第12回 

『うさぎのだいじなみつけもの』
 シャーロット・ゾロトウ/文、ヘレン・クレイグ/絵、松井るり子/訳(ほるぷ出版)

 
http://www.holp-pub.co.jp/sinkan3.html

 
日本ではあまりなじみがありませんが、クリスマスと並んでキリスト教の大きなお祭りは、キリストの復活を祝うイースターです。年によって日が変わることが今ひとつ日本人に浸透しにくい原因かもしれません。今年のイースターは4月15日(日)。ですから日本製のイースター関連絵本は多くありません。ちなみに、ぼくが絵を描いた『おおきなたまごはだれのもの』(川村員子/作、いのちのことば社)は、その数少ない、日本人によるイースター絵本の1冊です。これを買っていただくと作者としてはもちろん嬉しいのですが、自作を語るのは照れくさいので、ここで紹介するのは欧米の作品。

 シャーロット・ゾロトウはアメリカの代表的な絵本作家ですが、この人はお話を作る方で、絵は本によっていろんなイラストレーターが担当しています。そのために、画家の名前で並べている日本の図書館などでは、この人の作品をまとめて見つけることがちょっと難しい。でも、探す価値はあります。女性らしい優しさや細やかさを感じさせながら、その底に人生への揺るぎない愛や確信をもつゾロトウさんは、一度覚えると忘れがたい作家です。この『うさぎのだいじなみつけもの』は、40年以上読み継がれてきた名作に、新しく絵がつけられて再発行されたお話、ということです。
 イースターと来れば、ウサギ。ぼくの絵本でもウサギが主人公です(と、自分の本にこだわる往生際の悪さ)。主人公のオスウサギは、ある日森の中で友達がほしくなりました。フクロウにきくと、「イースターはウサギだらけじゃないか」という答え。「イースターってどこですか」とさらに聞くと「たぶん東(イースト)のほうだろうな」と言われ、東に向かって旅立ちます。ウサギは、季節ごとに美しく変化する野原や森の中を歩き続けます。夏、夕立に会います。秋にはリンゴを食べます。冬には辺り一面 雪に覆われた坂を上ります。どこまでも一人です。他の動物たちは、それぞれに仲間と一緒に暮らしています。それを見るとますます寂しさがつのるウサギ。でも少しずつ春が近づいてきます。ある日、木のうろの中で休んでいたウサギは、目が覚めると、何かが違っていることに気づくのです。イースターが近いことを予感して探していくと、ついにウサギは自分と同じ姿をしたもう1匹のメスウサギに出会うのです。
 嬉しくなったウサギは、そのメスウサギとともに、今まで一人で来た道をずっとたどっていきました。やがて子供がたくさんうまれ、幸せな家庭が始まります。
ウサギは、イースターとは場所ではなく、こんなふうに美しい時のことなのだということを知るのです。

 物語の温かい雰囲気を、イラストレーター、ヘレン・クレイグの柔らかい色と線の絵が見事に表現しています。淡い色使いなのですが、決してフワフワと気分に流れていません。丁寧にしっかり描かれた線と描き込みによって、実在感があるのです。描き込みながらもうるさくない。この見事な調和は、ひたすら感嘆するばかりです。これはイラストレーターとして大いに見習うべき点ですね。この人はイギリス人ですが、この国にはこういう絵を描く人が多く、一つの伝統なのでしょう。
 この物語は、
孤独と愛についてとても深い考察を示しています。何よりもすてきなのは、主人公がもう1匹のウサギに出会ったあと、一緒に今まで来た道を戻っていったということ。一人で歩いてきたときには、つらく寂しかったに違いない同じ道が、二人で巡り歩くときには、なんて楽しく美しく感じられるのでしょう! でもちょっと注意深く見ると、実はウサギが一人で歩いていた所も、ほんとうは決して殺伐とした道程ではなかったことがわかります。それぞれの場所に、季節ごとの美しさがあるのです。でも仲間を見つけることのできないウサギには、孤独感の方がまさっていて、自然の美しさを十分に味わうことはできなかったのでしょう。メスウサギと出会い、その伴侶ともう一度自分が来た道をたどった時に、その美しさに気づいたのです。
 そんな深読みができて、明るく温かな気持にさせてくれる、すてきな絵本です。

 最後に。訳者の松井さんが「訳者のことば」の中で「絵描きさんはうさぎの横に、そっとねずみを描いてくれていますが、実際は仲間のいない孤独な旅になるかもしれません」と述べています。やんわりと絵に注文をつけているような気がします。ぼくも同感です。どうしてネズミが描いてあるのでしょうか。それはイラストレーターの創造性かもしれませんが、ここではやはりウサギは、一人で旅をしていた方が良かったように思います。
                                      4/3/2001 

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