〜lOVE OR LOST〜
No.014 栗留さん
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彼女の声を聞き入れていれば・・・。
彼の苦しみに気付いていたら・・・。
絶対にあんな事にはならなかったと、そう思っている。

ハンターベース救護室。そこのカプセルに、傷だらけのダイナモが眠っていた。
机を乱暴に叩いたエイリアの声が響く。
「何故あの時彼を・・・ダイナモを助けなかったの!?」
短い黒髪に、鋭い黒い眼をした青年レプリロイドは彼女の意見に対し、冷静に反論した。
「へっ・・・俺はアイツを仲間と思った事なんか一度もねえよ。」
「アーヴァイン!彼は貴方と行動していたのでしょう!?」
アーヴァインと呼ばれた青年が、エイリアを睨みつけ、机を乱暴に叩く。
「冗談じゃねえっ!!」
彼の気迫に押され、エイリアが怯んだ。アーヴァインが話を続ける。
「大体、何で俺があんな奴と一緒に行動しなきゃなんねえんだ!?こっちはそのお陰で、部下と面倒なトラブル起こしちまったんだぞ!!」

今から数時間前のことだった。
ダイナモはとある任務の為に、第11猛攻部隊を率いるアーヴァインと行動を共にする事になった。だが、コロニー落下事件実行犯の彼を、誰も受け入れるはずも無く、アーヴァインは部下の対応に頭を悩ませていた。
「隊長!!何故、こんな奴が我々と行動を共にするのですか!?」
「奴は凶悪なイレギュラーです!私は絶対に嫌ですよ!!」
部隊員は、口々に苦情を隊長であるアーヴァインにぶつける。だが、ダイナモは全く動じていなかった。
「ま、シグナスの命令なんだからしょーがないじゃん?」
ニヤニヤした表情で、気楽に口を出すダイナモ。その時、部下の一人が怒り出し、彼に殴りかかろうとした。
「待ちな。」
アーヴァインが部下を止め、首を左右に振る。
「今更仕方ねえよ。さっさと任務を終わらせないと、いつまで経っても終わらないぜ。」
そう言って、アーヴァインは自分の部下とダイナモを率いて、調査ポイントに向かった。
(俺だって冗談じゃねえよ・・・上層部は何故こんな奴を、保護しようと考えたんだ?)
そんな事を考えながら、アーヴァインは黙々と歩みを進める。大分進んだその時だった。
メカニロイドの大群が、突然目の前に現れる。アーヴァインは腰に下げている斧を構え、部下に向かって叫んだ。
「全員一斉攻撃!!」
アーヴァインがイレギュラーに立ち向かい、部下がそれに続く。アーヴァインの強烈な攻撃に、イレギュラーは一瞬怯んだ。ダイナモも、小型メカニロイドを相手に激闘を繰り広げる。
だが、戦闘のプロである彼にとって、今相手にしているメカニロイドなど敵ではなかった。大群の数は大分減少し、もう少しで殲滅出来そうだったその時。
ゴオオオオオオオオ・・・。
地面から、巨大なメカニロイドが姿を現す。アーヴァインは、標的をそれに向けた。
「俺の近くにいる者はここまで来い!!あのデカブツを叩き潰す!!」
すると、これまで大群を相手にしていた部下達は、一斉にアーヴァインに近付く。だが、ダイナモの姿が見当たらない。
「何をやっているんだ・・・?」
アーヴァインが、ダイナモの様子を窺うと、彼は右腕と左足に怪我を負っていた。しかもダメージは深刻で、立ち上がるのもやっとといった感じだ。しかも、周囲には小型メカニロイドがまだ残っている。
「・・・暫く頼む!」
そう言って、一旦戦線を離れる。しかしアーヴァインはすぐに目を逸らし、心の中で呟いた。
(こんな奴、助けても意味がねえ・・・。)
アーヴァインは再び部下と共に、戦闘を繰り広げた。
ダイナモが治療を受けたのは、彼らの任務が完了し、暫く経ってからの事だった。

「それでも彼はハンターなのよ!?どうしてそれがわからないの!?」
「そんなのわかってたまるか!!」
感情的にアーヴァインと口論を繰り広げるエイリア。普段冷静な彼女からは、到底信じられない光景だった。
「アーヴァインの気持ちは理解出来ない事も無い。」
ダイナモを治療しているライフセーバーが、突然口を開く。エイリアは彼を睨んだ。それでもライフセーバーは話を続ける。
「私は、負傷したハンターを治療するのが仕事だ。だが・・・流石にコロニーを落下させ、地球をこんな状況にした者の救助をすると聞いた時は抵抗があった。」
「ライフセーバー!!」
エイリアの反論を遮るように、ライフセーバーが語り始める。
「奴は罪の無い大勢の人々や、レプリロイド達を死に追いやったんだ。お前も分かっているだろう?」
黙り込むエイリア。アーヴァインが眠るダイナモを指差し、再び口を開いた。
「そら見ただろう。ライフセーバーだけじゃねえ、皆コイツの事を受け入れようなんて思っちゃいねえんだよ。あのシグマの犬としてコロニー落として、挙句俺らの邪魔した。さっさと処分すりゃあ良かったんだ・・・それなのに、何を理由にこんな奴を愛しているなんてほざきやがる?いい加減すぎるんだよテメエは!!」
ダイナモを罵るアーヴァインに対し、激しい怒りを覚えたエイリアが彼の前に立ち、睨み据えながらこう叫ぶ。
「貴方にダイナモの事をとやかく言われる筋合いはないわ!!何よ、貴方はただの部隊長じゃない!!彼をどうこうする権利なんかあると思っているの!?」
アーヴァインが机を乱暴に叩き、乱暴な口調でエイリアに言い放つ。
「威張った口叩くんじゃねえ!!このイレギュラーが!!」
彼の左頬に向かって、エイリアの右手が飛んで来る。だが、アーヴァインはそれを片手であっさりと受け止めた。
「・・・テメエの考えなんか、見え見えなんだよ。ビンタかませば、俺の心境が変わるとでも思ったのか?」
そう言って、乱暴にエイリアの腕を掴み、そのままねじ伏せる。エイリアは苦痛の表情を浮かべた。
「痛ぁっ・・・!!」
「へっ・・・いちいちうるせえんだよ。」
腕をそのまま押さえつけたまま、冷めた視線でエイリアを睨む。エイリアがアーヴァインの腕を振り払おうとしたその時、突然彼の背後に何者かが現れ、アーヴァインの肩を掴んだ。瞬間、アーヴァインの体が浮遊する。
「なっ!?」
ドサッ!!
背後の人物によって、アーヴァインの体が宙に浮き、床に叩きつけられた。何が起こったのかわからぬまま、ゆっくりと体を起こす。見ると、そこには自分を睨みつけるダイナモの姿があった。
「・・・エイリアに何しやがる!!」
目覚めたダイナモを汚いものでも見るかのように睨み、ふらふらと立ち上がるアーヴァインが、冷たく言った。
「へっ・・・イレギュラーが、何を紳士気取っていやがる。テメエが何をしようと、テメエでやった罪は消える事はないんだぞ。」
「それとこれとは別問題だぜ。大体、か弱い女性を腕力でねじ伏せるなんて、お前男として恥ずかしいと思わないのか?」
しかし、アーヴァインは悪びれた様子を全く見せない。
「今度は説教か?しかもそんな女庇って何になる?そいつは確かに有能だ。けどな、誰に対しても冷たいし、全然可愛げのない奴だ。よくそんな女の為に、あっさりと俺らの仲間になるなんて言えたな。」
「それ以上はよせアーヴァイン!!」
次々と二人を罵る言葉を並べるアーヴァインを、ライフセーバーが慌てて止める。だが、アーヴァインはそんなライフセーバーを振り払い、薄ら笑いを浮かべながらこう言った。
「それとも何か?性格以前に、そいつがいい身体している女だったから、ヤりたいとでも思ったのか?スケベ根性もいい所だな?」
ダイナモがアーヴァインに殴りかかろうとしたその時、彼の右腕を部屋に入って来たニートが押さえた。
「やめておけ。」
冷静な口調で、ダイナモをなだめるニート。だが、愛する者をなじられたダイナモの怒りは当然収まらない。
「離せニート!コイツだけは絶対に許さねえっ!!」
「やめろと言っている!!」
聞かないダイナモを、厳しい口調で諌め、ゆっくりと彼の腕を下ろす。ニートは溜め息をつき、静かに呟いた。
「・・・さっきから一体何のつもりだ?アーヴァイン、必要以上に挑発するのは感心できないぞ。」
悔しそうにニートを睨むアーヴァインが、彼に反論する。
「そいつはイレギュラーだぜ?同じ場所にいる事自体、俺は我慢ならねえんだよ!!」
「いいから黙っていろ。」
その言葉に、アーヴァインが黙り込む。ダイナモとエイリアの表情は和らいだが、次のニートの言葉がその気持ちを打ち砕いた。
「だが・・・アーヴァインの先ほどの発言は、他の者と同じ意見だ。」
「何ですって・・・?」
「エイリア。お前が愛していると言うその男は、凶悪なイレギュラー・・・本来なら破壊されるのが筋だ。なのに、お前は独自の判断で他の者を巻き込み、そいつを俺達の同業者として迎え入れた。皆が混乱し、反発するのは当然の結果だ。」
エイリアの表情が徐々に険しくなる。ニートはそんな彼女を尻目に、話を続けた。
「俺もお前が理解できんな・・・総監の命令だから、皆止むを得ずそれに従っているが、そのお陰で上層部に対する信頼が徐々に薄れてきている・・・エイリア。お前はその事実を知っているのか?」
その言葉に、エイリアは俯き拳を震わせる。ダイナモの表情も曇っていた。
「このままいけば、ハンター達がバラバラになるのも時間の問題だ。地球が壊滅状態に陥った今、生き残った者達皆が力を合わせなければならないと言うのに・・・。」
エイリアは震えた声で辛うじて反論する。
「それは・・・貴方達が、ダイナモの本当の心を知らないからよ。彼の本当の強さや、一途さ、そして・・・優しさを全く知らないからよ!!」
しかし、アーヴァインはあきれた表情で溜め息をつく。
「優しさね・・・地球ぶっ壊そうとして、散々レプリロイドや人を殺してきた奴に、そんな感情があるのかどうかあやしいぜ。」
エイリアはそんな彼に対し、涙を流しながらこう叫ぶ。
「貴方は、私達の事を知らないし、知ろうともしない・・・だからそんな事が言えるのよ!!」
「知ってどうしろってんだよ。俺はそいつを絶対に許さねえ。イレギュラーと仲良しごっこなんて、俺は御免だからな!それと・・・俺はお前もイレギュラーだと思っているからな!!」
エイリアの眼から涙が零れる。
「・・・貴方は最低よっ!!」
そう言い放ち、エイリアは扉を開け放って何処かへと駆け出した。
「エイリア!!」
ダイナモが、エイリアの後を追いかける。アーヴァインは寝台に座り込むと、ライフセーバーは穏やかな口調でこう言った。
「少し言い過ぎではないのか?アーヴァイン。」
「別に・・・俺は、本当のことを言っただけだぜ。」
ライフセーバーが、壁にもたれるニートに静かに問い掛ける。
「ニート・・・お前の今言った事は、事実なのか?」
「嘘を言って何になる。」
冷たい態度を保ったまま、素っ気無く答える。ニートはそのまま部屋を出て行った。

その日の夜、ゼロはニートの書類整理を手伝っていた。面倒臭そうに書類を持ち歩くゼロが、ニートに問い掛ける。
「おいニート。ライフセーバーから聞いたが・・・あの話は本当なのか?」
ニートは眉をひそめた。ゼロは、昼間アーヴァインとエイリアが起こしたイザコザについて聞いたのだ。
「心配するな、誰にも言わん。ただ・・・俺は、今のハンターの現状を知りたいだけだ。」
するとニートの表情が少し和らぎ、椅子に座り込んでゆっくりと口を開いた。
「・・・アイツらには、今の現状を肌で感じてもらわなければならん。」
「ダイナモとエイリアの事か。」
「ダイナモは元を辿ればイレギュラーだ。地球をこんな状態にし、多くの生命を奪ったのもあいつだからな。エイリアがどんなに奴を想っていても、総監やエックスはともかく、周囲はそんな恋愛など認める訳がない。」
「まあ・・・俺も、奴の事は信頼している訳ではないしな。」
壁にもたれ、書類を眺めるゼロが、ぼそりと呟く。ニートは真剣な表情で話を続けた。
「総監が一体何を考えているのか、理解できん。俺は、奴がハンターになった事で、他の者達の総監への信頼が薄れていくのが・・・コロニー落下事件の影響で、ただでさえ薄くなった組織力が更に失われていくのが・・・バラバラになっていくのが・・・。」
恐いんだ。そう言おうとしたが、口にしたら今まで保っていた自分が崩れてしまいそうで、ニートはそのまま黙り込んだ。ゼロがニートの肩にそっと手を置く。
「・・・お前の気持ちは理解した・・・。」
ニートは立ち上がり、ゼロから書類を取ると、席から立ち上がる。
「・・・このままでいい筈がない・・・このままで・・・。」
そう言って、振り向く事無く部屋から出て行った。

「ごめんなさいね、ダイナモ・・・貴方を、あんな危険な目に合わせて・・・。」
エイリアが悲しそうな表情で、ダイナモの容態を気遣う。
「君が悪いんじゃないよ、エイリア。俺は慣れてるから心配ないって。」
「でも・・・。」
「それよりも・・・君の事が心配だよ。俺がここに居座ったせいで、君は辛い思いばかりして・・・その方が、俺にとって一番辛い事だよ・・・。」
寂しそうに笑うダイナモ。エイリアはそんな彼の頭をそっと抱き寄せ、優しい口調で語りかけた。
「私は大丈夫・・・私は、貴方がいてくれればそれでいい・・・貴方さえ側にいてくれれば、何もいらないわ。」
「エイリア・・・。」
「だから、約束して。どんな事があっても、離れたりしないって。」
ダイナモはエイリアの腕の中から抜け、彼女の身体を強く抱きしめた。
「・・・何言っているんだ。当たり前だろう?俺は、絶対に君の側を離れたりしない。大丈夫さ・・・いつか、皆分かってくれる時が来るって信じているから・・・。」
「そう・・・よね・・・いつかきっと・・・。」
ダイナモはエイリアの涙を手で拭い、唇を重ねた。


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