脳卒中の最新耳寄り情報

ここでは、最新の脳卒中に関する医学論文および最新ニュースの中から、有益な情報を取り上げていきます。


  • 脳梗塞後遺症に対する治療薬アニラセタムの有効性確認できず返品回収へ(アップロード:7/26/2000)
    脳梗塞後遺症としての不安、焦燥、抑うつ気分などに効果があるとして、製造販売されてきた薬剤アニラセタム(商品名ドラガノン/日本ロシュ株式会社、商品名サープル/富山化学工業株式会社)は、メーカー独自の再試験(偽薬を対照とした二重盲検試験)にて、有効性は証明できなかったと発表された。そして、今後の販売促進活動の自粛と製品の返品回収を行うとした。


  • 片頭痛をもった若年女性は脳梗塞を起こしやすい!
    脳卒中の既応を持つ20-44才の女性291人と、年齢と病院をマッチさせた女性736人を対照とした。それぞれの群で片頭痛歴を調査すると、片頭痛を持った女性は、持たない女性と比較して、全脳卒中は1.78倍、脳梗塞は3.54倍、脳出血は1.10倍発症率が高いとされた。脳梗塞における危険率は、前兆のある典型的な片頭痛を持った女性では3.81倍であり、前兆のない単純な片頭痛では2.97倍であった。片頭痛を持った女性では、経口避妊薬の常用、高血圧歴または喫煙歴があると、脳梗塞の危険率はさらに高くなった。また片頭痛を持った女性では、脳卒中の20-40%は、片頭痛発作から直接進行したものであった。(BMJ 318:13-18, 1999)


  • 脳梗塞発作の危険性と果物、野菜摂取量との関係
    女性75596人(34-59歳)を14年間、男性38683人(40-75歳)を8年間前向きに追跡した研究です。果物および野菜の摂取量を5段階に分けて、脳梗塞発作の発生率を比較しました。合計女性366人、男性204人が脳梗塞を起こしました。5段階評価の内最高摂取群は、最低摂取群と比較して、相対危険度は0.69でした。果物または野菜の摂取が1日に1皿増えると、脳梗塞発作の危険性は6%低下しました。種類別でみると、最も効果的であったのは、アブラナ科の野菜(ブロッコリー、キャベツ、ハクサイ、ダイコンなど)で、以下に緑葉野菜、ジュースを含めた柑橘類果物、柑橘類ジュースが続きました。豆類や芋類では、脳梗塞発作の危険性は下がりませんでした。(JAMA 282: 1233-1239)

  • 動物性脂肪と蛋白質は血管性痴呆の予防に有効
    ハワイ大学の研究によると、動物性脂肪と蛋白質を含む西洋食は、脳卒中後の認知機能や精神活動の喪失を予防するのに有効であったという。脳卒中の既往のある日系米国人男性(71-93歳)を対象にした調査である。68例は脳卒中と脳血管性痴呆を有し、106例が脳卒中はあるが脳血管性痴呆はなく、残り3335例は脳卒中も脳血管性痴呆もなかった。調査の結果、主に西洋食を摂取していた男性は脳卒中後に脳血管性痴呆をきたす危険性は低かった。一方、動物性脂肪や蛋白質が少なく複合炭水化物を多く含むアジア系の食事を主に摂取していた男性は、脳卒中後に脳血管性痴呆をきたす危険性が高かった。また、脳血管性痴呆を来した男性の多くは、細小血管性の脳卒中を罹患していた。
    (Neurology 53:337-343, 1999)


  • 日本脳卒中学会総会開催間近!
  • シンポジウムにて急性期脳梗塞の血栓溶解療法について討論予定
    2000年4月27、28日東京新宿の京王プラザホテルにて、日本脳卒中学会総会が開催されます。そのメインイベントの一つとして、脳梗塞の急性期治療のシンポジウムが27日午前に開かれます。そのタイトルは、”脳梗塞ー特に脳主幹動脈閉塞の治療指針ー急性期脳塞栓融解術を中心に”です。全国各地から選ばれた専門家が研究成果を発表し、現時点での最善の治療について討論します。その第一番手の発表者として、私こと、植田敏浩が選出されました。私の講演テーマは、”急性期脳梗塞に血栓溶解療法における最適の適応基準とは?”です。
    私の発表の要点は、血栓溶解療法はすべての脳梗塞の急性期患者に適応となるのではなく、3-6時間以内と言った時間の要素以外に、残存脳血流量の評価によって、梗塞に陥りつつある脳が不可逆的な変化をすでに起こしているのか否かを判定することが重要であるということです。残存脳血流量の評価のためには、脳血流検査(SPECT)やMRI、また神経症状も大切であると考えています。
    今、首相の病気として注目を集めている”脳こうそく”の最新治療である血栓溶解療法について、有意義な議論になることを期待しています。そして、その研究成果をまとめて治療指針を作成、そして公表し実際の診療に役立つようにすることが学会の任務ではないでしょうか。

  • 脳卒中後の痴呆発症の危険性とコレステロール(アップロード:3/26/2000)
    脳血管性痴呆は、アルツハイマー病に次いで多い高齢者の痴呆の原因疾患ですが、その危険因子はあまり解明されていません。この研究は、平均年令75才の非痴呆者1111人を7年間前向きに調査したものです。調査中、286人が痴呆となり、そのうち61人が脳卒中後でした。コレステロールは、低比重リポ蛋白コレステロール(LDLコレステロール)を測定しています。その結果、LDLコレステロール最上位4分の1の群は、最下位4分の1の群に比べて、痴呆発症の危険性は約4倍でした。すなわち高齢者では、LDLコレステロール値の上昇と脳卒中後の痴呆の発症の危険性は、有意に相関していました。今後は、LDLコレステロール高値を治療することによって、痴呆を予防できるかどうかを検討する研究が必要です。(JAMA282,3:254-260,1999)


  • 脳卒中の予防のための食事に関するガイドライン(アップロード:3/19/2000)
  • 米国脳卒中協会は、初発脳卒中の予防のための最新の勧告をまとめ発表しました。これは、1990-1998年までに発表された無作為化対照研究やメタアナリシスに基づいた成績を重視して作成されました。その中で、食事に関するガイドラインは以下の通りです。
  • 脂肪摂取を制限し、総エネルギー量の30%未満にする。
  • コレステロールの摂取を、総エネルギー量の10%未満にする。
  • 野菜および果物(1日5種類以上)と、食物繊維を含む食物(1日6種類以上)を摂取する。
  • 食事と運動により、エネルギーのバランスを保つ。
  • 適量のカルシウムを継続的に摂取する。
  • 思春期および若年成人:1200-1500mg/日
  • 25-50才成人:1000mg/日
  • 閉経後女性、妊娠及び授乳中の女性:1200-1500mg/日
  • 食物中の塩分を減らす。
  • b-カロチンやその他の抗酸化物質を摂取する。
  • 参考文献:JAMA 281,12:1112-1120, 1999