第16回

『デモクラシーの帝国―アメリカ・戦争・現代世界』 藤原帰一/著  
                        岩波新書
、2002、\740+税

 

 9.11テロが世界に与えた影響は計り知れないということが、この本でまた一つわかった。世界秩序は冷戦終結後、圧倒的な軍事的優位に立つアメリカを中心に組み替えられてきたけれど、その様相は同時多発テロによって拍車がかかった。そこにどういう問題があり、どう対処すべきなのかを、著者は「帝国」という概念を使って論じる。
 戦後生まれの日本人にとって、アメリカはポップ・ミュージックや映画やコカ・コーラを通じて、日常生活の中に空気のように存在していた。今や文化もビジネスもアメリカ的なものが世界の基準。ぼくたちはそのことにことさら疑問を抱かなくなってしまっている。テロ事件を見てもそうだ。テレビではNYでの犠牲者やその家族のことは繰り返し報道するが、アフガニスタンの犠牲者にはほとんど関心を払わない。
 この本で問題にされているのは、今、世界政府を代行するアメリカが、同時に一個の国家でもあるという点だ。だから自国の利益にそぐわなければ放置するだけだ。国際協調主義から単独行動主義へと移行しているアメリカのやり方は、将来のアメリカ自身にとっても良くないと、著者は言う。それを打開するのが、国連を立て直すことを始めとして、アメリカを国際協調の中に戻す努力である、と結論づける。
 アメリカは今、イラクを攻撃しようとしている。確かにフセインはかなり危険な独裁者に違いない。でも、イラクへの軍事攻撃が、世界から危険を排除し平和をもたらす唯一の方法なんだろうか? それを強行することで、アメリカと世界は何を得て、何を失うのだろう?
                               10/10/2002

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