16日(木)晴れ、ちょっと雨 The Malting Theatre Sponsors Evening
 今日のParty は私達を劇場の大事なお客さんに紹介することが目的で、その結果、お客を増やしたり、寄付を集めたり…、と言うことで責任重大だ。しかも4人での始めての公演だから、構成や繋ぎを色々工夫しなければ…。
 午前中はAnne の家の庭で稽古。直ぐ隣りに1件家があり、10分程歩いたところにもう1件、後は見渡す限りの牧場だから、太鼓を牛やヒツジに聞かせているようなもの。携帯電話も繋がらないまさに田舎だ。この隣家との距離感は実際に生活してみると、物の考え方や精神に凄く影響があるように思う。「嵐ヶ丘」の劇をしたことがあるのだが、嵐の夜に”隣の家”からヒースクリフが何十分も歩いてやってくる、その恐さや情熱の深さは、演じる側は勿論、観客の側にも、この何十分間もの人間の影の無い空間感覚を実感できなければ、表現として成立しえないだろう。
 コンピュターがまたおかしくなり、私はソフトの移動やら調整におわれる。
 16:00 The Malting Theatre に向う。17:15 着。遠い!軽く場当たり。
 18:00 お客さんが集り出す。 19:00 Party の始まり。軽く挨拶をしてスタンバイ。
 20:15 劇場外の駐車場からチンドンを始める。劇場に入ってオブラディ・オブラダを。チンドンの説明を入れ、日本の有名な歌と紹介して「蛍の光」を。この曲ご存知無い方が多いのだが、実は有名なScotish 民謡。という所から日本は文化の吹き溜まり、なんてことを振って「上を向いて歩こう」 口上を入れ、早変り、トモコとテツがチャパと打ち金で繋いで、「マサル」「馬鹿囃し」「鬼囃し」「獅子舞」の順。
 大盛況で、皆喜んでくれた。制作の女性はこれまでここで開いた Party の中で、お客さんの反応が最高だとまで言ってくれる。実際、劇を観に来てくれる約束は勿論、援助の話しもいくつか纏まったらしい。責任ははたせたようだ、良かった。お客さんから、握手、写真責め、Party 後半には、カキ・テツはオバさん達のキス責めで、大喜びの大酔っパ。 

Malting party1 Malting party2 Malting party3
Party 開始直後 公演直後 閉会直前

 Party 終了後、近くの中華レストランで打ち上げまで開いてくれた。

17日(金)晴れ  街まで出ても携帯が繋がらなくなった!!
 本当に綺麗な青空だ。英国は殆ど一年中グレーで、僅かな夏の間だけ青空が見えるから、英国人にとってその喜びは一塩だ。青空や陽の光は特別のものなのだ。公園で裸になったり、羽目を外して騒いだりするのも十分理解できる。にも関わらず、砂漠の民によって作られたキリスト教を受け入れ、発展させた。こう言う所に英国の面白さがあるように思う。
 太陽神が隠れた「日本神話」に対する興味も、これらのことと無縁では無いだろう。近年キリスト教離れは甚だしいし、ことにケルト的=原初的宗教に対する興味は、英国全土にまで広がっている。観光土産など、どこに行ってもケルト的なものが置いてある。”ケルトの国”を観光の目玉とし、England からの独立を悲願とする、ここ Scotland ではとりわけだ。
 日本政府はそこに便乗して”神道の国、日本”を売り込もうとしているようだが、”神道”とは何であるのか、よほど注意してかかる必要があるだろう。きちんとした議論がなされないまま、物事がなし崩しに進んで行く”日本的光景” 理屈からしか始まらない英国人と、理屈では動かない=議論することすらできない、日本人…。”お人よしの辺境の民”は何処へ向うのか?

Anne's house2 Anne's house3
召使を呼ぶベル 開け閉めの楽な、2重ドア 薪を燃す暖炉

 私達が宿泊しているAnne の家には幾つか面白いものがある。一番はアオイが出会った幽霊であろうが…。何と言っても300年近くも前の家、幽霊の3人や4人、そりゃいるでしょう。もともとお城に使われていた石を移築したらしく、とにかく壁が厚い、90cmはゆうにある壁もある。で、そこについているドア、当然、向こうの部屋とこっちの部屋に二つ付くことになり2重ドアになる。そのドアとドアが棒で繋いである。「召使がお盆を抱えて、ドアの開け閉めが楽なように。」と説明された…、なるほど。もう一つ、各部屋にブザーのスイッチがついており、それを押すと台所にあるブザーが鳴り小窓が開く、どこの部屋で呼んでいるのか、直ぐ判るようにだ。
 8月だというのに、暖炉にはもう火が入っている。
今日、日本経済新聞に記事が掲載されたらしい。反応があると良いのだが…。 

18日(土)晴れ、曇り  ここ数日、頭痛が酷い。
 大使館Yさんから、日経の記事に対する嬉しいメール。とにかく僕らがやっていることを、応援してくださっている方が沢山いることに、勇気づけられる。
 携帯が繋がるようになった。電話会社の手違いで料金引き落としが出来なかったらしい…。JEM の川崎さんにまたお世話になってしまった。
 3人がいなくなって私がもっとも困っていることは、写真。ビデオは勿論、デジカメも私は僅かな指示を出すだけで、後はタツヤにお任せだった。タツヤの写真が圧倒的に少ないのはそれが理由だ。また本番やお客さんとの交流が殆ど撮れていないのも、全員出演者だからだ。

Berwick-upon-Tweed keiko kawade
土曜日は市場が立つ 初日のゲーム 河口岸で

 今日は子供達との初顔合わせだ。それぞれ簡単に自己紹介をする。マリアと名乗った女の子、最初は判らなかったのだが、驚いたことに15才の日本人…、両親が昔Edinburgh に住んでいて、その話しを聞いて憧れ、1年間一人で留学に来ていると…。
 簡単なゲームを幾つか。その後、子供達と一緒に映画「グリーン・ディスティニー」を観る。中国語に英語の字幕だから疲れる。が、なるほど、この映画がヨーロッパで受けることは良く判る気がする。不思議な東洋の哲学を勧善懲悪の闘いを基本として、判りやすく解いてくれる…。そう言えば Sidmouth で「日本のアニメ”セーラームーン”には哲学がある」と興奮して話してくれた男の子がいたな…。 今日のスケジュールはこれで終わり。4人で川沿いを海へ向い、ぶらぶらする。ここも静かで落ちついた良い街だ。
 ちなみに英国には各地に〜mouth と言う地名が沢山ある。mouth=口の意味で、河口にあることが殆ど。大体こう言う街は古い歴史を誇り、海岸線沿いに城壁などが残っていたりする。これは10世紀頃に北ヨーロッパを席巻したバイキング(Norman ) の影響大で、mouth はNorman 語に語源があるらしい。実際英国は河口から船に乗ってやって来たノルマン人に1度は征服された(1066)。フランスにある有名なノルマンディーもノルマンの土地と言う意味らしい。つまりヨーロッパは何処へ行っても、地名にすら戦争の歴史がはっきり刻まれている、そう言うものの中に人々の日常がある、生活が闘いの歴史と共にある。そこに育まれる感性、思想、教育・・・。
 ”闘うこと””勝つこと””生き残ること”が全ての基本のように感じる。その厳しさの上に個人主義もある。”戦わないこと””負けないこと”を基本とした日本的感性との遥かな違い…。

19日(日)雨 

Anne と旦那のDavid Ross 新品のバイクと 玄関先で

 一日中、デスクワークにおわれる。
カキとテツはAnne 一家と共にEdinburgh へAnne の知合いの劇を観に行った。
 我々が泊めていただいているAnne の家は大邸宅だし、これまでも大きな家には何度か泊めていただいた。しかし、如何に日本と比べて人口密度の低い英国といえども、こんな大邸宅に住んでいる人は極希だ。普通は、何軒もがくっついている長屋か、せいぜい一軒の家を二つに分けたようなセミデタッチか、大きな家を何人もでシェアーしている。そして少なくとも家の外観に関しては極めて個性が薄い。せいぜい壁やドア、窓枠の色が違うくらいで、英国内何処へ行っても、殆ど同じような家並みが続いている。しかも表札はまず出さないから、始めての家を訪ねるのは、大変だ。通りの名前と番地だけが頼りになる。

chiisana doa
タツヤより小さいドア

 私が面白いと思うのは、そんな無個性のそれ程大きく無い家に、実に多様な身体的特徴のある人達が住んでいることだ。テツは日本人としては相当大きいほうだが、こっちでは普通だ。彼が買った革ジャンなどSでピッタリなのがあったのにはさすがに驚いたが…。つまり大きい人は本当に大きいし、また小さい人もいる…、それが普通なのだ。そんな大きい人達が小さな家で暮す。ユースホステルのベッドなど、私でも窮屈なくらいだが、そこに足を半分出しながら寝る。ドアをくぐる時は必ず頭を引っ込めねばならない。地下鉄など天井に頭がつっかえる。劇場の椅子だってかなり窮屈だ。それでも皆文句を言わない…、言ってるのかも知れないが…。
 あるいは、日本人だったら、お箸・茶碗・湯呑・コップから、下手すれば自分の座る位置まで”自分のもの”があったりするが、英国人には、そう言う個人所有意識は皆無のような気がする。何でもシェアーする。未だ良く解き明かせないのだが、”個と公共”に対する基本的感性がまったく異なっていることは確かだろう。

20日(月)晴れ
 今日から2週間の演劇Workshop 。太鼓を教え、踊りを教え、オリガミを教え、日本について語り、台本を討議し、その上演技までする…。身に余る、お仕事…。

nimotu hannyu keiko8.20 kannji
子供達と一緒に荷物を 床を叩いて太鼓の練習 大道具に使う漢字を練習

 何と驚いたことに、Anne はここ Berwick にもフラット(2DK アパート)を持っていた、数日前に聞かされたのだが・・。で、今日からはこのフラットを我々に貸してくれることに。劇場と丁度川を挟んだ対岸。歩いても5分ぐらいのところだ。

21日へ