「昔の記憶・前編」 イレギュラーハンター第9レンジャー部隊。そこは、森や密林で悪事を働いているイレギュラーを処分する部隊である。そこに所属していた特A級ハンター・ニートは弓の名手として有名だった。 「ふう・・・今回の任務はえらいきつかったなあ、ニート。」 愛用の武器、レーザーアローの手入れをしているニートに、一人の男が近づいてきた。ニートよりやや大柄な体格で、黒い短髪に藍色の眼をしたこの男こそ、ニートの良き相棒で挌闘の達人、マグニィである。 「お前が無茶な事をしなければもっと効率的に遂行できたんだがな・・・。」 ニートは溜め息をつきながらマグニィにそう言った。マグニィは彼に媚びるように言い訳をする。 「せやかてな、あんな事されたら黙ってられへんやろ?」 「まあな・・・卑怯者には容赦しないお前の性分は俺もよくわかっているつもりだ。だがな、感情に流されると、敵の思う壺だぞ?死んだら何もかもなくなるんだ。その辺をよく考えろ。」 マグニィは頭を掻いてまいったなと呟いた。 「お前ってホンマ手厳しいなあ・・・。」 ニートはあきれた表情でマグニィに厳しく指摘した。 「お前が軽率すぎるんだ・・・ん?もうこんな時間か。」 夕方の5時を回った時計を見たニートがそう言うと、ゆっくりと席を立った。 「お?エレナんとこ行くんか?」 マグニィの笑顔に素直に頷くニート。 「そうだ。行くぞ。」 そう言ってニートはマグニィを連れて、部隊基地を出た。 ニート達は孤児院に辿り着いた。ここは、シグマ軍によって殺された両親の子供達が寄り添って住んでいる。レプリロイド=人殺しと思い込んでいる子供達が多く、ニート達は事を荒立てないように孤児院の近くの森で待ち合わせる事にしている。ぼんやりと樹を眺めているニート達だったが、しばらくして一人の小さな少女が2人に向かって走ってきた。 「ニートさーん!!」 少女の声に気づき、ニートはその方向を振り向いた。 「エレナ・・・。」 マグニィがエレナを抱きかかえる。 「よお、エレナ。久し振りやな。元気やったか?」 「うん!!」 エレナは元気一杯の笑顔でそう言った。彼女は、以前イレギュラーに殺されかけた所をニートに助けられて以来、兄妹のように仲良くなったのだ。マグニィはニートの紹介で知り合ったので彼の事もエレナは知っている。ちなみにマグニィはエレナの良き遊び相手だった。 ニートが2人に近づいてくる。 「エレナ・・・大事な話って何だ?」 ニートがそう言うと、エレナはマグニィとニートの顔を交互に見て、恥ずかしそうな声で言った。 「うん・・・マグニィさん・・・・ちょっと離れててくれる?」 「あ?どないしたんや?」 「ごめんなさい・・・でもどうしても2人だけで話したいの。」 マグニィはエレナの気持ちを察し、彼女を下ろした。 「ニート。俺はその辺散歩してくるわ。」 そう言ってマグニィは森の奥へ行ってしまった。 「おい、マグニィ!!・・・ったく、勝手な奴だな・・・。」 溜め息をついたニートは、エレナの方を振り返った。 「所で・・・大事な話って何だ?」 エレナはもじもじししていたが、しばらくして決意を固め、彼の目を真っ直ぐに見てこう言った。 「あの・・・私・・・ニートさんが・・・好きです。」 ニートはしばらく呆然と立っていたが、すぐに聞き返した。 「好きって・・・?」 エレナはだんだんはっきりとした口調で喋り出す。 「私は・・・始めてあった時から・・・あなたの事が好きだったんです!ずっと一緒にいてください・・・。」 エレナの言葉の意味をようやく理解したニートは、彼女に向かってこう言った。 「エレナ・・・悪いが、俺はお前を妹みたいにしか思っていない・・・特別に愛しているとか、そんな感情が持てないんだ。」 エレナは一筋の涙を流した。ニートはそれに驚き、彼女をなだめようと肩に手をかけようとしたが、エレナは森の中へ走り去っていった。 「エレナ!!」 一部始終を見ていたマグニィが、ニートの所に戻って来た。 「お前、ホンマもんのアホやな。」 怒った声でマグ二ィはニートを睨んだ。 「だが・・・俺は別に・・・。」 ニートの声を遮るようにマグニィは怒鳴った。 「それがアホのする事や言うてるんや!!お前、エレナに惚れとったんやろ!?そんなら素直に『はい』て言うたらどうなんや!!」 「だが・・・レプリロイドと人間の交際など・・・認めてくれやしない。それに、もし本当に付き合ったら彼女の立場はどうなる!?辛い思いをするだけだぞ!!」 マグニィはニートの胸部のプロテクターを掴んだ。 「認めるも認めんもあるかい!!問題は自分達の気持ちやろ!?人のいう事にいちいち神経すり減らしてたら、身が持たんやろ!!エレナはちゃんとわかっとってニートに告白したんやで!?」 ニートはマグニィの手を払い、後ろを向いた。 「・・・・エレナを探しに行く。お前は先に帰ってろ。」 マグニィはニヤリと笑いながらニートに近寄った。 「俺も手伝うわ。1人より2人の方がええやろ?」 ニート達は、心当たりのある場所をすみずみまで探し回った。だが、彼女の姿が見当たらない。 「・・・ここも駄目か。」 マグニィは頭を抱えているニートに言った。 「ニート、一旦孤児院へ戻ろうや。帰ってきてるかもしれへんしな。」 「ああ、そうだな。様子を見てみよう・・。」 ピピピピピピ・・・。 突然、通信機が鳴り出し、ニートはそれを手に取った。 「はい、こちら9部隊のニート。」 通信は9部隊隊長からだった。 「ニート、マグニィ、近くにいるな?たった今、ポイントW980で爆発事故が発生した!直ちに現場に向かってくれ!!」 「ポイントW980って・・・この近くやないか!!」 「マグニィ、行くぞ!!」 マグニィとニートは急いで現場に向かった。 ドオオオオオオン!!! 2人の前を、巨大なイレギュラーが立ち塞がった。ニートは弓を構える。 「邪魔だ!!」 ニートの放ったレーザーの矢はイレギュラーに命中したが、あっさり跳ね返えされてしまった。 「馬鹿なっ!?」 ニートが油断していたその時、 グシャッ!! 「ぐああああ!!」 イレギュラーの攻撃を喰らったニートは、両足の回路を切断され、動けなくなった。 「ニート!・・・てめえ!!すぐスクラップにしたる!!」 そう言ってマグニィがイレギュラーめがけて飛び込んだ!! |