第31回
『自然の中の絵画教室』 布施英利/著 紀伊國屋書店、2002、\1800+税
初めに、この本でちょっと気にくわないところを言っておくと、わずかのセンテンスですぐに改行していること。そういうのが好きな人もいるだろうが、ふつう、その手の本は読む価値はあまりないとぼくは思っている。それでもこの本を買ったのは(図書館で借りたのではない)、自然に学ぼうという基本姿勢と、著者がダ・ヴィンチの研究家であるという点が多いに共感できるからだ。で、実際に読んでみると、中身はかなり濃い。
これは、プロ・アマを問わず芸術関係者を読者対象として想定して書かれた「自然に学ぶための本」。ぼくたちはどうしたら、すばらしい絵が描けるようになるか? 著者の答は明快だ。「外に出ること」。ダ・ヴィンチの言葉がカバーの袖に書かれている。「ダメな画家は画家に学ぶ。優れた画家は自然に学ぶ。」ほんとにそうだよなあ。ぼくもこのごろますますそう思うようになってきている。本書では、美へのアプローチを、光、空間、動き、形と色、生命、の5つのカテゴリーに分け、それぞれが野外実習(実践)と美術講座(理論)で構成されている。最後に「美術館の歩き方」。構成からもわかるように、布施さんは理論とともに、常に実践を促している。そうしなければ、この本をほんとうに理解したことにはならないだろう。
圧巻は、5番目のレッスン「生命」で取り上げられる死体解剖の話。あらゆる動物の死体を見つけ、実際に解剖してみよう、そこから生命や美を学ぼう、というもの。これはダ・ヴィンチの精神に通じるが、ぼくの日常からかけ離れた世界だ(実際、いろんな理由でぼくには実行できないだろうな)。正直、ここまでやるか?……と。でも、普段気づかなかったことを考えさせられ、この部分だけでこの本を買う価値はあると言っていい。著者は「プロローグ」で、「ぼくの志としては、入門書では終わらない」と書いているが、確かにそれだけの奥行きを持っている絵画教室である。
本質的な問題ではないが、著者による素人っぽいイラストは、読者に親しみを持たせるための効果があるのかどうか、うーん……。
3/9/2003
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