山猫の島で誕生日


 朝、空を見る。厚い雲が広がっている。
ため息一つ。
港まで行く、どんよりとした色である。

遠くに一箇所だけ隙間があり青空が見えている。
ちょっと期待。
この島の建物は台風を避けるため2階以上の建物はない。
またカーブミラーも低い位置にある・・・一枚記念写真を。

9時前、「仲間川観光遊覧船」に乗りに行った。
チケット売場で団体と一緒になります・・・と言われ乗り場に行ったが、数人の個人客がいるだけである。
「客なんておらへんやん」

そうこうするうちに何台も大型バスが到着。
「えっ、どこから来たんだ?」
バスのフロントガラスを見ると「西表・由布・竹富3島めぐりツアー」とか「5島めぐりツアー」など書いてある。いろんなツアーが一度に集まったためである。

みんな石垣島に泊まって日帰りで来ているんだ。
この時雲間から光がこぼれた。

ほんの30分ほどだったが風景が明るくなった。
やっぱり良いもんだ。

さてこの観光船だが、マングローブ樹林の間を遡っていく。
私は今まで「マングローブ」というは植物の種類だと思っていたが、これが大間違い・・・マングローブとは熱帯地方の海岸や河口の浅い海中に発達する森林のことであり、西表島でもヤエヤマヒルギを初め6種類で木から森が成り立っているとのことである。

つまり「高山植物」と言う名前の植物が無いのと同じである。
それとこの仲間川、西表島で2番目に大きな川であるが、河口と上流の高低差がほとんど無いため潮の満ち引きに大きく影響され最上流でもフグやアジやサメなど海の魚がいる。川全体が汽水である。たまたまこの日は大潮の日であり、午後からは川幅がなくなるため遊覧船は運行できないとのこと。

昨日夕方橋から見たとき砂州が広がっていたのは干潮のためだったのである。
この遊覧船にも目的地という場所がある。
20年前に発見された樹齢400年と言われるサキシマスオウノキがある。
そこが目的地・・・ココで折り返し。
船を降りて遊歩道を行くとそれはあった。

400年の時の重さを感じる・・・というのは嘘である。
それよりガイドの船頭の話のほうが面白かった。
「20年前に発見されたとき樹齢は400年と発表されて、20年後も今も樹齢は420年ではなく400年と言っている・・・・20年後もおそらく樹齢400年って言っているでしょう。」
ユーモのあるいい話だ。

船をおりた後、レンタカーを借りた。
もちろん「やまねこレンタカー」。
珍しいことに「軽自動車」がある。荷物はカメラだけだし高速道路走るわけではないので充分である。
西表島の道路は島の周辺に沿っているが、島の3/4しかなく一周はできないのと内陸部は道路がないので走る場所も限られている。
でもバスは1日3本だし車がないと身動きできない。
というわけユルリとスタート。

道のところどころに「山猫に注意」という札が立っている。
教えてもらったところによると、この立て札のある場所は山猫の横断することが確認されている場所である。
夜間街灯もなく交通量も少ないので飛ばすと山猫をはねてしまいそうである。
しかし交通量が少ない。そのうえ2台に1台は「わ」ナンバー。
それも軽自動車ばかり。
観光客のレンタカーばかりが走っていることになる。
とりあえず道路の終点である白浜を目指すことにした。
といっても50kmちょっとなので、そのままはしれば一時間もあれば着いてしまう。
まぁ、ボチボチ行ってみましょう。
天気は、けっこう強い雨となっている。
信号も何もない道を行くと視界が開け、車が沢山駐車している。
なんだろうと思い、車を入れると、そこは由布島へ渡る水牛車の発着場所であった。

ここも団体バスが到着し水牛車に分乗して由布島へ渡っていく
雨も降っているしどうしようかと考えたが、選択肢の無いことはわかっていた。
他に時間をつぶす場所がない。

個人客用の水牛車に乗り浅瀬を島に向かって動き出した。
由布島は、真水が湧いたため多くの人が住んでいたが、ほとんど平坦な島のため1972年の台風のため島民全員避難して無人島になり、今は植物園状態。
学校の門が当時人が住んでいた名残である。

晴れていればいい風景なんだろうけど・・・しっくりこないなぁ。
島を往復して車に戻り、再び走り始める。

日本最南端の温泉の前を抜け単調な道を走り続ける。
上原の集落に入っても人っ気がない。
雨は降り続けている。

途中、唐変木という店ですみ汁ソバを食べ、写真を撮れそうな場所で車を停めたりして白浜に向かった。
















白浜・・・ここも何もない集落。

東経123度456分789秒という子午線の記念碑があるだけである。

港では釣りをしている人がいる・・・ひさびさに人を見た。
ここで道は終わり。

雨はやんだようだ。
この先の船浮集落へ行こうとしたら船しか交通手段がない。
一日4往復のみで、次の船は3時間後・・・さすがにあきらめた。

結局、来た道を戻り大原に戻りレンタカーを返した。
給油するとレギュラーガソリンがリッター130円・・・高い。
競合がないというのもあるが、輸送するのに経費がかかりそうだ。
それに島の中での需要もしれている。
いやぁ〜、実に何もなかった。
やっと雨もあがった。
途中の集落で共同組合売店があったがスーパーは大原の一軒だけである。

昨日、石垣島から西表島への船の中で、地元のカップルがコンビニの袋から何種類かのコンビニデザートを出して嬉しそう話していた。
この島に来てみると、その意味がわかった。
売っている場所がないのである。
コンビニがあるのが良いとは思わないが、若いカップルにとって刺激のない島での生活は、3000円の船代を払って石垣島へ行くことが刺激なのだと思う。

西表島には高校がない、進学するには一番近いのが石垣島の高校である。
以前、石垣島の高校に仕事で行き、先生と話したことを思い出した。
「この高校(公立)には寮があるんですよ。珍しいでしょ。ほとんど周辺の島からの生徒たちです。高校を卒業しても進学するとしても一番近いのは沖縄本島や台湾なんです。石垣島を含めて仕事もそれほど多くないですし・・・生徒の進路は難しい」と話されていた。
蒼い空の下で聞く先生の語りのギャップを数年後の西表島で実感したのだった。

昨日、大原で完全予約制の島料理の店に予約したのだが、予約でいっぱいと断られたので民宿で晩御飯。
今宵は4人、昨日と変わって沖縄料理だった。

食後、港に行くと雲間から月が出ていた、明日はちょっと晴れそうかな。

昨日閉まっていた居酒屋も開いていたので躊躇せず入った。
私は入るなり注目された・・・店の主人を含めて常連ばかりの安定を崩したよそ者である。これには慣れている・・・カウンターの隅で生ビールと島らっきょうを頼む。
その後も地元の常連さんがやってくる。
そして次第に私の存在も「マレビト」から「単なる客」になってきた。
ありがたい。
壁のカレンダーを見ると5月6日・・・今朝まで意識していたのに、今まで自分の誕生日であることを忘れていた。
おそらく2度と来ない南の島の居酒屋で泡盛を飲んでいる、悪くない。

今日も島は静かだ。

 


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