コイルも自作したmT管5球スーパー受信機

これは1994年8月号のAWC(アンティック ワイアレス クラブ)会報に掲載したもので、当時秋葉原で全部品が5000円以内で購入出来る事を前提に考えたラジオです。
左端の黒い棒は調整棒と呼ばれる物(片側に真鍮、反対側に磁気コアがついている)
5000円ラジオは
1)IFTはTRラジオ用を使って自作
2)mT管のトランスレスにする
3)アンテナコイルと発振コイルは自作
4)バリコンはmax330PFの2連
5)受信周波数は535〜1605KHz

ここでmT管と表記したのは、大昔メタル管(MT管)と区別するため、
このような表現がされた時代に育ったためです、悪しからず(全日本真空管マニュアルも同じ表記)。


コイルまで自作したmT管5球スーパー回路図



製作データ

ごく標準的な5球スーパーです、結構実用的に動作します。
パイロットランプはつけていない、これは実験中35W4を断線させる原因になるためで、実用時にはつけて下さい。
使用するバリコンの容量によってコイルの常数が異なる、トラッキングの取り方は色々有るが、参考例を下記に示す。
これはラジオ技術教科書を参考にしたもので、浮遊容量と両端のカバー範囲に余裕を持たせて計算して有る。
実際はあまり神経質にならなくっても実用になる。

バリコン ANTコイル OSCコイル パディング トリマ
430PF 210μH 120μH 426pF 11pF
330PF 270μH 154μH 330pF 8pF
280PF 310μH 177μH 290pF 7pF

ANTコイル

直径20mmのベークボビンに巻く、ベークボビンは現在でも入手可能であるが、意外と高価です。
フイルムケースやアクリルパイプなどを利用しても良い。
270μHのコイルは0.16mmのホルマル線を160回巻く、これが同調コイルL2になる(コイルの上側の端子が12BE6のG3につながる)。
アンテナ側コイルL1はL2のアース(AVCに接続された方)側から1mm離して20回巻く。
直径の違うボビンでコイルを巻く時にはラジオ技術教科書(応用編)などを参考にして下さい。
でもどうせ最後はカット アンド トライで調整する必要が有り、あまり気にする必要は有りません。
受信する周波数はどちらかと言えば、OSCに依存します、極端な事をに言えば、ANT側は感度が良くなるように調整すれば良いわけです。

コイルは製作後10年程度経過している。

OSCコイル
ANTコイルと同じベークボビンに巻く方法も有るが、TRラジオ用のIFTまたはOSCコイルを利用して巻き直した方が楽です。
何しろコア入りなので簡単にLの調整が出来ます。
この為現在では高価なパディング コンデンサーが安価な330pFの固定でOK。
455KHzのIFT(黒コア)を巻き直して利用した、0.1mmのホルマル線を90回巻いた(少し多すぎた感あり)。
カソードタップはアース側から10%のところから出した。
本来発振電流を見ながらタップ位置を微調整すべきでしょうが、最高感度をねらわぬ限り大丈夫だ。
もう一つQを心配される方もいると思うが問題は有りません。

左上 ANTコイル。
左下 TR用IFTを巻き直したOSC。

TR用IFT 2個が並んでいるのが初段のIFT。
中央の1個のIFTが検波用。 


IFT



真空管用のIFTは電磁結合の複同調ですが、これを自作すると大変なので、TR用を2個1組で使い静電結合の複同調とした。
使うTR用のIFTは455KHz用であれば特に指定は無い。
結合用のCは500V耐圧の2pFを使った。浮遊容量が有るので、実際の結合容量はもう少し多い。
このCは耐圧だけは充分注意して下さい。
高耐圧のCが入手出来なければ、絶縁線を撚り合わせて代用させる方法もある。
セラミックフイルターを組み合わせれば、さらに良いものが出来そう。

検波段は2極管検波でQが落ちるので、単同調とした。
勿論初段用と同じ複同調にしても良い。
またTRラジオの検波段用黒コアのIFTをそのまま使い、1次コイルを12BA6に2次コイルを12AV6の2極管のプレートに接続する方法もある、この方が検波出力は多いがコイル間の耐電圧が心配なので止めた。

参考

最近秋葉原で見かける中国製のIFTを分解してみました。
シールドケースの中はトランジスターラジオ時代の技術を使ったコイルが2個独立して組み込まれています。
恐らく30年くらい前に作られたものでしょう。
日本ではまず見かけない組み合わせです(TR用コアを真空管ラジオのIFTに使う)。
2つのコイルの位置関係で結合度が変えられます、日本製でもコイルの位置が変えられる構造の高級IFTは戦前から存在したようです。
この普及版をTRラジオ用に開発されたコアを利用して作成したのではと想像されます。

なお緑色の元箱に入れられたものと、白箱のものがありますが、312型は白箱入りです。

312型IFT(白箱)

312−4 (検波段用)
同調容量は220PFでした。コイルの中心ー中心間の距離は約24mm
インダクタンスはシールドケースに入れた時と裸の時で5%くらい違います。
(シールドケースに入れると)5%くらい減少

Qは455KHz時 約140.、意外と高いです。
コイルの可変範囲がこれも意外と広いので要注意。
(380〜580μH  無暗にコアを廻すととんでもない周波数になります。)

この他に312−3があります。
同調容量 240PF
コイルの中心ー中心間の距離は約28mm
312−4(検波段)のものが、312−3に比べコイルの間隔が狭いのは2極管検波の負荷の影響でQが下がり、
結合度が落ちるのを補償する意味があります。


写真は312−4(検波段)です。
312−3も同じ構造です。
633−1 633−2 IFT(緑色元箱)

これは312と外観は同じですが、多少中身は違います。
双峰特性の高級型?のようです、実際使ってみると意外に取り扱いが難しいようです。
312型が単線なのに対し、こちらはQを高くするためリッツ線が使われています。
使いこなすのにはそれだけの技術が必要です。

同調容量は 633−1   180PF
455KHzにおけるコイルのQはケースに入れた状態で160です。
中古のスターA4のコイルのQは80程度ですから、Qは想像以上に高いです。
コイルはリッツ線を使っています。

633−2(検波段)同調容量200PF
相当密結合になっている。

Qが高くて、同調容量が312型より少ないので、感度は良くなりますが(利得が多くなる)、
上手く組み立てないと発振する可能性があります。

左 633−1
コイルの中心距離約29mm

右 633−2
コイルの中心距離約25mm

コイルの反対側 細い円筒部分に調整ネジが切ってあります、写真の位置から90度回転した方向でシールドケースに組み込みます。

なお
312型は実際に使った経験はありません、同種の633型(緑色の元箱)は実使用しましたが、発振しやすいようです。

この中国製のIFTはコイル間を電磁結合しています。
一方、上記TR用IFTを利用した自作IFTは容量結合(今回2PF)です。
電磁結合か容量結合かの差だけで、基本的には同じ機能が果たせます
自作する時は容量結合の方が楽です、さらに結合度の調整はコンデンサーの容量の増減で簡単に行えます。
2〜10PFくらいの間で、調整してみてください。
TR用IFTの同調容量は一般に180PFが多いようです、この自作IFTは充分実用に使えます
なお自作ラジオは検波段は単同調としましたが、同じ原理で複同調にする事ができます。
この場合、結合コンデンサーの容量を初段のものに比べ、多くするのが常識です。
これは2極管検波の負荷のためQが落ち、コイル間の結合度をあげる必要があるからです。

同封の使用説明書(中国語)

調整
調整にはSSGなど発振器が必要です。
まずアンテナ端子から455KHzを入れ、最大出力になるようにIFTのコアを調整する。
次に520KHzを発振させ、アンテナ端子から入れて、受信できるようにOSCのコアを調整する。
ここで高調波に合わせぬよう注意が必要です。
OSCの発振周波数が、受信周波数+455KHz近くで有る事をTRラジオなどで確認ください。
ナショナルのクーガ2200など中波帯の周波数が読めるBCLラジオがこんな時に役立ちます。
バリコンを抜いたところで1620KHz程度まで受信できるようOSCのトリマを調整します。
これは1〜2度 繰り返す必要があります。
JOAK(594KHz)を受信して、最高感度になるようにANTコイルの調整をします。
これには写真のような調整棒が便利です、持ってない方はボールペンの軸の両端にコアと真鍮をそれぞれ貼り付けて使ってもかまいません。
コアをコイルに入れた時に感度が上昇すれば、巻数不足。
真鍮側を入れた時に感度が上昇すれば巻数が多すぎる事を意味します。
コイルを解くのは比較的簡単ですが、巻き足すのは面倒です、こんな時はTRラジオのバーアンテナの破片をコイルに入れれば巻き足すのと同じ効果があります。
その後周波数の高い放送局を受信し、感度が高くなるよう、同調コイル側のバリコンのトリマを調整します。

最後に
トランスレスは一般にシャーシ(アース)側に電灯線が直接接続されています、感電に充分注意ください。
写真の試作ラジオはシャーシとBマイナス(アース)を分離して製作しています。
こうすると組立ては手数がかかりますが、比較的安全です。


OSCコイルの試作データ


455KHzのIFTを利用します。
今回はTOKOの黒コアIFT(検波段用)を利用しました。


分解したところです。
IFTにはコンデンサーが内蔵されていますので、取り除きます。


コアのキャップを取り外し、巻いてある線を解きます。

コイルを全て取り除いたところ。

コイルが巻いてあったドラム部分は接着されていますが、
この部分を外した方が巻きやすいです。


0.1mmのウレタン線を巻きます。
乱暴に巻いても90回は簡単です。

これを再度接着し、ウレタン線を脚に半田付けします。
コアキャップを被せ、金属ケースに入れて完成です。
巻数とインダクタンスの関係は表をご覧ください。
なおタップは10%のところから出せば大丈夫です。

巻数 最小 最大
70回 90μH 125μH
80回 110μH 185μH
90回 155μH 240μH

巻数とインダクタンスの関係は目安程度にお考えください。
発振コイルのQが心配と思いますが、1,000KHzでQ 80 2,200KHzでQ 60ですから、問題ありません。

2005年3月8日 OSCコイル試作データを追加。
2005年3月13日 ANTコイル IFTの写真追加。
2006年1月21日 中国製IFTについての記載を追加。
2012年3月8日:21,407 リンク切れを修正
2013年7月5日:28,036

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