第10回

『スロー・イズ・ビューティフル』辻 信一/著、平凡社、2001、\1800+税
 

 11月4日付朝日新聞の読書欄で、ウィットの利いたしゃれた見出しが目に入った。「だから、あなたも、息抜いて」。評者は堀江敏幸さん。ぼくと同じ名前(敏幸)のこの作家に以前から興味を持っている。次に本のタイトルを見た時、これはいずれ買うことになるだろうと、ほぼ予想できた。Slow is beautiful. この言葉はぼくの生き方そのものだ。さらに書評を読んで、ぼくが日頃感じ、考えていることが、この本の中でさらに深められていることを確認した。
 数日後、書店で実際に本を手にとって目を通したとき、あとがきや本文中に詩人長田弘さんの名前が何度か出ているのを発見し、著者とぼくの接点を見いだした。エンデの『モモ』もたびたび登場する。なるほど、共感するはずだと納得。
 著者は52年生まれの文化人類学者。スローに生きることの意義を、食べ物、ビジネス、住居、障害者問題など、様々な角度から検討する。理論であると同時に、詩的エッセイにもなっている。
 大多数の人たちは、今の社会システムの歪みが自分たちを危機的状況に追い込んでいるということがわかっている。「わかっちゃいるけどやめられない」のだ。私たちに植え込まれた価値観があまりにも強大なため、もう少しましな生き方へ一歩踏み出すための勇気と忍耐力が持てないでいる。しかし本書は、現状から身を引いて批判するのではなく、説得力に満ちたスローネスの実例も示しながら、もうひとつ のあり方―Alternative(これもぼくの好きな言葉)を展開している。これが示されていれば、一歩踏み出せるはず。
 ぼく自身は、今やっている方向でさらに積極的に行動していこうと、思いを新たにした。スローであることを積極的に行動するという逆説が、このテーマの面 白いところ。

                               11/10/2001

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