第33回

『本ができるまで』 岩波書店編集部編 岩波ジュニア新書、2003、\980+税

 青少年向け・子供向けの本や番組のいいところは、よくある表現を借りれば「今さら人に聞けない」知識がわかりやすく学べる点だ。ヴィジュアルの面でも見ていて楽しいように工夫してある。岩波ジュニア新書、NHK週刊子どもニュースなど、おとなにも有益。肝心の子どもたちはというと、日がなケータイで時間をつぶして、知識への欲求はあまりなさそう。若者の中で、本ができあがるまでの工程に興味を持つ人はどれくらいいるのか。そんなことをチラッと思ったりするが、とにかく、この本はぼくにはうれしい一冊だ。
 どうしてうれしいかというと、ぼくは仕事柄、実際の仕事を通して印刷のことをいくらかは勉強したけれど、まだまだ素人。基本的な知識が不足していたり、誤解していたり。それをこの本は補ってくれるのだ。歴史をひもとけば、本の世界は奥深い。何気なく手にしている本にも、歴史の中で培われた知恵が生かされていることがわかる。
 一方、技術の進歩は日々めざましく、いったい印刷や製本の現場がどう変化・発展しているのかほとんどわかっていない。その最前線の一端もここで紹介されている。30年前とさして変わっていないように見える本が、実は絶え間ない技術革新によって変貌を遂げ、手元に届いてくるのを知るだけでも驚きだ。
 ジュニア新書なのだから、あくまでも若い人向けの手引きなのだけど、これを一度読んで印刷製本の流れがわかるのは、ちょっと無理かも知れない。印刷所や製本所を見学して実際の作業を見た方が楽しいし(ほんと、楽しいよ)、よくわかる。でも、たとえば、自分のコンピュータを使ってDTPでちょっとした会報などを作ったりしているのだったら、そこを出発点にして、印刷の仕組みや本ができあがるまでを学ぶのは、楽しいことだと思う。
                               6/28/2003

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