フェアリーテールとハイクロス


アイルランドにはハイクロスと呼ばれる十字架がある
古くからケルト民族に伝わっている十字架の形で、通常の十字架のクロスの部 分に輪を重ねた独特の形である。
アイルランドに来た目的のもう一つは「ハイクロスを見てみたい」ということ である。

ダブリンを出発したバスは西へ向かい2時間かけて、アイルランド島のほぼ中 心のアスローンの町に到着した。

端から端まで歩いても20分ほどの小さな町で、町の中心部にはシャノン川が流 れている。
この町はクロンマクノイズという遺跡への起点となる町。

遺跡は辺鄙な場所にあるため行く方法は限られている。車か船をチャーターす るかツアーを利用するかレンタカーしかない。
車を持たない旅人は、インフォメーションに行き相談。
「今日クロンマクノイズに行くツアーある?」
「14時30分にあるわよ、一人10 IR£。料金はドライバーに直接渡してくれた らいいわ。青いベンツのバンでお城の外(アスローンのインフォメーションは城 の中にある)のベンチで待っていたらすぐわかるわよ。大丈夫。」とお姉ちゃん は言った。
「easy to find」と「No problem」どこぞのインフォメーションでも聞いたな ぁ〜
只今14:00過ぎ、お城を出たところのベンチで待つことにした。

子供達と遊びながら時間をつぶしていた。
14:30何もこない・・・やっぱり。
15:00インフォメーションの駆け込み、一言「バスが来ない。」
やわらお姉ちゃんは携帯電話でどこかに話をはじめた。
「15分後に迎えくる。」
きっかり15分後にバンは到着した。
初老の陽気なドライバーで一言、「すまなかった。今日午前と昼2回とも客が いなかったのでこの回もいないと思い車を出さなかった。」と・・・
とみると客はボク一人だった。
念のため交渉。「ボク一人でも10 IR£で良いんだよね」
「もちろん、OKだ。たとえ一人でもツアーはツアーだ」ということで助手席に のりこんだ。
田舎道を走ること30分。この間おっさんしゃべりづくめ・・・ハハハ

クロンマクノイズに到着。
おっさんのおかげで入場料も団体扱いとなった・・・ありがたや
17:30に迎えに来てもらうことで約束して一人になった。

A4サイズのカードケースに入れた場内案内図を貸し出してくれる。ちゃんと日 本語の案内図もあった。でもいったいここに年間何人の日本人が来るのだろう。
ヨーロッパのはずれのそのまた田舎に・・・?

クロンマクノイズわかりやすく言えば昔の教会と墓地である。その墓標にハイ クロスが使われているのである。
中でも特に古いのが6世紀頃に制作されたという聖書のクロスと南のクロス、 そして折れて一部しか残っていない北のクロスの3点である。

現在3点とも隣接する博物館に保存されていて、現場はレプリカだが充分存在 感のある。
 過去に思いをはせるのも、私の想像力では限界があり、後半は風に 吹かれながら地平線を見ていた。

 その時、髪の毛が引っ張られた・・・?
 振り返っても誰もいない・・・??

 きっと妖精のいたずらだったのだろう・・・W.B.イエイツも「イングランド では妖精はいなくなったがケルト地方ではまだ見ることが可能である。」(ケル ト妖精物語 ちくま文庫)と書いていることでもあるし。
 夕暮れのアスローンに戻った


翌朝、パーティ帰りと思われるカップルが何組も歩いていた。


雨が降っている。

ダブリンに戻った。

翌朝の飛行機が早いためにエアポートバスの出発するバスターミナル近くのYH に宿をとっていた。

アイルランド最後の晩

私はPUBをさがしていた。

かのジェームス・ジョイスをして「ダブリンの端から端までPUBの前を通らず に歩くことは良い謎解きになるぐらいだ」と言わせるほど、ダブリンはPUBが多 い。
ボクのさがしているPUBは地元の人ばかりで、音楽の鳴っていないPUB。何軒目 かにドアを押したPUBが気に入った。

カウンターの端では勤め帰りサラリーマンの3人組が陽気に飲んでいて、逆の端は地元のご隠居さんが二人で飲んでいる、ソファーでは夫婦が楽しそうに飲んでいる。
ボクはカウンターの真ん中に座りGUINNESSを頼んだ。
明日からスコットランド。スコットランドに行ったらGUINNESSは飲まないと決めていた。
店の雰囲気はよし、おそらく2度と来ることのないであろうPUBで飲むGUINNESS は美味しかった。
それを飲み干して、2杯目を注文したときに出た言葉は
「アイリッシュ・ウィスキー、シングルで1杯]
「どれにする」と若いマスターは聞いた
「あなたが好きなのは?」
「うむ・・・」と笑顔になり、「PADDY」というブランドをダブルで注いでく れた。
「水か氷は?」
「いらないストレートでいいよ、でもシングルで注文したのに。」
「いいよサービスだ。」
実はアイリッシュ・ウィスキーは初めてである。
一口すすった。
ピート香がない、荒いが軽い感じ、そして甘みが広がる。これがアイリシュ・ ウィスキーか。
勤め帰りとおぼしき客が入ってくる、左隣のご隠居の一人が帰り、残った一人 は椅子に座ったままイビキをかいている。
いいなぁ、この雰囲気・・・
GUINNESS 1杯、アイリッシュ・ウィスキー1杯で2時間近く座っていた。
「そろそろ帰ろうか」と思ったとき、目の前にGUINNESSがおかれた。
「えっ!?」とマスターを見た。
彼はサラリーマンらしき3人組を指さした
3人組は笑顔でグラスを上げた。
「まぁ一杯飲めよ!!」
「ありがとう・・・ダブリンのGUINNESSのために」
「乾杯!」


外は雨が降りだしたようだ。
ボトルの棚では妖精が笑っている。


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