第29回
『親子で覚える百人一首 マンガ解説版』
新藤協三/監修、熊谷さとし/マンガ KKベストセラーズ、1991、\1270+税
百人一首も季節ものだから2月に入ると関心も薄れていき、せっかく覚えたものがまた忘却の彼方へ。で、毎年正月ごろに引っぱり出すのがこの本。ちょうど2年前、5年生の正月を迎えた娘が百人一首を覚えたいというので、本屋であれこれ見比べて選んだもの。1991年初版だが、2000年には12刷。意外にベストセラーなのだ。類書の中では一番よくできている。大人でも子どもでも、これから百人一首を覚えたい人にお薦め。
読みやすく覚えやすいのは、まずレイアウトがいいからだ。見開きに1首ずつ配し、見出し部分に大きな文字で歌がある。その下に絵札の写真。マンガによる解説が画面全体の3分の2ほどを占めていて、下の方に監修者による歌の鑑賞、解説、語句の説明が並ぶ。
このマンガがよく描けている。歌の意味だけでなく時代背景や、歌が作られた経緯などを知ることができる。絵柄は決して今風ではないが非常に丁寧で、実用書向きの、親しみが持てる絵だ。文章だけでは伝わらない部分もマンガの中で表現されている。おもしろいのは、人物がほとんどブ男ブ女に描かれていること。格調高く扱っていないところがいい。教科書の勉強だと、妙にかしこまらなくてはいけないような気になってしまうから。
百人一首には「超越の存在」はなく(坊主が作った歌でさえ)、どこを切り取っても人間くさい世界。男女間の複雑な感情(わざとらしいものも多いが)や、政治にからんだドロドロした人間関係(の果てのわびしさ、というところか)が表現されている。そんな世界を伝えるのに、マンガは案外適切な表現方法なのかも知れない。
2/3/2003
「言葉ですよ」のトップへもどる
|