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Stereo-Monoural レコードの存在理由(ちょっと大げさですが・・・)


(1)縦振動と横振動について

  レコードの溝(microgroove)に音の振動を刻み込む方法として、レコード面に垂直(縦振動-Vertical)に刻むか水平(横振動-Lateral)に刻み込むかの2通りの方法が有り、T.A.Edison の Sylinder は縦振動であり、Emile Berliner(ベルリンの・・・てそのまんまの姓ですね、この人) の 円盤(Disc) は横振動 だった訳です。原理的には縦振動の方が音が良いのですが、横振動の場合は音の振幅の大きさにかかわらず溝の深さは一定なので、当時の技術レベルにおける大量生産(凸版のスタンパーを作って凹版のシェラック盤、つまりSP盤という製品を作る)はこちらの方が有利でした。結局 Sylinder vs Disc の争いはその大量生産性と扱いの良さで円盤に軍配が上がり、レコードは横振動方式が多数を占めた訳です。(ただ、仏Pathe 等の一部のSPディスクは縦振動方式なので、この場合はその振動プレーヤー側で対応する必要があります。)

  LPの時代になってもやはり主流は横振動方式であり、当時のプレーヤー(電蓄)のピックアップは縦方向の振動に対してcompliance(平たくいえば、柔らかさ、ぐにゃぐにゃ度というところでしょうか)や感度を持たせる必要は無かった訳です。横方法の振動さえ拾えば良いわけですから。(これが後々まで後を引く原因となります)


(2)Stereo LP の出現

  しかし、ステレオLPが開発されると話は異なります。ステレオLPは1本の溝に2つの音を刻みます。レコード面の垂直方向に対して、45度の角度で左右のそれぞれの溝に音を刻み込む 45-45 方式(米Western Electric,Westrex)と、左右の音をそれぞれ縦振動と横振動として刻む V-L方式(英DECCA)の二つの方式が提唱されましたが、従来方法との互換性(Compatibility)を考慮して、45-45 方式が採用され、以後Stereo LPはこの方式で製造されている訳です。

  互換性とはどういうことかというと、左右の音が同じ場合を考えると分かりやすいでしょう。右の音は溝の反時計回り方向に対して右の面に刻まれ、左の音は左の面に刻まれます。左右の音は、この二つの音が全く同じ場合、左の振動が溝の中心方向に動く場合右の振動が溝の中心から離れる方向に動くように刻まれます。(つまり、一方が押せば一方は引く退く方向に動くわけです)この場合、縦方向の振幅は0であり、横方向の振動は左右の音の大きさの和となります。左の音の大きさを L 、右の音の大きさを R とすると、

  横方向の振動振幅 : L+R , もう少し厳密には( ベクトルLcos45°+ベクトルRcos45°)
  縦方向の振動振幅 : L-R , もう少し厳密には( ベクトルLsin45°+ベクトルRsin45°)
    (注:角度は、レコード面に対する振幅方向の角度です。)

  つまり、モノラルの再生装置でステレオLPを再生する場合、横振動方向の音しか取り出せないモノラル用のピックアップでも左右の音の和信号(混合信号)を取り出して聴くことが出来るわけです。当時のモノラル再生装置がステレオ装置に置き変わるまで待たなくてもステレオLPを販売出来る訳です。また、モノラル音源の場合、左右に同じ音を放り込んでやれば、モノラルLPと全く同じ結果になりますので、ステレオLPの製造装置でモノラルLPを作ることも出来るわけです。逆に、モノラルLPをステレオピックアップで再生するのは(僅かに雑音が増える程度で)全く問題ありません。

  ちなみに、英DECCAのピックアップはいまだにV-L方式ですが、これでも45-45方式のステレオレコードをステレオ再生できます。そのトリック(というほど大したことではありません)は下記の通りですが、この原理からマトリックス(Matrix)方式とも呼ばれるようです。今でも根強い人気があるようで、少数ではありますが使われているようです。(和信号と差信号を足し算して左の音を、引き算で右の音のみを取り出すことが出来ます。)

      横方向の振動振幅 : L+R 
  +)縦方向の振動振幅 : L-R 
−−−−−−−−−−−−−−−
      縦横の合成振幅   : 2L

      横方向の振動振幅 : L+R 
  ―)縦方向の振動振幅 : L-R 
−−−−−−−−−−−−−−−
      縦横の合成振幅   :  2R



(3)音の入口(ピックアップ)の問題

  しかし、これまで考慮されなかった縦振動の動きに対して、当たり前のことですがそれまでのピックアップは設計上の考慮をしておらず、従来のモノラルピックアップでステレオレコードを再生した場合、縦方向の振動は単なる雑音の原因になったり振動に制限がかかりレコードの溝を痛める結果になる訳です。「ピックアップが安くて取り替えればO.K.」で済めば全然問題無いのですが、残念ながらそうでは無く、ピックアップはかなり高価なものだったと思いますし、ピックアップのみ交換できるものでは無かったのかもしれません。

  結局、ステレオ時代に入っても左右の音を混ぜたモノラル盤をステレオ盤と同時平行して発売する必要があったというわけです。この同時発売はかなり長期間続いたのではないでしょうか。ステレオ初期は先走ったメーカーがV-L方式や45-45方式のレコードをフライングで発売したようですが・・・。

  それにしても、互換性という問題は非常に厄介であり、白黒テレビでカラー放送を受信できるのも、モノラルAM/FMラジオでステレオ放送を聴くことが出来るのも、その影で技術者(だけではありませんが)がひーこらひーこら苦労して実現いるわけです。メインフレーム時代のIBM互換、Intelのマイクロチップの8086互換、そしてDOSプログラムとの互換にまつわるトラブル、細めねじから今に至るまで互換性の問題は後々尾を引きますね。まったく困ったものです。新しいデジタルビジョンは今のテレビとの互換性を捨て去っているようですが、今のテレビをみんなゴミにするつもりですかね。正直、今の質の放送である限り画像を高品質化する必要は無いと思いますが・・・。


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2002.1.5