第11回
『童話の国イギリス――マザー・グースからハリーポッターまで』
ピーター・ミルワード/著、小泉博一/訳
中公新書、2001、\840+税
名作であればあるほど、適切な案内によって私たちは、芸術の面白さを味わうことができる。イギリスの優れた児童文学の中から22の作品が、著者の飾らない人格と奥深い造詣を感じさせる文章で紹介されている。英文学に特別
の関心がない人でも、子供時代あるいはおとなになってから、これらの多くに必ずどこかで接している。しかし、どの文化にも言えることだけれど、なじみの作品でも外国人には気づかないことがたくさんある。あるいは勘違いをしていることがあるかも知れない。それを発見するのも、本書の面
白さ。そして、日本ではあまり知られていない作品に出会えることもうれしいことだ。たとえば『ヒキガエル屋敷のヒキガエル』『黄金詞華集』などは、ぼくは初めて知った(単にぼくが勉強不足なだけか)。著者はもう50年近くも日本の大学で教えているから、日本人の好み・考え方もよくわかっていて、ときおりその点にも触れている。私たち日本人にはありがたい案内書である。
私たちは文学を文学として楽しむことがだんだんできなくなっている。児童文学の一つの分野であるファンタジーにしても、このごろでは映画やゲームをとおしてしか知らない。そしてピーター・パンやクマのプーさんはディズニーのアニメをとおして、という具合。ここでもう一度、文学そのものとしてその豊かさを味わってみたいと思う。
そのゲーム感覚の作品、『ハリー・ポッター』が終章で紹介されている。昨今のブームを考えれば無視できない存在だし、きっと本書の売れ行きにも影響してくるから取り上げてあるのだろうが、肯定的な評価をところどころに入れながらも、やや歯切れの悪い解説になっているように思う。はしがきにある「本物のイギリス人になれるのか、見守りたい」というのが著者の結論だろう。
3/28/2002
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