第50回
『日本という国』 小熊英二/著 理論社、2006、\1200+税
ぼくはNHKBSで日曜の深夜に放映している「ブックレビュー」をときどき見ています。毎週見るほどの体力や時間はないけれど、なかなか面白くて、本を選ぶ時の参考にしています。
今回取り上げる『日本という国』も、この番組で知りました。理論社の「よりみちパン!セ」という、若い人向けシリーズの一つ。妻が子どもたちのために買ったのですが、ぼくが先に読ませてもらいました。こういう若い人向けの本が実は大人にも役に立つのです。岩波ジュニア新書なんてのもそう。
ぼくはこの著者についても数年前から関心があって、『単一民族神話の起源』などは読みたい本のリストにずっと昔から入っています。でも今回の本が、初めて読んだ小熊さんの著作です。
さて、この本は、近代日本の歴史を明治と戦後に分けて解説してくれています。大きな流れでとらえているのだけど、教科書と違ってポイントを押さえているので、無味乾燥にならず、今まで知らなかったことがずいぶんわかりました。ぼくたちが今直面している問題がどんなふうに生じてきたのかが明快に頭に入ってきます。明治時代については福沢諭吉の『学問のすゝめ』を軸に論じられていますが、福沢諭吉の人物観が変えられました。目からウロコですね。読み終えて賢くなった気分。青少年向けに現代史をここまでわかりやすくするには相当な技量が必要でしょう。
近代日本を見る上で、明治と戦後の2期を取り上げたのは、どちらも日本の大きな変革期だという理由によります。著者の言葉では、近代における「日本という国」の建国時代、ということです。そしてそれらの時代を知れば、いまの「日本という国」のあり方のだいたいのことを知ることができる、と言っています。
歴史を真剣に学びたくなるのは、それが今の自分に切実にかかわっていることを実感するようになるからですが、若いときにその感覚を持つのは難しい。ぼくもそうでした。加えて歴史を学ぶ難しさ(特に近代・現代史)は、複雑である点です。それだけで音を上げてしまう。物事を単純化できればこんなに楽なことはないのだけれど、現実はそうはいきません。もともと複雑なものなのです。でもそこをしっかりと見ていかないと本当のところはわからないのだなと、この本を読んで改めて思いました。
いい本です。
9/8/2006
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