第7 

『木』 佐藤忠良・作 こどものとも2月号(福音館書店)

 佐藤忠良さんの絵本といったら、どう考えたって『おおきなかぶ』を挙げないわけにはいかないのだけれど、これもまたあまりにもポピュラーすぎて、今さら僕がどうのこうの論ずる余地などありません。何人かのイラストレーターがこのお話の絵を描いていますが、佐藤さんの作品の印象が強すぎて、絶対に比較されてしまう。単に絵がすばらしいだけでなく、絵本の作り方そのものの完成度が高いので、これを超えるのは至難の業。ちょっとプレッシャーですよね。
 僕は、幼稚園児代にこのお話の絵を描いた記憶があります。大きなカブと、登場人物(動物)を一人(一匹)ずつ紙に描いて切り抜いて、別 の画用紙に貼っていきます。おじいさん、おばあさん、孫、犬、ネコ、ネズミが順に前の人を引っ張っている絵なんだけど、僕の絵は画面 の中でくっつきすぎてしまったために、先生が間を広げて貼り直してしまいました。でも僕は、人や動物の間があいていたら引っ張れないじゃないかと、割り切れない思いで、直された絵を見ていたのを今でも覚えています。

 今回紹介するのは、佐藤さんの最新作。福音館書店『こどものとも』2月号(2001年)の『木』という本です。
  ぼくはいつのころからか、木に関心を持つようになりました。この「僕の好きな絵本」第1回目でも、イエラ・マリさんの『木のうた』を取り上げました。その中でちょっと言及したブルーノ・ムナーリさんについても、近々『木をかこう』をご紹介したいと思っています。木が好きなんです。自宅近くに大きな公園があるのですが、そこで桜やケヤキや、いろんな木をスケッチします(最近はやってないなあ)。動物園で動物を、公園で木をスケッチするのは楽しいものです。
 この本は、佐藤さんが自宅の近くにある老木をスケッチしたもので、そのデッサンに木島始さんという詩人が詩をつけています。彫刻家の佐藤さんが描く樹木は、どれも量 感があり、目と鉛筆で木に触れているのがよくわかる。根っこから始まって、こぶのある幹やら葉っぱがなくなった枯れ枝。一つ一つから老木の生命、歴史が伝わってきます。1枚1枚の絵にそえて、木の生命力を木島さんの詩がわかりやすい口調で表現しています。たとえば、木のこぶを描いた絵のページ。「木のこぶから/がまんのうたが きこえてくる/だまっているが/うたっている/木のこぶこぶ/むかしと いまが/いっしょに いきをしている/木のこぶこぶ」

 鉛筆デッサンですからほとんどスミ1色ですが、中ほどを過ぎたあたりからもう一つの色が加わります。若芽の黄緑です。この配色が心憎い。地面 や幹や枝から少しずつ新しい緑が芽吹き、広がっていくのです。春。発行時期に合わせてあるんですね。よく考えてるなあ。
 最後の絵は折り畳まれていて、広げると4ページ分の大きな画面いっぱいに若葉を茂らせた大樹が力強く描かれています。「うっひゃあ」と、ひときわ大きな文字で描かれている言葉は、
大きな木を見て発せられた驚きの言葉であると同時に、佐藤さんのこの絵を見て思わず出てくる、読者の感動の言葉でもあります。

 『こどものとも』には、「絵本のたのしみ」という4ページだての読み物が挟み込まれていて、これがいつも面 白い。この中に「老木」という題で作者の言葉が載っています。佐藤さんは人間と樹木の、年齢の重ね方の違いに目を留め、数百年を生きてきた樹木から受ける感動を、絵で表現したのです。本の初めと終わりに写 真で登場する佐藤さんは1912年生まれ。今年89歳なんですね。その絵は生命力にあふれていて、旺盛な活動力を感じさせます。こんなふうに歳をとりたいものです。
 そういえば、モーゼスおばあさんも80歳を過ぎてから絵を描き始めたし、葛飾北斎があの『富嶽三十六景』『富嶽百景』を描いたのも70歳を過ぎてからです。絵の若さや力強さ、みずみずしさは年齢とは関係がないのですね。

1/19/2001

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