ことば もどる

 不思議なもので生まれてきた子供は、その国の言葉を自然に母国語として獲得すると思われています。私たちが別の言語を獲得するのには大変苦労することも知っています。その差は何にあるのでしょうか。子供の脳は3歳までに大人と同じ重さになります。体に比べて脳のしめる比率は高いのです。この急速な脳の発達とともに五感を使って毎日毎日周りの環境を理解していきます。脳の中にたくさんの行動やことば等のプログラムが刻み込まれていきます。単一であったプログラムも複合的に使うようにもなってきます。1歳も過ぎると立ち、歩き始め、2歳もすると片言で話も出来るようになります。3歳を過ぎると簡単な質問に答えられるようになり、6歳までには生活に困らないまでの言語を獲得します。脳の発達とともに言語環境が十分整っていることが母国語として獲得する理由です。
 情報は視覚的なものがほとんどですが、言葉は聴覚抜きでは考えられません。聴覚は母親のお腹の中でも発達しています。視覚は生後何日かで発達すると言われます。文字を習得するまでの間は、聴覚が中心で言葉を覚えて行きます。運動機能や知的な問題がなく言葉がなかなか出ない場合、まずは聴覚が正常化どうかを疑わなければなりません。中軽度難聴の場合、知的障害やLD、ADHDと間違われる場合があります。幼児の場合、聴力検査がきちんとできないため少し話せるからといっても聴力が正常とは限りません。まずは聴力が正常かどうかを疑わなければなりません。幼児の聴覚の発達は言語理解に大きく影響してきます。

Dしっかりたべることが大切です。
  言葉を話す発語器管は、動物として呼吸をしたり食物を食べるためのものが本来のものです。その器管を使って大変細かい複雑なことをして発音し言葉を操っているのです。しっかり吸ったり吹いたりできない、しっかり噛めない、下あごが動かない、舌が単純な動きしかできない子供はきちんとした発音やしっかりと話せないことは明らかなことです。聾学校では、声を出したり、発音指導をしていますが、言葉を意識し理解するために、また将来の発音指導のためには母音の口形を大切にしています。声を出すだけでなく、口の周りの筋肉を動かすことで発音が滑らかになったり、音韻意識が育ちます。音韻意識ができるのは4歳後半ぐらいといわれています。ことばを音韻に分解できるようになるとしりとりなどのことばあそびができるようになります。(みーかーん) またこの時期文字を覚えることに興味が出て覚えることが容易になってきます。しっかり話すためには、しっかり口を動かして食べることが必要です。やわらかいものばかり食べさせていると、発語器官が発達しないことを知りましょう。
C声を出すことを楽しむ。
  子どもは常に声を出しています。頭で考えていることも口に出して話します。声を出すことで、発語器管が急速に発達していきます。たどたどしかった話し方も口の周りの筋肉や舌、声の発達にともなってはっきりしてきます。歌をうたうことは、楽しい上に同じことばを繰り返して使うことになり、発音やことばを身につけるには良いものです。声を出して自分の感情を示したり、自分の意志を伝えることは話さないと相手になかなか通じません。ことばにならない、ことばが出ない子どもたちには、まずは声を出す楽しさから教えていくことが大切です。声は空気を振動させて相手の耳の鼓膜を振動させて伝わります。聴覚障害児の場合、のどや胸に手を当てて振動を感じさせます。またゴム風船を口をあてて声を出すと風船が振動します。それを手やほほで感じさせることもします。最近は早期から補聴器や人工内耳をつけているため声を出さない子どもはいませんが、意識的に声を出すことは弱いです。聾学校では、発音の前に声を出す楽しさを知らせています。メガホンをつけて大きな声を出したり、マイクを使って自分の声の大きさを視覚的にとらえさせながら声を出す楽しさを知らせます。糸電話は、話す、聞くの立場が代わるので、特に相手の話を聞くには良いあそびです。
B話し言葉より理解できる言葉を増やす。
 聴覚や知的な問題がなく、ことばがなかなか出ない子供でも大人のいうことが理解できている場合はしばらくは様子を見るのが一般的な考えです。言っていることはわかるが、自分ではうまくいえないのが幼児です。まだ頭の中で整理して説明する力はありません。うまくいえないで口ごもってしまうのが普通です。5歳ぐらいになると、やっと時間の関係がわかり、順序立てて話すこともできるようになります。昨日、今日、明日や何曜日という感覚が十分理解できるのは5歳を過ぎてからです。ずっと前のことも昨日のことのように話すこともまだあります。口に出しているからと言って、わかっているとはかぎりません。しっかり説明したり話すことが大切です。文字を読めるようになると、親に読んでもらうのを嫌って自分だけで読もうとする子どもがいます。文字を拾い読みするだけで、意味まで理解できていません。小学生が国語の教科書を声を出して読めても、内容の理解は別であることでわかるでしょう。幼児期は本の読み聞かせをすることが将来の確かな読解力につながります。子どもだけでは読み取れない部分を気づかせることが大切です。そのまま読むだけでなく、子どもの理解に応じて説明することも必要です。同じ本をこの時期何度も読むことも大切です。毎回子どもは新鮮な気持ちで読み、深く理解していると思えば大切なこととわかるでしょう。
 最近の子どもは過保護に育てられているためお手伝いをしていない子どもが多いです。家族の一員として仕事を担うことはしつけの上でも大切ですが、ことばや知恵を育てるためにも大切です。「誰々に 何々を 持って行って」「何々から何々を 持ってきて」というのは、しっかり聞かないと理解できません。お手伝いができる子どもは、人の話も聞きますし、日頃から理解力を育てていることになります。
2)歌を聴く。
 子どもたちはうたを歌うことが大好きです。体を動かすことと同じで発散できます。聞いて覚えるので、耳を育てるためには良いものです。繰り返すことで、聴覚的フィードバックを効かせてきちんと覚えられるようになります。
1)ことばのリズムやイントネーションの楽しさを感じましょう。
  擬声語(ワンワン、ブッブー等鳴き声や音を表すことば)、擬態語(ニョロニョロ、ブラブラ等様子を表すことば)は初めにことばとして子供が覚えて使います。「いぬ」といきなり使う子どもはだれもいません。「ワンワン」から覚えます。大人も小さな子どもにいきなり「いぬ」といってもわからないまたは言えないと思 って「ワンワン」「ブッブー」と言って話します。物とことばが一致し理解できるようになり耳と発語器官も発達してくると「いぬ」という言葉を獲得します。この時期はことばの持つ音の響きに関心があり、2歳までの子供は将来の自然なことばのリズムやイントネーションをこの時期獲得します。聴覚障害幼児の場合、2歳ぐらいまで正常に聞こえている場合、発音が悪くても自然なおしゃべりができる場合が多いです。先天性の聴覚障害児の場合、後日訓練や練習することで身につけることになり、時間がかかります。そのため補聴器や人工内耳を早期につけることは、ことばや自然なおしゃべりを身につけるためには大切なことです。
A言葉よりまずは耳を育てる。
 子どもが初めに発音する音は母音や両唇音(唇で作る音でパ行、マ行、バ行等)です。 音が聴きやすく、真似しやすい音から発音して行きます。音声言語の中で母音は聞き取りやすいですが、サ行や、ラ行は発音しにくいと同時に聞き取りにくいのです。幼児を始め聴覚障害児や言語に遅れのある子供たちは発音しにくい音です。我々が発音する場合、聴覚的フィードバックで発音を調整しています。自分の発音を耳で聞いて言い間違いや発音の違いを常に監視しています。老人が耳が遠くなると発音が悪くなるのはそうした理由からです。音の有る無しや音の大小がわかり、また周波数の違う音や、複雑に組み合わされた音色も区別出来ることが必要です。
  生活の中で、音に注目させます。子どもの理解しやすいものと音を関連付けます。インターホンの「ピンポーン」の音でパパが帰ってきたこと、だれかが来たことを知らせ ます。急な雨の音に「雨が降ってきた。たいへん。」とあわてて見に行ったり、洗濯物を取りに行きます。音を出す前に犠声語で表現して子どもに知らせることも音に対する興味をつけます。「ブーンするよ。」と言って掃除機で掃除を始めます。このように周りの音(自然の音 乗物の音、動物の鳴き声等)に興味を持ち、理解出来るようになると、ことばを聞く態度や理解力が伸びていきます。ことばがまだあまり出ていない時期 の子どもにはしっかり音やことばに関心を持たせるようにすることが、将来人の話をよく聞く子どもに成長していきます。人の話をきちんと聞き、理解できる子どもは賢くなるのです。
2)歌やお遊戯をする。
初めは聞くだけだったり、見るだけだったりしていた子どもたちも大人の楽しそうな雰囲気につられて、体を真似して動かしたり声を出したりします。相手の真似だけでなく相手に共感して同じ行動を楽しむようになります。
一緒にする歌やお遊戯は、簡単で親子で楽しめます。手遊び歌は、手先や脳を鍛えます。子どもの発達年齢にあったものを続けて行くことで全体的な発達を促します。
1)子どもと一緒にすることを楽しむ。
子どもは大人のすることを真似します。大人も子どものすることを真似します。
一緒にしたり、交代したりするやりとりの中で簡単なルールができ、理解するようになります。ことばがなくても相手のすることや相手の顔の表情を見て理解するようになります。大人しいからといって一人遊びをさせていてはことばや知恵は育ちません。母親に限らず、そばにいる養育者は時間があれば子どもの相手をすることが大切です。3歳までに急激に発達する脳を考えると、この時期に刺激が少ないということはもったいないことです。「三つ子の魂百まで」は理にかなったことわざです。3歳までにしつけ、ことば、知恵、心、体がほとんどできあがってしまうことを忘れてはいけません。後からやろうと思っても長い時間がかかり、難しくします。「鉄は熱いうちに打て」もタイミングを外すと難しくなるという喩えです。子育ての場合も全く同じです。
@人と遊ぶことを楽しむ
生後5、6ヶ月頃から「ちょうだい」(身振り)遊びができるようになり、音声言語はなくても本格的なやり取り関係ができてきます。これがコミュニケーションの基礎になってきます。10ヶ月を過ぎると役割を交代することができるようになります。物を介して人との遊びの中でことばが育てていきます。物そのものより人がどう接するかの方が大きいということを忘れてはいけません。面白いおもちゃを与えることではなく、いかに子供と面白く楽しめるかの方が大事なのです。そして親子で心の底から楽しめることがことばと知恵を育てていくのです。