フローニにささぐ追憶
(フローニの墓の上の一葉)

ヨハンナ・スピリのデビュー作。匿名の「J・S」著で発表された
(表紙画像は1883年の版)


中扉 (画像と内容) 1871

Ein Blatt
一枚の木の葉
auf
上の
Vrony´s Grab
フローニの墓の
   
von J. S.
J. S.による
 
 
 
(モットー・スローガンとして)
Schifflein der Fluth !
流れにもまれる 小船よ!
Ueber ein Kleines - so ruht
もうしばらく――
そうすれば、船は甘い憩いにつくだろう、ふるさとの岸辺で
Süß sich´s am heim´schen Gestade.
 Meta H .-Schw.
メタ・ホイサー・シュワイツァー
  
  
Zweite Auflage.
第二版
  
  
Für die Versorgungskasse der Gemeinde-Diakonissen
教区のディアコニッセの献金のために
in U. L . Frauen.
(Unser Lieben Frauen Kirche)
聖母マリア教会(改革派)の
 
  
Bremen, 1871.
ブレーメン 1871年
Buchdruckerei von  C . Hilgerloh.
出版者 C.ヒルガーロー


「本文」 日本語訳 2016/2完成


・ 初版は1871年刊。表紙は、初版から12年経過して出版された本のもの。作者名がスピリ本人になっている。
 中扉の方は、チューリッヒ中央図書館蔵の第二版。まだ匿名のままとなっている。
 「フローニ」の売れ行きは好調で、同じ年のうちに増刷された。

・ モットーにあげられた詩の作者、メタ・ホイサーはスピリの母親。
 やはり匿名で詩を発表していたが、やがて実名も知られるところとなった。

・ フラウエン教会の牧師フィエトルがスピリに作品を依頼したのは、自らの教会の会報に掲載するためだったが、フィエトルはメタの詩を評価しており、信仰的にヨハンナを信頼していたからでもある。
 改革派はジュネーブで活躍したカルヴァンの流れをくんでおり、ルター派とは対立関係。

・ ディアコニッセとは、ドイツ・ライン川流域の小都市・カイゼルスベルトで、経済難で廃止寸前の教会の一牧師・フリートナーが1833に始めた福祉・貧民救済運動。
 やがて、病院運営と女性の社会労働のあり方に集中し、発展していった。
 現代世界の看護制度の源流の一つであり、女性が社会へ責任と尊厳をもって進出するきっかけの一つでもある。
 1851年に無名時代のナイチンゲールが3ヶ月間、研修のために滞在し、看護の実態を学んだ。ナイチンゲールはそれを参考に独自の看護を研鑽し、やがて1854-56年のクリミア戦争で活躍。劇的に病院の死亡率を下げ「戦場の天使」と呼ばれた。
 日本では、静岡県浜松の聖隷三方原病院は、ディアコニッセ運動の参加が発展の一助となった。(戦後、ドイツから女性のディアコニッセ奉仕者が派遣された)

・ 「フローニ」は、C.ヒルガーローの「ブレーメン教会新聞」出版社より刊行された。



 今回、またしてもL様に、断片的で意味不明な言葉を該博な知識で解きあかしていただき、多くの誤りを修正していただけました。
 以下がメールでいただいたご指摘ですが、その他にも「解放されたミニョンの妹」について内容を紹介していただきました。


(メールより引用)
"Gemeinde-Diakonissen"は「ディアコニッセのゲマインデ」ではなくて、「ゲマインデのディアコニッセ」でしょう。(Gemeinde は「教区」ではないかと。)

"U. L. Frauen"(=Unsere Liebe Frauen)というのは、『フローニ』出版のお膳立てをした牧師フィエトルが率いていた、改革派教会の名前です。論文「ミニョンの妹」の最初のところで言及されているやつですね。
"Unsere Liebe Frau"とは聖母マリアの呼称の一つですが、"...Frauen"だと「聖母マリアの」という形になります。なんと訳すか少し迷ったのですが、訳文では仮に「聖母教会」としておきました。
 
メタ・ホイサーの詩について。
"der Fluth"は「流れの」ではないでしょうか。「流れの小舟」という言い方はあまり見かけないものですが、「流れにもまれる…」という意味なのかと思われます。
 
"ueber ein kleines"というのは、ヨハネによる福音書16:16「しばらくすると、あなたがたはもうわたしを見なくなるが、またしばらくすると、わたしを見るようになる」
の「しばらくすると」にあたる表現です。
それ以下を直訳すると:「もうしばらく――そうすれば、船は甘い憩いにつくだろう、ふるさとの岸辺で」
 
※ダッシュ以下は、sichの次の"'s"が主語で「小舟」を受けています。動詞は"sich ruhen"で「憩う」

 絶大なるご協力、心より感謝いたします。m(_ _)m