第46回

『たのしい不便――大量消費社会を超える』
               福岡賢正/著
 南方新社、1999、\1800+税

 1999年刊なのにもう絶版だそうで、ほんとに残念。ぼくはインターネットの古書サイトを通じて、やっと手に入れました。図書館においてあるはずですから、ぜひ借りてお読み下さい。
 著者は毎日新聞福岡総局に勤務する記者。本書は、不便な生活を1年間実践したレポートと、さまざまな分野の人たちとの対話で構成されています。なぜ不便な生活を会えて実践したのでしょう?「大量消費社会を超える」という副題が趣旨を表しています。いまわたしたちが当たり前だと思っている大量消費の生活が、本当にわたしたちを幸せにするのだろうか?  実践している不便は、例えば、自転車で通勤する、自動販売機で買わない、外食しない、などなど。田畑で農作物を育てて収穫したりということもやります。あえて選び取る不便が自分たち家族の生活をどう変えたか、を具体的に報告しています。机上の空論でないところが説得力を持っています。
 ぼくも結構不便な生活をしているのですが、それは経済的理由で否応なく始めたもの。もちろんぼくはこの生活に積極的な意味を見出していますが、この本を読んで、今やっていることをさらに押し進めていきたいと思いました。著者に比べればまだまだ不便初心者です。
 後半の対話編も興味深いものばかりです。12人の著名人たちとの対話。

 この中からぼくはとても貴重な考え方を発見しました。対話に出てきた人たち全員に共通しているのは、大量消費社会の問題を解決するのに、道徳意識や禁欲主義では成功しないということです。不便な生活がもう一つの喜びであることを、みんなが見出すようになることが大切なわけです。著者も最初は気負いがあって、それがかえって家族の反発を買ったそうです。このあたりは誰もが陥りそうな落とし穴ですね。不便を楽しめるようになること、それを頭に置いて実行しないと、息苦しくなって失敗するのです。ぼくもこのことは忘れないでいたいと思います。
 タイトルの「たのしい不便」という表現は決して逆説的レトリックではなく、真実なのです。
 
                                11/12/2005

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