第15回
『はじまりの記憶』 柳田邦男・伊勢英子/著、講談社文庫、2002、\533+税
著者がこの二人なら、これは買わないわけにはいかない。3年前に単行本として出されたエッセイの文庫版。伊勢さんは柳田さんの『「死の医学」への日記』以来、挿し絵や装幀を多く手がけており、その良い協力関係がここでも現れている。
柳田さんによる「はじめに」が、内容を簡潔に説明している。「自分の内面の原点を探る旅は……自分の存在理由を確認し、次に進む一歩を確かなものにする。」表現方法の違う者同士が、「かなしみ」「空」「ころぶ」など、同じキーワードによってそれぞれの原風景を掘り起こす。それがこの本だ。
柳田さんの文章については今さらいろいろ言う必要はない。ここでもまた深く共感する言葉に出会える。伊勢さんの絵についても同様。カバー絵から始まる挿し絵の一つ一つが、遠い思い出を夢見させ、時にユーモアもあり、期待に違わないものばかり。
しかしそれよりもぼくがこの本で新たに発見したのは、実は柳田さんの見事な花の絵と、伊勢さんの見事な文章だ。柳田さんの精緻な絵は、ぼくを含めたそこらへんのいわゆる「イラストレーター」が顔色を失うくらいの出来だし、伊勢さんの簡潔で詩的な文章は、ひとりの画家のある種すさまじい生き方と鋭い感受性を、十分に伝えている。
自分探しの旅――ちょっと手垢にまみれた感のある言葉だし、その作業を正しくおこなうことは案外難しい。しかしここには、ただの思い出話以上のものが書かれている。
8/29/2002
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