第4回 

『ウェズレーの国』ポール・フライシュマン/文、ケビン・ホークス/絵
         千葉茂樹/訳  あすなろ書房

 
http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=99028428

 これは、子供も大人もワクワクさせる絵本です。去年の夏、ちょうど出たばかりのころ、ぼくは図書館でこの本を偶然見つけました。話も絵も夢を感じさせるもので、迷わず買いました。
  やまねこ翻訳倶楽部というものすごく勉強熱心な翻訳グループがあるのですが、そこが主催する99年度やまねこ賞の絵本部門で大賞に選ばれました。納得の受賞です。
 原題は"Weslandia"。舞台はアメリカのどこかの街。主人公はウェズレーという12、3才くらいの男の子。この男の子はちょっと変わっていて、クラスの他の子どもたちとはいつも違うことを考え、やっています。だから友達は一人もいなくて、いじめられています。本を読むことが大好きでいろんな事を勉強しているのですが、夏休み前に、自分が勉強したことを生かして、 自分の国を作ろう、と思い立ちます。不思議な花を育て、そこから食糧や、衣服や、遊び道具などを作ります。彼のやっていることを初めはバカにしていた級友たちも次第に関心を示し、ゲームなどに参加するようになります。
 ウェズレーは自分の作り上げた国を「ウェズランディア」と名付けます。さらに自分の発明したものに次々に名前を与えていきます。言語さえも作り出しました。そして夏の事業の最後に、彼は自分が作り上げた文明の歴史を記録を書きます。9月になって学校が始まったころには、ウェズレーにはたくさんの友達ができていました。
 これは話と絵が見事に調和した一級のファンタジーです。機知に富んだ文章も面 白いし、またユーモラスで温かみのある絵は細部に至るまでよく描き込まれていて、一画面 一画面見る楽しさが味わえます。子どもは誰でもこんな風に自分の世界を作ることを夢見るものです。そして大人もきっとこの本を読んで、そんな子供時代の感覚を呼び起こすに違いありません。
 自分の文明を作る――それは、創造者=神になることです。作ったもの一つ一つに名前を与えていく、という行為は、創世記で神が自分の想像したものに名前を与えていく、という行為と同じです。クリエイティヴ(creative<creation=創造)であることがどれほどワクワクする営みであるか、をこの話は思い起こさせてくれます。
 それから、ちょっと注目したいのが、この主人公がいじめられっ子であること。ただしここでは人種差別 は描かれていません。いじめというのはどこの国でもあるのですね。他の子とは違う、ユニークであるというだけでいじめられるのです。でもウェズレーは、そこで他の子に合わせようとするのではなく、自分のやりたいことを追求することで、次第にいじめられなくなり、友達の尊敬を少しずつ勝ち得ていきました。そこが面 白い。希望を与える解決です。
 この話はいじめがテーマではありませんから、それだけをとりあげて論じるのはテーマからそれますが、いじめに立ち向かう姿勢がこんな風に違っている、というところに日本とアメリカの文化の違いをに見ることができます。日常生活の中で「自由」「個性」「自主性」といった概念が、日本とアメリカでは、異なった形でとらえられているのだろうと思うのです。

 ぼくはこの作者のどちらも、この本に出会うまで知りませんでしたが、強い関心を持つようになりました。ポール・フライシュマンの他の本も、いずれ読んでみようと思います。
 ケビン・ホークスも、最近活躍しているイラストレーターのようで、いい絵本がいくつか出ています。最近手に入れたものでは、絵本ではありませんが、フィリップ・プルマン(『黄金の羅針盤』の作者)の"I Was A Rat" という新作に、モノクロのすばらしい挿し絵をつけています。『ナルニア国物語』などの本で見られるような、欧米の児童図書の伝統を継ぐ絵柄です。

 『ウェズレーの国』――楽しい絵本ですよ、これは。

12/15/2000

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