気の重い出発


 出発前夜、「ニュースステーション」で渡辺真理キャスターが台風15号の被害のニュースをしゃべっていた。
その瞬間、「今、ニューヨークのワールドトレードセンタービルに小型飛行機が衝突しました」というコメントでCNNの画像に切り替わった。いきなり飛行機がビルに突っ込むシーンが映った。その画面の下を見ると「Second・・・・」とうキャプションが見えていたし、画像を見る限り「小型飛行機」ではなく「中型旅客機」にしか見えない。
「なんで2機も旅客機が衝突するんだ、こんなのテロじゃないか」その後ペンタゴンにもというニュースが流れ一気に世界情勢が緊迫したものになってきた。
 翌12日、福岡から東京へ、福岡空港のチェックインはいつもの国内線の雰囲気とは異なっていた。
厳重に荷物を調べられ、機内持ち込みは1人一つまでといつもの国内線とは異なるピリピリした雰囲気だった。
  空港のテレビは何度も「衝突」のシーンを放映し、目の前のブリッジには自分が乗る767同型機が停まっている。
  海外に行くから昂揚するという気分ではなく、何とか東京まで無事飛んでほしいと思っている自分がいた。
夜、東京で友人と飲んでいて、USAに出張中の友人の安否確認やフライト情報の話ばかりしていた。

  翌13日、成田空港。警戒厳重の空港、発着案内を見るとUSA便はすべて「Canselled」。
そういえば朝のニュースでも、「USA便のフライトはすべてキャンセル状態ですので空港へ行かないでください。空港へ行っても状況は変わりません。」とアナウンスしてたよなぁ〜。
軒並みの「Canselled」のボードをしばらく見上げていて、珍しく自分自身「行くか止める」か迷っていた。
「なにもこの時期に無理に行かなくても」
でも「ANA201便は定刻フライトだからキャンセル料かかるし」
「まさか、第2次テロがすぐにヨーロッパで起きることはないだろう」
「やっと日程調整して取った休み、次回取れる補償はないし」「湾岸戦争の時も、大韓航空爆破の時も大丈夫だったし」といろいろ考え、結論は「やっぱり行こう」・・・行かなくても良いのに、行く理由を探している自分がそこにいた。

 今回は、福岡−成田−ロンドン−リスボンというチケットで、成田空港からの出国は1987年以来、実に14年ぶり2度目である。
今回はANAの「GET21」(航空会社の早割り正規運賃チケット)。値段はこの時期の格安航空券よりやや高いが、福岡−東京間の料金も含まれているので、実質値段は変わらないし、帰国便はアップグレードでビジネスクラスであったのでかなり使い勝手の良いチケットである。
さて、チェックイン。ここでいつもと違う手順になっていた。まず預ける荷物のチェックは当然だが、「どのような手段で運んできたか」「この荷物はだれがパッキングしたのか」と事細かに聞かれ、その上、通常であれば成田−ロンドン−リスボンはスルーチケットなのだが、今回は一旦ロンドンで荷物をピックアップ、そして再度チェックインという面倒くさいことをしなければならない。つまり3時間の乗り継ぎのために英国に一旦入国しなければならないということである。
ただでさえ煩わしい英国入国なのに、今回の事態を考えたらため息しかでなかった。
たらたらインターネットルームなどで時間をつぶし、いつもの昂揚感もなくANA201便の乗客となった。
搭乗率はおよそ3割・・・つまりガラガラ。
窓際の席、横3列占領して楽勝である。
シベリア上空を12時間でロンドン到着。
予想通りの入国審査。

ヒースロー空港は乗客より警官のほうが多いといえば誇張だが、日本よりさらに緊迫した雰囲気であった。
一旦入国、そしてポルトガル航空カウンターで再度チェックイン。
また厳重な荷物検査。
PUBでBitterを飲みやっと一息。

TAP5157便、1時間遅れの19:10ヒースロー空港を満席状態で離陸、21時30分リスボン空港着。同日着とはいえ、日本時間翌朝5時30分・・・徹夜したようなものである。
ああ疲れた。
ようやくヨーロッパの西の端の国に到着した。
夜10時、例によって空港のインフォメーションカウンター。
「ロシオ広場周辺で、7,000〜10,000esc(=4,200円〜6,000円)ぐらいでホテルかペンシオンを3日間予約したい。」
「一人?」
「Yes !!」
何軒か電話してOKが出た。

地図をとりだして、だいたいこの辺と○印をつけてくれ住所を書いてもらった。
「エアポートバスは出て右、ロシオ広場まで約20分ぐらい。」
タクシーではなくバスを案内するなんて、まるで人の風体を見透すかされているとしか思えない。
さて、バス停に行こうと空港を出たところ、寝ぼけた頭で考えた。
前回、アイルランドに行った時、同じような時刻にバスに乗り見事に道に迷ってしまい結局タクシーを利用したことを思い出した。
初めての土地だし、ロシオ広場といっても位置がわからないし、地図の○印もアバウト・・・アイルランドの二の舞はごめんである。
バスで20分ということはタクシーに乗っても料金は知れている。
迷わずタクシー乗り場に向った。
結局判断は正解であった。目的地近くでタクシーは通りをUターンして、とある場所で停まり運転手は言った。
「ここからは車は入れない、この通りの突き当たりを左へ行けば見つかる」という的確な指示をもらった。料金も予想通り2,000esc程度であった。

後は住所の番号をさがせばOK。

その通りは賑やかな通りで、ポリスも立っていて目的のResidencialすぐ見つかった。

街灯を反射する石畳は、やはりヨーロッパである。

BARでビールを飲むと気持ちも落ち着き、この3日間の重い気分もやっとふっきれた。
ようやく旅は始まった。


サウダーデと呼ばれる街

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