第52回
『デザインのデザイン』
原 研哉/著 岩波書店、2003、\1900+税
まえがきで、著者はまずこう言います。「デザインを言葉にすることはもう一つのデザインである。本書を書きながらそれに気づいた。」
デザインとは何か?そんな根本的な問題を8つの切り口から語る本です。当然専門的な内容ではありますが、あとがきで著者は「デザイン関係者だけではなく、一般の方々にも読んでいただけるように書いたつもりである」と述べています。デザインは一見、限られた一部の人々の世界のように思われがちなのですが、少し注意を向けてみれば、誰にとっても実は毎日の生活の中で深い関わりを持つ問題であることに気づきます。
デザインは時流との関わりが深いので、2、3年も経つと内容が時代にそぐわなくなることがありますが、この本は4年近く前に出されているにもかかわらず、提示されている問題は今も生きています。それは、著者の問題の見つけ方とそれらについての提言や主張が本質をついているからです。
デザインの端っこにぶら下がっているぼくの個人的な感覚として、今のデザイナーは経済活動のお先棒を担がされているだけのような印象を受けることがあります(収入の多少とは関係なく)。もちろん全員が全員とは言わないけれど、どれくらいのデザイナーがそのことを自覚しているのだろうと、ふと思うのです。しかし、原研哉さんは世界の現状や歴史について造詣が深く、その豊かなパースペクティブから、デザインのあり方、展望などを語ります。そういった評論を第一線で仕事をしながら行うのはなかなか難しいものでしょうが、だからこそ説得力があります。こんな人がデザイナーの中にいてくれると言うことが、ぼくには大きな救いに思えるのです。
一般の読者にも有益と思われる話は第7章「あったかもしれない万博」。著者は愛知万博に最初の段階で参画していたのですが、それは挫折に終わりました。その経緯が興味深く語られているのですが、今後のデザインは環境問題とどうかかわっていくべきか、またそれに関して人々がどんなふうに誤った固定観念を持ってしまっているか、といったことを教えてくれる必読ものです。
本書は第26回サントリー学芸賞を受賞しています。
読んでいて、こう言っては失礼ですが、この人はデザイナーにしては文章が上手で、珍しく「言葉」がわかる人だと感じていたのですが、今日、たまたま著者の別の本『ポスターを盗んでください』を読んだら、高校生のころ、デザイナーを志す以前にもの書きになろうかと思っていたくらい、文章を書いていたと言うことを知りました。うまいはずだ。
7/23/2007
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