATION-0■ by No.025 長月たならーもさん ------------------------------------------------------------------ 全くもって、一体全体、どういう風の吹き回しなんだか。 ある日、ダイナモがハンターベースにやってきて、そろそろ定職が欲しいから雇ってくれと言い出したのである。何度か、ここを襲撃した事のある彼が、だ。当然の事ながら、ハンタ−達の大多数はガン首を揃えてこれに反対した。 とはいえ、先の戦いで人手不足も良い所といったこの状況下。この所は新しい事件で皆多忙であったし。彼の腕前は、実際に手を合わせたエックス、ゼロという一流の両名が認めているし、それだけの腕前を持つ人材が自ら願い出て来るなんて、またとない好機であるのも、事実なわけで。 シグナスの尋問やら、それに対する「自分は傭兵だから、金さえもらえれば何でもした」というダイナモのポリシー語りやら、彼に対して受け入れの意思表示をまっ先に示したエックスと、それを甘いとたしなめるゼロやら、そんなやりとりを通じ、最後にはエイリアの厳密な損得勘定が決定打となって、ハンターベースはダイナモを受け入れる事になった。 「変な気を起こしたらそのぶんはちゃんとギャラから引かせてもらうわ。最悪、イレギュラーとして始末される事になるから、そのつもりでいてちょうだい。」 手元のキーボードで、何やら文字を打つエイリア。それを背後から眺めるダイナモ。周囲には、彼を見張る為に何体かの監視用レプリロイドがついていた。頭程の大きさの球形、浮遊型で光学兵器を装備している。常に攻撃できるようにと、発射口からはプラズマが洩れていた。 「…しかし、そんなに俺、信用できない?…うっとおしいんですけど、コレ…。」 「当たり前でしょ。昨日まで敵だったんだから。まあ、いざという時は、そんなものつけておいても、役に立たないのでしょうけど。…はい、登録終わり。」 うんざりしたようにボヤくダイナモに、エイリアは振り向きもせずに淡々と答える。 「一応、しばらくは0部隊に所属してもらうわ。ゼロなら、あなたが何かしでかしてもキチンと始末してくれるでしょうから。」 「おいおい、酷い事言うもんだなあ。」 エイリアの科白にダイナモは苦笑するしかなかった。一方のエイリアは既に新しい仕事を始めている。 「ほら、いつまで突っ立ってるのよ。さっさと行きなさいよ。今、皆忙しいんだから。」 身体はパソコンの方に向けたまま、右手を振って追い出す動作をされる。 「どーせなら、17部隊の方がいいなあ。エックスだって、腕はいいんでしょうが。」 「あの子はイザという時、非情になりきれないから駄目。ブツクサ言ってる暇があるんなら、皆に挨拶でもしてらっしゃい。」 わざとらしくボヤいてみせるのにも淡白に返され、ダイナモは苦笑とともに盛大な溜息をついた。既に自分などその場にいないかのように仕事に打ち込んでいるエイリアの後ろ姿を、黙って見つめる。 ただ、そこはちゃらんぽらんなダイナモのこと、そんな彼女を見ているうちに、こういう人物はからかってみると意外と楽しかったりとか、何かそんな事を考えて、ちょっかいを出してみたくなったようだ。 「…いやあ、しかし働く女性は、美しいねえ。」 背後から、不意打ちで抱きついてみる。流石に、エイリアの手が一瞬止まった。…しかし、次の瞬間。 「…………一斉射撃。」 ***** 「…ん、あれ、ダイナモ?」 「……早速、何かやらかしたか。」 廊下で談笑していたエックスとゼロの前方から、黒焦げになったダイナモが多少フラつきながらやってきた。 「あ、どうも、お二人さん。」 相変わらず監視用レプリロイドを引き連れて、ダイナモは二人の前で立ち止まる。 「ゼロさん、俺、あんたの部隊に配属になったんで、まァ、よろしく頼みますわ。」 「ああ…。で、そのザマは何だ。エイリアにちょっかいでも出したのか?」 ゼロの的を射た指摘に、ははは、と苦笑してダイナモはメットを取る。バイザーにはヒビが入っていた。 「駄目だよ…仕事中でなくても、エイリアには冗談なんて通用しないんだから。」 心配そうに見上げてくるエックス。彼もメットを外していて、腕に抱えている。青味がかった黒髪が露になっており、その表情は戦場で見かけた時よりも、遥かに幼く見えた。 「…じゃあ、何かい。イザとなったら始末するだの、ありゃあ全部本気か…。」 ダイナモが考え込むような仕種をするのに、ゼロは溜息をつく。 「彼女には冗談が通じないし、言う事もない。それ以前に、そんな目に遭ってまで、まだ単なる脅しだとでも思っているのか?」 「………。あっはっはっ、そーかもなー。」 笑い出すダイナモに、二人は半ば呆れてしまった。そして、心の中で問う。早速コレで、本当に無事にやっていけるのかと。 「でも、もーちょっと肩の力、抜いてもいいんじゃないかなあ。ユーモアの一つでもないと、生きてくのつまんないと思うけどね。俺は。」 「あら、丁度良かったわゼロ。」 その時、ダイナモの来た方向からエイリアが小走りにやってきた。手には書類の挟まったバインダーを携えている。 「スクランブルよ。イレギュラーが出現したわ。第0部隊は直ちにA-209地区へ出撃してちょうだい。」 「了解した。サポートを頼むぞエイリア。」 ゼロの言葉に、エイリアは黙って頷く。 「急いで。かなりタチの悪い奴みたいよ。」 「…ゼロ、気を付けて…。」 「心配するな、エックス。行くぞダイナモ!」 不安そうなエックスに安心させるように微笑みかけると、ゼロはさっさとその場から走り去った。 「ん?」 「ほら、あんたも0部隊でしょ。」 エイリアのその科白にダイナモは、ああそうか、と思い出したように笑った。 「…もう!早速ギャラ引かれたいの?さっさと行きなさいよ!」 持っているバインダーでダイナモの背中をはたくと、エックスに自分達を手伝うように頼んで、エイリアは指令室に走っていった。 「じゃ、ダイナモも気を付けて!」 去り際にそう言い残し、エックスはエイリアの後を追った。 「…優しいねえ、隊長。お気遣いアリガトウよ。じゃあ、次の雷が落ちる前にさっさと行きますかね…。」 未だ自分に銃口を向けている監視用レプリロイドを否応無しにお供にして、ダイナモはハンターとして出撃した。 |