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たかはしたけおのハイジ紀行



(4)

ハイジヒュッテへ
(アルムの山小屋)


 イエニンスから午前10時半過ぎに、私はハイジヒュッテをめざして登り始めました。

 ヤギ飼いのペーターが毎朝山から下りてきて村の広場の泉のところに立ち、村のヤギたちを呼び集め、ムチをふるってヤギを追い立てて登る道。

 それはまたデーテに連れられた幼いハイジが、ぶくぶくに厚着させられて登り始めたものの、途中で脱ぎ捨てて下着だけになって駆け出した、あの道です。

 ペーターがヤギを集めた村の広場の泉のモデルは、現在のコンビニの前です。
 しかし実際はただの狭い交差点で、広場にはなっていません。


 そこから家々に挟まれた坂道を登ると(アニメ版はここをかなり忠実にロケしています)、徒歩3〜4分でもう村はずれです。



イエニンスの街中の上り坂と、女の子とクロネコに注意の道路標識

 ここから道を間違えなければ、2時間あまりでハイジヒュッテに到着するはずでした。
 しかし、前回もお話ししたように、イエニンス付近にはほとんど標識らしきものがありません。
 さっそく迷ってしまいました。

 私はマイエンフェルトが見える側ではなく、反対の険しい裏山の方へどんどん入っていってしまいました。


 どうもこれは違う、引き返そうかと思ったその時でした。
 見上げると、遥か上の牧草地にそれらしき山小屋が見えるではありませんか。


 ロケーションもばっちり合っています。
 板張りの小さな小屋とそれを囲む柵、後ろにはモミの木があります。



「なーんだ。やっぱりこれでよかったんじゃないか!」
 私の足は急に軽くなってどんどん登りました。

 ところが、登っても登っても、その山小屋には到着しません。
 最初の道は大きく右にそれて行き止まり、引き返した左の道は山小屋を通り越してさらに急斜面を上に伸びています。

 それに様子がおかしいのです。
 すぐそこに見えているのに、物音ひとつしません。

 しょうがいないので、道のない牧草地にずかずかと入っていって、その山小屋の正体を確かめることにしました。

 小屋にはどうにかたどり着きましたが、やはり道はどこにもなく、あたりは草ぼうぼうです。
 それ以外はまさにハイジヒュッテなのですが、どことなく不気味です。



一見、まさしくハイジの山小屋。誰か住んでいるのでしょうか?

 少し離れたところには泉もあって、ハイジのおじいさんが作ったのと同じ丸木の水桶が草の中で半ば朽ちていました。
 小屋の煙突から煙は出てはいませんが、窓のよろい戸は開けられています。
 誰かが使っているのです。
 私は異次元にでも入り込んだかのような肌寒さを感じて、早々にそこを引き払いました。

 少し下ったところに、もう一本だけ道がありました。
 そこを進むとあたりが急に明るくなり、眼下に町が見える林道に出ました。



 そしてハイジヒュッテの標識があって、救い主のように私の行く手を指し示しているではありませんか。
 ここに至るまで、私は一人の人間にも出会いませんでした。

 そして約1時間ほど遅れた午後1時半過ぎに、私はヘトヘトになりながらも本物のハイジヒュッテに到着したのでした。





 というわけで、私の話は結局「にせハイジヒュッテ」で終わってしまいました。



以前は物置になっていたヤギ小屋に新しくヤギが飼われはじめた。


 道具小屋が建てかえられて、喫茶店化してい.る。
世界遺産への登録はこれで無理になったか? 山小屋も変化していく。


 ぜひどなたか、正規ルートで登って、「本当のハイジヒュッテへの道」をレポートしていただけませんか。


それでも変わらない、山からの景色

(終わり)


補足(tshp)

 これはまた、山小屋をめざすお話ではもっとも意外でスリリングな展開。
 「ニセ山小屋」が登場するとは、思ってもみませんでした。
 ハイジがやってくるまでの山小屋は村人にとっては気味が悪かったでしょうね。
 そして目標にたどりつくために、道はひとつではないということでしょうか?

 他にもまだまだ楽しいお話や素晴らしい写真をたくさんいただきました。
 たかはし様、本当にありがとうございました。

2006/11/12