テロの傷と海


空を見上げてため息をついていると、ボーイがいつものように朝食を持ってきた。

ちょっと不満そうである。

「昨日、どこへ行った?」

「タナロット寺院・・・」

「彼にいくら払った?」

「フリー(無料)だ・・・」(マデ氏とは最終日にまとめて払うという約束であるので昨日は一銭も払っていない)

「何故だ?」(まったく信用していない)

「彼は、私の友人の古い友達だ・・・それが理由だ」

「私も運転できるし安く案内できる。」(・・・要はマデ氏からコミッションを取れないので面白くないのであろう)

「いや君は日本語できないし、マデ氏とは今日と明日も約束している。」

あきらめたのか、ブツブツ文句を言いながら去っていった。

マデ氏に今日はデンパサールとクタに行く約束をしている。

それまでは、美術館に行こうとNEKA美術館まで行った。
この時、荷物を軽くしようと180mmレンズを宿に置いていった。
このことで後で後悔することになる。

雨のなか30分ほどでNEKA美術館についた。
なにも期待せずに入館したが、展示してある絵画に引きつけられてしまった。
こりゃ、すごい。

「写真」を趣味にしているので、デザイン、構図、色という分野は好きなので
絵を見に行くのは好きである。

「しまった、もっと早く来るべきだった」
ほんの1時間のつもりが、あっという間に時間が過ぎていく。

その時、数十人の日本人の団体が入ってきた。
私は、バリ島でこんな大人数の団体を見たことがなかったのでビックリしてしまいった。
そこのおばちゃん、絵の前でピース写真だめだよ・・・横に掲示があるだろう「No Photo with Flash or Tripod](フラッシュや三脚を使っての撮影禁止)・・・パシッ・・・ああ、デジカメのストロボ光っちゃったよ・・・もう少しマナー守りなよ・・・(^^;;
「絵」や「写真」は強い光にあたると変色・退色しちゃうんだから。
もっとゆっくり見ていたかったが、マデ氏との約束の時間までギリギリである。
約束の場所に戻るのに30分かかるので、電話してココに迎えに来てもらうと思ったが電話番号を宿に置いてきてしまった・・・(^^;;

結局マデ氏との約束場所に遅れていった。
今日行く予定はデンパサール、クタビーチである。
運転中マデ氏にいろいろ教えてもらった。

「先日Ubudのグランドでサッカーチームの試合があったけど、何チームぐらいあるの?」
「バリ島には8つの県があり、各県にクラブチームがありリーグ戦をやっている。」

「車やバイクのナンバープレートの下に数字が4つあるけど、どんな意味?」
「それは月と日で、この日までに登録料を払って1年間の許可が出ます」

「Miharaさんは、バリ島に来たらいつも何してるの・・・」
「×△■○※・・・・Piiiiiー・・・(^^;;」

「デンパサールってバリ人よりジャワ人が多いって聞いたけど・・・ほんと?」
 この質問をしたとき、それまで陽気に喋っていたマデ氏の口調が変わった。
「ジャワ人はお祈りばかりして働かない、バリの人間は土日でも働く」と結構きついことを言い出す・・・やはり確執があるのだろう。

空も明るくなり、そうこうするうちにデンパサール市内に到着、とりあえずはマーケットへ。

その名のとおりデンパサール(=北の市場)の巨大マーケットである。

ひととおりマデ氏に案内してもらった。もうデンパサールで行きたいとこは無い。

街を見ても観光客として見たデンパサールは亡羊として捉えようがない。
「マデさん、もう良いからクタへ行こう」

「ogawaさん、テロの現場へ案内してあげる」
一瞬彼の言っている事が理解できなかった。
「・・・・!? ああ、昨年10月のクタのディスコ爆破の現場・・!?」
勿論、この事件のことは良く覚えているが、バリ島にいるとテロとイメージが結びつかないものである。
車はクタのエリアに入った・・・車は渋滞・・・ホテル、レストラン、グッズなどの店がビッシリと並んでいる繁華街である。いかにもビーチエリアの雰囲気の観光客が通りを埋めている。Ubudとえらい違いである。
「ここがクタか・・・」
「この先がテロの現場、車を停められないから先に降りて行ってください。右手先のフェンスが現場です。」
彼の示すところに行った。

「バリ島爆弾テロ事件」
2002年10月12日、欧米人が多く集まるディスコにイスラム地下組織ジェマ・イスラミア(JI)が爆弾を爆発させた事件である。確か日本人のツーリストも巻き込まれている。
そこはビルの谷間にはさまれた更地であった。
フェンスには故人の写真や花などが供えてある。これだけ密集した所だから、周辺にも勿論影響があっただろう。
「もう1年たつのか・・・・」
晴れた空と繁華街・・・テロの現場にしては悲しいほど明るかった。
「憎しみ」の応酬なんて何も生まないのに・・・・

車に追いついて海岸に向かった。
マデ氏に車で待っててもらい海岸に降りた。

多くのサーファーが波と遊んでいる。





これが有名なクタの波か、良い波が次か次へとくる。





久々に快晴の空・・・気持ちよく撮影しながら歩いていた。





沖のサーファーを撮ろうとして、180mmレンズを宿に置いてきたことを悔やんだ。
マデ氏との約束の場所に遅れかけたので機材を入れ替える間がなかったからである。

悪名高いクタの物売りが来るが、歩いている私にはしつこく寄ってこない。
クタでサンセットを見る予定なのだが、まだ15時前・・・そこでマデ氏に断崖絶壁の上にあるという寺院に連れて行ってほしい、とお願いした。
そこで有名なのは「猿」。

マデ氏は「メガネ、帽子はまず狙われる。バッグも気をつけないといけない。私も前に帽子を取られた」と忠告してくれた。

40分ほど走ってウルワトゥ寺院に到着。

忠告に従ってカメラには35mmレンズのみでそれ以外はすべて車の中、メガネも外して(裸眼で0.5なのでそれほど困らない)で境内に向かった。

どうも裸眼だとピントが合わせにくい・・・AFがほしい(^^;;

猿がうようよ、断崖の上から見るインド洋は美しい。

さて行こうかという時に、他の観光客から悲鳴が、どうやら指輪を取られたみたいで大騒ぎしている・・・合掌。
なんとか夕焼けに間に合うように、クタのビーチのはずれまで戻った。













雲が多くなってきたが、やっとサンセットを見ることができた。
マデ氏は、撮影に夢中になっている私に、屋台の焼きトウモロコシを買ってきてくれた。それにはサンバルが塗ってあり始めて経験するスパイシーな焼きトウモロコシだった・・・美味しかったよ。

マデ氏の運転でクタから1時間かけてUbudに戻った
やはりUbudは雨だった。

 
雨はいつまで降り続く

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